アジア@世界 766・767合併号

●イタリア
ローマで270万人がデモ

 4月4日、政府の金融危機対策に抗議してCGIL(イタリア労働総同盟)が呼びかけたデモに労働者、年金生活者、移住者、学生など約270万人(警察発表では20万人)が参加した。
 ローマのチルコ・マッシモ(古代の競技場)の上空をヘリコプターが旋回し、デモ参加者たちは赤い帽子をかぶり、あるいはCGILの赤旗をなびかせている。
 「実施されるべきことと、実施されたことの間に、あまりに大きなギャップがある」と、CGILのリーダーのググリエルモ・エピファニ氏は群衆に向かい語った。バナーには「違う未来をいっしょに作ろう!」、「新しいムッソリーニを倒せ!」と書かれている。
 彼は「この公園が再び埋め尽くされたのはうれしいことだ」と続けた。彼は02年にも同じ場所で、不当解雇容認の法案に反対し300万人が集まったのを思い起こした。
 デモ参加者は、40本の列車、5千台のバス、2隻の船を使って全国からローマへ集まった。
 野党・民主党のフランチェスキーニ書記長はロック・スター並みの歓呼で迎えられた。彼は記者に次のように語った。「危機はグローバルだから、国際的レベルでのみ解決できるというのは嘘だ。政府は具体的な政策によって対処すべきだ」。フランチェスキーニ氏は当初、集会への参加をためらった。CGILが協約制度の改革に反対して、他の2つの労働組合センターと対立していたためである。
 ベルルスコーニ首相は、メディアは危機を誇張していると非難し、イタリアは他のどの国よりもよくやっていると強調した。しかし、中央銀行は09年の成長率をマイナス2.6%と予想している。1月と2月に失業した人の数は合計で約37万人である。  エピファニ氏は、産業政策や投資政策に関する政労交渉、慢性的に後進的なイタリア南部に対する対策、レイオフの中止を要求している。また、タックス・ヘイブン(租税回避地)の規制、経営者の報酬・ボーナスの規制など、新しい「モラルのある文化」のための闘いを呼びかけた。(4月4日付のAFP通信より)

●ギリシャ
歳出削減に反対しゼネスト

 4月2日、政府の歳出削減に反対する労働組合のストによって全国で公共サービスが停止し、交通がマヒした。  アテネの中心部では、共産党支持者たちのデモに1万人が参加し、「譲るものはない、危機のツケは資本家が払え」と叫んで平和的にデモを行った。
 ギリシャの2つの組合連合、GSEEとADEDY(それぞれ民間部門と公共部門を代表している)は別々に集会を開き、国会までデモを行った。
 GSEEとADEDYが呼びかけた全国ゼネストによって、すべての政府庁舎、公立学校が休業し、公立病院は救急スタッフによって医療活動が行われた。
 航空管制官たちは正午から3時間のストに入り、ギリシャの空港での航空機の発着がすべて止まった。最大の航空会社であるオリンピック航空は140の便を運休した。
 大部分のフェリーと鉄道が運休し、アテネの公共交通も停止した。
 ジャーナリストたちもストに参加し、ニュースの放送が中止され、翌日の新聞が休刊となった。
 保守派のコスタス・カラマンリス首相の政府は今月、多くの公務員の賃金凍結と、高所得者の臨時増税(1回限り)を発表した。この発表は労働者の怒りを引き起こした。労働者たちは儲けている企業こそ負担を引き受けるべきだと言っている。また、争議中の企業が労働規則を緩和することを認めるという政府の決定に反対している。
 ギリシャではまだ倒産や大量解雇という形での危機は起こっていないが、09年の成長率予想は2.7%から1.1%へと引き下げられた。09年に財政赤字がGDPの3.7%に達すと予想されている。欧州委員会はギリシャ政府に対して、2010年までに財政赤字をGDPの3%以内に抑え、累積債務を減らすために財政支出を管理することを要求している。(「ワシントンポスト」4月2日付より)  ギリシャでは昨年12月に、アテネで警官が十代の若者を射殺したことを発端に大規模な「暴動」が起こっている。(本誌1月1日号を参照)

●オランダ
アムステルダム空港の清掃労働者がストで要求勝ち取る

 アムステルダム・スキポール空港の清掃労働者は、交通費の全額支給、雇用の安定(協約の締結)、待遇の改善等を要求して、4日間のストを含む3ヵ月以上の闘いを闘い抜き勝利した。
 FNV(オランダ労働組合連盟)加盟のスキポール清掃労働組合の3月16日付の闘争宣言は、次のように述べている。  「私たちはアムステルダム・スキポール空港で1千人以上の清掃労働者と共に働き、毎日13万人の旅客と6万人の空港労働者が清潔な環境の中で旅行し、働くことができるようにしています。私たちの労働によって、すべてのフライトや会議、休息が可能になっているのです。しかし、スキポール・グループ(空港管理会社)や清掃会社は私たちを〈見えない存在〉、〈どうでもいい存在〉として扱っています。この現実を変えなければなりません」。
 労働者の待遇改善の要求の中には、昼食や夕食のためのまともなスペース、休憩時間の保証、労働協約の遵守、合理的な仕事量、病気の時に指定医による診療を受ける権利、組合員へのいやがらせをやめることが含まれている。
 3月31日に約500人の組合員がストに入った。会社側はスト禁止を求めて裁判所に提訴したが、ユトレヒト地裁はこれを却下。組合は4月6日に再度ストに入り、同8日朝、会社側が大部分の要求を受け入れたため、ストを終結した。
 FNVは、この闘いを「大きな勝利であり、オランダのすべての労働者に手本を示した」と評価した。この闘いは多くの活動家や、スキポール空港で働く他の労働者、そして世論の支持を獲得した。
 清掃労働者のジュディー・ロックさん(組合委員長)は次のように語っている。「組合に入っているだけで十分だという考え方をやめよう。一緒に働いている仲間の大半を組織し、行動を呼びかけよう。そうすれば遅かれ早かれ協定が勝ち取れる。私は本当にうれしい」。

●バングラディシュ
中東・マレーシアで失業した移住労働者の強制送還が急増

 アブドル・モンスルさんはUAE(アラブ首長国連邦)でパイプ溶接の仕事をしていたが、失業した後、バングラデシュへ送還された。
 彼は「この仕事に就くために土地を売り、親戚から17万5千タカ(約25万円)を借りました」と言う。4人の子どもがいる彼は、仕事を確保するために半年前にリクルーター(労働者派遣業者)に3千500を払い、まだ借金は残っている。
 彼のようなケースは稀ではない。中東やマレーシアで働いていたバングラデシュ人労働者が解雇され、強制送還されるケースが急増している。労働力・雇用・職業訓練局によると、今年の1〜2月に、約1万3千人が海外から送還されている。3月11日にマレーシア政府は、バングラデシュ人労働者約5万5千人のビザを取り消すことを決定した。
 バングラデシュは、移住労働者からの送金額が世界第5位で、前年度(07年7月から08年6月)の送金額の合計は107億で、GDPの10%に相当する。
 この数ヵ月間の石油価格下落によりサウジアラビアやUAEなど産油国の建設産業が打撃を受け、多くの移住労働者が解雇された。
 バングラデシュ政府は、マレーシア政府にビザ取り消しの再考を求め、また新たな労働力受け入れ国を探す(リビア、ルーマニアなど)等の外交努力を行うと発表。
 海外で働くバングラデシュ人労働者は約620万人で、そのうち220万人がサウジアラビア、100万人がUAE、80万人がマレーシアで働いている。国際移住機構(IOM)によると、「バングラデシュではますます、移住は生活手段を得るための選択肢であり、発展に関わる主要な問題であると考えられるようになっている」。世界銀行の海外移住と送金に関する年次報告書(08年版)の共著者であるディリップ・ラサ氏は「多くの発展途上国にとって、海外からの送金は貧困層のライフラインとなっている」と述べている。(国連人道問題調整事務所発行「IRIN」ニュース、3月26日付より)

●ビルマ
逮捕した5人の労働組合員の即時釈放

 以下は、米国AFL・CIOソリダリティー・センターの4月9日付の声明である。
 AFL・CIOソリダリティー・センターと国際労働組合運動は、4月1日にビルマの軍事政権がビルマ労働組合連盟(FTUB)の5人の組合員を逮捕したことを非難する。組合員たちはFTUBの第1回全国大会からの帰宅途上で逮捕された。何の容疑も発表されていない。
 ソリダリティー・センターのエリー・ラーソン代表は次のように述べている。「この逮捕は明らかに違法であり、ビルマ政府も批准している国際人権規約に反している。これはグローバルな労働組合運動と全世界の労働者への侮辱である」。
 逮捕された5人は、ビルマにおける労働者の権利と賃金・労働条件の引き上げのための非暴力の手段による運動に参加してきた。全国大会の主要な目的は、軍事政権を終わらせ民主主義を実現するためのFTUBの決意を新たにすることだった。東南アジア、アジア太平洋、ヨーロッパ、北米の労働組合代表がこの歴史的な大会に出席した。
 逮捕されたのは、ウ・ザウ・ミント・アウン(教員)、ウ・ソ・ウー(衣料労働者)、マウン・トゥン・ネイン(同)、カイン・リン・ミャット(同)、シュェ・イ・ニュント(看護助手)の5人である。彼ら・彼女らの家族も逮捕されたり、脅迫や圧力を受けている。
【続報】逮捕された5人とその家族は、4月10日に全員釈放された。

●マレーシア 労働組合会議が失業保険基金の設立を要求

 マレーシア労働組合会議(MTUC)は、変革のための機は熟していると考えている。MTUCのサイード・シャリール委員長は、解雇された労働者の権利の保護に関して、1955年の雇用法を改正する必要があると主張する。
 MTUCは労働組合の連合組織で、約100万人の労働者を代表している。MTUCは、政府が原資を拠出し、雇用者と被雇用者が毎月の拠出金を負担する失業保険基金の設立を要求しており、このような基金はずっと前に設立されているべきだったと考えている。  サイード氏は、社会保障機構(SOCSO)がこの基金の導入に責任を負うべきだと考えている。彼によると、必要なのは、政府が原資を拠出する失業保険基金を設立するための法律制定である。
 MTUCが政府による取り組みを要望しているもう1つの課題は、職業訓練・再訓練である。サイード氏は政府がマレーシアの労働者の技能向上のためのメカニズムを導入するべきであると提案している。彼によると「マレーシアの労働者はすぐに訓練できるが、古い機械ばかり輸入していれば技能は向上しない」。もう1つの問題は訓練のための時間である。また、マレーシアで製造業が発展しはじめて35年以上になるが、その間に労働者が工場で習得できた技能や、受け取ってきた賃金は不十分なままだった。政府は低賃金の労働集約型の産業よりも、熟練労働者を必要とする企業を誘致するべきだとサイード氏は強調する。
 また、外国人労働者への依存によってマレーシアの労働者の発展が抑制されてきたが、今こそ最低賃金制を導入するべき時だとサイード氏は言う。MTUCは、最低賃金900リンギと生活手当300リンギを要求している(1リンギは約27円)が、経営者や政府は抵抗している。
 また、マレーシアでは労働協約の期間が3年間になっており、不況下で不利な協約を締結した場合でも次の協約交渉まで協約を変更できない。サイード氏は、協約の期間を1年にして、毎年交渉するようにすべきだと主張している。(「スター・オンライン」4月4日付より)

●カンボジア
衣料産業に世界経済危機の影響

 モン・ムーンさん(39歳)は1990年代に外資系の衣料工場で働くことによって貧困を抜け出した何千人ものカンボジア人の一人だったが、西側諸国における需要の激減のあと、再び養豚の仕事に戻ったのかも知れない。
 衣料産業はカンボジアの最大の輸出産業だが、今年は需要の後退により縮小が予想される。
 ムーンさんと彼の妻は、二重の打撃を受けた。2人はこれまで衣料労働者として、それぞれ月80ドルを稼ぎ、その半分をカンボジア南部のタケオ州でムーンさんの両親と暮らしている8歳の息子の養育費として送金していた。ところが、3ヵ月前に、2人が働いていた工場が予告なしに閉鎖された。
 ムーンさんは次のように言う。「これからは苦しくなるだろう。田舎へ帰って、豚を育て、野菜を育てて生計を立てるしかない」。
 韓国資本の(カンボジア)デ・ジュ社が工場閉鎖されたとき、千人以上の労働者が賃金未払い状態だった。カンボジアの衣料産業は、ピーク時には300の工場に34万人の労働者を雇用していた。その大部分は農村出身の女性だった。
 ILOによる労働条件の監視は、搾取工場に関する批判を避けたい有力多国籍企業の誘致に役立った。カンボジアが04年にWTOに加盟したことも、投資ブームをもたらした。首都近郊の水田が次々と工場に変わった。08年には衣料産業の輸出は約28億ドルに達した。しかし、今年は輸出が30%減少すると予想されている。
 生産される衣料品の70%が米国向け、25%がヨーロッパ向け、残りが主に韓国と日本向けであるが、今年1月の米国向け輸出は対前年比で40%の減少である。
 これまでに約20の工場が閉鎖され(主に台湾、中国、韓国、マレーシアの企業)、他の工場もせいぜい70%程度の稼働率である。  カンボジアの労働運動の有力なリーダーであるチア・モニさんによると、昨年以降約7万人が解雇され、今後2年間に約10万人が解雇の脅威にさらされると予想されている。
 フン・セン首相は3月12日に、援助国に対して、解雇された労働者を支援するための社会的セーフティーネットの確立への協力を要請し、また、政府は中東等の新しい市場の開拓のために努力すると述べた。(「ロイター」3月23日付より)

●台湾
全国産業総工会がメーデーに向け安定雇用と解雇規制を要求

 全国産業総工会(TCUT)は4月6日に記者会見を行い、5月1日のメーデーに安定雇用と解雇規制の強化を要求してデモを行うことを発表した。
 台湾では失業率が2月に5・75%という記録的な水準に上がり、62万4千人が求職中である。
 「経営者には春が見えているかも知れないが、労働者にとってはまだ真冬だ」というのが全国産業総工会のスローガンの1つである。これは一部の財界リーダーが「回復が近づいている」と述べたことに対応している。
 現在の世界経済危機の中で、金融および電子産業で非正規雇用の労働者が大量に解雇されている折り、労働組合は、あらゆる雇用形態の労働者をより適切に保護する必要があると主張し、アウトソーシング(業務外注化)の禁止を要求している。
 「青年労働組合95」の活動家であるチェン・ポ・チエン氏は、「政府は公共サービス部門で16万人の専門職のための中長期の雇用を創出するために800億台湾ドル(1台湾ドルは約3円)の特別予算を編成するべきだ。そうすれば彼ら・彼女らは年間50万台湾ドルの賃金で、高齢者の介護や環境保護などの有益な仕事に就くことができる」と言う。
 野党の民主進歩党は、失業保険給付期間を現行の半年から1年に延長することを提案しているが、政府は平均失業期間が6ヵ月であるとして、この提案に消極的な態度を示している。(「台湾ニュース」4月6日付より)

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