アジア@世界
771号

●イラン
弾圧に抗して労働者、女性、若者が決起

 6月12日実施の大統領選をめぐる「改革派」と「保守派」の抗争で、多くの労働者、女性、若者が民主主義的権利拡大を要求し決起した。
 アフマディネジャド大統領は05年の就任以降、前政権の下で進められてきた一定の民主的改革を逆行させる一方、経済政策では国有企業の民営化など新自由主義政策を推進、外国資本に市場を開放してきた。この政策は労働者の団結権への厳しい規制を伴っている。イランはILO加盟国であるにもかかわらず、憲法の下で労働者はイスラム労働者評議会にのみ加入でき、独立労組は認められていない。イスラム労働者評議会はイデオロギー中心の組織で、労働者の具体的問題を取り上げたり、団体交渉の権利は認められていない。
 そのような法律上の制約にも関わらず、民営化とインフレの中で、労働者と治安部隊の対立は拡大。07年3月に数千人の教員が窮状を訴え、国会前まで賃上げ要求のデモを行った。このデモは警官隊による攻撃を受け、リーダーたちは投獄された(最高5年の刑期)。今年の5月1日にはメーデー集会に集まった約2千人の労働者が警官隊から攻撃を受け、150人が逮捕された(本誌6月15日号を参照)。
 バス運転手のマンソール・オサンロー氏はテヘランのバス会社の労働組合(1万7千人)の委員長で05年に労働条件改悪と運賃値上げに抗議するスト(運賃の集金拒否)の組織化を理由に逮捕された。彼は06年にもストを組織し再び逮捕され、悪名高いエビン刑務所に拘留されている。このバス会社の労働組合は国際的連帯を呼びかけている。またコドロ社(自動車メーカー)の労働者も抵抗闘争を宣言している(「反対派の声」のウェブに掲載されたビリー・ワルトン氏の6月28日付のレポートより)。

*6月26日、世界各地で連帯行動
 6月26日、国際労働組合総連合(ITUC)、国際運輸労連、国際食品労連、教育インターナショナル等が呼びかけた国際的なイラン連帯行動の一環として英国、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアをはじめ多くの国の労働組合が、イラン大使館への抗議行動を行った。イラン国内の26の独立労組と、他の労働者団体が、この行動デーに連帯を表明する声明を発表した。現地からの報告によると活動家たちはインターネットに刻々と配信される連帯行動の映像に勇気づけられた。
 6月26日の直前に、メーデーで逮捕された労働者が1人を残し全員釈放された。しかし、マンソール・オサンロー氏、ファルザド・カマンガー氏(教育労働者)や最近の運動の中で逮捕された数十人のジャーナリストたちは拘留されたままである(国際運輸労連のウェブより)。

*民主化要求の先頭に立つ女性たち
 イランの法制度の下でのジェンダー差別の撤廃を求める女性たちの運動は、民主的権利の拡大を求める運動の先頭に立ってきた。とくに、06年6月から開始された署名運動(「百万人署名運動」)は、1年のうちに15の都市に広がり、海外在住者の間でも大きな反響を呼んだ。この運動は全く合法的であるにもかかわらず、不断に弾圧を受け、現在までに43人の活動家が逮捕されている。  「平等のために闘うイラン女性」のウェブによると、今回の大統領選挙をめぐる一連の事態に関連して女性の権利を擁護する活動家たちが「イランの女性と男性に対する弾圧の中止を」という声明を発表し、400人以上の署名が集まった。声明は、次のように述べている。
「今回の非民主主義的な大統領選挙は、平和的変革を実現するためのもっとも期待に満ちた選挙だったにもかかわらず、その結果は、広範な大衆の抗議闘争の高揚を招くものだった。市民権や政治的権利を要求する活動家、学生、ジャーナリスト、民族的権利を擁護する活動家たちと並んで、女性の権利を擁護するさまざまな運動や思想傾向の広範な活動家が、差別主義的政権に異議を唱え、ジェンダー差別の廃止を要求するために今回の選挙に参加した。
 変革への期待は何百万人もの女性と男性を投票箱へ導いたが、公式の開票結果は、この期待を絶望に変えた。……
 治安部隊は、命令を下した者もその命令を実行した者も、再び大学や学生寮を血なまぐさいやり方で攻撃することによって、暴力に嫌気がさしているすべてのイラン人に、1999年7月9日のテヘラン大学の寮における忌まわしい事件を想起させた。報道によると、いくつかの都市で多数の女性および男性の学生が殺され、負傷し、逮捕され、行方不明になっている。
 また、電話やインターネットによる通信の回線が切断されているために、情報へのアクセスが制約され、人々を苛立たせている。……
 私たちは、この間の出来事の中で逮捕された人々の無条件の釈放を要求し、市民的・政治的自由を保障することを要求する」。  6月27日には、この間のデモで犠牲となった人々を追悼するために、「喪に服す母親たち」の呼びかけで約500人の女性たちがテヘランのラレー公園で集会を開いた。警官隊が介入し数人を逮捕した。このグループは、暴力的弾圧が終わるまで、毎週土曜日の夜にテヘラン市内の公園で集会を開くと宣言している。

●ホンジュラス
クーデターに抗議のゼネスト

 ホンジュラスで6月28日に軍によるクーデターが起こった。ALBA(米州のためのボリバール・オルタナティブ)やOAS(米州機構)などの諸国の機敏な活動によってクーデター政権は国際的な孤立に陥った。国内においても、非常事態宣言と完全な報道統制の下で、抵抗闘争が拡大している。
 「グランマ・インターナショナル」紙7月2日付のテグシガルパからの現地報告によると、「人民抵抗戦線」が6月30日から無期限のゼネストに入っている。7月1日には大統領官邸に向けて大きなデモが行われた。「人民抵抗戦線」には3つの全国労組と、農民、青年、学生組織、人権団体その他の社会運動団体が参加している。リーダーたちは人々に、権限を簒奪した政府に服従する義務はないという憲法の条項を説明している。
 6月29日付のビア・カンペシナ(「農民の道」)・ホンジュラスのアピールによると、「情報はクーデター派によって統制されており、クーデター派はサンタバーバラ、テグシガルパ、ラセイバ、エルプログレソをはじめ各地で広範な人々が人民の権利を擁護するためにデモを行っている事実を否定し、隠そうとしている」。
 キューバの通信社ACNによると、クーデター発生の28日深夜から、約2万人がクーデターに抗議して大統領官邸前に集まった。  以下は米国の市民団体調査チームの現地報告の抄訳である(「Zネット」ウェブ、7月3日付)。
 私たちの緊急国際代表団は、米国のコードピンク、グローバル・エクスチェンジ、非暴力インターナショナルによって構成され、6月28日のクーデターに関する真相調査を開始した。
 私たちは最初に、持続可能な発展ネットワークから概況の説明を受けた。このグループは、持続可能な発展に関する情報交換を目的として15年前に設立された。ここが現在、クーデターに関する情報交換のセンターになっている。ブログスポット、フェースブック、ツイッター、マイスペース、フリッカー、ユーチューブを駆使して、刻々と情報が集まってくる。クーデター側が報道を統制しているため、ここの通信システムが情報を知るために不可欠になっている。
 このネットワークは従来は政治には関与していなかったが、スタッフはクーデターに憤慨した。全国コーディネーターのラケル・イサウラさんは、インターネット上に彼女の名前でクーデターに反対するメッセージを投稿したために右翼から攻撃されている。彼女は「今の時代に軍事クーデターは、市民社会のあらゆるセクターから非難されるべきだ」と語る。……
 ネットワーク代表のカンダラリオ・レイエス・ガルシアさんは、次のように憂慮している。「1980年代に、私たちは『第316大隊』と呼ばれる暗殺部隊による脅威にさらされていた。この暗殺部隊のリーダーたちが今でも軍隊の中にいる。もし彼らが国を支配することになったら、私たちの前には本当に暗い時代が来るだろう」。
 クーデターに反対するデモは全国各地で起こっているが、ニュースでは報道されない。デモ参加者たちは軍によって殴られ、催涙弾を浴びせられている。リーダーの何人かは逮捕されるか、隠れている。軍はデモ隊が首都へ入らないようにしている。カタカマスの国立農業大学のフアン・アミルカル・コリンドレス教授は、28日に、学生、教授、地域の住民などを組織して8台のバスで大統領官邸へ向かおうとしたが、軍に止められた。軍はタイヤに発砲して、バスが動けないようにした。……
 コリンドレス教授は、なぜセラヤ大統領を支持するのかという質問に、セラヤ政権は国公立大学のための予算を増やし、学生の奨学金を増やしたことを指摘した。
 この日の最後に私たちは先住民のレンカスとガリファノスの人々の集まりに参加。この人たちは幸い首都に入ることができ、学校の講堂に集まっていた。赤ん坊から老人まで、家族ぐるみで連日の行動に参加している。小学校教師のバレンティナ・ドミニケスさんは「私たちは貧困に苦しんできた。セラヤ大統領は私たちを助けようとした。最低賃金を引き上げ、全生徒におやつを与え、入学金をタダにし、読み書きできない人たちのためのプログラムを増やした。だから彼の政府を守るためにここへ来た。しかし軍は私たちを弾圧している。私たちには神以外に守ってくれる者がいない。外からの支援を必要としている」と語る。

●中国
深センの労働NGO活動家襲撃事件、首謀者に4年の実刑

 以下は07年11月20日に深セン市の「打工者中心」(労働者センター)の責任者、黄慶南が3名の暴漢に襲われた事件の裁判(本誌2月15日号参照)の続報である。(翻訳 APWSL日本委員会・稲垣豊)
 5月19日、深セン市龍崗区裁判所は同事件への判決を下した。実行犯の黄志忠に懲役5年、他4人に1年半〜4年の懲役刑である。被害者への賠償請求と見舞金についてはいずれも請求を退け、治療費と経済的損失など9万6千元のみが認められたが、黄慶南が請求していた122万元には程遠い額だ。黄慶南はこの判決を不当として、二審に控訴する。
 判決公判には50人以上の支援者が駆けつけたが、傍聴は10人に制限され、香港のNGOのメンバーは傍聴を拒否された。  「大学教員学生による不良企業監視行動」、中国労働透視、全球化監察、アジアモニター資料センター、「労働力」をはじめ香港、台湾、その他の国の70以上の団体がこの裁判を支援している。
事件の焦点

  1. (1) 深センの労働者センターは、深セン市龍崗区で会社登記をしている労働NGOであり、内外の寄付を受け、出稼ぎ労働者に図書サービス、法律サービスなどを提供している。主犯格の鐘偉其は深センに会社や工場を所有しており、労働者センターによる労働契約法の宣伝が利益を脅かすと考え、金を使って犯行に及んだ。道案内をしたのは地元の元治安隊隊長の鐘東盛であった。
  2. (2) 5人の容疑者は08年1月に逮捕されたが、裁判の開始は何度も延期された。裁判所は傍聴人を制限し、弁護士を含む原告側の入廷者に対して身体捜索を行った。李方平弁護士は身体捜索を拒否したため入廷できなかった。
  3. (3) 弁護側は事件の動機が不明であり、被告が犯行に及んだ理由、詳細が明らかにされていないと主張した。裁判はわずか3時間のスピード審理で終わってしまった。
  4. (4) 08年12月に深セン市司法鑑定専門家委員会は被害者が受けた障がいに関し公安局が提出していた鑑定結果(「障がい六級」)に異議を唱える意見書を提出した。裁判所はそれに基づいて、補償請求を却下した。この手続きには問題がある。
  5. (5) 判決公判の1週間前に深セン市の二大新聞「南方都市報」と「晶報」は、この事件に関して、龍崗区裁判所による「黄慶南が再鑑定を拒否したので判決が長引いたという主張を掲載し、判決が長引いた責任を被害者の責任にした。

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