アジア@世界
770号

●アルゼンチン
不況下で拡大する工場占拠闘争

*サノン・セラミックの労働者管理、法的承認へ前進
 ネウケン州(パタゴニア地域)のサノン・セラミックス社は、FASINPAT(「ボスのいない工場」)とも呼ばれている。2000年から01年にかけて、この工場では、経営者が7500万ドルの負債を抱え、人員削減と工場の閉鎖を計画していた。00年に労働者がストライキに入り、01年に経営者は大部分の労働者を解雇し、工場を閉鎖した。数ヵ月分の賃金が未払いであリ、雇用保険も加入していなかった。同10月に労働者は工場を占拠し、4ヵ月間にわたって工場の外で野営し、パンフレットを配ったり、工場に通じる道路を封鎖するなどの闘いを続けた。この間に裁判所は、労働者が工場に残っている在庫を売却することを許可する決定を下した。在庫を売りつくした後、02年3月2日に労働者総会が開かれ、自主生産を開始することを決定された。
 政府は5度にわたって警察によって労働者を排除しようとしたが失敗した。03年4月8日には、地域の住民約5千人が排除に抗議し、工場を守るために集まった。この工場は、一般の企業には与えられる政府からの補助や優遇策を受けられなかったが、それでも以前よりも経営状態が改善しており、8年間にわたって470人の労働者の雇用を守ってきた。
 今年5月に、州政府はこの工場の労働者による接収・管理を認める法案を州議会に提出した。州政府はまた、債務の一部を肩代わりする。
 これは勝利に向けた大きな一歩である。しかし、一方で、経済危機の中で、売上が40〜50%減少するという困難に直面している。さらに、光熱費の高騰という問題もある。労働者たちは、この困難を乗り切るために、政府に対して、(他企業と対等に競争できるように)法律上の承認を要求してきた。また、他の企業と同様の光熱費への補助を要求している。

*労働者管理の経験は社会を変革しつつある
 労働者管理の下にある約200の工場の多くが経済危機の影響を受けている。しかし、資本家の企業と違って労働者の協同組合は、可能な限り労働者の解雇を回避するためにあらゆる努力を払っている。ブエノスアイレスのチラバート社(印刷工場)のカンディド・ゴンサレスさんは、「私たちは資本家ではない。労働者を、まるでネズミのように追い出すことはできない」と語る。彼の工場は01年に労働者が占拠し、法律上の承認も勝ち取っている。この工場の多くの職場で、労働者たちは全員の雇用を守るために賃金カットを受け入れることを決定した。
 08年末以降、新たに約10の工場で占拠闘争が始まっている。工場を占拠した労働者たちは、「資本家が危機を利用して債務を清算し、資産を不正に売却し、労働者を解雇し、そのあとで新しい会社の下で生産を再開しようとしている」と訴えている。サノン工場のホセ・ルイス・パリスさんは、「多くの工場がまだ操業を続けているのは、労働者管理による再建を恐れているからだ。われわれは彼らを恐れさせなければならない」と言う。労働者によって占拠された工場の多くは、まだ製品への需要があり、閉鎖の必要がなかった。
 01年以降の工場占拠・労働者管理の闘争は、それ自体が社会革命ではないが、その経験によって、今日、失業の危機に直面して多くの労働者が、職場を占拠することによって労働者としての権利を守ることができると考えるようになっている。  ブエノスアイレスのホテル・バウエンの占拠闘争に参加しているホルヘ・スアレスさんは「(労働者管理の下で)再生された工場は社会を変革しつつある。私たちは働き方を変えようとしており、搾取なしで働いており、労働者たちに経営者がいなくてもやっていけることを示している」と語っている。

●バングラディシュ
R・L・デニム社の労働者虐待に抗議、英・独・米の労組が共同声明

 ヨーロッパを拠点とする世界第3位の卸売チェーン、メトロ・グループに衣料品を納入しているバングラデシュのR・L・デニム社で、650人の労働者(大多数は若い女性労働者)が日常的に暴力を受け、低賃金で長時間労働を強制されている。  新しいグローバル労組、「ワーカーズ・ユナイティング(労働者の統一)」は、5月22日、R・L・デニム社の労働者に連帯し、メトロ・グループに労働者の権利を擁護することを求める声明を発表した。
 「ワーカーズ・ユナイティング(労働者の統一)」は昨年、英国最大の労組ユナイトと北米の民間部門の最大労組USW(全米鉄鋼労組)の統一によって設立され、のちにドイツ最大の労組ヴェルディが加わり、世界最大の労組(組合員総数550万人)となった。  R・L・デニム社ではあらゆる労働法違反が報告されており、次のような人権侵害が起こっている。
 08年12月7日、ファテマさん(18歳)が、病気にもかかわらず働き続け、過労のため死亡した。ファテマさんが病気のため帰宅したいと申し出たとき、上司は彼女を殴った。
 ヤシンさん(17歳)が気を失って工場の床に倒れたとき、工場の管理者が彼を乱暴に蹴りつけた。
 妊娠して、法律で認められている産休を申請した女性が何の補償もなく解雇された。
 残業が義務付けられており、労働者は通常、1日12〜15時間、週90時間働き、休日は月1日である。ヨーロッパ向けの出荷前には徹夜勤務や20時間のシフト(午前8時から翌日午前4時まで)も頻繁に行われている。
 縫製助手の賃金は時給11・5セント、日給93セント、週5.6ドルだった(死亡したファテマさんもこの賃金だった)。上級の縫製工でも、時給14・4〜17セント、日給1・15〜1・38ドルで、最低限の生活の必要も満たしていない。残業手当も30%以上天引きされている。
 労働者の報酬は、縫製したジーンズ1着につき13セントである。
 ノルマ(たとえば、1時間に360個のベルト穴を縫う)を達成できない労働者は罵られ、殴られる。蹴られることもある。
 工場への監査はジョークでしかない。2通りのタイムカードが用意されており、本当のことを話した労働者は殴られ、解雇される。
 メトロ・グループは03年以来、R・L・デニムの工場から製品を仕入れている。同グループは、数年間にわたり超過利潤を上げた挙句に、工場の実態が明らかにされ、労働者が法律上の権利を勝ち取ろうとしている時、同工場との取引を中止しようとしている。これは労働者たちに一層の苦痛を与える。
 「ワーカーズ・ユナイティング」の声明はメトロ・グループに対して、@労働者に法律によって規定されている賃金および手当を過去にさかのぼって支払うこと、AR・L・デニムの工場との取引を中止するのでなく、組合および労働者と協力してR・L・デニムに労働条件を改善させ、模範工場に作り変えることを要求している。また、「メトロの事例がはっきりと示しているように、グローバルなスウェットショップ(搾取工場)経済における底辺に向けての競争は、統制できなくなっており、企業は発展途上国のもっとも貧しい、もっとも弱い立場の、しかしもっとも勤勉な労働者を自由に搾取できる。メトロ・グループは仕入先の労働条件を監視できなかった。多国籍企業は自分たちが引き起こした絶望的状況から逃げることは許されない」と述べている。

●中国
天安門事件の犠牲者の意志は維権運動に継承されている

 中国における民主的労働運動を呼びかけている「チャイナ・レイバー・ブレティン」(香港)は、天安門事件20周年にあたって、「6月4日と、その今日的意味を想起する」と題する声明を発表した。
 声明は、20年前に天安門に集まった学生や労働者が提起した主要な社会的・政治的問題−−官僚の腐敗、結社の自由の不在、民主主義の不在−−は依然として凍結されたままだと指摘している。しかし、声明によると、この数年間、大衆の抗議行動や要求の性格と内容に変化が表れており、一般市民による地域を基盤にした権利要求の運動(「維権運動」)が拡大している。
「……結語として、中国で持続的に拡大している維権運動は、6月4日の犠牲者が無駄に死んだわけではないことをはっきりとしめしている。彼ら・彼女らの墓を飾る花は絶やされることはなかった。この花は平和と、対話と、民主主義と、民族的な尊厳を象徴しており、今日では新しい形と色となり、より強くなり、大きく変化した環境の中で生きている。しかし、その品種は変わることなく、芳香は消えることはない」。

●ペルー
アマゾンの資源略奪に反対の先住民に警察が発砲、虐殺

 6月5日午前6時頃、ペルーの北部アマゾン地域のフェルナド・ベラウンデ・テリー・ハイウェー(通称「悪魔のカーブ」)で政府に抗議の道路封鎖をしていた数千人のアワフンとワンビスの人々(先住民)に対してペルー国家警察と特殊部隊約650人が攻撃。バリケードの両側から自動火器で銃撃し、ヘリコプターからも催涙弾や実弾を発射した。近隣のバグアグランデ、バグアチカ、ウクバンバの町では、弾圧に抗議する住民のデモに対して、家屋の屋根やヘリコプターから銃撃が行われた。
 NACLA(北米ラテンアメリカ会議)のウェブに掲載されたジェラルド・レニケ氏のレポート(6月8日付)によると、この地域の先住民たちは18世紀以来、植民地主義の宣教師たち、ゴム商人、金採掘人、木材伐採者やセンデロルミノソ(武装闘争組織)に抵抗して土地と文化的自治を守ってきた。ガルシア大統領は昨年、06年の米国とのFTA(自由貿易協定)実施に必要な法律制定のため、大統領特別権限を使い、一連の政令を発布(「ジャングルの法律」と総称)。これは木材、石油、鉱山、製薬等の多国籍企業がアマゾンの豊かな資源を自由に利用できるようにするものである。
 AIDESEP(ペルー・アマゾン民族間発展連合、80余の先住民団体及び地域組織の連合体)と先住民たちは、それらの政令の撤回と政府との対話を要求して4月9日からゼネストに入り、道路封鎖や石油・天然ガス採掘現場の封鎖などの非暴力で抵抗。政府は5月9日にこの地域に非常事態宣言を発動し、憲法上の権利を停止した。しかし、先住民の運動は労働組合、農民、市民団体や自治体の首長、アマゾン地域のカトリック教会等の広範な支持を得てきた。
 先住民の代表によると、6月5日の事件での先住民の死者は40人以上で、150人以上が行方不明、もしくは警察に連行された。警察が死体をヘリコプターで川へ捨てていたという多くの証言もある。警察が攻撃を開始したとき、先住民たちは非武装か、伝統的な木槍を持っていただけである。
 メキシコ在住のレポーターのジョン・ギブラー氏によると、「この2ヵ月間、アマゾンの先住民の運動は平和的で、地域的に連携されていて、非常によく組織されていた。それでもアラン・ガルシア大統領は先住民たちをテロリストで、非民主主義的だと非難している。ガルシアはこの運動を粗野で野蛮なものとして描き出すことによって、先住民に対する根深い人種差別主義に訴えようとした」(「Zネット」6月15日付)。
 6月10日にペルー国会は、問題となっていた政令、政令1090号の凍結を決定。ギブラー氏は、この決定が1週間前であれば、6月5日の事件は避けられていた指摘(ガルシア大統領と彼の支持者が決定の引き延ばしを図った)。

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