アジア@世界             喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
999号

★グローバル:
 ファッション・ブランドの支払い拒否で世界の衣料労働者に壊滅的打撃

 米国およびヨーロッパの有力ファッション企業は新型コロナウイルスの発生以来、海外の供給元への代金支払いを拒否しており、その総額は160億ドルに上る。
 そのため世界の衣料労働者が破滅に直面している。

 

 米国に本拠を置く2つのグループ、「グローバル労働者の権利センター」(CGWR)と労働者の権利コンソーシアム(WRC)は、これまで公開されていなかった輸入データベースを活用して、全世界の衣料工場とサプライヤーが今年4月から6月の間に少なくとも162億ドルの売り上げ収入を失ったことを明らかにした。

 

 ファッション・ブランドがコロナウイルスの発生前に行った注文をキャンセルしたり、注文した製品に対する支払いを拒否したためである。

 

 その結果バングラデシュ、カンボジア、ミャンマーなどの国のサプライヤーは、事業を縮小するか完全に閉鎖する以外に選択肢がなく、何百万人もの労働者が時間短縮と失業に直面している。

 

 WRCの所長で、この報告書の共著者であるスコット・ノヴァは、「コロナ危機の中で、この不公平な支払いシステムによって西側のブランドは発展途上国のサプライヤーから奪うことで財務状態を維持することができた」と述べている。

 

 報告書によると、パンデミックの中で世界の最貧国のサプライヤーが見込み生産のすべてのコストを負担し、バイヤーは工場からの出荷から数週間または数カ月後まで何も支払わなくてよい。

 

 サプライヤーと労働者が破滅に直面しているにもかかわらず、一部の小売業者は株主に何百万ドルもの配当を支払っている。

 

 米国最大の衣料品小売チェーンのーつであるコールズは3月に、バングラデシュや韓国などの工場に対する大量の注文をキャンセルした数週間後に、株主に対して1億900万ドルの配当を行った。

 

 カンボジアの衣料品製造業者協会は4月に発表した公開書簡で、バイヤーに対して、同国の衣料産業に依存する75万人の労働者を保護するために、契約を履行するよう訴えた。

 

 CGWRの所長で、この報告書の主筆者であるマーク・アンナー教授は、「アパレル企業はサプライチェーンの最上位にあり、危機の際にはサプライヤーとの約束を反故にする力を持っていますが、彼らには最も脆弱な人々を保護する道徳的義務があります。
 それはサプライチェーンの末端の労働者の福利を保護することから始まります」。

 

 WRCとCGWRは4月に、ブランドと小売企業が契約上の義務を履行しているかどうかをモニターするために、「Covid119トラッカー」を開設した。

 

 それによると、納入済みの製品や生産中の半製品に対する全額支払いを約束していない企業のリストにはアルカディア・グループ、ウォルマート、アーバンアウトフィッターズ、マザーケアなどの大手小売企業が入っている。

 

 一方、GaP、H&M、Zaraなどの大手ブランドや小売企業は労働団体やメディアからの圧力を受けて、当初の方針を転換してサプライヤーに対する財務上の義務を果たしている。

 

(英国「ガーディアン」紙10月8日付より)

 

★グローバル:学校再開をめぐり教員組合が安全策を要求

 コロナ感染危機の中、全世界で教員組合が学校再開をめぐって政府の政策と闘っている。

 

 南アフリカの教員たちは困難な選択を迫られていた。
 7月に新たなコロナ感染が増加している最中に、政府からは学校再開の圧力がかかっていた。
 安全性を懸念する教員たちはこの圧力を押し返した。

 

 交渉が行き詰まった時、国内最大の教員組合である南アフリカ民主教員組合(SADTA)は学校再開を延期しない限りストライキに入ると警告した。

 

 同組合のムグウェナ・マルレケ書記長は「常に雇用者側の方が力は強い。この不公正な力関係を対等にするためにはストライキが必要だ。行き詰まりを打開し、対等のパートナーとして交渉のテーブルに戻るためにだ」と述べている。

 

 今回、ストライキは回避された。
 政府は学校再開を延期することに同意し、感染対策の基準を満たしていない学校から教員と生徒を移転させるための枠組みにも同意した。

 

 パンデミックの中で教員組合は、ピケットラインからZOOM会議まで、場合によっては刑務所でさえ、コロナウイルスの時代の教育をめぐる論争の前面に押し出されている。

 

 どのように安全に学校を再開するかが中心的な問題となり、国連によるとコロナウイルスは経済や労働者家族の日常生活への影響に加えて、学校の閉鎖によって十億人以上の学生に影響を及ぼしている。

 

 ブリユッセルに本拠を置く教育労働者の国際的連合である教育インターナショナル(EI)のデビッド・エドワーズ書記長は、「全世界で政府との闘いの中で多くの瀬戸際の戦術が採用されている」と言う。

 

 デトロイトに本拠を置く草の根の労働者組織である「レイバーノーツ」のエレン・デビッド・フリードマンは、「世界の公共セクターの教員組合は、国や地域によってその役割と構成が大きく異なり、部分的には国内や地域の法規、国や州との労使関係、および政治的な反対意見への寛容さなどの条件によって影響される。しかし、公教育を侵食してきた政策に反対するという1本の共通の糸が多く教員組合を結びつけている」と言う。

 

 彼女によると、「私たちは今、危機の瞬間にいて、世界中の人々が公教育の重要性を認識している。教員組合は最後の防衛線だ」。

 

 エドワーズによるとEIの全世界の加盟組合の中に3つの傾向が見られる。
① アルゼンチン、ニュージーランド、スカンジナビア諸国などの「信頼度が高く、対話が多い」国では教員は争議に訴える必要がなかった。代わりに労働組合は学校再開の時期や方法、病欠や残業などの関連する問題について政策立案者との間で継続的に協議している。

 

② 英国、フランス、ドイツ、ギリシヤ、その他のヨーロッパ諸国では、一部の組合は政府の計画に対して大きな反対の声を上げてきた。

 

③ 政府との対話と協議が歴史的に欠けている国では、教員はストライキで脅したり、実際にストライキに訴えたりする可能性が高い。

 

 ブラジル、チリ、フィリピンなどでは、教員は政府の「労働改革」と全面的に対決してきた。
 いくつかの地域では政府は教員を「エッセンシャル・ワーカー(不可欠な労働者)と規定し、教室に戻ることを義務付けた。

 

 トランプ政権も9月に、学校再開を促すために教員は「エッセンシャル・ワーカー」であると宣言した。
 米国教員連盟(組合員数170万人)は全国の傘下組合に、学校の安全を確保するための緊急の数十億ドルの連邦財政からの支出などの要求が満たされない場合はストライキに入ってもよいと指示した。

 

 デンマークでは、これらの国とは対照的に、教員や組合と自治体の間の協力によって学校再開が円滑に行われた。
 デンマーク教員連合のドルテ・ランゲ副委員長は「私たちは教員の労働組合として、政府や雇用主と緊密に協力することができている。彼らは私たちの不安に耳を傾け、配慮した」と語っている。

 

(オーストラリァ「シドニー・モーニング・ヘラルド」9月13日付より)

 

※連載終了にあたって

 1993年に「アジアから世界から」として始まったこの連載も今回で最終回となります。

 

 当時、草の根の労働者国際連帯を掲げて、韓国3労組支援の運動やAPWSL(アジア太平洋労働者連帯会議)日本委員会の活動に奮闘されていた山原克二さん(故人)の勧めで、民主化を遂げたアジア諸国の新しい労働運動の息吹と困難、日本
の労働運動との共通の課題を共有することを意図した企画でした。

 

 読者の皆さんからの「○○号の○○の記事がよかった」という声に励まされて、約27年継続させていただきました。

 

 今後も何らかの形で、世界各地、特にアジアの労働者の闘いと声を伝えていくことをライフワークとしたいと考えています。

 

 長い間ありがとうございました。

 

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