アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
933号

★パレスチナ
  教員の賃上げを要求したスト、4週目に

 4週目に入るパレスチナの教員のストは、パレスチナ自治政府への苛立ちが高まる中、自治政府の重大な危機に転化している。


 ストに参加している教員の数は3万5千人余まで増え、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区の100万人以上の生徒たちが影響を受けている。

 教員たちは自治政府が13年のストの後に行った約束を守っていないことを非難し、PLOの教員組合代表アフマド・スフウェルは、交渉代表の交代を求める声の高まりの中で辞表を提出した。


 ベツレヘムのアイダ難民キャンプに居住するアイェド・アル・アゼーさんはパレスチナの学校に10年間勤務し、現在はラウィーンのベドウィン(遊牧民族)のコミュニティーで数学を教えている。

 彼は2月にストが始まった時から参加している。彼によると教員たちの主要な目標は貧困を強制しない賃金を獲得することである。「われわれは贅沢な生活を望んでいるのではない。尊厳を持って生きたいだけだ」と彼は言う。
 教員たちは自治政府に要求を突き付けようとしない教員組合の体制そのものを批判し、地区ごとに新しい交渉代表として行動するリーダーを選んできた。しかし自治政府の当局者は、法律の規定を理由に、新しい代表との交渉を拒否してきた。


 2月23日にはラマラ市の中心部で2万人の集会が予定されていたが、治安部隊が配置され、各所に検問所が設けられた。 (「マアン通信」3月11日付より)


 3月12日にアッバス議長が13年の合意を実施するという声明を発表したのを受けて、教員たちは同日、ストを一時中止し、週明けから授業に戻ると発表した。


 

★パレスチナ
  イスラエル当局がパレスチナ人労働者を一斉検挙

 イスラエル当局は3月に、イスラエルで就労許可証なしに就労しているパレスチナ人労働者への一斉摘発を行い、2週間で1200人以上の労働者を検挙した。一方、クネセト(国会)はパレスチナ人の雇用を抑制する一連の新しい罰則を定めた法律を採択した。


 この動きは同月初めにヨルダン川西岸地区からイスラエルに「不法入国」したパレスチナ人が引き起こしたとされる殺傷事件を口実としているが、イスラエルの人権団体の活動家、ラジャ・ザアトリさんは「イスラエル政府は『不法入国のパレスチナ人』の問題を口実にして、イスラエル社会に恐怖を蔓延させようとしている。これはレイシスト(人種差別主義者)を喜ばせるためのゲームだ」と指摘している。


 パレスチナ中央統計局(PCBS)によると、昨年、イスラエル国内および違法入植地で11万2300人のパレスチナ人が就労しており、これはパレスチナの労働力人口の約12%にあたる。
 しかしイスラエル当局が就労許可証の発行割り当てを厳しく制限していることから、数千人の労働者が許可証なしに、隔離壁の隙間から「入国」している。
 PCBSによると、15年に3万6400人の許可証のないパレスチナ人労働者が就労している。この労働者たちにとって生活は常に生存のための闘いであり、安全に自宅に帰れる保証はない。 (「マアン通信」3月23日付より)

 

 

 

★アルゼンチン
  職場占拠・自主管理運動が右派政権との対決へ

 アルゼンチンでは昨年11月の大統領選挙で勝利したマウリシオ・マクリが率いる右派政権の下で、公務員の大幅削減を始めとする労働者への攻撃が強まっている。

 アルゼンチン労働組合(CTA)は3月29日にマクリ政権の経済政策に反対するゼネストを呼びかけており、ブエノスアイレスでは国家公務員、医療労働者、教員などが48時間ストと国会へのデモを計画している。


 アルゼンチンでは90年代から労働者が閉鎖された工場や店舗を占拠して、労働者による自主生産・自主経営の下で再建する動きが拡大し、世界的に注目されてきたが、右派政権の下でこのような闘いに対する敵対も強まっている。
 以下は英国「ガーディアン」紙3月10日付のマット・ケナード、アナ・ケースター記者のレポート(「オキュパイ・ブエノスアイレス―市を変革し世界を鼓吹した労働運動」)の抄訳である。


 ブエノスアイレスのダウンタウンにあるホテル・バウエンの栄光は遠い過去のようだ。アールデコ調のインテリアはボロボロで、エレベーターは3台が故障している。全館が少し塗装をすればいいのにと思える。ここが世界で最も成功している労働者による占拠運動の中心地となっているのは意外だ。
 バウエンは1978年に、当時の軍事政権からの補助金を受けて、同年のワールドカップの観戦に訪れる観光客向けの「5つ星」ホテル(22階建て)として開業した。その後の盛衰を経て、01年末に破産を宣言した。その2年後に労働者が休業中のホテルを占拠し、自主経営を始めた。……


 アルマンド・カサドさん(66歳)はこのホテルのレストランでカード遊びに興じる男たちに飲食のサービスを提供するウェーターである。彼は四半世紀にわたってここで働いている。彼は経営者の下での仕事と労働者管理の下の仕事の両方を経験している。

 「以前は普通の仕事で、オーナーもボスもいたし、効率を上げるための組織図もあった」と彼はなつかしそうに言う。「今は自由がある。しかし、効率も上げなければならない。以前ほど効率的ではないが、もっと自由がある」


 ブエノスアイレス大学の「オープン・ファカルティ・プログラム」によると、14年時点でアルゼンチンでは311の工場・店舗で労働者による占拠・自主経営が行われており、そのうち約半数がブエノスアイレスである。

 約半数は04年以降、つまり同国の経済回復が始まった後に開始された。このことから、占拠・自主経営は金融危機に対する緊急の対応としてだけでなく、景気が良い時期でも、活力がある持続可能なモデルとして有効であると同大学の同プログラムは結論付けている。


 現在ブエノスアイレスの至る所で労働者管理の下の企業があらゆるサービス・製品を提供している。同市は世界で最初の、そして最も長く続いている「占拠された都市」となっている。

 レストランで出されるパンは協同組合で作られたものだし、街に出ればゴミの収集は別の協同組合のメンバーが従事している。「占拠」は成功しているだけでなく、今でも拡大が続いている。


 ジャーナリストで、この現象についての著書(「静かな変革―アルゼンチンの再生企業」)があるエステバン・マグナニさんによると、「再生企業」(労働者管理によって再生した企業)の成功の第1の要因は絶望である。

 「90年代には労働者にとって対案はなかった。解雇されたら終わりである。十分な数の絶望した人々が集まった時、工場を再生するためのシステムの確立が始まった」。

 もう1つの要因はネストル・キルチナル(03〜07年)とクリスチナ・キルチナル(07〜15年)の左派政権が倒産企業の労働者管理を容認したことである。……


 現在では状況が変化した。15年12月に、右派の実業家で、元ブエノスアイレス市長のマウリシオ・マクリが大統領に就任した。
 マクリは市長在任中の04年に、ホテル・バウエンの所有権を協同組合に移転するための法案に拒否権を行使した。彼はこのホテルの旧所有者と政治的に緊密な関係にあるため、労働者たちはマクリ政権と市政府が労働者から何もかも取り上げてしまうかもしれないと警戒している。……
 労働者たちは協同組合による経営の法律上の承認を追求してきたが、14年に最高裁判所は労働者に同年4月までにホテルを明け渡すことを求める決定を下している。


 現在約130人がこのホテルで働いている。基本賃金は月3千ペソ(1ペソは約8円)、3ヵ月に1回の労働者総会で加算を決定する(利益から必要な投資や積立を控除した金額を分配する)。加算分を含めても最低賃金に満たない。

 管理部門で働いているパトリシア・グスマンさん(34歳)は、「基本的にはホテルを続けていくために月に数日分の賃金を我慢している。しかし、今のところ私はここで働くことに満足している。ほかに仕事を見つけることはできないだろう」と語っている。

 

 

★サウジアラビア
  建設労働者の賃金未払いが多発

 サウジアラビアのサウジ・オジェで働くロバートさん(仮名)は数ヵ月にわたって賃金を受け取っておらず、子どもの教育費を払うこともできない。滞在許可の期限も切れた。
 サウジ・オジェはレバノンの富豪で、元首相のサアド・ハリリが所有する巨大建設会社で、約5万人を雇用している。大部分の労働者が数ヵ月にわたって賃金を受け取っておらず、絶望的状況に陥っている。
 サウジアラビアでは原油価格の低落に伴って、昨年末から政府が財政支出を減らしており、その影響で多くの建設会社が経営難に陥っている。多くの企業は労働者の削減を進めている。


 フィリピン、バングラデシュなどの政府はサウジアラビア政府に対して、同国の建設会社が未払い賃金を支払うよう働きかけることを要請した。

 フィリピン政府は現地に調査団を派遣すると発表した。在リアド(首都)のフランス大使館はサウジ・オジェに対して、フランス人従業員の賃金を支払うよう求める書簡を送った。

 

(「ザ・ヨルダン・タイムズ」3月7日および27日付より)

 

 

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