アジア@世界
805号

●アイルランド
政府の緊縮政策に反対して10万人がデモ

 11月27日、ダブリンで、政府の緊縮政策に反対するデモに10万人が参加した。これはアイルランド共和国の歴史上最大のデモの1つとなった。デモの目的地のダブリン中央郵便局は1916年に武装蜂起したアイルランド独立派が占拠した場所である。デモは全体的には平和的だったが、国会前で一部の左派およびアナーキスト・グループが警官隊と衝突した。
 深刻化する財政危機の中で、ブライアン・コーウェン首相は同24日に、最低賃金の引き下げ、公共サービスの雇用の大幅削減、増税を中心とする耐乏政策を発表。これにより今後4年間に歳出を150億ユーロ(1ユーロは約110円)削減するという計画である。これはEUとIMFから850億ユーロの緊急融資を受けるための条件を満たすためである。
 ICTU(アイルランド労働組合会議)のマクダラ・ドイル委員長は次のように語っている。 「私たちは政府に対して、この政策には市民の支持はないこと、政府のこれまでの政策が、実際に必要な政策と正反対だったことを理解させようとしている。私たちが恐れていることは、新しい予算がデフレをさらに深刻化させるということだ。それは経済から莫大な金を取り上げ、あらゆる回復の可能性を取り上げる。すべての回復の手がかりが、この提案によって葬り去られるだろう」。
 デモ参加者の多くは、EUとIMFからの850億ユーロの融資の大部分が銀行救済のために使われることに憤慨している。
 建設会社を経営しているミック・ウォレンスさんは、「私たちはおとなしすぎる。フランスのように、もっと街頭へ出るべきだ。政府はヨーロッパへ出かけて行って、国民はデモをしないから大丈夫だと言っている。この状態を変え、今の流れにはっきり反対するべき時だ」と言っている。彼は最近の建設産業の不況のため100人の労働者をレイオフしたと言う。
 ジミー・パーディーさん(77歳)もデモに参加した。彼は「不況は3回経験したが、今回は最悪だ。デモに参加したのは、EUがアイルランドの最低賃金を引き下げさせようとしていることに我慢できないからだ。危機を引き起こした連中が無傷なのに」と語っている。
 EUとIMFからの融資の金利が6.7%という高率であることにも批判が強まっている(最終的には、平均金利は6%程度になると予想される)。ギリシャ救済の際の融資金利は5.2%だった。
 EUとIMFからの融資は、同28日に開催されたユーロ圏非公式財務相会合で正式に決定された。この交渉について労働党のエイモン・ギルモア党首は「政府は国を売り払った」と批判した。シンフェイン党のゲリー・アダムズ党首は「5.8%という金利は法外だ。政府は年金基金から175億ユーロを取り崩して銀行救済に充てようとしている」と非難した。
 ICTU傘下のSIPTU(サービス・産業・専門職・技術者労組、20万人)のジャック・オコーナー代表は次のように述べている。
「先週発表された国家回復計画は、投資や雇用創出や成長のメカニズムもなしに、運を天に任せて飛べと言っている。銀行の債券を保有している者たちは手厚く保護されるのに、もっとも貧しく弱い人たちが公的保護を取り上げられる。この計画は奇跡でも起こらない限り失敗する運命にある」。
 コーウェン首相の連立与党への批判は高まっており、与党は同26日に投票が行われた補欠選挙で敗北し、国会の過半数を2議席上回るだけとなった。(「BBC」、「ガーディアン」、「アイリッシュタイムズ」より)

●韓国
現代自動車の非正規労働者が直接雇用要求でスト

 以下は民主労総からの支援要請(11月22日付)である。
 11月15日、金属労組に加盟する現代自動車の非正規雇用労働者が蔚山(ウルサン)の第一工場で座り込みストに入った。
 40人の社内請負労働者が、7月22日の最高裁決定(注)に従い、社内請負労働者の直接雇用を要求して、午前5時半に第1シート工場に入り、座り込みを始め、生産ラインを止めた。
 金属労組・現代自動車蔚山非正規労働者支部は、すでに組合員は新しい請負業者との雇用契約を締結せず、会社側が解雇すればストで闘う方針を決定していた。
 スト突入の1時間後には、すべての労働者は会社側の暴力集団によって暴力的に引きずり出され、逮捕された。その後、500人の労働者が第1工場の前に集まり、非正規労働者支部は第1および第2工場の組合員に午後から緊急のスト突入を指示した。夜間のシフトからは5工場すべてでストに入り、午後9時からは千人の労働者が第1工場前で座り込みに入った。
 11月17日には、第1工場の非正規労働者500人が、第2および第3工場に入って、これらの工場の組合員による座り込みを支援した。全州と牙山の工場でも非正規労働者がストに入っている。
 7月22日の最高裁決定以降、社内請負労働者が次々と組合に結集し、組合員が1千500人増えた。金属労組は11月22日に第28回代議員大会を開催、12月1日に産業ゼネストを行うことを計画している。

(注)最高裁は、現代自動車における社内請負は事実上、製造業では法律で禁止されている派遣労働にあたり、2年以上社内請負契約の下で働いている労働者は正規雇用の資格を持つという決定を行った。実際、この労働者たちは形式上は種々の会社に雇用されているが、現代自動車の管理・監督下で就労している。正規雇用労働者と同じ仕事をしているにもかかわらず、賃金・労働条件が異なる。
 労働者たちは同15日に突然解雇された。雇用者である請負会社が同14日に廃業を通知、現代自動車が請負契約を解約したためである。

●カンボジア
カンボジア・タイ・マレーシアの人身売買・奴隷労働ネットワーク

 以下は「プノンペン・ポスト」12月2日付レポートの抄訳である。
 パル・チャンタさんは2008年末に、友人に紹介されたブローカーから、タイの水産加工工場でいい仕事があると持ちかけられた。彼は当時、1日6千リエル(約125円)の賃金で働いていた。彼にとって、月230ドルの収入という期待は抗しがたかった。
 これは彼にとって、次々と襲いかかる人身売買ネットワークの最初だった。タイの水産業の労働者の5分の1は、このようなネットワークから供給されていると推定されている。
 カンボジアの人権グループ「リカド」の法律顧問であるマンフレッド・ホーヌン氏は06年以来、奴隷労働に関する調査を続けている。彼によると、人身売買は「あらゆるレベルで腐敗が蔓延している(カンボジア・タイ・マレーシアの)3つの国のすべての国境地域に広がっている」。
 パル・チャンタさんはタイに着いてすぐに、部屋に閉じ込められ、麻薬を与えられた。漁船に乗せられ、数ヵ月にわたって、昼夜休みなく(1〜2時間程度の仮眠が許されるだけ)働かされた。彼は06年12月21日に、船が修理のためにドックに入っている時に、海に命がけで飛び込んだ。彼と3人の仲間は、明け方にサラワクの岸へたどりつき、それから3日間、ジャングルの中を、仲間から聞いていた村を探して歩き回った。
 その村に着いて、役場へ出頭したが、相手にされなかった。その後、タイ語を話すブローカーが、仕事を紹介する、金を稼げばタイへ帰れると言い寄ってきた。パル・チャンタさんともう1人の仲間は警戒したが、他の2人はひどいホームシックに陥っていたため、このブローカーの提案に乗った。
 マレーシアの人身売買問題に取り組んでいるNGO「テナガニタ」のイージル・フェルナンデスさんによると、サラワクにはタイから逃げてくる労働者を待ち構えているブローカーが多数存在する。労働者たちは、2〜3年も働けばタイへ帰る飛行機代ぐらい稼げると言われ、食べ物もなく、言葉も通じない不安から、ブローカーの餌食になる。
 マレーシアにおける奴隷労働についても「リカド」には多くの記録が集められている。
 労働者たちは賃金も、何の権利もない状態に甘んじるか、マレーシアの当局に出頭して、マレーシアの法律による処罰を受けるかの二者択一に直面する。後者を選んだ場合、マレーシアの収容所へ入れられるが、そこでもブローカーが待っている。彼らはカンボジアに残っている家族から、「家族を安全に帰国させるための費用」として300〜400ドルをだまし取る。そのような金銭を準備するためには土地を手放さなければならない。その結果、人身売買の犠牲となった労働者たちが家に戻ったときには家族は破産している。
 バンタイ・ミエンチェイ県警察の人身売買防止本部の責任者のシツ・ルオス氏によると、タイへの人身売買のルートは強力であり、同県だけでも毎年5万6千人以上のカンボジア人労働者がタイから送還されている。タイ当局の摘発を逃れているケースも多数に上ると推測される。
 タイの水産物の輸出は年間20億ドルであり、数万隻の漁船が稼働している。ILOが主にビルマからの労働者について調査した結果によると、労働者の20%が人身売買によって供給されている。
 シツ・ルオス氏が、国境地域の警察は人身売買の取り締まりのために努力しているが、十分な人員と予算がないため、この大きな流れに太刀打ちできないと語っている。カンボジアの最も貧困な農村地域では、慢性的に食糧が不足しており、人身売買の危険についての啓発だけでは効果がない。
 シツ氏は、これは社会問題であり、毎年大量の若者が労働市場へ送り出され、多くの人たちが絶望的な状態で外国へ出ていくと指摘する。

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