アジア@世界
773・4号

●セルビア
賃金不払いに抗議ストが広がる

 労働者の熱い夏がセルビアを席巻している。組合の統計によると、毎日40〜45の工場で約3万5千人がストに入っている。その大部分は民営化された企業の従業員で、数ヵ月間にわたって賃金や社会保障手当を受け取っていない。
 8月中旬以降、ベオグラードでは民営化庁前などで、抗議行動の参加者が数時間にわたり道路を封鎖している。
 8月上旬には、ベオグラードから150キロ南のラポボの町の近くで、連日にわたって線路上に座り込んでいた数百人を退去させるため警官隊が動員された。この労働者たちは自動車や発電機の部品工場で働いていたが、数ヵ月にわたって賃金が払われていない。
 ベオグラード近郊のゼムンのバス工場で働いているステファン・スレコビッチさんは、「絶望的状態だ。新しいオーナーに裏切られ、今後のことを考えると怖い。私たちの工場は、民営化によって破滅的な状況になった何千もの工場の1つにすぎない」と言う。
 2000年にミロシェヴィッチを打倒した後のセルビア政府は、民営化に経済再生の展望を託し、02年以降、民営化により29億ユーロ(1ユーロは約130円)の収入を得た。政府は1828の国営企業を売却し、残った国営企業300も09年末までに売却される。
 しかし、民営化庁は8月中旬に、民営化された企業の4分の1(472社)が、新しいオーナーが契約を守らなかったために売却を取り消されたことを認めた。政府は緊急資金を得る安易な方法として、拙速な売却を進めたのである。
 3月には、レスコバック(ベオグラードから282キロ南)の衣料工場で、キプロス人の経営者が機械を持ち出し、ルーマニアへ移転してしまった。5月にはクルシュムリジャの衣料工場で、セルビア人の経営者が機械を持ち出した(スクラップとして売ったらしい)。このような不正取引にケイマン諸島、キプロス、バージン諸島などのタックスヘイブンが利用されている。工場の跡地に高級アパートやショッピングモール建設が計画されている例もある。
 新しいオーナーたちが生産再開と賃金・健康保険の支払義務を放棄している事例が次々と明らかになり、労働者たちの街頭抗議行動が拡大している。(「インタープレスサービス」8月28日付より)

●米国
トヨタがNUMMIの工場閉鎖を決定、UAWが抗議の声明

 8月28日、トヨタはカリフォルニア州フリーモント市のNUMMI(GMとの合弁事業、カローラやタコマの製造)における生産を2010年3月で中止すると発表した。
 同社の発表によると、「……昨年来の市場低迷と、GM生産車両が抜けたことにより、中長期的にビジネスとして成立する見込みが立たず、今回のような厳しい選択をせざるを得なくなった」。
 NUMMIは1984年2月に設立され、「日米協業事業として画期的なビジネスモデル」と位置付けられてきた。北米のトヨタの工場としては唯一、労働者がUAW(全米自動車労組)に組織されている。従業員数は約4千700人。
 トヨタはケンタッキー、ウエストバージニア、カナダなどの工場(組合が組織されていない)でも賃金・手当の削減を進めており、批判が高まっている。UAWの同日付け声明は、次のように述べている(抄訳)。
 「NUMMI工場閉鎖というトヨタの発表は、カリフォルニアの数千人の労働者にとって衝撃的なニュースだ。過去25年余にわたってNUMMIのUAWの労働者たちは最高品質の自動車を製造するために献身してきた。彼ら彼女らが、自分たちの労働と生産性と品質への努力により莫大な利益を上げた会社から見捨てられるのは理不尽だ」とUAWのロン・ゲッテルフィンガー委員長は語った。
 同委員長は、トヨタが他のメーカーと同様に、世界的な過剰生産能力を抱えていることは認めているが、「しかし、トヨタが連邦の資金援助(米国の納税者のお金)によって利益を上げた後で工場を閉鎖するという選択をしたのは残念なことだ」と述べている。
 UAW第5地域ジム・ウェルズ委員長によると、トヨタの決定によりNUMMIの組合員4千人のほかに、この工場に仕事を依存している3万5千世帯が影響を受ける。「これはカリフォルニアの住民に長期にわたる苦難をもたらすだろう。この工場の雇用は賃金も高く、州と地域全体の経済成長を促進してきた」。
 UAW第2244支部のセルヒオ・サントス委員長は、「会社がこの決定を、その破滅的な影響を被る従業員と話し合う前にメディア向けに発表したのはあまりにもひどい」と憤慨している。交渉の組合側代表ハビエル・コントレラスさんは、「組合は会社側やカリフォルニア州と協力して、工場継続のために努力してきたし、今でも努力している。私たちはまた、全ての組合員が工場閉鎖に伴うすべての契約上の給付および社会的給付を受け取ることを保証するために闘う」と述べている。

●スェーデン
ベトナム人農場労働者がスト

 8月11日、ヴェルムランド県(スウェーデン中西部)ブラナスのブルーベリー農場で、約120人のベトナム人労働者が過酷な労働条件に抗議してストに入った。
「私たちは、1日60キロ〜120キロのベリーを摘めると言われていたが不可能で、10キロ〜30キロだ」とレ・チ・ホンさんは言う。これでは旅費も出ない。
 労働者たちはベトナムの人材派遣会社TTLCによって雇用され、ラベマ・サービス社の下で働いている。彼ら彼女らは2ヵ月間の滞在のために約2千jを支払い、そのほかに家賃と食費として9千クローナを支払っている(1クローナは約13円)。賃金は1キロあたり14クローナである。
 ベトナム人労働者間でも、労働条件に不満を持ってストに参加する者(主にベトナム北部から来た人たち)と、ストに反対し、怒りを同じ労働者に向ける者(ベトナム南部から来た人たち)が対立した。この対立を調停するために、ストックホルムから警察官と通訳と大使館スタッフが派遣された。スウェーデン国内では、労働者をだましたベトナムの人材派遣会社や、それを容認してきた政府に対する批判が高まっている。  スウェーデン・フォレストベリー協会のイヴァン・ハルネスク会長は、労働者の不満の原因は、今年のブルーベリーの不作と景気後退による価格下落にあると説明している。スウェーデンではベリーの摘み取りに約6千人の外国人労働者が従事している。
 ストは3日間続いた。その後、9人の労働者は契約を破棄して帰国することを決め、他の労働者は仕事に戻った。契約を破棄した労働者たちは、賃金から家賃と食費が差し引かれるため、無一文で帰国することになる。 (「ザ・ローカル」紙8月14日付等より)

●南アフリカ
軍兵士が賃上げ要求でデモ

 8月26日、首都プレトリアで軍兵士3千人が、30%賃上げを要求し大統領官邸へ向けデモを行った。警官隊が介入し、ゴム弾や催涙ガスを使いデモを解散させようとした。  ズマ大統領は「暴力的デモは容認しない」と述べ、国防省はデモ参加者の厳重処分を宣言。30日までに約700人の兵士に解雇通知が送られた。  南アフリカ国軍兵士組合(SANDU)は、解雇は不当であり、さらに緊張を高めるものだと非難した。同労組代表のピッキー・グリーフ氏は、兵士は南アフリカの公務員の中で最も賃金が低いと指摘している(「BBCニュース」8月28日、31日付より)。  ……インパラ・プラチナ社(世界第2の白金採掘会社)の労働者2万人が、8月24日からストに入っている。全国金属労組(NUM、南アフリカ最大の労組)傘下の組合は、14%の賃上げと通勤・住宅手当を要求している。会社側は減収とコスト増の中で、10%が限度だと主張している。世界最大の希少金属採掘会社アングロ・プラチナ社でも賃金交渉が決裂し、労働者はスト準備に入っている。同社は世界で採掘されている白金の50%を占めており、インパラ社と合わせると世界の4分の3を占めるため、ストは世界経済に甚大な影響を及ぼすと予想される(白金は宝飾用のほかに、自動車などから排出される有害物質を除去するための触媒として使われている)。  NUM傘下のESKOM(南アフリカ電力公社)でも8月初旬に、賃上げ交渉が行き詰り、組合がストを計画したが、同12日に妥結、ストは中止された。通信労組(CWU)傘下のテレコム社の労働者は8月3日からストに入り、同12日にはプレトリアで4千人が大統領官邸までデモを行った。8月14日に交渉が妥結し、ストは終結した。南アフリカ衣料・繊維労働組合(SACTWU)は、8月25日、全国ストのための組合員投票を開始。ストは2週間後に予定されている。衣料労働者6万人のうち80%は女性で、多くがシングルマザーである。南アフリカでは中国からの低価格製品の輸入が急増、COSATU(南アフリカ労働組合会議)は輸入の規制を要求している。  南アフリカ自治体労組(SAMWU、15万人)は15%の賃上げを要求し7月27日からストに入り、全国でバス、病院、公園、図書館、ゴミ収集などが停止。同日には警官隊との衝突の際に組合員約30人が逮捕され、12人が負傷した。  同31日に13%の賃上げで妥結し、ストは終結した。同日付の「BBC」は次のように報じている。  「……この間の労使紛争は、政府に住宅、電力、水道などの基本的サービスの提供を求める都市住民の激しい抗議行動と連動している。5月に就任したズマ大統領は、選挙キャンペーンの中で貧困の緩和を約束した。彼は、前政権のあまりにも企業寄りの経済政策からの転換を求めるCOSATUや南アフリカ共産党の支持を得ていた。しかし、その後南アフリカは過去17年間で初めての景気後退に入り、ズマ大統領は政府の支出を増やすのが困難な状況に置かれている」。

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