アジア@世界
784号

●英国
富士通サービスの人員削減と賃上げ凍結に抗議し、波状スト

 英国最大の労組ユナイトに加盟する富士通サービスの組合員は、人員削減と賃上げ凍結、年金制度の変更計画に反対し、1月7、8、11、14、15の5日間、全国でストに入った。
 富士通サービスは、英国で政府機関や大手企業向けにITサービス(主にアウトソーシング)を提供しており、全国および北アイルランドの100余の事業所で約1万2千人を雇用している。
 同社は昨年8月に、人員削減(最大1千200人)、賃上げ凍結、年金制度の変更(確定給付型年金の廃止)などの計画を発表した。ユナイトによると、この計画は確定給付型年金の対象となっている4千人に大きな打撃を与える。この対象者はいったん解雇されて、新しい年金制度の下で再雇用されることになる。各労働者が受け取る年金総額は約20%減ると予想される。
 富士通サービスは昨年、設立以来最大の1億7千万ユーロの利益(前年の2倍以上)を上げているにもかかわらず同社は、経済危機に便乗し、労働者を犠牲にし、さらに利益を上げようとしている。
 また、企業が確定給付型年金を廃止するのはこの数年間で初めてのケースであり、多くの企業が追随しようとしていることから、この問題は一企業の問題にとどまらない重要な影響をもたらす。
 10月29日に締め切られた組合員投票では、74%の組合員がストを支持。12月18日に第1波の24時間ストが行われた。英国のIT産業では大部分の企業で組合が存在せず、富士通サービスにおけるストは、この産業で初めての全国規模のストだった。
 ユナイトは「労働者が現在の危機をもたらしたのではないのに、危機のコストを払わされようとしている」と指摘、攻撃をはね返すために支援を呼びかけている。
 ユナイトはまた、会社側の人員削減計画が差別的であると指摘している。組合がアプリケーション・サービス部門(1千500人)における人事考課のデータをもとに調査した結果、解雇対象者の選別の基準となる技能評価において、女性、マイノリティー(とくにインド出身の労働者)、パートタイム労働者が不当に低い点数を与えられていることが判明した。その結果、女性の6.7%(男性は3.7%)、インド出身者の10・4%(インド出身者以外では3.9%)が解雇対象者に選ばれている。(ユナイトのウェブ、BBCニュース等より)

●中国
広東省の電池工場(香港資本)で3日間のスト

 香港のゴールドピーク・グループの広東省・恵州の子会社、超覇(パワーパック)電池工場で労働者1千人余が、低賃金と福利厚生の廃止に抗議して12月8日から10日までストに入った。
 9日午前、100人余の労働者が工場のゲートを封鎖し、その後、恵州大通りにあふれ出て、同社の門前の道路を封鎖した。最終的には政府の担当者の説得によって労働者は工場に戻り、業務に復帰したが、問題は解決しておらず、管理者に対する不満は残っている。
 労働者たちは、「この会社で長年働いてきたのに、日給たった33元(1元は約13・3円)で、食事や住宅の補助もない」、「昔は、年末ボーナスや社員旅行などの福利厚生もあったのに、最近ではすべて廃止されてしまった」と言っている。
 同社は長年にわたり多くの利益を上げているにもかかわらず、賃金抑制や福利厚生の削減を進めてきた。  スト中に、ある労働者は警備員によって乱暴に引きずられ、手足を負傷した(同社はメディアの取材に対して、この事件を否定)。別の労働者も警備員の暴行により負傷した。
 香港のグローバリゼーション・モニター、AMRC(アジア・モニター資料センター)、カトリック正義と平和委員会は、香港の親会社であるゴールドピーク・グループに対して12月16日付で、次のことを求める公開状を送付した。
 (1) 恵州超覇電池工場の労働者の争議事件を社会的に明らかにすること。
 (2) 全労働者あるいはその代表者との間で真摯な交渉をすぐに開始し、昇給および福利厚生等の問題を解決すること。
 (3) 警備員による暴力行為を調査し、その結果を公表すること。加害者を処罰し、被害者に謝罪すること。
 (4) 事件の原因は、労働者に対する同社の不公平な扱いにあることから、負傷した労働者の入院治療費を負担すること。
 その後、同社は、12月9日の街頭集会に参加したことを理由に、従業員の王鳳平さんを解雇した。
 一方、公安当局は12月22日に、同9日の道路封鎖に関連して4人の労働者を召喚し、「道路封鎖を扇動した」として10日間の行政拘留を宣告した。4人は扇動などしていないと反論し、拘留書への署名を拒否し、抗議したが、公安当局は抗議を無視して、4人を強制的に拘置所に連行した。このうち、肝臓病を患っている王鳳平さん(電池の製造に関連するカドミウムによる疾病だと考えられる)はその後釈放されたが、他の3人はまだ拘留されたままである。
 グローバリゼーション・モニターなど3団体は、12月31日付で、ゴールドピーク・グループに対して「王鳳平さんを職場に戻すこと、公安局に対して拘留されている労働者をすぐに釈放するよう要求すること、拘留された労働者の10日分の賃金を支給することを求める公開状を送付した(経過は香港3団体の公開状より要約。翻訳 APWSL日本委員会 稲垣豊)

●イタリア
「人種暴動」の背景は農園の移住労働者の奴隷的労働条件

 1月7日にイタリア南部のカラブリア州ロザルノで、アフリカ出身の農園労働者が何者かによって射撃されたことをきっかけにアフリカ人労働者と住民の衝突が広がり、同9日に大部分のアフリカ人労働者がバスや列車で移民収容センターへ送られた。
 1月7日夜、トーゴからの移住労働者(労働許可証を持っている)が銃撃され軽傷を負った(犯人は不明)。アフリカ人たちは人種差別主義的襲撃に抗議し、店舗や自動車を破壊し、2日間にわたり地元住民や警官隊との衝突が続いた。
 ロザリオに隣接するジョイア・タウロはマフィアの拠点の1つであり、両市の政府にも深く浸透しており、マフィアとつながっている市長や市議が更迭されたこともある。警察官もパトロールするときは3〜4人で重武装し、夜間はめったにパトロールしない。
 この町で働く約1千200人のアフリカ人労働者の多くは冬に、オレンジやミカンの摘み取りのためにやってくる。空き倉庫に寝泊まりし、明け方には仕事を求めて列を作る。賃金は1日約20ユーロ(1ユーロは約130円)である。アフリカ人労働者に対する暴力的な襲撃はたびたび繰り返されてきた。
 ロベルト・マローニ内相は「事件は前政権が移民に甘い政策をとっていたから起こったのだ」と非難している。しかし、「ガーディアン」紙1月12日付は、「現在のベルルスコーニに率いられる右派は、この10年間の大部分の期間、政権に就いており、大量の移住労働者の流入は、彼らの監視下でのことである。この国のインフォーマル経済が繁栄する限り、流れは止まることはないだろう」と指摘している。
 20年前にこの地域の果実収穫労働者の組合のリーダーがマフィアに脅迫され、組合員の殺害されている。その後この地域では労働組合の活動は存在しない。現在ではこの地域の農業の多くの部分がマフィアの手中にある。彼らはもっとも低賃金で従順な労働力として、アフリカからの(労働許可証を持たない)労働者を搾取している。奴隷のような条件だが、政府はそれを黙認している。
 国境なき医師団や他の国際NGOが、労働者たちの健康状態を二度にわたり調査したが、住宅などの生活条件はアフリカの難民キャンプよりも悪いと報告している。
 イタリアでは08年9月にナポリ近郊で6人のアフリカ人がマフィアによって射殺され、暴力的な衝突が拡大して国家警備隊が動員された。09年2月には強制退去する外国人を収容するランペドゥサ島の収容所が放火された。
 イタリアには許可証を持つ移住者が400万人住んでおり、許可証を持たない移住者数はそれより多いと言われている。多くのイタリア人が移住者の増加を脅威に感じている。移民排斥を掲げる北部同盟の党員でもあるマローニ内相は、公立学校での移住者の子弟の割合を30%に制限する法案提出の支持を表明している。(「ニューヨークタイムズ」紙1月11・13日付、「ガーディアン」紙1月12日付等より)

●ビルマ
軍事独裁下で労働組合の地下ネットワークが拡大

 以下はITUC(国際労働組合総連合)が刊行する「ユニオン・ビュー」誌ウェブ版第15号(09年10月)に掲載された「地下の労働組合が最初の成果を生む」と題するレポートの抄訳である。  ビルマにおける労働組合の権利の抑圧は、労働者を一層の貧困に追いやっている。経営者たちは従順な労働者を意のままに搾取している。その中でFTUB(ビルマ労働組合連合)の組合員たちは、国内で地下のネットワークを拡大しつつある。
 「私は子どもの時から機織りの仕事をしてきましたが、年をとったので仕事が遅くなってきました。経営者は私に、紡織の仕事に代わるように言いました。紡織は床に座ってする仕事です」とキンさん(仮名)は言う。キンさん(70歳)はシャン州のインレー湖近くにある織物工場で働いている。「身寄りもないので、言われる通りにするしかありませんでした。1日わずか300チャット(1チャットは約14円)の賃金です。朝9時から夕方5時まで働き、月に2回、宗教上の理由での休日があるだけです。血圧が高く、膝が痛いので仕事はつらいです。経営者は時々、治療費を払ってくれます」。
 彼女が働く織物工場は観光地の近くにあり、彼女たちが作る織物は30〜40ドルで売られている。そのうち労働コストはわずか1〜2ドル、材料費もそれほどかからない。
 主要都市の郊外に広がる工業地帯(農民の土地を強制収用して作られた工場地区も)でも、労働条件は変わらない。国際的労働基準や国内法を守るかどうかは経営者次第である。たとえば、ラングーンから自動車で1時間のところにあるシュエピター工業団地では、病気で3日以上休むと解雇される工場もある一方で、病休や定休日の制度がある企業もある。……
 FTUBは1991年に結成された。軍事政権はFTUBを「国家への脅威」であるとして禁止し、「テロリスト組織」として分類した。そのためFTUBは地下活動を余儀なくされている。国内外で活動を続けており、国内では8つの主要産業でそれぞれ組合を組織している。主に労働者に対して労働者の基本的権利や国際的労働基準、苦情を申し立てる方法などを知らせるための活動を行っている。また、強制労働や児童の兵士としての徴募についてILO等への申し立てを行っている。
 農業労働者を組織化している組合員は次のように話している。「トレーニングは個人宅で、こっそりと、5人から15〜20人ぐらいのグループで行っています。治安当局に見つからないようにです。06年から09年の間に合計で1千500人が参加しました」。他の産業部門も合わせると、数万人の労働者がこのようなトレーニングを通じて労働者の権利について学んだ。
 FTUBはまた、3つのFMラジオ局を開設しており、そのうちの1つはラングーンでも聴くことができる。軍政による捜索を逃れるために、放送用機材はいつでも移動できるようになっている。さらに、サイクロン被災地域への救援活動などを通じて連帯を呼びかけている。地域では、学校への支援を通じて、教員や親たちの意識を高める活動にも取り組んでいる。FTUB女性委員会はタイのビルマ国境地域で数度にわたって小さなセミナーを組織してきた。
 このような活動の成果として、08年には約60のストが行われ(その多くはトレーニングに参加した労働者によって組織された)、多くの場合、一定の賃上げを獲得している。

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