アジア@世界
訳:喜多幡 佳秀/稲垣 豊・訳(APWSL日本)
826号

●米国
多数の労組がウォール街占拠の闘いを支持

 以下は「レイバーノーツ」誌ウェブ版掲載のジェニー・ブラウンさんとミーシャ・ガウスさんのレポート(10月6日付)である。
 労働組合や活動家がウォール街占拠の闘いに駆けつけている。私たちをこのひどい状態へ投げ込んだ全国の会社役員や銀行家、政治家への関心を再び集めるために。
 組合員や他のニューヨーカーたちは昨日(同5日)、金融地区に向けたデモ参加のためにマンハッタンのダウンタウン・フォーリー広場に殺到。「ウォール街を占拠せよ」(OWS)運動は9月17日以来ここに結集している。群衆は広場を埋め尽くし、歩道にあふれた。警察はデモ参加者を閉じ込め、広場周辺の車両通行確保のために金属製バリケードを迷路のように設置。しかし、この努力も圧倒的な群衆を前に無駄に終わった。人々は道路にもあふれた。報道は、群衆は1〜2万人と伝えている。
 OWSが最初に大手メディアの注目を浴びたのは、ニューヨーク警察に参加者がペッパースプレーを浴びせられた時で、次は同1日にブルックリン橋を渡ろうとした700人が逮捕された時である。「われわれは99%だ」というメッセージが、容赦のない賃金カット、解雇、差し押さえに直面している大衆に届くにつれ、運動は勢いを増した。
 ニューヨークの交運労組(TWU)第100支部は、真っ先にこの運動を支持した。3万8千人のバス・鉄道労働者を代表するこの組合の地域活動部長のマルビン・ホランド氏は次のように述べている。
「この問題を引き起こしたのは銀行だと言うのは100%正しい。」
 ニューヨーク市の通信労組で労働者8千人を代表する支部アーサー・チェリオット委員長は「組合員はこの運動を支持している。なぜならウォール街が問題の根本であると知っているからだ」と語る。
 10月5日までにニューヨーク市の労働運動の大半がOWS支持を表明。AFL・CIOの執行委員会は同日にOWSを称える声明を発表、13の全国労組も支持を表明。
 さらに、大組織のSEIU(サービス従業員組合)第1199支部(医療労働者)執行委員会は、広場を占拠している人たちへの食糧提供と、応急手当訓練のために特別部隊を派遣することを決議した。
 同支部の執行委員レジナ・グリソムさんは、「私たちの組合は広場を占拠している人たちを白人、若者、失業者等と決めつけ労働組合と分断しようとする試みに与しない」と述べた。彼女の支部では多くの組合員が非白人で、地域や教会と協力してOWSへの支援を組織している。産科医院の職員・グリソムさんは次のように語った。「私たちがどう見られるかではなく、一緒に何をするのかが重要だ。これは労働問題だ、なぜなら、あなたが組合員であるかどうかに関わりなく、あなたは攻撃を受けているからだ。私たちは強力な一撃を与えるために、団結の必要がある」。
共に占拠しよう
 「……を占拠せよ」というスローガンを掲げた集会とデモが全米数十の都市で計画されている。金曜日(9月30日)にはボストンでバンク・オブ・アメリカによる差し押さえに抗議する行動で24人が逮捕された。今日からワシントンDCでも占拠行動が開始される。
 ニューヨークでは、掲げられている旗、プラカードや帽子、Tシャツから、交通・運輸労働者、大学職員、通信労働者、ミュージシャン、店員、教員、医療従事者の組合員が参加していることがわかる。しかし群衆の大多数は、どの労働組合グループにも加盟していないようだ。あるプラカードには「仕事を失ったが、占拠(=occupation=オキュペーション。「職業= occupation」との掛け言葉)を見つけた」と書かれていた。
 デモ参加者たちは「銀行は救済された。私たちは売り払われた。どうすれば赤字の財政を立て直せるのか? 戦争をやめ、金持ちに課税しろ!」と唱和した。
 カラフルな横断幕の後ろを中学生が親と共に行進、「市は美術の先生を戻せ」という要求を掲げた。ニューヨーク市立大学職員の大部隊は「PSCはあなたたちを支持する」と大きく書かれた赤いプラカードを掲げた。通信労組の労働者は、ベライゾン社が公正な労働協約を締結するまでアイフォンの最新バージョンへのアップグレードをしないよう訴えるチラシを通行人に配った。この労働者たちは、ウォール街を占拠している人たちが前の週に、ベライゾン本社前でのピケット闘争に参加してくれたので、この日のデモに参加することにしたと語っている。
労働組合はどう対応すべきか
 民主党のアンドリュー・クオモ・ニューヨーク州知事から共和党のスコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事まで、多くの州知事が教員や消防士に、この国の経済問題の責任を押し付けたことに失望し狼狽している労働組合は、膨れ上がる企業の収益や法律違反を繰り返す銀行家、それに味方する政治家たちに人々が関心を向けていることに興奮している。労働組合は、自分たちが何ヵ月間にわたり要求してきたのに進展がなかった要求を前進させる基盤として、この占拠の行動を歓迎している。
 5月12日にウォール街で1万人以上のデモを組織した「強い経済を全ての人々に」連合は、「政府はニューヨークの最富裕層への50億ドルの減税をやめ、州立学校や他のサービスから減らした数十億ドルを元に戻し、今すぐ良質の雇用を創出せよ」という要求に新たな活力を与えた。同連合はまた、議会が米国雇用法および高額所得者への税率を1990年代の水準までの引き上げを求めているバフェット法をはじめとする公正な税負担のための法律制定を要求している。
 占拠行動参加者たちのインスピレーション、創造性、ユーモアと労働組合の戦略的な影響力との結合は大きな潜在的力となるだろう。
 大手のメディアは「OWS現象」を風変わりなカーニバルのように扱おうとしているが、占拠行動の参加者たちはこの運動のメッセージがほぼ世界中に訴える力を持っていると言っている。抗議の要求が明確でないというメディアに対し、ある女性は「あなたたちには要求が必要なのですか? 私たちには未来が必要なのです」と応じた。
 チェリオット氏によると、労働組合の支持の拡大は、労働者たちが占拠は持続すると判断した時点でだった。しかし労働者たちは、何が起こるかを制御できないことを理解している。特定のグループによって検討されたメッセージをメインにした台本通りの集会とは異なる新鮮な経験である。
 ほとんどの労働組合は十分な知恵があり、自分たちが占拠行動を牽引することはできないが、この運動に持続力を与え、運動の成長を可能にする手段を提供できることをよく知っているようだ。
 彼ら・彼女らは自分たちが占拠行動を支配できないし、そのつもりもないことを、慎重に留意しながら、そのエネルギーに部分的に便乗したいと考えている。労働組合の集まりである「強い経済を全ての人々に」連合は、この熱気と結びついて、近日中に銀行や億万長者への抗議行動を計画中。シカゴでも同じような連合が同様の行動を計画している。
 労働組合はまた、実践的な連帯を進めている。TWU第100支部は、市が組合員のバス運転士に抗議行動参加者の刑務所への移送命令の禁止を求める訴訟を起こした。
 「強い経済を全ての人々に」連合のホランダ氏は次のように述べている。「私たちがウォール街の占拠行動を支持した直後に、市は私たちのバスを逮捕者を収容するために利用し、組合員の運転士に刑務所への移送を命じた。……これは間違ったことであり、私たちはそれと闘う」。組合は月曜日(同10日)に裁判所に赴く。 AFL・CIO委員長の発言
 以下は10月5日のウォール街での集会におけるリチャード・トゥルムカAFL・CIO委員長の発言である(抄訳)。
 ウォール街占拠は、この国の政治家たちが自分たちのために発言してくれるという希望を失った何百万人ものアメリカ人の想像力と情熱をしっかりとつかんだ。私たちは、ウォール街に責任を取らせ、良質の雇用を創出するという占拠行動参加者の決意を支持する。
 私たちは今日ウォール街で、バス運転手、塗装工、看護師、水道・電力労働者が学生、失業者、半失業者たちと共に、根本的な変革を求めて集まったことを誇りに思う。米国全土で労働者たちは、この国の驚くような貧富格差や、働きたいのに仕事がない、あるいは政治が企業や金融エリートたちによる破壊に対する苛立ちと怒りを表現するために、友人や隣人と共に公園、集会場、組合のホールに集まっている。国の機能を維持するために働いている人々が収入だけでなく、発言権をも奪われている。今こそ、99%の人々の発言が聞き届けられるべき時だ。……
 ウォール街と米国の企業は米国内に投資するべきだ。大企業は2兆ドルの手元現金の一部を投資し、それによって良質の雇用を創出するべきである。銀行は連邦準備銀行に1兆ドルを保管しておくのではなく、中小企業に利用しやすい条件で融資すべきである。
 差し押さえを中止せよ。銀行は住宅市場の崩壊を止めるために、返済不能となっている1千400万件の債権を減額し、執行保留中の1千万件以上の差し押さえの中止、米国経済に700億ドル以上を注入すべきである。
 金融投機に課税し、教育と雇用創出の資金に充てるべきである。金融取引に低率の課税を行うだけで数千億ドルの税収が得られ教育や雇用の資金として活用できる。それは同時に、投機を抑制し、長期投資を奨励する効果がある。
 私たちは立ち上がり、より良い米国を要求する勇気を持つ人たちに私たちの組合のホールやコミュニティー・センターを開放するだけでなく、私たちの手、私たちの心も開放する。

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