アジア@世界
訳:喜多幡佳秀(APWSL日本)
819号

●インドネシア
「サウジアラビアでインドネシア出身の家事労働者が処刑される」

 サウジアラビアで家事労働者として働いていたルヤティ・ビンティ・サプビさん(54歳)は、昨年1月、雇用者の妻による虐待から逃れるために帰国許可を求めたが拒否され(帰国には雇用者の許可が必要)、彼女を包丁で刺殺した。
 サウジアラビアでの家事労働者への虐待は広く知られており(本紙3月1日号、2010年1月1日号を参照)、毎年数千人が友人やシェルターなどに逃げている。ルヤティさんの事件の絶望的状況が容易に推測できる。
 ルヤティさんは今年5月に死刑判決を受け、6月18日に死刑執行(斬首)された。家族やインドネシア政府に事前通知はなかった。インドネシアでは、処刑に衝撃と怒りが広がり、家族は政府が支援しなかったことを批判している。
 外国で働くインドネシア人の福祉活動のNGO「マイグラント・ケア」のアニス・ヒダヤさんは19日に記者会見を行い、ユドヨノ大統領が14日のILOの会合でインドネシア政府は外国で働くインドネシア人家事労働者保護のために適切な措置を取っていると語ったことに言及、大統領発言は単なる空文句だったと指摘。アニスさんによると、「現在サウジアラビアで23人のインドネシア人が処刑の危険に直面しており、その多くは家事労働者である。政府は死刑回避のために賠償金を支払う努力をしただけで、法廷での弁護や外交的圧力などの努力を一切していない」。アニスさんが言及している事例(09年5月)では雇用者を殺害した家事労働者は、雇用者によるレイプに対する正当防衛だったと主張。サウジアラビアでは家族を殺害された人は、犯人を裁判にかけるか、賠償金を受け取るかを選択できる。この被害者家族は賠償金を受け入れており、インドネシア国会は賠償金の支払いを支援するため、46億ルピーの支出を承認した。
 インドネシア政府は23日、事前通知なしの処刑執行に抗議、8月1日以降サウジアラビアへの家事労働者派遣中止を発表。この措置は、同国政府との間でインドネシア人労働者の保護及び権利について合意ができるまでとされている。
 同27日、ハッタ・ラジャサ経済担当調整大臣は、サウジアラビアへの労働者派遣の中止に対応して国内での雇用創出のために1兆4千億ルピーの財政支出を行うと発表した(100ルピー=約1円)。これは最も大きな影響を受ける西ジャワ、東ジャワなど38の市・行政区での女性の職業訓練や教育プロプラムに充てられる。(「ジャカルタポスト」、「ガーディアン」等より)

●ギリシャ
「緊縮財政計画反対の48時間ゼネスト」

 ギリシャ国会は6月29日、緊縮財政5ヵ年計画を採択した。この計画は143億ユーロの支出削減と141億ユーロの歳入増によって合計284億ユーロの収支改善を目指しており、主な内容は次の通りである。

◎増税 所得の1〜5%の「連帯税」、課税最低所得の引き下げ(1万2千ユーロから8千ユーロへ)、固定資産税の引き上げ、付加価値税の引き上げ(課税対象品目により19%、11%、5.5%から、各23%、13%、6.5%へ)、ヨット・プール・自動車への贅沢税の導入、一部の免税措置の廃止、燃料・タバコ・酒の物品税の33%引き上げ。

◎公共セクターの人件費削減 公共セクターの名目賃金の15%引き下げ、国営企業労働者の賃金の30%引き下げと賃金・ボーナスの上限設定、公共セクター労働者のすべての臨時雇用契約の打ち切り。

◎国防費の削減 2012年に2億ユーロ、13〜15の各年に3億3千300万ユーロ。

◎医療費、公共投資、自治体への補助金、教育予算の削減

◎社会保障費の削減 審査の厳格化、手当の削減、保険料滞納率の引き下げ。定年の65歳への延長。年金受給資格の引き上げ(40年以上の保険料納付)。

◎国営企業・事業の売却 OPAP(賭博事業会社)、ヘレニック・ポストバンク(国営銀行)、港湾管理会社、テッサロニキの水道事業、ヘレニック・テレコム(ドイツ・テレコムへの売却合意)、アテネの水道事業、ヘレニック・ペトロリアム(石油精製所)、電力事業のほか、国有地、鉱山の採掘権などの売却が計画されている。(「BBCニュース」6月28日付より)

 EU、IMF、欧州中央銀行はこの財政再建計画を承認して、120億ユーロの緊急融資を実施するが、この緊縮財政政策はギリシャの社会的危機を一層拡大せざるを得ない。ギリシャ総連合(GSEE)のゾエ・ラナラ国際書記は、「この計画は事態を悪化させ、不況は深刻化し、債務の返済を不可能にするだろう」と批判している。
 世論調査では70〜80%の人たちが緊縮財政政策に反対し、野党の新民主主義党は減税が必要と主張している。与党・全ギリシャ社会運動(PASOK)の中からも、選挙公約に反した緊縮財政政策への批判が高まる中、パパンドレウ政権はこの計画が承認されなければEUの緊急支援を受けられず、国家が債務不履行になるという脅しでかろうじて過半数を確保。PASOKは反対票を投じたパナヨティス・クルブリス議員を除名した。
 GSEEと公務員労組は同28〜29日に、緊縮財政計画に反対して48時間ストに突入。交通はストップし、銀行も休業、病院も最小限のスタッフを残してストに参加した。空港は断続的に閉鎖され多くの便が運休となった。アテネでは数千人が国会を包囲した。
 「インタープレスサービス」の同30日付のレポートは次のように報じている。「……デモ参加者の怒りのターゲットはドイツのメルケル首相だった。国会前広場でニキフォロスさんは、『メルケルはギリシャを投機家に差し出した。デモを継続し、ヨーロッパ規模の統一した社会運動の組織化が必要』と語る。アテネ大学の学生コンスタンティンさんは『労働者の状況は悲惨です。大学の入学金も以前は無料だったが今では800ユーロです。学校は統廃合され、公共交通の料金も40%値上げ』と言う」。
 先に緊縮財政計画に反対してPASOKから除名された国会議員のソフィア・サコラファさんは、5月6〜8日にアテネで開催された「債務と緊縮財政政策―『南』の諸国からヨーロッパまで」というテーマの会議の冒頭で、「債務は階級の問題と結びついている」と指摘。この会議では、「南」の諸国、とくに南米での不正な債務帳消しを求める運動経験に学び、ギリシャにおける債務の監査と不当な債務返済拒否のための運動を呼びかけることが合意された。これはEU、IMF、欧州中央銀行の内政干渉からギリシャの民主主義を守る闘いであることが強調された。

●スペイン
「“M15運動”のよびかけで20万人がデモ」

 5月15日のデモ(本誌6月15日号を参照)に続き6月19日、全国60の都市で20万人がデモに参加した。高失業率や金融市場の支配、社会政策への予算削減に怒る若者を中心とする「M15運動」がインターネットなどで呼びかけ、あらゆる世代、社会階層の人々が参加した。
 5月15日以降プエルタ・デル・ソル広場に設けられたキャンプは6月12日の総会で撤収が決定されたが、キャンプの中で作られたさまざまな委員会は活動を継続している。「経済問題」グループは労働時間の短縮、国家の補助による住宅の供給、第三世界諸国の債務取り消し、スペインの対外債務の監査など20項目の提案をまとめた30頁の冊子を発行。ローン焦げ付きに伴う住宅立ち退きの阻止行動、銀行の株主総会での金融投機非難行動などが組織され、また、大手金融機関の経営者ボティン一族の脱税に対する怒りも高まっている。
 保守系メディアはM15運動が明確な共通目標を持たず、要求の一部は「子どもじみている」と批判しているが、多くの評論家は「画期的な現象で、歴史的な変革の予兆」と評価。「エルパイス」紙は「銀行家から政治家まで意志決定に関わるあらゆる人たちにとって、この運動を無視することはますます難しくなっている」と述べている。
 運動の理論的リーダーの一人とみなされている作家のホセ・ルイス・サンペドロ氏(94歳)は、「この運動は未来だ。今のシステムには金と利益の論理以外に何も提供できるものがない」と語っている。
 ある世論調査会社の調査によると、回答者の70%がどの政党も自分たちの利益を代表していないと感じており、81%が「怒れる者たち」の運動を支持し、84%がこの運動は大多数の人々の関心事に関わっていると答えている。

●パレスチナ
「対イスラエルBDS(ボイコット、投資引き上げ、制裁)の成果拡大」

◎アグレスコ(イスラエル最大の生鮮食品輸出業者)はヨルダン川西岸のイスラエル入植地で栽培された野菜・果実を欧州市場へ輸出している。産地の不正表示、児童労働などの問題も指摘され、フランスでは農民連盟などがセテ港での行動を繰り返している。6月にフランス・モンペリエで9ヵ国の活動家が集まり、全欧州規模のアグレスコBDS運動を計画。11月26日をグローバル行動デーに。

◎ベオリア(フランスの交通・都市サービス会社)はイスラエル政府との契約の下でヨルダン川西岸の入植者にサービスを提供している。英国のBDS運動によって、エジンバラ、リッチモンド、ポーツマス、ウィンチェスターに続きロンドンでもゴミ収集サービスの入札に失敗した。

◎イスラエルの化粧品会社アハバはロンドン店の閉鎖に追い込まれた。

◎英国のキャメロン首相が全国ユダヤ人基金(JNF)の名誉顧問を辞任。

◎デクシア(ベルギーの銀行)がデクシア・イスラエルから資本の60%を引き揚げ。

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