アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
886+7合併号

★米国:地域の支持受け教員組合がストで要求を獲得

 以下は「レイバーノーツ」ウェブ版に掲載されたサラ・ジャッフェさん(「イン・ジーズ・タイムズ」紙記者)のレポートの抄訳である。


 生活できる賃金を得られる労働者がますます減少している時代に比較的高賃金の公務員が共感を得ることは難しいというのが世間の常識である。だから、いわゆる「財政健全化」の時代に、教員や公務員の労働組合は何度も人員削減や賃下げを受け入れてきた。教員たちは特に、教育改革運動から、「組合員の教員が子どもの学習を阻害している」という中傷を受けてきた。
 それにもかかわらず、教員たちはいくつかの闘争で勝利しはじめている。地域の人々の心をつかむことによってである。


 オレゴン州ポートランドのマディソン高等学校教員のエリザベス・チエルさんは、今の状態では教員が生徒たちにまともな教育を与えられないのは明らかだと語っている。生徒や保護者たちも、標準学力テストに明け暮れ、点数向上のノルマを教員に課し、予算削減のため各学級の生徒数を増やし、生徒へのサービスが削られるようなやり方は破滅をもたらすことだと理解するようになっている。
 チエルさんの組合、ポートランド教員組合(PAT)は、スト突入を数日後に控えた2月18日に、協定交渉が妥結した。学級定員を減らすために教員150人を新規採用すること、また、標準学力テストの成績が教員の勤務評価に占める割合を小さくすることが合意された。
 オレゴン州メドフォードでは2月21日、16日間のストの結果として、学校区委員会が賃金、手当、労働時間について組合の要求を受け入れた。
 ミネソタ州セントポールでは、組合のスト投票を前日に控えた2月21日、地区の学校委員会が組合の要求を受け入れた。
 この3つの地区のいずれにおいても、地域社会からの強力な支持が組合の交渉力を強め、有利な協定締結を可能にした。

 12年9月にシカゴ教員組合がストを復権させ、7日間のストが全国ニュースとなってから1年半、全国で教員たちが闘いの決意を示し、地域社会の支持獲得に必要な組織化の活動を始めている。


 団体交渉の制限を突破


 「学校区委員会はわれわれのストを予想してなかっただろうし、スト突入11日目で、まだ強い意志を持ち続けているとは信じられないだろう」とメドフォード教育労働者組合(MEA)広報部長のキャット・ブラッシャーさんは語っている。


 メドフォードでも、ポートランドでも学校区委員会は労働者に人員や給与の削減を迫る上で、住民に「財政再建」イデオロギーが支持されることを当てにしていた。削減提案はメドフォードで118項目、ポートランドで78項目に及んでいた。どちらの学校区委員会も、法律で規定されている最低限の交渉時間が過ぎた時点で組合との直接交渉を打ち切り、法律で規定されている最小仲裁期間の15日間を過ぎた時点で仲裁不能を宣言した。


 しかし、組合は強く反撃。そして地域住民が組合を支持した。賃金や手当の問題だけでなく、学校の問題を団体交渉の中心的争点にしたことが住民の共感を呼んだ。オレゴンとミネソタで、教員たちは生徒や保護者との協力関係を確立。そのことが学校区委員会に、教員たちの要求を受け入れるべきだと確信させる力となった。
 メドフォードの教員たちは、授業準備時間の削減を断念させ、教員1人当たりの生徒数に制限を設けさせた。

 ポートランドでは授業準備時間の増加、教員の新規採用により1学級の生徒数削減を確約させた。

 セントポールでは、就学前教育の拡充と、貧困地区での学級定員削減を合意。この結果、教員が、問題を抱えている子どもたちに、より時間を割けるようになる。教員でセントポール教員組合連盟(SPFT)の役員ニック・フェーバーさん(28歳)によると、多くの家族はこれまで以上に経済的困難に直面。生徒たちは教員にますます多くの問題を持ちかけ、それへの対応には、生徒たちともっと緊密な関係の確立が必要だ。


 地域に密着した地道な活動

 教員と保護者の関係強化に役立つ要求を掲げ、交渉することはSPFTにとっては新しいことではない。前回の協約交渉では、教員による家庭訪問のトレーニングのためのプロジェクト予算を獲得。すでに400人余の教員がトレーニングを受けている。

 このほかに、新しい協約では、保護者・教員協議会の運営方法について、学校ごとに改革を進めることが可能になる。

 

 SPFTのメアリー・カスリン・リッカー委員長によると、従来の保護者・教員協議会は放課後に学校に集まることができる白人中産階級の母親をモデルとして想定していたが、現在では単親家族や共稼ぎ夫婦が多数になっていて、会合の時間設定がこの現実に適合していない。SPFTは、この協議会を地区の実情に合った柔軟なやり方で開催することを認めさせた。


 セントポールの教員たちは地域住民が参加する読書会を開催。教育評論家アルフィー・コーンの「子どもたちはこんな学校で学べるべきだ」を読み、「セントポールの子どもたちはこんな学校で学べるべきだ」というタイトルのレポートを発刊した。シカゴでも2012年に、同様のタイトルのレポートが発刊されている。
 このような地域への働きかけは、教員たちが利己主義だという非難に立ち向かう力になった。 フェーバーさんによると、学校区委員会が組合要求を受け入れるまでに、保護者たちは自発的に教員を支持するフェイスブックを開設、約1500人が登録した。


 ミネソタ州の法律で、組合の協約交渉は一般公開の対象となっているため、SPFTは一般組合員だけではなく保護者にも交渉の傍聴を呼びかけた。

 リッカー委員長によると、突然、多くの保護者や地域住民が傍聴に来るようになり、組合はこの人たちの信頼を獲得しはじめた。今回の交渉で、学校区委員会が交渉を打ち切って仲裁手続き(非公開)を開始しようとしたとき、保護者たちは憤慨した。


 ……各地の教員たちの闘いは相互に連動している。チエルさんは次のように語っている。
 「われわれは貧困の問題と教育の問題、学級定員の問題を結びつけて考える必要がある。そして、各問題をバラバラに取り上げるのではなく、すべての人々のためにより平等な機会実現という大目標の一環として取り上げる壮大な連合を作り出す必要がある」

 

 

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