アジア@世界
喜多幡 佳秀/稲垣 豊・訳(APWSL日本)
841号

ドイツ
緊縮政策反対、フランクフルトに全欧から3万人結集

 ヨーロッパ金融の中心地のフランクフルトでトロイカ(EU委員会、欧州中央銀行、IMF)による緊縮政策の押し付けに反対するヨーロッパ規模のデモ「フランクフルトをブロッキュパイ(封鎖・占拠)しよう」運動の呼びかけに、5月16〜19日、3万人が集まった。
 ブロッキュパイ運動は、フランクフルトのビジネス地区にある欧州中央銀行への道の封鎖を計画していたが、市当局は強権的な弾圧で臨んだ。16日には銀行前のテントが撤去され、中にいた400人が連行された。最終日のデモ以外の企画が禁止され、大学も学生会館を除き立ち入り禁止となった。18日には数千人が無許可の集会を開き、道路にバリケードを築いたが、400人が逮捕された。4日間で1千400人が逮捕され、フランクフルトは完全に警察の支配下となった。
 ドイツはEUの中で唯一経済が堅調で失業率も低く、財政再建策導入を迫られていない。しかし、国内でもメルケル首相が全ヨーロッパに押し付けようとしている緊縮政策が経済成長を阻害しているという批判が高まっている。
 19日のデモでは「トロイカと各国政府の緊縮政策に対する国際抗議行動」、「銀行の権力を打ち破ろう」というスローガンやギリシャ、スペインの運動との連帯を表すスローガンが掲げられた。

 

*ギリシャからの訴え
 「債務と緊縮政策に反対するギリシャ女性のイニシアチブ」代表のソニア・ミトラリアスさんは、次のように連帯を呼びかけた。
 「ギリシャは破壊され、絶望的状況だが、今も決然と立ち向かっている。暴君たち(トロイカやメルケルやサルコジたち)に抵抗し、大声で『ノー』と叫んでいる。彼らの政策はすでに子どもの栄養不良や飢えすら引き起こしている。これは第三世界のどこかで起きていることではなく、金持ちのヨーロッパの中心部で起きていることだ。しかも、人間がこれまでに手にしたことがないような富を手にしている歴史的時代においてである。  (ギリシャの)5月6日の選挙の結果は明白だ。多数の人々が緊縮政策を拒否した、本当の意味での政治的激変である。緊縮政策の実験室にされようとしていた国が、この国を飢えに追いやり、屈辱を与えてきた者たちへの反乱を開始した。病院や学校を奪い、美しい国を破壊して二束三文で売り飛ばそうとしようとしている国内および外国の者たちに対してである。
 ギリシャを孤立させてはならない。トロイカやメルケルがギリシャを緊縮政策の実験室にしようとしているのなら、私たちはギリシャを共通の闘いの前線としよう。
 ギリシャは具体的な連帯の行動を期待している。明日ではなく、今日である。なぜなら反乱に立ち上がったギリシャは今、この反乱がヨーロッパ全体への拡大を恐れる者たちに、すさまじい脅迫にさらされているからである。
 連帯を表すには、各国でギリシャの闘いと同じことをすることだ。緊縮政策と破壊の非人間的政策に対する抵抗と連携を発展させることである。それこそが私たちの敵がもっとも恐れていること、つまり『波及させること』である。
 2つ、3つ、もっと多くのギリシャを! とくに私たちの旧大陸の全域において、ルーマニアからアイルランドまで、イタリアからアイスランドまで、ネットワークと闘争の連携を作り出し、統一的でラディカルな、大衆的で民主主義的な運動を一歩ずつ組織していこう。解放の大きな目標を掲げ、最大限の統一と解放を目指すラディカリズムを結びつけた持続的な運動を組織しよう。今こそその時だ。なぜなら、私たちは統一したとき立ち上がれるが、分裂すれば倒されるからである」。

米国
100万人の刑務所労働が低賃金労働力の供給源に

 近年の各州における刑務所の民営化に伴って、刑務所労働の活用が急激に広がっている。
 ウェブ紙「TOMディスパッチ」の4月19日付レポートによると、2大刑務所運営会社のコレクションズ・コーポレーション・オブ・アメリカ(CCA)とGEO、および業界第3位のG4Sは受刑者を最低賃金以下で、シェブロン、バンクオブアメリカ、AT&T、IBMなどの有力企業に供給している。
 これらの企業は刑務所内の工場をリースするか、受刑者を刑務所外の職場に派遣している。約100万人の受刑者がオフィス用の備品の製造、コールセンターの業務、防護服の製造、ホテルの予約受付、と殺場での作業、衣料・靴の製造などに携わっており、賃金は1日93セントから4・73ドルである。
 多くの州では、財政再建の一環として刑務所を(受刑者ごと)民間企業に売却している。たとえば、オハイオ州は2011年に州の刑務所をCCAに7千300万ドルで売却。CCAは48の州知事に刑務所の買収を提案する書簡を送り、買収条件として「当局が刑務所の収容率を90%以上に維持すること」(!)を要求。実際、刑務所の民営化が広がりはじめて十数年間に有罪判決率が増えており、微罪や少年犯罪でも刑務所に送られることが多くなり、それに伴って刑務所産業が急成長している。CCAはこの2年間に500%の成長を遂げた。
 受刑者を民間企業に労働力として供給するシステムは1820年代にニューヨーク州のアウバーン刑務所で導入され、その後北部、中西部、西部へ広がった。それと並行して、州が管理する刑務所で民間企業向けや一般市場向けの商品製造システムも広がった。南部では、南北戦争後にこのシステムが広がり、鉱山や森林・沼地などでの危険な労働や綿花・砂糖などのプランテーションでの作業に受刑者(解放された奴隷を含む)が強制的に使役された。
 その後、刑務所労働は近代産業のニーズに合わせ、また恐慌の影響等に対応しながら再編されてきた。今日では、刑務所労働は産業が要請する「雇用のフレキシブル化」に最も適している。企業はリースされた労働力を自分の都合に合わせて処分でき、労働者は文句も言わずに働かなければならない。身振り手振りで意志を伝えたり、目での合図さえ禁止されている場合もある。雇用者は政府との契約により、労働者が病気や死亡しても代替の労働者をいつでも供給してもらえる。しかも政府は、雇用者に対して補助金や税制面での優遇、設備や水光熱の無償での提供などの便宜をはかっている。
 米国における受刑者数は約230万人で、人口比では世界一である。とくに1980年代、レーガン大統領の就任以降に激増している。また、受刑者の中でアフリカ系アメリカ人が占める割合が非常に高い。現在では刑務所運営会社は37の州で活動し、雇用者数では米国の最大企業並みである。

台湾
日系企業の組合弾圧に産業総工会が抗議の工場包囲

 以下は5月19日付「苦労報道」の記事の要約である。(翻訳・稲垣豊)
 自動車のスタビライザーを製造するKYBグループ傘下の台湾永華機械は、労組役員の商明郎さんを「デマを流布している」として解雇。労工委員会(日本の労働省にあたる)の「違法解雇」の裁定を無視して謝罪も復職も拒否している。
 5月18日、桃園県、新竹県の産業総工会加盟組合が同社の八徳工場への包囲行動を行い、100人余の組合員が警察の阻止線を突破し、工場ゲートを押し倒した。
 商さんは工場内の組合員らに訴えかけ、組合員らと握手を交わして熱い支持を受けた。この行動によって例年は工場内で開催されている株主総会が別の場所に移り、ピケットラインで搬入出が一時中断された。
 会社側が言う「デマ」とは、組合が昨年12月発行のニュースで、同社が国瑞自動車との取引で10%の利益を組合側に隠していたとして年末一時金の増額を要求したことを指している。会社側は組合要求を拒否しただけでなく、今年1月6日に商明郎さんを解雇。他の役員は恫喝に屈し、会社に謝罪した。
 商さんと桃園県産業総工会は組合員に働きかけ、商さんの復職を求める署名を開始。3月31日に過半数の署名を集めて組合員大会を開催させ、商さんに月3万元の生活補助金の支給を決議した。5月9日、労工委員会は解雇が「不当労働行為」であり、商さんを復職させるべきだという決定を行った。しかし会社はまず商さんが先に謝罪すべきと主張し、労工委員会の決定を無視した。
 18日の行動は午前7時に開始され、桃園、新竹などから労組役員らが参加したが、当事者の永華労組役員の姿は見えなかった。
 永華機械は50年の歴史がある工場で、80年代に日本の多国籍グループKYBから70%の資本注入が行われ、その傘下となった。台湾側の主な出資者は、現会長の曹子勤である。彼女は民進党の国会議員、監察委員、台北県長を勤めたことのある尤清氏の妻でもある。
 40年以上の歴史がある永華労組は戒厳令時代から存在する有力な労働組合であり、商さんは15歳の時に、父が働いていたこの会社に就職、それ以降30年にわたり勤続。現場作業員から始め、現在は電気鍍金部門の品質管理員である。
 商さんは街宣車の上から労働者に、「社長は金銭解決で私を解雇しようとしているが、私の願いはカネではなく、この工場で働くことだ!」、「私が謝罪したら、これまで組合で言ってきたことが全て間違っていたと認めることになる。そんなことはできない」と訴えた。
 2010年末の日航のリストラ・解雇と闘うJALの組合役員も駆け付けた。
 桃園県産業総工会の毛振飛委員長は「日本での大震災大津波のとき、台湾の労働組合は一斉募金活動に取り組み、永華労組も熱心に支援した。それに対して、まさか労働組合の役員解雇で応えるなんて」と語った。

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