アジア@世界
喜多幡佳秀訳(APWSL日本)
835号

インド
11労組、数百万人がインフレ対策、民営化反対でゼネスト

 2月28日、全インド労働組合会議(AITUC)を始めとする10の組合がインフレ抑制、最低賃金の賃上げ、反労働者的政策反対、契約労働者(5千万人)の正規雇用化等の要求を掲げてゼネストに参加した。与党・国民会議系のインド全国労働組合会議(INTUC)は直前にゼネスト参加を中止した。
 インドでは経済成長にもかかわらず労働者や貧困層へのトリクルダウン(波及)効果は限られており、貧富の格差が拡大している。昨年12月現在で9.1%のインフレ(現在でも7.5%)の中で労働者の不満が高まっている。また、政府が財政再建策として国有企業の売却を進めようとしていることや、「年金改革」など一連の反労働者的政策を進めていることも、労働組合に統一的な反撃を促している。さらに、モンモハン・シン政権は一連の汚職事件の発覚によって窮地に立たされている。このような状況の中で28日のゼネストは近年で最大の規模となった。
 アルジャジーラによると、ニューデリーとムンバイの金融センターでは銀行や保険会社が休業した。ケララ、西ベンガル、トリプラなどの左派の影響力が強い州では道路や鉄道の封鎖が行われ、交通がマヒした。伝統的に労働組合が強いコルカタ(カルカッタ)では大部分の銀行、商店、オフィスが休業となり、ハイデラバードでは左派のデモが警官隊と衝突。全国各地で交通、郵便、港湾などもストップした。
 AFPによると、全国で約100人のスト参加者が逮捕された。AITUCのグルダス・ダスグプタ書記長によると、一貫して組合側の交渉要求を拒否してきた政府は、ストライキ突入直前に話し合いを提案してきた。
 全インド銀行従業員組合のヴィシュワス・ウタギ書記長によると、ムンバイの金融産業は完全に停止、中央銀行の決済機能も停止した。
 AFPの特派員は、政府はストライキが金融産業の利益に及ぼす影響を最も心配していると指摘している。彼女によると、「インドは西側諸国と比べて経済的にはうまくいっているが、国内ではインフレ対策が不十分であることや、最低賃金を引き上げていないことへの批判が高まっている。スト参加者の主要な要求の1つは労働法の適用である。労働法は数十年前に制定されているのに、実際には適用されていない」。

米国
公立校の民間による『再生』反対で保護者が学校を占拠

 2月17日(金)夜、シカゴのブライアン・ピッコロ小学校で、民間企業による学校の再生に反対して保護者と活動家約100人が校舎と校舎の前の広場を占拠。その一部がテントを立てて泊まり込んだ。
 米国では02年にブッシュ政権の下で共和・民主両党の賛成で制定された「ノー・チャイルド・レフト・ビハインド法」(「落ちこぼれゼロ法」、NCLB)により、公立学校は毎年実施される全国一斉学力テストでの成績が目標に達しない場合に「改善措置」を求められる。
 具体的には、2年連続で目標に達しない場合には「改善必要校」と指定され、生徒は学校区内での転校を選択できる。3年目になると、学校区は成績が良くない子どもに無償で補習や副教材を提供しなければならない(学校区の自己負担のため、他の予算を圧迫)。4年目になると「ターン・アラウンド(再生)」(=破綻企業の再建を意味する用語)が求められ、校長および全職員の入れ替え、カリキュラムの一新、授業時間の延長が求められる。6年目になると、廃校、チャータースクール(公立・民営校)への再編、民間会社への学校管理の委託、州の直轄化のいずれかを選択しなければならない。
 NCLBは、見せかけの教育改革の下で、公立学校への予算削減(全国一斉学力テストで優秀な成績を上げた州・学校区に優先的に予算を投入、改善困難校は閉鎖)、私立校、テスト業者、教材開発業者などの教育産業のために潤沢な市場を創出し、教員組合の影響力を弱めることを狙いとしている。
 ブライアン・ピッコロ小学校の「学校再生」は、NCLBの問題点を象徴的に示している。

 以下は「レイバーノーツ」誌2月24日付けのホワード・リャン氏のレポートの抄訳である。

 ブライアン・ピッコロ小学校はシカゴ市西部にある学校(4歳児〜第8学年)で、550人の生徒(アフリカ&南米系が主)が通っている。
 この学校はラーム・エマヌエル市長と彼が任命した学校委員会によって「ターン・アラウンド」の対象とされてきた。計画では、校長や給食調理員を含む全職員を解雇し、民間の学校管理業者AUSL(都市学校リーダーシップ・アカデミー)の管理下で再開校するというもの。
 13人の保護者および支持者が24時間にわたり学校を占拠したが、計画を撤回させられなかった。しかし、学校委員会の7人の委員全員が学校の将来について親や地域の代表と話し合うことを約束。それにより、これまで市のリーダーたちが守ってきた沈黙の壁に亀裂を入れ、同市および全米を席捲している「企業による教育の支配に対する保護者および地域の反対」を劇的な形で示した。
 同市では今年、同校を含む17の公立学校が再生、閉鎖、段階的閉鎖の対象とされている。同校の占拠は、学校民営化に反対する広範な地域や労働組合の闘いの真っ只中で行われた。これまで2ヵ月間にわたってデモや集会、学校委員会における意見陳述、市庁舎での5日間にわたる座り込みなどが続けられてきたが、市長に計画変更させるまでには至っていない。
 占拠行動は保護者と、「ブロックス・トゥギャザー」という地域活動家のグループによるものだが、シカゴ教員組合(CTU)の組合員や役員も支援に駆けつけた。
 この2年間にカンサスシティー、デトロイト、フィラデルフィア、ワシントンDCなど、多くの都市で数十の学校が閉鎖または「再生」された。ニューヨーク市では市長が任命した教育委員会が23校の閉鎖を承認し、この10年間で閉鎖された学校の数が117校となった。……
 AUSLはチャーター・スクール事業者ではなく、学校区内の学校の運営を請け負う業者であり、AUSLが採用する教員はCTUとの労働協約の対象となっている。しかし、チャーター・スクールと同様に障がい児や学習が困難な子どもたちを排除していることで教員たちから批判を受けている。AUSLはボーイング、デル、ビル・ゲーツやさまざまなベンチャー企業、および米国教育省が後援している。
 警察官が派遣されたが、18日夜は強制退去は行わず、シカゴ公立学校委員会(CPS)の代表は占拠を容認した。しかし警察と当局は、食糧や医薬品の差し入れや、激励のために訪れた他の保護者たちの立ち入りを阻止した。
 19日にCPSのジェシー・ルイス副委員長との長時間にわたる交渉の後、CPSは同校と近隣のパブロ・カサルス小学校の「再生」計画について、それぞれ20日と21日に話し合いを持つことに同意。CPSによる「再生」計画の最終決定は22日に予定されている。  「ブロックス・トゥギャザー」のセシル・カロル共同代表によると、保護者と支持者たちはピッコロ小学校とカサルス小学校での全員解雇計画への代案として、新しい校長に少なくとも2年間の任期を与え、保護者の関与を強め、文化的プログラムへの予算を増やし、より安全な環境を実現する等の総合的な学校再生案を練り上げ、管理は「戦略的学習イニシアチブ」(コンサルタント会社)に委託するという提案を学校長と学校委員会の全委員に渡したが、反応はなかった。
 シカゴでは04年にリチャード・ダレイ前市長が「ルネッサンス2010学校民営化計画」を打ち出して以来、約100の公立学校が閉鎖された。この計画はシカゴの企業の主導する「コマーシャル・クラブ」によって起草されたものである。
 今年閉鎖の対象とされている学校はすべて、市内の南部と西部のアフリカ系および南米系の住民が多い地区にある。誰でも入れる地域の学校から、選抜制の私立学校への移行は、低所得の住民を追い出して白人富裕層向けマンション開発を狙う不動産開発業者の利害と結びついている。
 CTUのカレン・ルイス委員長は「シカゴは教育アパルトヘイトの時代に入りつつある」と指摘している。
 ピッコロ小学校とカサルス小学校があるフンボルト公園地区では08年にAUSLがオア高校の「再生」を受託。AUSLはまず、成績が上がらない生徒たちの学校からの排除方法を確立した。多くの学生たちは授業の時間割の代わりにスクール・カウンセラーへの紹介状を受け取り、スクール・カウンセラーは、生徒たちの以前の非行や欠席数などを持ち出し、「この学校は君たちのいるところではない。他の学校を探しなさい」と、転校先リストを渡した。
 09年にこの高校に着任したカウンセラーのレスリー・ゴードンさんによると、同年11月と12月に約100人の生徒が除籍されている。欠席日数だけを基準に、何の手続きも、救済手段もなしにである。
 AUSLは多くのチャーター・スクールで行われている方法を公立学校に導入した。市長はAUSLの元理事長を市の学校委員会の委員長に任命した。
 このようなAUSLの悪評が、ピッコロ小学校の保護者たちが市長の「再生」計画に反対する大きな理由である。しかし、反対理由はそれだけではない。同校の学校評議会議長のワトキンスさんは、学校管理機関よりも教員の方が保護者をよく知っており、保護者の方が教員をよく知っていると指摘。評議会はすでに出席率の向上、互いを尊重する文化、保護者の関与などに取り組み、成果を上げてきた。「私たちはAUSLに来てほしくない。自分たちで再生に取り組んできたのだから」と彼女は言う。

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