アジア@世界
訳:喜多幡 佳秀/稲垣 豊・訳(APWSL日本)
830+831号

中国
「再びストが拡大地域間の連携も」

 以下は米国の「レーバーノーツ」誌ウェブ版掲載のジェーン・スローターさんのレポート(11年12月2日付)の抄訳である。

 中国では、この2年間でストの波が2回起きている。華南地方の工業地帯(世界の工場)で今秋、何千人もの労働者がストに入った。ニューバランスのスポーツシューズ、アップルやIBMのキーボード、下着、家具、シチズン時計などを作っている労働者たちが賃金や残業の問題をめぐりストを行った。
 2つの工場では労働者が工場周囲の道路を封鎖し、一部が警官隊と衝突、数十人が負傷。キーボード工場では、経営者が残業手当を削減しようと、倍の賃金になる日曜日の仕事を平日に割り振ろうとして起きた週6時間の労働時間の延長に労働者の怒りが湧き起こった。3日間のストで会社側は計画を撤回した。
 時計製造請負企業の労働者たちは7年間にわたる未払い賃金(休憩時間分)の支払いを要求して13日間のストを行った。法律上はこのような請求は2年分しか認められていないにも関わらずである。
 586人の労働者は、公式の労働組合の交渉への同席を拒否し、労働問題に取り組んできた改革派の弁護士に代表権を委ねる請願書に署名した。団体交渉には労働者の委員会も参加し、その結果経営者から大幅な譲歩を勝ち取った。
 南京では、政府が約束した賃上げを実施しないことに抗議して、市の清掃労働者が収集したごみをメインストリートに積み上げて交通を妨害した。
 11月14日には5都市のペプシ瓶詰工場の労働者が、工場の台湾企業への売却に抗議して一斉にストに入った。その後、同社の全国24の瓶詰工場の労働者2万人がインターネット・キャンペーンに参加。このような相互連携は、これまでほとんど見られなかった。  ストに入っているのは工場労働者だけではない。浙江省ではテスコ(英国のスーパーマーケット)の店員100人が低賃金とレイオフに抗議して店の外で野営し、客の来店を妨げた。10月中旬には国産車ビヤディの販売員が、レイオフと協約違反に抗議して全国からビヤディ本社に集まった。多くの都市で教員のストも起こっており、生徒たちや親がストに同調するケースもある。

*総工会への圧力
 広範な労働者が総工会に関心を示さないか、敵意を示している状況に直面して、一部の労働組合幹部、学者、さらには政府の代表さえ、労働組合が経営者の代弁者ではなく労働者の擁護者としての役割が必要だと警告している。
 中国では毎年、労働組合の支持なしに何万件もの自然発生的な短期間ストが起こっている。多くの「山猫スト」は防衛的で、未払い賃金や手当の支払いを求めるものだが、要求はますます確信に満ちた、経済的に大胆なものになっている。
 昨年のホンダにおける2週間にわたるストは、労働運動の基本的な性格の変化に人々の関心を向けさせた。
 ホンダの労働者は賃上げだけでなく、労働者が自分たちの代表を選ぶ権利を要求し、勝ち取った。
 これに対応して省レベルの労働組合は、このトランスミッション製造工場に30以上の新たな組合代表の役職を設け、すべて直接選挙で選出する。極めて異例のことだ。いくつかの役職では、複数候補による競争が見られた。この工場でストの後、選挙で選ばれた労働者代表が初めて団体交渉に参加した。2回の交渉の結果、賃金は約2倍の2万1千円(月)となった。
 広州の労働組合が実施した調査によると、職場で問題が起きた時に労働組合に相談すると答えた労働者はわずか30%。33%は政府の労働局に相談し、33%は経営者に相談すると答えた。政府系の新華社通信は5月に、「農村からの移住労働者の多くは、労働組合を中身のない貝殻だと思っており、自分たちの権利を効果的に守る組織だとは見ていない」と指摘する記事を掲載している。

*学生の関心
 労働者の闘いが拡大する中で、労働問題への学生の関心が高まっている。多くの学生はますます強まる競争社会に、就職への不安に囚われているが、一部の学生は休暇を利用して工場に入り、農村出身の労働者の状況に触れて、その報告をブログや大学での有志の学習会を通じて広めている。
 ある学生は今年(11年)の夏にドングァンの玩具工場でディズニーやウォルマートに納入するヌイグルミの馬にラベルを縫い付ける仕事を体験した。彼女はグループで用意した9頁の質問用紙を持ち込んだ。職場は機械の騒音がすさまじく、耳栓も支給されない。華氏100度(摂氏約37・7度)近い室温にもかかわらずエアコンはない。粉塵のため喉が荒れ、食事は粗末で、周りには蠅や蚊が飛んでいる。ラインの主任は仕事中におしゃべりをしないようと少女たちを叱る。
 貧しい農村出身の労働者は、基本給約1万3千円(月)で1日10時間働く。ラインで働く「おばさん」たち(勤続5年以上の人がそう呼ばれている)によると、以前は深夜まで、週末休みもなく働いていた。
 昨年、10人の労働者が相次いで自死したシェンツェンのフォクスコンの工場(iPadやiPhoneを製造)に対しても多くの調査活動が行われた。今年入社した元学生は、今年は応募者数が少なかったので入りやすかったと言う。彼は午前8時〜午後8時まで働き、機械の騒音と不快臭、金属の粉塵にまみれる。基本給は約1万3千円(月)だが、寮の家賃と食費で5千円を差し引かれる。労働者たちは「自分の賃金について誰にも話さない」という念書提出を求められる。違反すると解雇され、退職金ももらえない。また、昨年労働者の自死が相次いだことから、経営者は労働者に「自殺しない」という誓約書の提出を求めている。
 「あなたの夢は」の質問に、多くの労働者は「故郷に帰り小さな店を開きたい」と答えている。「フォクスコンで働き続けたい」と答えた労働者は一人もいなかった。

エジプト
「軍最高評議会によるスト禁止、独立労組への妨害との闘い」

 ムバラク政権打倒の闘いの中で労働者の闘い、とくに独立労組の闘いが急速に発展したが、軍最高評議会の暫定政権の下で、労働者の要求は裏切られてきた。  (11年)3月にアフメド・ハッサン・エルボライ労働力相は、労働者が自らの組合や組合連合を結成する権利を認めると発表したが、暫定政権はいまだに新しい労働法を制定していない。
 8月には裁判所の決定により政府系組合のエジプト労働組合連盟(ETUF)の執行委員会が解散。しかし、暫定政権は全政策の実施を旧体制関係者に依存し、独立労組との直接の協議を拒否しているため、組合改革は行き詰っている。
 ETUFの資産が凍結され、ETUFの財務状態の調査委員会が設立され、不正があった場合、関係者が検察庁へ引き渡されることになっていた。委員会は独立労組、政府系労組、ムスリム同胞団のメンバーによって構成。座長にはETUFの執行委員会の元メンバーが指名された。
 11月に4つの労組(石油、製粉、海事、交通)が内閣に任命された委員会の解散要求でストに入った。エルボライ労働力相は委員会を解散し新委員を任命したが、ETUFの元委員長側近がその中心となっている。
 エルボライはさらに、11月28日に、新たに設立されたエジプト独立労組連盟(EFITU)が政府系のETUFに加盟することに同意したと発表した。さまざまな混乱や憶測が流布されているが、実際にはEFITUとETUF間にそのような合意はない。
 EFITU執行委員のファトマ・ラマダンさんは「私たちはいかなる意味でもETUFと関係を持つことはない。私たちは政府によって運営される労働組合という考え方を拒否している」と述べている。
 11月28日に実施された国会選挙ではムスリム同胞団系の自由公正党とサラフィスト系のヌール党が多数の議席を獲得した。まだ第2・第3ラウンドが残っているが、イスラム政党の勝利が確実である。イスラム政党が政権に就いた場合に、労働運動は困難に直面する可能性がある。
 自由公正党はこれまで、軍最高評議会によるスト禁止を容認。9月には、教員ストを幾つかの地区で強制的に中止させようとした。ヌール党もスト反対の立場で、現在の情勢では「ストは望ましくない」と言っている。第1ラウンドで多数の議席を獲得した唯一のリベラル派であるエジプト人ブロックもストには否定的で、7月の暫定政権のスト禁止法を支持した。
 しかし、労働組合活動家は断固としている。ファトマ・ラマダンさんは次のように述べている。
「私たちは国会選挙の結果で挫けない。選挙は闘争の一部でしかない。街頭こそ私たちの主戦場だ。私たちは組合結成の自由、ストを犯罪扱いする法律の廃止、最低賃金と最高賃金(賃金の上限)の制定、工場の再開と労働者の再雇用、年金給付額の引き上げ、適切な医療を要求する」。(「アフラム・オンライン」12月8日付)。

バーレーン
「軍事法廷で教組リーダーに3〜10年の禁固刑」

 バーレーン教員組合(BTA)は11年3月に、民主化運動の拡大に呼応してストを呼びかけ、首都マナマで平和的デモを行った。
 9月25日に軍事法廷はBTAの委員長のマフディ・アブ・ディーブさんに10年、副委員長のジャリラ・アル・サルマンさんに禁固刑3年を宣告した。容疑は「意図的に職場を離れ、他の者にも唆し、不法集会に参加した」というもの。他に執行委員数人が逮捕されたが、この2人以外は釈放されている。
 アル・カリファ国王の政権はBTAの解散を命じ、組合員に対して賃金の停止、解雇、逮捕・拘留、拷問などの攻撃を続けている。
 アル・サルマンさんによると、8千人以上の組合員が弾圧・嫌がらせを経験、「教育者は恐怖の雰囲気に包まれている。みんな、次は誰かと戦々恐々としている」。解雇された教員に代わり、エジプトから教員2千500人が派遣され、6千500人の無資格教員がボランティアとして採用されている。アブ・ディーブさんはラカレーン刑務所から悪名高いジョー刑務所へ移送された。ここはバーレーン人権協会から、国際基準違反だと指摘され、査察を受けている。アル・サルマンさんは控訴審終了までの保釈が認められ出所。しかし直後に私服の治安要員によって自宅から拉致された。
 BTAはバーレーンの民主化運動で重要な役割を担っており、政府は教員やBTAの地域社会への影響力を恐れている。教員の労働組合は国内法で禁止されているが、BTAは常に果敢に組合活動を行ってきた。
 EI(教育インターナショナル)はバーレーン政府に対し基本的人権と労働組合の権利尊重を要求。アブ・ディーブさんとアル・サルマンさん支援の国際的な運動を呼びかけている。11月19〜20日にはEIのフレッド・ヴァン・リーウェン書記長を団長とする使節団がバーレーンを訪問。独立調査委員会(国王に報告と勧告を行う)に対し、BTAや教員への攻撃をやめるよう勧告することを申し入れた。(「EI」のウェブより)

英国
「歳出削減をやめ、タックスヘイブンを規制せよ」

 TUC(労働組合会議)が「タックス・リサーチ」に委託した脱税とタックスヘイブンに関する調査レポート、「税の不正のコスト−世界の脱税のコストに関する報告書」が発表された(2011年11月、タックス・ジャスティス・ネットワーク刊)。
 このレポートは世界銀行、「CIAワールド・ファクトブック」、ヘリテージ財団、世界保健機構などのデータをもとに、世界145ヵ国における脱税の規模を推定している。  これらの諸国での脱税総額は3兆1千億ドルと推定される。これはこれらの諸国のGDP合計の5%で、医療・保健関連の歳出の総額の54・9%に相当する。
 英国における脱税は700億ポンドと推定され、その他に合法的税回避が250億ポンドと推定される(政府による推定では、合わせて約350億ポンド)。
 各国政府が財政赤字削減を名目に、医療・教育など公共サービスを切り捨て、貧困層や中間層への増税を競っている中で、脱税の問題、特にタックスヘイブンの利用は重要な政治的・社会的問題になっている。タックス・ジャスティス・ネットワークは労働組合と協力し、「タックスヘイブンの規制を」キャンペーンを開始。同ネットワークのジョン・クリスチャンセンさんは、「タックスヘイブンは主権国家の税制度への経済戦争を挑んでおり、(税収の危機が)医療サービスを圧迫しているという点では、大きな人道上のコストをもたらしている」と指摘する。
 調査レポートの執筆者リチャード・マーフィーさんは、現在欧州各国の負債は、これらの脱税額の10年分にすぎず、脱税問題に取り組んでいたら起こらなかった問題だと指摘している。

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