労働情報No.860


アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
860号

トルコ : 公務員労組の活動家169人をでっち上げ逮捕

 2月19日、警察は全国でKESK(公務員労組)の活動家の自宅を一斉捜索し、169人を逮捕した。これは昨年2月と6月に続く3回目の弾圧であり(昨年は73人が逮捕)、ITUC(国際労連)、PSI(国際公務労連)をはじめとする労働組合やアムネスティ・インターナショナルなどがトルコ政府に対して強く抗議している。
 今回の捜索と逮捕の容疑は、組合員たちがアンカラの米国大使館前での爆弾事件に関与したとされる「革命的人民解放党・戦線(DHKP・C」の党員であるというもの。逮捕者の中には、アクマン・シムセク組織部長をはじめとする組合リーダーのほか、医師や、母親とその3歳の子どもまで含まれる。
 野党・共和人民党(CHP)のセズギン・タンリクル副委員長は「KESKの組合員の拘留はKESKの評判を落とすための一連の計画の一部だ」と非難している。ウィキリークスの暴露文書でも、トルコ政府がKESKへの脅迫に力を入れていることが明白になっている。
 KESKは「われわれは公正発展党(AKP)政府のファシスト的政策と闘う。われわれは抑圧と圧政に屈しない」と宣言している。
 民間部門の労働組合、DISKは「AKP政府は刑務所を反政府勢力でいっぱいにしようとしており、そのために憲法改定を提案している」と非難している。
 KESKへの前回の弾圧は、クルディスタン社会連合・トルコ議会(KCK)と関係しているという容疑だった。トルコでは7千〜1万人がテロ対策法の下で拘留され、裁判中である。
 (「レッドペッパー」2月26日付、IRT〈トルコ労使関係ニュース〉2月19日付等より)

 

タイ : 外国企業の不当労働行為に抗議する統一行動

 タイでは1月から最低賃金が1日300バーツ(1バーツは3円)に引き上げられたが、多くの企業では賃上げの代わりに就労時間延長や休日の削減、諸手当の削減やレイオフ、工場閉鎖等が行われている。
 タイ労働者連帯委員会(TLSC)のチャリー・ロイスン代表によると、最低賃金の引き上げ以降、4万人以上の労働者が不当な扱いを受けており、TLSCには2千件以上の相談が寄せられている。
 3月13日にTLSCの呼びかけで、GM、NXPマニファクチャリング(オランダの電子メーカー)など4つの外資系企業の労働組合の代表が米国、オランダ、オーストラリアの各大使館と首相官邸に申し入れ行動を行った。
 (「バンコクポスト」3月13日付等より)

中国 : 深センの電子工場で雇用契約交渉めぐり組合委員長のリコール署名

 深センの欧姆(オーム)電子(松下電工グループの子会社、1996年に設立、従業員数850人)では、昨年3月に賃上げなどの待遇改善とともに労働組合執行部の改選を要求してストが行われた。同5月に実施された労働組合委員長の直接選挙は現地メディアでも大きく取り上げられ、先進的な「広東モデル」として評価されていた。
 同工場で1月末以降、雇用契約の更新をめぐって新たな争議が起こっており、2月27日朝には、同28日で雇用契約が終了する労働者十数人が工場6階のベランダで、「解雇補償金を倍額支払わなければ飛び降りる」と訴えた。
 この労働者の多くは同工場に6年以上勤続し、雇用契約が3回以上更新されているが、1ヵ月前に「無期雇用契約(を締結する権利)を放棄する」という協定書にサインさせられていた。法律により、継続して3回雇用契約を更新する場合は、原則として無期雇用契約を結ばなければならない。無期雇用契約の場合、解雇の際に通常の2倍の補償金を支払わなければならない。しかし「無期雇用契約の権利を放棄」した労働者は通常の補償金しか受け取ることができない。
 同日午後3時に労働局が調停に乗り出したが、会社側が拒否。インタビューに応じた労働者によると、昨年直接選挙で選出された組合執行部は「事態に対応する能力がない」し、委員長の選出も「誤った選択だった」。要求を掲げる労働者は、説得に訪れた委員長に対し「立ち去れ!」と叫んだ。
 同28日、インターネット上に次のような書き込みがあった。「労働組合の看板の下に組合委員長の罷免を要求する連名書が貼り出された」。このニュースはすぐ広がった。
 以下は欧姆電子労働者による「私たちはなぜ労働組合委員長の罷免を要求するのか」と題する声明(3月1日付)の抜粋である。
 2月28日に私たち欧姆労働組合の組合員106人は、法律の規定に基づき、臨時組合員大会の招集と組合委員長の罷免を求める署名を行いました。午後、私たちは106人の署名と要望書を欧姆労働組合と[直属上部組織の]坂田街道労働組合に提出します。法律の規定によると、労働組合は1ヵ月以内に罷免するかどうかに関する決定を行わなければなりません。
 欧姆労働組合は昨年、全組合員による直接選挙を経て委員長を選出しました。……しかし、この一年の労働組合の運営において、私たちが目の当たりにしたものは、労働組合委員長としての職責を果たすのではなく、ことあるごとに会社の立場に立って、私たちの権利を侵害する手助けをしたということでした。
 ……労働契約法の規定では、会社は私たちとの間で期間に定めのない雇用契約を締結しなければなりません。しかし会社は1月28日に、勤続6〜8年の22人の労働者に対して、個別に、今後労働契約を締結せず、通常の解雇補償金(在職年数1年につき1ヵ月分)を支払うと通告しました。
 私たちは通知を受け取ってから、何度も労働組合に意見や助けを求めましたが、組合は何の対応もとらず、私たちが会社に騙されて離職協定にサインすることになってしまいました。
 ……その後、私たちは組合がこの争議に介入するよう要求しましたが、委員長は私たちを組合事務所から追い出してしまったのです。
 2月6日、会社は一部の従業員と無期雇用契約の締結を開始し、労働契約更新意向書の中で10%の賃上げ、離職の際は3ヵ月分の補償金を提示していました。(13人の労働者がこの意向書に署名)
 しかしその後、2月末に他の従業員たちと新しい雇用契約を締結する際には、2月6日に提示された条件が記載されておらず、無期雇用契約を締結するとだけ記されていたのです。また、会社は最初に締結した意向書を回収し、その内容を否認し、一方的に労働者に不利な内容に修正した新たな意向書に署名することを迫りました。……しかし委員長はなんら対応をとろうとせず、水面下では会社が一方的に変更した契約に署名するよう労働者を説得していたのです。……
 欧姆労働組合は深セン163社で実施予定の委員長の直接選挙の模範を示し、真に私たち労働者の労働組合になる必要があります。私たちが選出した労組執行部が私たちの立場に立たず、経営者に味方して私たちに対峙する時には、私たちはそのような執行部を罷免する権利があります。
 委員長の罷免が目的ではありません。私たちは、労働者のために主張し、私たちの問題を解決し、私たちの権利を守る労働組合を必要としているだけなのです。

 

ヨルダン : ミャンマー人衣料労働者がストライキ

 ヨルダンの工場地帯で、世界的なブランドに向けた製品を製造している衣料工場のミャンマー(ビルマ)からの労働者約1千人が、不健康な食事や差別的賃金に抗議してストを続けている。
 センチュリー・ミラクル・アパレル社は、ラルフローレン・カナダ、米国のエディー・バウアー、ボントンなどのブランドの女性向け衣料品を製造している。
 ミャンマーの国営放送MRTVによると、ヨルダン北部のアッラムサの工場で働くミャンマー人労働者たちは、無許可の人材派遣会社によって派遣されている。
 2月中旬に、多くの労働者が食中毒が原因と考えられる下痢を訴えたが、そのまま作業を続けるよう命じられた。2月14日以降、この工場の1千300人のうち1千200人が、提供される食事に抗議してストに入っている。
 ミャンマーの労働雇用社会保障相との交渉を通じて、工場の責任者はミャンマー人の料理人と、ミャンマー人の管理スタッフを雇用することが合意されたが、労働者の賃金は据え置かれる。
 ILOが推進している「ベターワーク・ヨルダン」プログラムの調査によると、ヨルダンの46%の工場で、人種や出身地によって賃金が差別されている。
 センチュリー・ミラクル社は「ベターワーク・ヨルダン」の参加企業である。
  (ミャンマーの「イレブン」紙3月7日付より)

 

 

フランス : ニース市が水道事業の再公営化へ

 ニース市のクリスチャン・エストロジ市長は3月1日、ヴェオリアに委託されていた同市の水道事業を2015年から再公有化すると発表した。ヴェオリアはまた、2014年9月以降、ボーリューシュルメール、カップダイユ、エズ、ヴィルフランシュシュルメールの各市の委託契約も打ち切られる。さらに、スキーリゾートのイソラ2000の委託契約も同年7月に打ち切られる可能性が高い。
 フランスでは40以上の市や都市行政地域が、この10年間にわたって民間の営利目的の事業者に委託されてきた水道サービスを再公有化して、改善されたサービスを、より安い料金で提供している。 (PSI〈国際公務労連〉のウェブより)

 

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