労働情報No.859


アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
859号

インド: インフレ抑制等を要求して11大労組が48時間スト

 インドのすべての労働組合全国組織がインフレ抑制や雇用創出などの10項目要求を掲げて、2月20〜21日に全国でストに入った。
 組合発表によると全国で約1億人がストに参加。 軍事産業や石油産業、銀行・保険、通信をはじめ鉱山、医療、農業もストに入り、小商店や運輸、家内労働者、未組織労働者も参加した。とくに金融と交通が大きな影響を受け、経営団体によるとストによる損失は2千億ルピー(1ルピーは約1.7円)に上る。争議中のマルチ・スズキでも4つの工場がすべてストに入った。
 ウッタルプラデシュ州のノイダでは群衆による投石や車両への放火などが報告されている。ハリヤナ州アンバラ地区では、国営高速バスの運行を阻止しようとした組合リーダーのナレンドラ・シンさんの轢殺事件が発生。アンドラプラデシュ州ではスト参加の数千人が逮捕された(同日中に釈放)。
 シン首相の統一進歩同盟(インド国民会議中心の連立与党)の下で進められてきた一連の新自由主義的改革と最近の高率のインフレに対する労働者・民衆の怒りが高まっており、与党・国民会議系のインド全国労働組合会議(INTUC)、人民党系のインド労働組合(BMS)から共産党系の全インド労働組合会議(AITUC)、共産党マルクス主義系のインド労働組合センター(CITU)まで11の全国組織と、多くの地域組織が共闘を進めてきた。
 インドでは1991年以降、非正規雇用が急速に増加、今では労働者4億7千万人の93%が非正規雇用だ。伝統的な労組は主に正規雇用に依拠している中で、インフォーマル・セクターの女性を組織してきた自営女性協会(SEWA)も11大労組の1つとして、大きな役割を果たしており、インフォーマル・セクターの労働者の要求は10項目要求にも反映されている。
 政治的立場やナショナルセンターの違いを超えた労組の共闘は09年9月の労働組合全国大会の開催を契機に発展、10年9月7日のゼネスト、11年2月23日の国会デモ、12年2月28日のゼネスト(本誌同年3月15日号参照)と積み重ねられてきた。今回のゼネストは昨年9月4日にニューデリーで開催された労働組合全国大会で決定され、半年近くかけて準備されてきた。
 労働組合の10項目要求は次の通り。@ 物価上昇を抑制するための具体的措置、A 雇用創出のための具体的措置、B 労働法の厳格な適用、C すべての組織労働者と未組織労働者を対象とする社会保障制度と全国社会保障基金の設立、D 国営・公営企業(PSU)の売却の中止、E 継続的性質の職種の請負化を禁止し、契約労働者に同じ産業・企業の正規雇用労働者と同等の賃金・手当を支給すること、F 最低賃金法を改定し、すべての労働者に適用されるようにし、法定最低賃金を1万ルピー以上に引き上げ、物価にスライドさせること、G ボーナスの金額および受給資格への制限を撤廃し、退職金を増額すること、H すべての人々への年金の保証、I 労働組合を設立後45日以内に登録することを義務付け、ILO条約第87号および第98号をただちに批准すること
 政府はこれらの要求を無視してきたが、ゼネスト直前の2月13日に労働雇用相が組合代表との交渉に応じた。同17日にシン首相は農業相、国防相、財務相、労働雇用相からなるハイレベル委員会を設け、組合との交渉にあたったが、労働者の要求には一切応えなかった。
  (「ザ・ヒンドゥー」紙2月20日付、「グローバル・レイバー・コラム」13年2月号、「ニューズ・アット・ワーク」2月26日付等より)

スロベニア: 緊縮財政政策反対のスト

 旧ユーゴのスロベニア共和国(人口約200万人)は04年にEUに加盟、07年1月にユーロ圏に加わり、旧東欧諸国における改革の成功例と言われてきた。しかし、08年以降の世界的経済危機の中で、失業の増加(12年に前年から2%増え、17・5%に)、国家財政の危機、政権の腐敗に対する怒りが拡大している。
 12年11〜12月には東部のマリボルや首都リュブリャナで反政府デモが行われた。マリボルでは、フランク・カングラー市長が交通違反取り締まり用のレーダーの導入のために500万ユーロを投入すると決定したことに対して、多くの市民が抗議し、直接行動を起こした。リュブリャナでは11月に、腐敗した政治家や企業寄りの政策を支持する政治家たちに怒った約5千人の市民が警官隊と衝突した。
 1月23日には公共部門の労働者約10万人が緊縮財政政策(公務員の一律5%賃下げなど)に反対するストを行った。病院、税関、警察は緊急の最小限の業務を除いて停止し、学校、幼稚園、博物館等は休業した。各地でデモが行われ数万人が参加した。
 政府は、緊縮財政はEUへの救済要請を回避するために必要であるとしているが、ヤンシャ首相の汚職への批判が高まり、危機が深まっている(2月27日にヤンシャ首相への不信任案が可決され、連立政権が崩壊した)。
 (「ヨーロッパ・オンライン」1月23日付等より)

ギリシャ: 2大労組が今年初のゼネスト

 2月20日、2大労組の呼びかけで緊縮財政政策に反対する今年初のゼネストが行われた。学校は休業し、病院も救急を除いて休業。航空機の国内便や長距離鉄道も運休。アテネでは6万人が太鼓や笛を鳴らし国会までデモを行った。
 サマラス政権はこの間、緊縮財政政策を強行するために、船員や地下鉄労働者のストに対し非常事態法の発動など、強権的な政策を取ってきた。しかし、ADEDY(公務員組合)のイリアス・イリオポウロス書記長が言うように社会的爆発が近付いている。同氏は、今回のストは「EUの救済策をめぐる取引を阻止するためだ」と語っている。
 左翼政党SYRIZAのリーダーのチプラス氏は、「幻想の時期は終わった。サマラス政権が救済融資の条件について再交渉することができると考えていた人たちは今、支払が滞った請求書の山、次々と廃業に追い込まれる店、そして失業の増加という厳しい現実に直面している」と述べている。
 緊縮財政政策の下で失業率は17%に達し、若者の60%が失業している。公務員の年金と賃金はすでに40%切り下げられている。この結果、大幅な税収不足が発生しており、6〜7月には再び財政破綻の危機が予想されている。(「BBCニュース」2月20日付、「アルジャジーラ」2月22日付等より)

アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 東京都千代田区三崎町2-13-5 影山ビル501号 Tel.03-6675-9095 Fax.03-6675-9097