アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
844号

カナダ
アルミ精錬所で6ヵ月のロックアウトが終結

 世界最大の鉱業企業の1つであるリオ・ティント(英国・オーストラリア系多国籍企業)の子会社リオ・ティント・アルキャン(世界最大のアルミニウム企業、本社・カナダ)は今年1月1日に、ケベック州アルマの精錬工場の全米鉄鋼労組(USW)の組合員780人に対しロックアウトを通告。12〜15年度の労働協約の交渉が決裂、昨年末に協約が期限切れとなったためである。
 リオ・ティント・アルキャンはこの間、正規雇用のUSW組合員の退職の際、非組合員の契約労働者を、賃金が半分、保険や手当なしで雇用してきた。2010年は全従業員の10%だった契約労働者は、12年には27%に増加と予想されている。協約交渉で、契約労働者の雇用を制限するため、USWは正規雇用数の下限を750人と要求したが、経営側は拒否した。
 ケベック州の法律では紛争中の代替要員雇用は禁止のため、経営側は200人の管理スタッフや非組合員を動員、生産能力の1/3の水準で操業を継続した。
 USWは、州の労働委員会への提訴とともに、国際的な連帯行動を呼びかけた。IMF(国際金属連盟)とICEM(国際化学エネルギー鉱山労組)等が英国、オーストラリアなど各国でリオ・ティントへの要請行動を展開した。3月31日のアルマでの連帯集会にはカナダ、米国、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリアから8千人が参加。オリンピックの金メダル用の金の供給元であるリオ・ティントとの契約破棄を要求する数万通の要望書がカナダや各国のオリンピック委員会に送られた。
 交渉過程で、ロックアウト中のアルマ工場の余剰電力を買い取るという、ケベック水力発電公社との秘密協定が暴露され、ケベック州での大きな政治問題となった。
 半年間の攻防の末、7月5日に、経営側とUSW双方が、新たな協約締結とロックアウト終結の合意を発表。USWは同6日付の声明で、この合意は「労働者と、全世界の支持者の大きな勝利だ」と宣言。  USWのケベック地域代表のダニエル・ロイ氏によると、「勝利のカギは、組合員が示した連帯であり、それが全世界の労働組合からの支援を促した。組合員たちの地域社会と将来の世代のための献身的活動を世界の仲間が知った時、支援とカンパが殺到した」。
 経営側との合意では、15年度までの協約期間中、契約労働者の雇用は厳格に規制される。  リオ・ティントは全世界で労働組合への攻撃や環境破壊で悪名を馳せており、今後もさまざまな攻撃が予想される。しかし、USWのレオ・ジェラルド委員長が言うように、「労働組合は世界第3の鉱山会社と闘い、勝利した。多くの人たちはこれは不可能な闘いだと思っていた。力関係を考えればそれも当然だ。しかし、われわれは世界の資源企業に対して、労働組合は不当な要求に対しては巨大な国際的な抵抗を起こすことができるというメッセージを送ったのだ」。

ノルウェー
北海油田の労働者が年金加算削減に抗議スト

 6月24日、スタトイル(世界第13位の売上、北欧最大の石油・天然ガス企業)の労働者700人余がストに入り、北海のオセバーグ油田とヘイドラン油田の操業が停止した。  沖合油田の労働者7千人を代表するエネルギー産業労組とSAFE(エネルギー従業員労組)によると、経営側は、62歳で退職する労働者(65歳定年)に対する年金加算廃止を決定、組合との交渉でも決定の見直しを拒否。組合は、過酷な労働のために早期退職できる権利を要求し、1998年に現行の年金加算システムが導入された。
 ノルウェー・エネルギー産業連盟のジャン・ホドネランド交渉代表は、「労働組合は企業やノルウェー社会に大きな負担を課している」と語っている。ストによる石油生産量の低下は、ノルウェーの石油産出能力の13%に達しており、天然ガスの生産も大きな影響を受けている。英国や他のヨーロッパへの供給も部分的に停止している。
 経営側は政の介入を引き出すため、7月5日に、同10日午前0時からのロックアウト(全生産の停止を意味する)を通告。政府はこの直前に介入し、スト中止を指示した(政府は「安全または国益」が脅かされているとみなした場合、紛争の中止命令権を持っており、04年にもこの権限が行使された)。
 政府の介入により、この紛争は強制的な調停に委ねられる。
 エネルギー産業労組レイフ・サンデ委員長は「組合員は(政府に)裏切られたと感じている。しかし、我々は直ちに職場復帰するよう組合員に呼びかける」と語った。(「AFP」6月24日付、7月10日付、「ロイター」7月1日、6日付等より)

中国(香港)
李旺陽氏死亡の真相究明要求し2万5千人がデモ

 6月12日、民主運動活動家の李旺陽(リーワンヤン)氏の不審死真相究明を求め2万5千人のデモが、中央政府の香港における代表部(中央政府駐香港連絡弁公室)に向け行進した。
 李旺陽氏(61歳)は、1989年の民主化運動の時、湖南省の邵陽(シャオヤン)市で「邵陽労働者自治連合会」を設立(彼は当時、ガラス工場の労働者)後に逮捕され、「反革命的宣伝・扇動」で13年の刑を宣告された。2000年6月に釈放されたが、01年2月に、受刑中に罹患した背中、心臓、肺の疾患(そのために介助なしには歩行不可能)の治療費の補償を求め22日間のハンストを行った後に逮捕された。彼は獄中での虐待が原因で、視力と聴力をほとんど失っていた。同年9月に、邵陽市の中級人民裁判所の秘密法廷で、「国家権力の転覆を扇動した」罪で、10年の刑を宣告された。
 彼は昨年5月5日に釈放されたが、4年間、政治的権利を停止された。彼は入院中の邵陽市の病院でも警察の厳重な監視下に置かれていた。今年6月6日、病室で首を吊った状態で死亡しているのが発見された。警察は即座に自殺と断定し、遺体を奪い去り、火葬した。
 李氏の家族は、前日の面会時の様子から、自殺とは考えられないと言う。支援者たちは、真相究明を求めるオンライン署名を呼びかけ、即座に3千筆が集まった。  李氏は、不審死の4日前の6月2日、香港のテレビインタビューに答えて、中国政府の反対派への弾圧を非難、普通選挙権のための運動を呼びかけていた。李氏の支援者たちの多くは、彼の不審死がこのインタビューへの報復である可能性があると考えている。  国内や海外での大きな反響に対応して中国政府は調査を約束、病院は彼の死因を「自殺」から「事故死」に変更した。  しかし、中国政府の下で公正で客観的な調査が行われるかどうかを疑問視する香港の多くのグループは6月12日、旺角(モンコク)のショッピング街で通行人に公正な調査を求める署名を呼びかけ、5万筆を集めた。これらのグループは10万人の署名を集めて、7月1日の15周年記念式典で香港を訪問する胡錦濤主席に提出する計画である。  9月の立法議会選挙のため、親政府派の議員たちも、多くが真相究明の要求を支持している。  香港の独立的・民主的労働組合のセンターである職工会連盟(工盟、90単組、17万人)は、中国政府による労働組合活動家への弾圧に抗議し、国際的な支援の運動を呼びかけている。 7月1日には40万人がデモ  7月1日には、梁振英(リョンチャンイン)行政長官の就任式に合わせ、民主化要求のデモが行われ、40万人が参加(警察発表5万5千人)、この10年間で最大のデモとなった。中国本土からも、政府による土地収用に反対する数百人の住民が横断幕を掲げて参加。ビクトリア公園を出発したデモは4時間にわたり続いた。

中 国
北朝鮮から4万人の労働者を受け入れ

 6月22日付「朝鮮日報」(英語版)によると、中国政府は遼寧省の丹東(タンドン)市に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)から2万人の労働者受け入れを決定した。また、先に吉林省の図們(トゥメン)市と琿春(フンチュン)市に2万人の受け入れを決定している。この4万人には、2010年に韓国政府の貿易停止により失業した工場労働者が含まれる。
 消息筋によると、4月に、遼寧省当局と北朝鮮の投資および合弁事業委員会の間で、2万人の労働者受け入れに関する協定が締結され、中国政府は毎年2万人に産業研修ビザを発行し、月1千300〜1千700人民元の賃金を支払う(1人民元は約12円)。労働者は主に衣料、食品、IT製品の製造工場や鉱山で雇用される。吉林省では同様の協定がすでに1月に締結されており、労働者たちは5月から、衣料工場などで就労を始めている。  これにより中国で就労する北朝鮮の労働者は約5万人となる。現在、約8千人が北京などのレストランや建設現場で就労している。
 米国の「ロサンゼルス・タイムズ」紙は7月1日付で、「中国では北朝鮮、ベトナム、ミャンマー、フィリピンからの移住者が違法就労しているが、非熟練、半熟練労働者へのビザ発行は異例。労働者を受け入れる地域は労働力不足ではない。従って、この動きは不安定化が懸念される北朝鮮支援という中国の強い意志を示している」。
 北朝鮮はこの数年、ロシア(森林伐採や鉱山)、リビア、ブルガリア、サウジアラビア、アンゴラへ労働力を輸出してきた。チェコの衣料産業でも北朝鮮の若い女性労働者が就労していたが、ヨーロッパの人権団体から、「事実上の奴隷労働」との非難が高まり、契約が破棄された。
 同紙によると、中国との協定の下で、北朝鮮の労働者たちは月約200〜300jの賃金から1人あたり年2千jを北朝鮮に送金。手元に残るのは月50j程度といわれる。

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