アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
866号

トルコ:反政府デモに労働組合が合流

  タクシム広場を中心とする反政府運動が拡大する中、公共部門労組連合(KESK)が6月4〜5日、48時間ストに入り、トルコ進歩的労働組合連盟(DISK)も24時間ストに入った。
  KESK(教員など11組合、約24万人)はタクシム広場での闘いが始まる前に、賃金の保証と雇用の安定を求めて同5日にストに入ることを決定していたが、平穏なデモに対する政府の暴力的対応に抗議し、デモに合流するためにストを1日繰り上げた。
  KESKは妊娠した女性の夜間労働からの保護の廃止や、多くの公共部門における超勤手当の廃止等の労働法改悪に反対している。政府は公共部門において臨時雇用労働者を増やしており、また、外注化や民営化を進めている。雇用主は労働条件のフレキシブル化を要求している。

 

  KESKのリーダーのネビン・カプランさんは次のように述べている。
 「この間の抗議運動には全国の人々が参加しているが、女性と若者が前面に立っている。インフォーマルセクターの女性と若者が、組合の組織化が困難なため、もっとも激しい攻撃を受けている。とくに民間部門において、契約労働や不安定雇用が拡大している。この労働者たちは雇用が不安定なため、労働組合を作ることができない。それを試みると解雇される恐れがあるからである」。
  スト参加者たちは黒い腕章を着け、「まともな生活、安定した雇用、将来の安心、民主主義のトルコを」という要求を掲げている。

  DISK傘下の衣料労働組合のリーダーのエムレ・エレン・コルクマズさんは闘いが始まった日から、朝と夜に広場へ駆けつけている。「人々は仕事が終わると広場や自分たちの地域で集まり、ファシズムに反対し団結しよう、政府は辞職せよ、闘う労働者は勝利する等、スローガンを唱和している」と彼は言う。


  トルコでは労働組合の組織率はわずか8%で、民間では3%である。1989年の春の一連のスト以降、毎年春に闘いがあり、その中で組合が強化されてきた。
  昨年2月以降、非合法の政治団体への関与というでっち上げによるKESKのリーダーの逮捕が続いており(本誌860号4月1日号参照)、逮捕されたリーダーの一部はいまだに拘留中である。
  新たな反政府運動の高まりは学生、労働組合活動家から中産階級までの広範な人々を団結させた。デモに参加している人たちは、非宗教的・民主主義的国家と言われてきたトルコがエルドアン首相の下で独裁的・宗教主義的傾向を強めていることを批判している。
アルコール販売の規制、中絶の禁止、新たなモスクの建設(タクシム広場もその予定地の1つ)などの動きだけでなく、新自由主義的で企業寄りの政策に対しても批判が強まっている。
  市民が集まる場であり、歴史的にも重要な意味があるゲジ公園を破壊して商業施設を作る計画はその象徴であり、ほかにも橋、ショッピングモール、運河の建設や空港拡張などの大型開発計画が、市民との協議も環境への配慮もなく進められようとしている。


(米国・「レイバーノーツ」6月7日付より要訳)

 

バングラデシュ:衣料労組代表がウォルマート株主総会で工場災害の責任追及

  ラナ・プラザ倒壊から6週間後の6月5日、犠牲者の遺族や負傷者が補償や未払い賃金の支払いを求め、事故現場でデモや道路を封鎖した。そこに警官隊が威嚇射撃を行い、催涙弾を発射。警棒での殴打で約50人が負傷と地元紙が報道(英国「ガーディアン」同日付)。

  労働組合は最低賃金の引き上げや組合活動の自由化要求を強め、政府は改善を約束したが、議会で審議中の労働法改定案は8つの輸出加工区の36万人の労働者を除外している。
  ITUC(国際労働組合連合)のシャラン・バロー書記長は同11日、「国会で議論されている改革は、状況を変えるものではない。貿易のパートナーは、真の改革のために圧力の強化が必要だ」と語っている(ニュージーランド「スクープ」紙6月12日付より)。
  欧米企業の間で労働組合・市民団体との「工場安定協定」締結の動きが進んでおり、オーストラリアでも大手スーパーマーケット・チェーンのKマートとターゲットが協定に署名した(UNIのウェブより)。

  ドイツのスポーツ衣料メーカーPUMAは、6月上旬に開催された株主総会で工場安全協定を締結する意向を発表。総会にはNGO代表も参加。衣料労働組合リーダーのナズマ・アクテルさんが特別発言で、バングラデシュの労働者の状況を話し、「重要な衣料産業を支えるため、注文を増やしてほしい」と訴えた(「テキスタイル・アップデート」6月13日付)。

  米国では6月7日、アーカンソー州ベントンビルで開催されたウォルマートの年次株主総会に向けて、ウォルマートのスト中の労働者とバングラデシュの衣料労働者の共闘が実現した。
  株主総会ではバングラデシュ労働者連帯センターの代表カルポナ・アクテルさんが数千人の株主や従業員に、工場安定協定への署名を提案。同社オーナーのウォルトン一族のもうけや株主配当の一部を工場の安全のために使うべきだと訴えた。
  米国ウォルマートの不当解雇や不当労働行為に反対して労働者数十人が5月下旬からストに入り、全国キャラバンで20都市を巡回後、ベントンビルに到着。この労働者たちは労働組合の支援を得て、「OURウォルマート」(ウォルマート・尊厳のために団結した組織)に結集している。この時点で全国で100人以上がストを続けている。


  OURウォルマートの労働者は、昨年11月の工場火災と4月の工場倒壊の責任は経営者にあると指摘。ウォルマートは工場火災には無関係だと主張していたが、現場からウォルマートのラベルが発見された。同社は火災前に当該工場との取引を中止していると釈明したが、同社の3つの供給元がこの工場に発注していた。また、同社は11年に欧米の企業がバングラデシュの工場安全の改善のための資金を拠出するという協定を葬る上で中心的な役割を果たした。
  倒壊したビルで操業していた工場にも同社が発注していたことが判明している。同社はこの工場とは取引を停止したと発表しているが、責任逃れでしかない。
  ウォルマートは工場安全協定の締結を拒否し、GAPや業界団体と結託して独自の安全対策計画を検討している。

  カルポナ・アクテルさんは、この計画は拘束力がなく、労働者の声が反映されないと指摘した。AFL・CIOと「勝利のための変革」(CTW)もウォルマートの欺瞞を強く批判している。
  また、現地視察を行ったジョージ・ミラー下院議員(民主党)も、「これらの企業は自分たちのシステムの続行を考えている」と批判している。同議員によると、それは自分たちが決めた条件に従わなければ契約打ち切りで、労働者の賃金や労働条件・安全を改善するよりも、そのような責任を逃れることを目的としている。
  6月7日の株主総会はアーカンソー大学のバッド・ウォルトン・アリーナで開催され(バッド・ウォルトンはウォルマートの共同創業者名)、全世界から1万4千人の株主・従業員が参加し、有名アーティストが出演する大イベントだった。スト中の労働者も株主として出席した。
  カルポナ・アクテルさんは、労働組合への弾圧で自身や仲間が何度も投獄されたこと、昨年11月の火災と今年4月のビル倒壊にウォルマートが関わっていること、ウォルマートは悲惨な事故が起きるごとに状況の改善を約束してきたことを指摘し、「もうカラ手形の時ではない」と述べた。
  次に「OURウォルマート」の活動家のジャネット・スパークスさんが登壇。ルイジアナ州のベーカー店での仕事は低賃金、人員不足、臨時雇用に依存していると告発。彼女は「CEO(最高経営責任者)のマイク・デューク氏の報酬が昨年は2000万<CODE NUM=3D6C>と聞いた時、ウォールマートの『アソシエート(一般従業員のこと)』の千倍の報酬というのは、正しいことではないと思った」と発言した。


(「ザ・ネーション」誌6月5日および7日付より)

 

ギリシャ:国営放送局の閉鎖に抗議のゼネスト

  ギリシャ政府は6月11日深夜、財政赤字削減を理由に、国営放送局ERTの閉鎖と約2900人の従業員の解雇を発表した。この決定に抗議して労働組合は同13日、ゼネストに入り、ERTの前には約1万人(警察発表)が集まった。

  首都の地下鉄・バス、港湾に大きな影響が出たほか、病院、税務署等も休業。今回の突然の発表は、他の公共部門労働者にも、次は自分たちかもしれないという脅威を煽った。この日発表された政府統計によると、13年第1四半期の全国的な失業率は27.4%で、前年同期の22.6%および前年最終四半期の26%を上回っている。


  放送局の中では一部の記者たちがインターネットを通じて放送を続けている。
  ERTに勤続19年のゼタ・コンタクシさんは、「ここは私の生活の一部です。それが突然、一夜にしてなくなろうとしています。私たちは2010年に36%の賃金カットも受け入れました。そのため貯金も使い果たしてしまいました。お金もない、仕事もない、仕事が見つかる見込みもない状態に陥ってしまったのです」と語っている。
  政府はERTに代わる新しい、より小規模な放送局を夏の終わりまでに設立すると発表している。
  「国境なき報道家たち」は、反政府デモを報道するジャーナリストへの襲撃や右翼らの脅迫が繰り返されているギリシャで、ERTの閉鎖は、複数主義と報道の自由への重大な打撃となると非難している。


(CNN電子版、6月13日付より)

 

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