アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
865号

バングラデシュ:怖かったけれど、働くしかなかった

  4月24日にダッカ近郊サバールで起こったビル倒壊で、1127人の労働者が犠牲になり、2千人以上が負傷した(本誌前号参照)。

  世界第2の衣料品輸出国であるバングラデシュにおける労働者の権利と安全への関心と、一連の悲劇の背景にあるファッション・ブランドや大手小売チェーンによるコスト切り下げと非合理的発注システム(大量の注文が短期に集中する)への批判の高まりの中で、H&Mなど約40の企業が、インダストリオール、UNIとの間で「バングラデシュにおける火災と建造物の安全に関する協定」、(「おおさか社会フォーラム」のブログに日本語訳)を締結した。
  協定を拒否しているウォルマート、GAP、ユニクロ(ファーストリテイリング)等に対する国際的な批判も高まっている。


  米国政府も、5月27日にダッカ訪問中のシャーマン国務次官補が「国際的なバイヤーの責任」を強調した。ヨーロッパ、北米のメディアは連日、今回の悲劇の背景や当事者たちの証言を大きく取り上げている。

  米国のCBSニュースの記者は、ラングラーやアシックスなどのスポーツウェアを製造しているモンド・アパレル社の工場にバイヤーを装って立ち入り、経営者と労働者に取材した(5月22日付で報道)。


  「この工場は1400人の労働者を雇用している。経営者によると、この工場はウォルマートには製造元として承認されていないが、別の工場からの下請け契約で100万着のボクシング用ショーツを受注している。
  経営者は私たちに火災の際の避難経路と消火器具の配置を示した配置図を見せた。しかし、現認した限りでは、10万平方フィートのフロアに2つの消火器具があるだけだった(配置図では13個)。 
  しかも火災が発生した時の非常出口は製品や材料が入った段ボール箱でふさがっている。……
  私たちは、工場の近くのスラムで、この工場で働いている女性とその娘にインタビューした。2人はそれぞれ月50ドルほどの賃金を得ている。娘は実際には12歳になったばかりだが、工場には18歳と報告している(母親によると、工場主は彼女が就労年齢未満であることを知っているはずである)。
  会社は給与明細票を渡さない。先月は20日働いたのに、11日分の給料しか受け取っていない。なぜなのかと質問すると、彼らは怒鳴りつける。
  しかし、彼女は仕事があるだけラッキーだ、最近では大きな変化があって、ミスをしても殴られなくなったと言う」。

 

  ドイツの「シュピーゲル」誌オンライン版5月16日付は、ビル倒壊時に5階で縫製作業を行っていたムシャマト・ソキナ・ベグムさん(27歳)の証言を掲載している。
  ムシャマトさんは倒壊から3時間後に瓦礫の中から救出されたが、脚を負傷した。


 「もう働きたくない。ほとんどの人は同じように感じているでしょう。怖いのです。別のビルにも亀裂が見つかったという話を聞きました。ラナ(倒壊したビルの所有者)が持っているもう1つのビルにも問題があることがわかっています。先週、また工場の火災があり、犠牲者が出ています。
  私たちの労働条件はひどいものです。基本的には休みはありません。家族が死んだときでも、経営者は、死んだ者には何もしてやることはできないのだから、と言って休ませてくれません。休んだら賃金はもらえません。有給休暇はないのです。時には午後11時まで働きます。いつも、納期に間に合うように急げというプレッシャーの下でです。私たちの多くは子どもがいますが、子どもが待っているから早く帰らせてほしいと言うと、経営者は、『なぜ子どもがいるのにここで働くのか』と言うだけです。
  工場の暑さは耐えられません。数百人が働いているフロアに4つの小さなエアコンがあるだけです。せめて扇風機を買ってほしいというと、『生産がうまくいっていない。儲かったら扇風機を買えるから、もっと働け』と言われます。……
  私たちはこれらすべてに我慢して、やっと生活できるお金を稼ぐことができました。工場の所有者はお金持ちで、多くのお金を機械に投資しています。私たちは貧しい労働者にすぎません。働くしかありません。お金持ちをうらやんでも仕方ありません。しかし、せめて賃金を決められた日に払ってほしいです。多くの工場で、賃金が遅配になり、そのためにストライキが起こります。ストライキが数週間続くこともあります。家賃を払う日は決まっているので、賃金が遅れると困るのです。……
  私たちは4月の給料を受け取っていません。工場ももうありません。どうやってお金を手に入れることができるのでしょうか?

 

 ビル所有者の逃亡に怒り

 

 ……女性にとって、衣料産業で働くのは数少ない選択の1つです。もちろん工場災害は怖いです。多くの人は、こんなことなら、お金は稼げなくてもいいから、村へ帰ろうと言っています。私の工場は5階にありますが、出口は3つだけで、そのうち2つは常にロックされています。前にいた工場も同じようなものでした。私たちはいつも、『火事になったらどうするのですか?』と尋ねても、彼らはそんなことは気にもかけません。私たちが望んでいる改善は、ごくささやかなものです。もっと広いスペースと、換気扇と、もっと多くの出口と階段を設けることです。
  私には将来の希望は何もありません。何を望めばいいのでしょうか? すべてが経営者の気分しだいです。
  自分でミシンを買えたら、自分で注文を取って、家で仕事ができます。そうしている人たちもいますが、私にはそんなお金はありません。2人の子どもの教育のため、お金を稼いで、もっとよい未来を与えてやりたい。子どもたちには衣料工場で働いたり、夫のように人力車を引かせたくはありません。だから私は仕事を見つけなければなりません。
  私が最も許せないのはビルの所有者のソヘル・ラナです。彼はビルが崩壊した日、ビルの中にいて奇跡的に助かったのですが、救助活動を手伝うのでなく、姿を消してしまったのです(その後、インドへの逃亡を図ったが国境付近で逮捕された)。彼に尋ねたい、なぜ逃げたのかと。
  ビルが倒壊した日は、前日に父が体調を崩したので病院へ連れてゆき、私自身も体調が悪かったのですが、出勤しないと給料がもらえないと脅されたので、出勤するしかありませんでした。
  管理者たちは午前8時過ぎにやってきて、『心配ないから働け、注文がいっぱいあるし、納期が迫っている』と言いました。私がミシンを動かしはじめたとき、ビルが崩れはじめました。出口へ向かって逃げようとしましたが、足下の床が崩れ落ちました。私はコンクリートの上に投げ出されました」。

カンボジア:衣料労働者のデモを警官隊が襲撃、23人が負傷

  プノンペン西部のサブリナ・ガーネント社の5千人の労働者たちが約5万リエルの賃上げを要求して、5月21日からストライキに入っている(1リエルは約0・025円)。労働者の要求は、最低賃金の約30万リエルに、通勤、住宅、医療手当分を上乗せしたものである。
 労働者たちは連日デモを行っているが、同27日、約3千人のデモ隊が工場の外の道路を遮断したところに警官隊が介入し、警棒によって23人が負傷した。労働組合の代表のスン・バニーさんによると、この中で妊娠2ヵ月の女性が、警察官によって地面に押し付けられ、流産した。


  この工場はナイキ社のスポーツウェアを製造している。ナイキは事態を憂慮しており、直ちに調査するという声明を発表している。同社の声明はまた、同社の行動規範に従って、契約相手企業には従業員の結社の自由を尊重することを要求していると述べている。
  IMF(国際通貨基金)によると、カンボジアの衣料産業は2011年に同国の輸出の75%を占めている。
  カンボジアは低コストを求める欧米のブランドを引きつけているが、この間、ストライキやデモが多発している。
  工場の安全をめぐっても、アシックスのランニングシューズを製造している工場(台湾人が経営)で5月16日に天井が崩落し、2人が死亡、7人が負傷する事故が起こっている。
 (「ロイター」5月28日付)

アラブ首長国連邦:スト参加の外国人労働者が強制退去の危険に

  アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、5月21日、アラブテック社に雇用されている数千人の建設労働者が賃上げを要求してストライキに入った。
  同社はブルジュ・ハリファ(世界1の高層ビル)をはじめとする湾岸地域における大規模プロジェクトに関与しており、現場労働者の賃金は平均で月160〜190ドルである。
  UAEではストライキが厳格に制限されており、外国人労働者は労働組合や労働者委員会への参加が認められていない。22年のサッカー・ワールドカップがUAEで開催されることが決定されたこともあり、労働者の無権利状態に対する国際的な批判が強まっている。
 ストライキは同27日に終結し、その後、20人以上に国外退去通告書が発行されている。

 

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