アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
864号

バングラデシュ:商業ビル倒壊で衣料労働者など1125人が犠牲に

  4月24日午前8時半過ぎ、ダッカ近郊、サバールの商業ビル、ラナプラザ(8階建て)が倒壊し、ビル内で操業中の5つの衣料工場の労働者3千人が生き埋めになった。警察、消防、軍やボランティアの救出活動により2千300人が救出されたが、瓦礫の中から次々と遺体が発見され、犠牲者数は5月12日現在、1125人となっている。
  モヒウディン・カーン・アラムギル内務相は、「ビルの倒壊は建築に欠陥があったことが原因である」と述べている。


  ラナプラザは商業ビルとして設計・認可されており、銀行や店舗が入居しているが、違法に増築され、しかもファントム・アパレル、ニューウェーブスタイル等の衣料工場が上階に入居。設計上、想定されていない重い機械が設置され、合計で約5千人の労働者が雇用され、交替制で24時間操業していた。
  倒壊事故の前日に、このビルの外壁に何本かの大きな亀裂が発見されたため、警察は検査完了までビルの使用中止を勧告し、銀行と店舗はこの日、休業した。この問題はテレビでも報道され、24日朝、出勤してきた労働者たちは工場への入場を躊躇(ちゅうちょ)した。
  5階で働いていたアブドル・ラヒミさんによると、「管理者が出てきて、ビルには何も問題はないと言ったので、われわれは中に入った。仕事を始めて1時間ほどした時、突然ビルが崩れ落ちた。意識が戻った時には工場の外に運び出されていた」(「ナショナルポスト」紙4月24日)。


  衣料産業の女性労働者を組織しているソミリト・ガーメント・スラミク連合(SGSF)のナズマ・アクテルさんによると、「労働者たちは前日、ビルの外壁に大きな亀裂が見つかったため、家に帰された。ところが翌朝、経営者は労働者に出勤するよう命令。労働者たちは1時間ほど抵抗したが、経営者が工場に入らないと給料を払わないと脅したため労働者は工場に入り仕事を始めた。その1時間後にビルが倒壊した」(英国「ミリタント」紙5月13日号のインタビュー)。


  ナズマさんはまた、次のように指摘している。
  「工場のオーナーの怠慢のために衣料産業が崩壊し、何千人もの女性労働者が仕事を失うかもしれない。昨年11月のタズリーン工場の火災(本誌12年12月15日号を参照)の責任者が処罰されていたら、サバールの悲劇は起こらなかっただろう。ラナプラザの崩壊によって多数の犠牲者が出たのは単なる事故ではない。ビルと工場の所有者の怠慢であり、彼らがこの犠牲に責任を負っている」(「ファイナンシャル・エクスプレス」紙4月26日付)。


  4月25日、繰り返される悲惨な労働災害に抗議して、数十万人の労働者が職場を放棄。街頭へ繰り出し、ダッカ郊外の数ヵ所では高速道路を封鎖した。
  デモは26、27日も続き、いくつかの工場や車両が破壊された。工場経営者たちは同27日を休日にすると発表した。


  シェイク・ハシナ首相は同26日にラナプラザと4つの工場のオーナーの逮捕を命じ、また、調査のための特別委員会を設置した。
  8つの労働組合・労働団体が28日に責任者の逮捕・厳罰や労働条件改善等の7項目の要求を掲げてストライキに入った。
  現在までにラナプラザのオーナーのモハメド・ソヘル・ラナや工場のオーナーなど十数人が逮捕されている。ラナは事故直後に姿をくらまし、事故現場では懸命の救出作業が続いている中、インドへの逃亡をはかり、4月28日に国境近くで逮捕された。ラナは与党アワミ連盟の青年部のリーダーだが、野党・国民党ともコネを持っている。


  国内外からの批判の高まりに、政府は5月9日、安全基準を満たしていない18件の衣料工場の閉鎖を命じた。同12日には衣料労働者の最低賃金引き上げのために審議会が設立された。また、ILO使節団との会談をふまえて、労働法の改定(結社の自由や団体交渉権など)、監査官の増員、負傷した労働者の再雇用等を約束した。同13日に政府は、06年の労働法を改定し、衣料産業の労働者が雇用主の承認がなくても労働組合を設立できるようにすると発表した。


  各国の労働組合や市民団体は、バングラデシュの衣料工場の安全と労働者の権利尊重を要求し、政府や経営団体への申し入れ、オンライン署名、負傷者や犠牲者の家族の救援のためのカンパ等の行動を開始している。同時に、バングラデシュの工場から製品を輸入している衣料ブランドや小売チェーンに対する行動も強化している。


  ラナプラザで操業していた衣料工場は、英国、デンマーク、フランス、ドイツ、スペイン、アイルランド、カナダ、米国等の衣料ブランドや小売チェーンに製品を納入していた。英国のプリマーク、マタラン、アイルランドのペニーズ(プリマークの子会社)、カナダのジョーフレッシュ等がこれら工場との取引を確認している。
  各国の経営団体は、低価格の製品を求める欧米の消費者に責任を転化しようとしているが、英国TUCは5月10日、「バングラデシュの300万人衣料労働者の賃金を2倍に引き上げても、Tシャツのコストが2ポンド上がるだけ」というデータを発表。安全無視のコスト削減や労働者の低賃金をなくすには、多国籍企業こそがやり方を変えなければならないと指摘している。

 

  インダストリオール(製造業の労働組合の国際産別組織)やクリーン・クローズ・キャンペーン(衣料産業の労働者に対する搾取と人権侵害に反対する市民団体)は、多国籍企業にたいしてバングラデシュの衣料工場の防火・安全のための拘束力ある協定への署名を求めてきた。
  これまでにこの協定に署名していたPVH(カルバンクライン、トミーフィルフィガーなどのブランドを保有している)、チボー(ドイツの小売チェーン)のほかに、スウェーデンのH&Mと英国のプリマークがこの協定を受け入れ、工場の安全のための費用を負担することに同意した。

 

香港:港湾労働組合が40日間のストで9.8%賃上げを勝ち取る

  3月28日からストライキに入っていた港湾労組は、5月7日、労働者大会を開催し、ストライキ終結を決定。以下は同労組が加盟する香港職工会聯盟(れんめい)の声明である(一部抄訳)。
  5月1日のHKCTUのメーデーには、ストに参加している港湾労働者をはじめ、これまでで最大の5千人が参加した。

 

*港湾労働者のストライキが終結
*職場復帰に向け取り組みを継続

 

  ストライキに参加していた港湾労働者たちは、今夕に開かれた労働者大会で討論を行い、ストライキの終結を決定しました。組合は委託業者との間で今後の職場復帰および休憩時間や職業安全についての具体的方策について協議を行います。

 

*4つの委託業者が賃上げと業務改善を書面で約束

 

  今日、組合は永豊(ヨンプン)、現創(コムチュン)、聯栄(レンウィン)、培記(プイキ)の四つの委託業者の署名入りの文書を受け取りました。
  文書は労工処〔香港の労働省にあたる:訳注〕に対して、コンテナ埠頭内のすべての労働者(荷役労働者、クレーン操縦士を含む)を対象に2013年5月1日から9.8%の賃上げを実施することを約束したものです。
  これは、埠頭内の委託業者が労工処の監督下で各業種の賃上げ幅を統一することを書面で約束したものであり、妥当性と信頼性においても当初の口頭での賃上げ約束を上回るものです。組合と会社との間で団体協約を締結することはできませんでしたが、業者単独の口約束よりも前進したと言えます。


  また、それぞれの委託業者が労工処に提出した文書では、「労働者が自分の都合に合わせ作業を停止し、食事をする」、「トイレなど、労働者が必要なときにはクレーン作業室を離れられるようにする」という約束も明言されています。
  また労働安全衛生の問題について元請港湾会社と協議することにも同意しています。
  組合およびストライキ労働者は、会社側が誠意をもって問題解決の具体的な約束を提示したと考えます。組合は引き続き会社側と具体的な改善方策について協議を続けます。

 

*スムーズな職場復帰に向けて労工処は調整を

 

  現時点で解決を要する最重要課題は、各業種の労働者の職場復帰を支援することです。とりわけ百人余のクレーン操縦士は、雇用主だった高宝が廃業したことから、新しい委託業者が労働者たちの職場復帰をいかに手配するのかについて組合として明確にさせる必要があります。…組合は事後弾圧および労働者を分裂させるいかなる策動も絶対に許しません。

 

*会社側の待遇改善を今後も監視する

 

  組合は、委託業者が休憩時間、食事をとるための時間、労働安全衛生などの問題を改善するかどうかに関心を持ち続けます。また今後の賃上げおよび団体交渉権の獲得にむけた行動を、組合員と協議していきます。07年の建設労働者のストライキの時と同様に、組合は今後とも納得のいく賃上げを勝ち取るために奮闘します。
  今日、建築労働者たちがディーセントワークを勝ち取ったように、明日には港湾がそれを勝ち取ることができると組合は確信しています。

 

*市民の皆さんによる長期間の支持に感謝します

 

  港湾労働者が40日ものあいだ闘争を継続できたのは、香港市民の義捐金(ぎえんきん)と励ましによるものです。労働者は一致団結し、生活のため、尊厳のために納得のいく待遇を勝ち取らなければならないということを、港湾労働者は行動で私たちに示してくれました。
  また今回の争議を通じて、政府は早急に団体交渉権を保障する法律を制定し、労使対等の交渉を確立する必要があることが改めて明らかになりました。

 

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