アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
867号

ブラジル:巨万のデモは都市の新自由主義への闘いの始まり

  以下はバス料金値上げへの抗議から始まった一連の大規模なデモの背景についての、「ブラジル・デ・ファト」紙によるMST(土地なき農業労働者運動)代表のジョアオ・ペドロ・ステディレ氏へのインタビューであり、「Zネット」6月25日付から要約した。

 

*経済的背景について

 

  都市問題の研究家のエルミニア・マリカトは、ブラジルでは金融資本主義の現段階によって引き起こされた都市の危機が存在すると分析している。この分析に同意する。不動産投機によって、この3年間で地価が150%上がった。自動車ローンが、政府の規制なしに拡大した結果、交通がひどい状態になっている。この10年間、公共交通への投資が行われていない。持ち家政策の結果、インフラが整備されていない郊外に貧困層があふれている。毎日、通勤や通学のための3〜4時間を無駄にしなければならない。教育や医療もひどい状態で、中学校を出ても作文ができないし、大学は学位の割賦(かっぷ)販売と化している。

 

*政治的背景について

 

  15年にわたる新自由主義的政策、また、この10年間の労働党政権の下で、政治が資本家の利益に従属するようになっている。日和見主義的政治家たちは立身出世や私利私欲を追求している。若者たちは政治に参加する機会を奪われており、市会議員になるにも巨額の資金が必要とされる。だから資本家が金を出し、政治家が資本家の指示に従うようになっている。
  もっと深刻な問題は、議会内の左翼政党も、そのような政治に順応していることだ。若者は政治に無関心なのではなく、全くその逆である。だから政治を街頭で表現しようとしているのだ。

 

*なぜ今、起こっているのか

 

  計画的行動というよりも、大衆心理学的ないくつかの要因が結合して起こった。先に述べた要因のほかに、スタジアムの建設や、FIFAの独裁的なやりかたへの不満が蓄積していた。バス料金値上げは、怒りに火をつけた。

 

*労働者階級がまだデモに参加していない理由

 

  たしかに労働者階級はまだ街頭に登場していない。街頭に登場しているのは中流階級、下層中流階級の子どもたち、それに「準プロレタリアート」、つまり主にサービス産業で働く若者たちである。彼ら・彼女らは消費生活は向上したが、発言権を求めている。バス料金をめぐっては、早くから「フリー・パス運動」(バス料金の無料化を要求)が組織されていた。
  労働者階級が動き出すまでには時間はかかるが、動き出せば資本に直接に打撃を与えることができる。労働者階級を組織している運動が事態を理解できておらず、慎重になっている。階級全体は、闘争に参加する意欲はある。労働者階級が闘争に参加するのは時間の問題だろう。

 

*MSTや農民も動き出していないようだが?

 

  それは事実だが、都市で土地占拠闘争を続けていて、家族農家と緊密に連携している地域では、デモに参加し始めている。また、私たちの旗や、「農地改革」、「全ての人々に安い食糧を」などのスローガンは歓迎されている。数週間のうちに、農村地域を含めて、運動はもっと広がるだろう。

 

*暴力的な衝突について

 

  暴力的な行動はごく一部だが、ブルジョワジーはテレビ放送で暴力的な衝突に焦点を当てることによって大衆をおびえさせようとしている。政府は国家警備隊や軍隊を使ってデモを弾圧するという間違いをやってはならない。それこそが彼らが望んでいることだ。
  サンパウロではファシスト・グループが動いている。リオデジャネイロでは右翼の政治家を守るために民兵が組織されている。

 

*右派の目的は何か

 

  支配階級である資本家と、そのイデオロギー代弁者たちの主要な目的は、ブラジル国家を支配している全体的な主導権を再編するために、ディルマ大統領の政府を最大限疲弊させ、労働者階級の組織を弱体化させ、ブラジルの構造的改革への要求を抑制し、2014年の選挙に勝利することである。
  この目的のために、彼らはまだ手探りの段階であり、暴力的衝突を挑発したり、汚職追放や透明性などの問題に焦点を移そうとしている。

 

*労働者階級、大衆組織、左派の課題

 

  課題はたくさんある。はじめに、この運動の性質を念頭に置きつつ、全員が街頭に出て、階級闘争の経験のない若者たちを政治化させるために若者たちの心をつかむことである。第2に、労働者階級が街頭や職場や農場や建設現場で行動を起こすことである。そして具体的な階級的問題を解決するための提案を掲げることである。
  労働時間の短縮、医療・教育・農地改革への優先的な支出等の要求への支持を獲得するために、論争のイニシアチブを取る必要がある。この要求を実現するためには政府は金持ちや不労所得者や、ありもしない国内債務の債権者に回っている2千億レアル(1レアルは約45円)の財政黒字を生産的・社会的投資に回さなければならない。選挙の公営化などの政治改革、貧困者の負担を軽減する税制改革、石油のオークション制や鉱山資源の採掘権の売却の中止が必要である。・・・しかし、それらの要求は労働者階級が動いた時にのみ実現する。

 

*政府は何をするべきか

 

  私は政府が、街頭で掲げられているこれらの要求への支持を活用するための感覚と知性を持っていることを期待する。政府はそのためにはあらゆる面で支配階級と対決しなければならない。政治改革やメディアの民主化の要求を支持しなければならない。公共交通の無償化に向けて、大規模な投資を行うべきである。農業改革を加速し、国内市場向けに健康な食料を生産する計画を進めなければならない。……そうしなければ失望が生まれ、政府はイニシアチブを右翼に渡すことになるだろう。右翼は14年の選挙まで、われわれの要求にすり寄って、政府を弱体化させようとするだろう。政府は人民の側に立つべき時だ。

 

エジプト:モルシ政府とムスリム同胞団の独裁強化反対でデモ

  モルシ大統領の就任1周年にあたる6月30日、モルシ政権打倒を掲げたデモに全国で数百万人が参加した。
  カイロでは大統領府前とタハリール広場にそれぞれ数十万人が集まった。
  ナイル・デルタ地方のメノウフィアから来た弁護士のハワッシュ・ヘイケイさんは、「エジプトは選挙を通じて大統領と契約を結んだのに、彼は契約を破った。われわれはモルシが辞任するまでここに留まる」と語っている。彼は一緒に来た仲間たちとともにタハリール広場にテントを張った。

  デモに参加した人々の共通の不満は、燃料不足の深刻化と電力の供給カットである。ヘイケイさんは「(モルシは)このような具体的な問題をどのように解決するかを語るのではなく、エジプトがいかに前進しているかといった大きな話ばかりしている」と指摘する。
  デモを呼びかけた「リベル(反乱)・キャンペーン」は、すべての政党と運動団体に、自分たちの旗を降ろして、団結しようと呼びかけた。その結果、エジプト国旗があたりを埋め尽した。デモ参加者たちは大統領の肖像と「退場!」の文字が描かれた赤いカードを掲げた。
  「リベル・キャンペーン」は、次の大統領が選ばれるまで最高憲法裁判所の長官が暫定大統領に就任することを提案している。
  アレキサンドリアでのデモに参加したサラー・マンドウフさんは、「(モルシは)独裁的な決定と、他の政治的意見を聞かないことによって正統性を失った」と語っている。


  ムバラク政権を倒した2011年の闘いを牽引した「4月6日青年運動」の創始者のアフメド・マヘールさんは、「11年1月の時は、当初は大統領の辞任の要求を掲げていなかった。今回は大統領の辞任をはっきりと要求している」と指摘する。
  アシウトでは数千人のデモ隊が自由公正党の本部の前に差しかかった時、何者かによる銃撃を受け、少なくとも三人のデモ参加者が殺害された。ベニ・スエフでは何者かによるデモ隊への発砲によってデモに参加していた15歳の青年が殺害された。他の地方でも暴力的な衝突があり、全国で613人が負傷した。
  カイロの大統領官邸から数キロ離れたところでは、ムスリム同胞団と自由公正党が呼びかけた政府支持デモの参加者による座り込みが続き、イスラム教徒を中心に数十万人が参加している。ナセル・シティでもモスクの前で大統領支持派の座り込みが続いている。
30日のデモに向けて緊張が高まる中で、多くの都市のムスリム同胞団の本部に対して火炎瓶や投石による攻撃が行われた。26日以降の両派の衝突の中で、7人以上が死亡している。(「アフラムオンライン」英語版、7月1日付より)

 

  6月25日付の「エジプト・デイリーニューズ」紙によると、エジプト独立労働組合連合は同30日のデモ参加表明の声明の中で、11年の革命以降、労働者が置かれている状況は悪化しており、今や新しい人民革命の前夜であると述べている。この声明は、革命後2年以上が経過したのに、いまだに新しい労働法が制定されておらず、アレクサンドリアのセメント工場での座り込みストライキが暴力的に弾圧されていること、4千以上の工場が閉鎖され、多数の雇用が失われていることに政府が沈黙していること、スト参加者に懲役刑が言い渡されていることを指摘し、現政権も前政権と同様に、労働者の利益に反し、少数の支配者に奉仕していると非難している。

 

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