アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
923号

★エジプト
  国営工場でボーナスを要求して無期限スト

 エジプト最大の国営衣料企業・マハラ紡績製織(従業員1万7千人)で、政府が約束した10%の「社会ボーナス」を要求して労働者が10月21日から無期限ストに入った。

 シシ大統領は9月に国家公務員に基本給の10%に相当する「社会ボーナス」を支給する大統領令を発表した(7月分の賃金から適用)。これは社会サービス法の適用対象となっている600万人の公務員を除外している。同じ週に財務相が「社会ボーナス」関連の規則と法律上の要件を発表。それによると国営企業の労働者は「社会ボーナス」の適用を除外される。
 エジプト社会経済権センター(ECESR)のアラー・アブデル・タワブ弁護士は「財務省は大統領令の解釈を誤ったようだ」と指摘している。

 

 マハラの労働者モハメド・エル・アタルさんは「われわれは1987年以来、社会ボーナスを受け取っている。財務省が今年、われわれを社会ボーナスから除外した理由が理解できない」と語っている。
 同社の労働組合代表のカマル・アル・ファヨウミさんによると、「労働者たちは先月分の給料に大統領が約束したボーナスが含まれていないことに驚き、給料を受け取らなかった」

 

 工業都市マハラの労働者は長年にわたる闘いの歴史がある。06年に全国でのストの先陣を切った。08年には物価値上がりと低賃金に抗議してストを計画、民主主義を求める活動家たちがインターネットを通じてそれを支援した。私服警察官の介入と脅迫によりストは失敗したが、労働者への連帯の呼びかけが街頭における警察官との衝突と、のちに11年1月の蜂起の主役の一つとなる「4月6日青年運動」の誕生のきっかけとなった。

 

 今回のストは都市における消費者物価の高騰(9月の公式統計では9.2%のインフレ)の中で起こっており、また、11年の革命以降の社会経済的な騒乱の中での経済の不振が背景となっている。
 衣料産業の他の工場では10%のボーナスが支給されており、マハラでも労働相は28日までにストをやめれば労働者の要求を考慮すると述べている。
 しかし労働者たちはボーナス支給の確約書を受け取るまではストをやめないと主張。3人のスト参加者に停職処分が出され(すぐに撤回された)、29日にも8人に停職処分が出された。また、会社側は7人をスト扇動容疑で告訴した。

 

 ECESRの労働問題担当のダリア・モウサさんによると、労働者たちは会社が民営化されることを懸念している。実際、この会社は新規投資が行われておらず、退職者が出ても補充されず、08年以降従業員数が5千人減っている。
 また、カマル・アル・ファヨウミさんによると国営の衣料会社の損失は300億エジプトポンド(1エジプトポンドは約15円)に達しているが、政府は損失防止の措置を何も行っていない。
 「製織産業を救うための民衆キャンペーン」は、この膨大な赤字が企業家を儲けさせるための一連の法律・命令によってもたらされたと指摘している。

 

 (「アルマスリ・アルヨウム」紙10月21日付、「デイリーニューズ・エジプト」紙同26日付、「アスワット・マスリア」紙同28日および29日付、「アフラム・オンライン」紙同30日付より)


 

★アラブ首長国連邦
  レイプ被害の家事労働者を投獄

 以下は英国「ガーディアン」紙10月26日付レポートの抄訳である。

 

 BBCアラビアの調査によると、アラブ首長国連邦(UAE)では婚外の合意による性交を禁止する法律の下で、毎年数百人のレイプ被害者が投獄されており、妊娠中や家事労働者が含まれている。
 BBCアラビアが入手した秘密裏に撮影されたビデオでは、妊婦が鎖につながれて法廷内を歩いていた。ここでは「ジナ」(婚外性交)禁止の法律違反は数ヵ月〜数年の懲役と鞭打ち刑が科せられる。

 

 ロンドンのヒューマンライツウォッチの女性の権利に関する研究者であるロスナ・ベグンさんによると、「UAEの当局は『淫らな行為』の意味を明確に定義していないため、裁判官は自分の文化、慣習、あるいはイスラム法の理解を基準としてその定義を拡大し、人々を不道徳的な性的関係という嫌疑で処罰することができる」。
 理論上は男女とも婚外性交で処罰されることになるが、実際は妊娠が婚外性交の証拠とされることが多く、15万人の外国人家事労働者が最も弱い立場に置かれている。
 投獄された女性の数の公式発表はないが、投獄された人や弁護士、慈善団体等からの情報を基に、毎年数百人にのぼると推定される。

 

 これまでにも外国人の女性が関係するケースが大きく取り上げられたことがある。
2010年にある英国人女性がドバイでウェーターにレイプされ、このウェーターを告訴した時、婚約者と不法な性的関係を持ったという容疑で逮捕された。その数年後にも、ノルウェーの女性が同僚にレイプされた時に、婚外性交の容疑で逮捕された(国際的な抗議の結果、釈放)。

 しかし、国内に居住する女性に関係する事件が大きく報道されることは少ない。


 BBCアラビアが取材したヘッサさん(仮名)は妊娠し、相手は6年間付き合ってきた男性で、彼女を「第二夫人」とすると約束していた。ところが彼は彼女の妊娠を知って怒り出し、彼女の家族に告げ口すると脅した。家族に知られると殺されると恐れた彼女は中絶するしかなかった。
 ヘッサさんのケースは合意による性的関係だったが、ライリーさん(仮名)の場合はバングラデシュから家事労働者としてやってきて、雇い主によってレイプされた。

 アムネスティー・インターナショナルの湾岸地域担当の研究者であるドレワリー・ダイクさんによると、このような事例は珍しくない。

 「レイプ被害者が不法な性行為を行ったとして処罰され、容疑者は尋問を受けることさえない。多くの事例が示しているように、弱い立場にある女性の移住者が依然として不法な性行為という罪で拘留されており、多くの場合、生まれてきた乳児といっしょに苦しんでいる」

 

 UAEのカファラ(スポンサー)制度の下では、外国人労働者(この国の人口の90%)は雇用主の後見を必要とし、雇用主の許可がなければ出国できない。違法だが、パスポートが取り上げられることもあるため、ライリーさんはその雇い主の下で働くしかなかった。
 雇い主は彼女の妊娠を知って、自分が処罰されることを恐れて、彼女を空港へ連れて行き、放置した。
 フィイリピンから来た家事労働者のマリーさん(仮名)は、弁護士なしの裁判で9ヵ月の刑を宣告され、2人の娘と共に拘留されている。監獄は劣悪な条件にある。狭い部屋に4人の受刑者が子どもと共に閉じ込められており、食料は少なく、飲み水は有料である。

 

 人権団体によると、サウジアラビア、バーレーン、カタール、オマーン、イエメン、イラン、アフガニスタン、南スーダン、モロッコでも婚外性交を禁じる法律が実施されている。

 

 

★バングラデシュ
  ビル倒壊から2年半、進まない工場安全の改善

 12年12月のタズリーン工場の火災と13年4月のラナプラザ倒壊で多数の犠牲者が出たことを契機に、バングラデシュの衣料工場の安全への国際的関心が高まり、労働組合、消費者団体と衣料ブランドが工場安全協定(アコード)を締結し、取り組みを進めてきた。
 しかし、アコードの運営委員会によると、アコードと署名企業の多大な努力にもかかわらず、安全の改善は痛々しいほど遅い。目標達成のスケジュールが大幅に遅れている。

 

 アコードの代表のロブ・ワイス氏によると、「多くの工場で、すでに完了しているべき作業の期限が延長を繰り返しており、当初の5年間という目標期間を引き延ばしつつある」
 遅延には様々な理由があり、やむを得ないものも、許されないものもある。
 アコードはこれまで、約120人のスタッフにより1300以上の工場の検査を実施した。その結果、ほとんどの工場で非常口や警報システムがない、電気配線が不適切である、荷重が許容値を超えていて壁に亀裂があるなどの問題が見つかっている。
 アコードの最低限の基準を満たしていない30棟のビルは直ちに閉鎖された。

 

 バングラデシュには5千の衣料工場があり、アコードと米国企業を中心とする工場安全連合(アライアンス)による検査が完了したのはそのうち2千にすぎない。それ以外の、調査対象となっていない工場はもっと危険な状態にある。
 改善勧告を受けた工場のオーナーの多くは、安全設備を設置する方法についての知識がなく、模造品の警報装置やスプリンクラーを買わないように監督しなければならなかった。アコードでは彼らが直接に専門の技術者と相談できるように手配している。

 

 多くのオーナーは、問題を完全に無視している。バングラデシュ労働者連帯センターのカルポナ・アクテルさんは、「一般的に、工場のオーナーが正しいことをするとは信頼できない。注目されなくなると何もかも忘れてしまう。ラナプラザから2年余りになるが、オーナーたちは何も学ばなかった」と語っている。
 工場のオーナーたちに必要な改善措置を実施させる方法は理論的には簡単なことだ。発注元のブランドが圧力をかければよい。しかし、現実には衣料ブランドは流行に合わせたファーストクローズの生産のため、流通を妨げたりコストを引き上げるような措置を手控えている。
 とくに、労働運動団体や消費者団体は、アコードを最初に締結し、ブランド・イメージを高めようとしてきたH&Mが供給を受けている工場の半数以上が安全基準に違反していると指摘している。

 

(オンライン誌「QUARTZ」10月25日付) 

 

 

 

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