アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
919+20号

★中国:天津爆発事故報道されない事実と疑問

 8月12日夜に天津市・濱海新区の瑞海国際物流の倉庫で発生した爆発事故は、死者146人、行方不明者27人(同月28日現在、新華社通信による)という大惨事となった。死者は公安消防隊員が21人、天津港消防隊員が68人、人民警察官が9人、その他が48人とされている。

  以下はウェブ紙「惟工新聞」8月13日付レポートの要約である(翻訳・稲垣豊)。

 

*1 爆発事故を起こした瑞海国際物流有限公司とはどのような企業なのか?

 

 この会社は民間による天津埠頭の危険品貨物コンテナ業務を行う大規模中継・集散センターであり、70人の従業員、20人の下請け労働者が働いていた。年間の貨物輸送量は100万トン、年間営業収入は3千万元以上。
 このように危険な貨物を扱う民間企業を設立する際に、しっかりとした安全検査を行ったのか、労働者たちに必要な安全研修を行い、厳格な安全管理を行ってきたのだろうか。
 ある報道では、この会社の環境評価報告書のリスク分析のなかで、火災爆発について検証を行った結果「環境と周辺の人員に顕著な影響を与えることはない」とされていた。

*2 爆発の犠牲になった宿直の労働者の待遇や補償は?

 

 この会社には70人の従業員と20人の下請け労働者がいた。
 下請け労働者とは、瑞海国際物流有限公司と直接雇用契約を結んでいない労働者のことで、派遣労働者の可能性がある。あるいは、雇用契約すらないアルバイト工もいた可能性もある。 
 14年3月に施行された「労務派遣法(暫定)」では、企業は臨時的、補助的、代替的な職位において派遣労働者を用いることができるが、1社における派遣労働者の割合は10%を超えてはならないとされている。もし下請け労働者すべてが派遣労働者の場合、この会社における派遣労働者の割合は同法に違法している。 


 労災が発生した場合、派遣労働者と正社員では賠償額に大きな差がある。危険な業務の宿直はだれがやっていたのか? 似たようなケースを見てみよう。

 14年8月2日、昆山中栄金属製品廠の爆発事故は早朝7時に発生し、97人が亡くなっているが、全員が違法に雇用されていた労働者だった。 

 

*3 多くの犠牲者が出た消防員の身分や待遇は?

 

 生死を省みず犠牲になった消防員らも、派遣労働者であった可能性が非常に高い。
 12年、天津市は1千人の契約制の消防員を募集している。
 契約制消防員とは何か。全国のケースで見れば、契約制消防員の大部分は地元の警備会社あるいは人材派遣会社が、警察や消防の定員要求に応じて人員を募集し、研修を経て試験に合格すれば警備会社(または人材派遣会社)と雇用契約を締結し、警察あるいは消防に派遣され、現役(正規)の消防士と同じように勤務して消火活動や救助活動に従事する。


 専門家によるとこのような契約は以下の点で違法である可能性がある。

 1.長期の雇用契約ではなく臨時の雇用契約である、2.現役消防員との間の賃金格差、3.現役消防員と同じく24時間待機制度だが、派遣法に規定されている時間外労働の割増が加算されていない。

 消防のような高度に危険な職種に派遣労働を用いてよいのだろうか。
 [訳注]8月16日のBBC中文網の報道によると、連絡が取れなくなっている85人の消防員のうち72人は天津港を管理する天津港企業集団に所属する消防員で、派遣会社から派遣されており、入れ替わりも多いという。

 

*4 危険化学製品の爆発は偶然の事故なのか?

 

 今年の八カ月だけでも各地で化学工業工場の爆発事故が発生している。
1 4月 6日、福建省古雷のパラキシレン・プラントで爆発事故。

2 4月12日、南京揚子石化廠で爆発。上空が濃煙で覆われ刺激臭が蔓延。  

3 6月12日、南京化工業団地の徳納化工廠で火災が発生。

4 7月15日、山東日照石大科技石化有限公司で液化石油ガスタンクが漏れて爆発。

 このような連続する工場爆発事故は全くの偶然だとは言えない。

 化学工業による都市化の背景には、先進国から途上国に輸出される労働集約型、環境汚染型、高度危険型の工業という問題がある。同時にこの三つの特徴をもつ化学工業産業は高い利潤を得ることができる。これもこの産業に外資系企業や地方政府が集中する理由である。


 

★インド:モディ政権に抗して11労組が全国ストへ

 昨年5月の総選挙で勝利した人民党のモディ政権は、ヒンズー至上主義的政策を進める一方で、労働者に対する全面的な攻撃を進めている。
 モディ政権は、就任後の1年間は、労働組合からの抵抗をかわすために、人民党が政権を握っているラジャスタンとマディアプラデシュの両州で試験的に全面的な労働規制緩和を進めてきた。その「成功」をふまえて、今年の国会に、「独立以来の最大の労働改革」として、1947年の労働争議法、1926年の労働組合法、1946年の産業雇用法を統合した新しい雇用関係法を提出する準備を進めている。


 これには以下のような内容が含まれる。

 1.従業員数300人未満の企業は政府の許可なしで従業員を解雇できる(現行法では従業員数100人未満の企業)、2.従業員数40人未満の企業は労働法の主要な規定の適用を免除される、3.労働組合の承認には10%以上または100人以上の従業員の賛成が必要(現行法では7人以上)。


 モディ政権の攻撃に対して、5月26日に11の労働組合全国組織(与党・人民党系の労働組合を含む)と50の公務員組合連合が全国労働組合大会を開催し、9月2日に全国的な一日ストを呼びかけた。
 これらの労働組合はシン前政権の下で10項目の要求を掲げ、10年9月、12年2月、13年2月の三度にわたって全国ストを組織してきた(本紙13年3月15日号を参照)。しかし、シン前政権は労働者の要求を無視しつづけた。


 インドでは1991年以降にラオ政権の下で進められた新自由主義的政策の結果として、09年には上位100人の富裕層の資産が合計で2760億米ドル以上となり、一方、労働者の賃金の上昇はGDPの成長率や物価上昇率を大幅に下回っている。不平等の拡大に対する労働者の怒りは高まっている。
 9月2日のストを前に、8月27日に政労交渉が行われ、政府は最低賃金や社会保障に関連する要求や公務員の欠員補充などの要求を受け入れることを示唆した。また、労働法改定については政労使の三者協議を実施すると提案した。

(「ザ・タイムズ・オブ・インディア」「ラディカル」誌等より)

 

★インドネシア:解雇撤回求め日本大使館に抗議行動

 以下は衣料労働者を支援しているNGO、クリーン・クローズ・キャンペーンの8月26日付の声明である。


 8月27日、アディダス、ミズノなどのブランドのスポーツシューズを縫製しているパナルブ社のドウィカルヤ・ベノア工場(バンテン州ベノア・コタ・タンゲラン)の労働者たちが解雇撤回を求めてジャカルタの日本大使館前で抗議行動を行った。
 この工場では12年7月に2千人の労働者(大部分が女性)が組合の承認と法定最低賃金の未払い分の支払いを求めてストライキに入った。その直後に1300人の労働者が解雇された。会社側はその後もストライキに参加した労働者への脅迫を続けている。


 SBGTS・GSBI労働組合委員長のココム・コマラワティさんによると、12年のストライキでは警察官が労働者(妊娠している女性も含む)に対して催涙ガスを使用し、地元の暴力集団が管理者や経営者といっしょになって労働者たちを無理矢理就労させようとした。労働者たちは「仕事に戻りたかったら組合を脱退しろ。委員長に強制されてストライキに参加したと証言しろ」と言われた。

 ココムさんは、「アディダスとミズノは労働者が仕事と生活を取り戻すことを保証する責任があります。彼らがそうするまで、私たちは権利を要求し続けます」と語っている。

 パナルブ社は不当労働行為を繰り返しており、00年以降に同社の5つの工場で労働法違反が問題となってきた。結社の自由への違反や差別賃金などである。アディダスはこのすべてに関わっている。
 アディダスはインドネシアで「結社の自由協定」を結んでおり、仕入れ先企業における結社の自由の権利を擁護することに同意している。しかし、仕入れ先の下請け企業にもこの協定が適用されることを否認している。


 アディダスとミズノは問題の解決を促進するための努力を行っておらず、労働者は闘いを続けるしかない。解雇された労働者の多くは長年にわたって勤続しており、勤続10年以上の労働者もいる。ある女性労働者は、収入がないため医療を受けられず、死亡した。夫から離婚を通告された労働者もいる。2人の労働者が、家賃が払えないため強制退去させられた。
 大使館前の行動では「ミズノは1300人の労働者の解雇の責任を取っていない」と書かれた横断幕が掲げられた。

 

 

 

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