アジア@世界
喜多幡 佳秀、稲垣 豊 ・訳(APWSL日本)
888号

★中国:ナイキシューズなどの製造元で4万人がスト

 広東省東莞(ドングァン)市の裕元(ユーユエン)工業(靴メーカー)の6つの工場で、4月5日に労働者千人がストに入り、同14日以降は4万人以上がストに入った。
 この工場は台湾の宝成(ポー・チェン)グループが保有する世界最大のスポーツシューズメーカーで、ナイキ、アディダス、リーボック、プーマなど世界60以上のブランドに製品を納入している。


 発端は、会社が20年近くも労働契約を偽造して社会保険料をごまかしていたことが発覚したことである。

 中国では多くの企業が社会保険料を規定通り納付しておらず、当局もそれを容認してきた(労働者が社会保険の権利について知らされていないという事情もある)。
 裕元の労働者たちは、会社が正しい労働契約を作成し、法律に規定されている通りに社会保険料を納付し、これまでの未納分も納付することを要求した。
 「人民日報」海外版は同19日付で、「ストは労働者の権利意識の覚醒」というタイトルで次のように報じている。


 「……明らかに、わが国の労働者は、今まさに、原始的な方式で自らのさまざまな権利を経営側から勝ち取ろうとしている。これらの労働者はすでに10〜20年も働いていて、これまで年金保険や住宅積立金などは聞いたこともなかったが、いまではこれらの権利を勝ち取るために、果敢にストという手段を選択した」。

 しかし、意識的な活動家たちはこの報道について、「労働者はとっくに覚醒している。今まで寝ぼけていたのは官製報道機関のほうだろ!」という厳しいコメントを投稿している。


 香港の職工会連盟やグローバリゼーション・モニターなどの団体は裕元の労働者に連帯して、宝成グループに労働者の要求を受け入れるよう要請行動を組織するとともに、ナイキ、アディダスなどの国際企業の社会的責任追及の国際的な署名を呼びかけた。この署名には5月5日現在、香港をはじめ世界各国の50団体が署名している。
 台湾、米国、オーストラリア等でも連帯の行動が行われている。
 闘争の拡大と生産体制への影響を恐れた当局が裕元に対し是正を勧告。裕元は労働者の要求を部分的に受け入れたが、その後、警察の介入によって数十人の労働者が逮捕され、4月28〜29日にかけて大部分の労働者は仕事に戻った。


 中国の労働団体が支援署名(4月25日)

 この闘争で注目すべきことの一つは、中国の労働団体が、厳しい規制の中で、裕元の労働者への支援を呼びかけたことである。
 この呼びかけは次のように述べている(抜粋)。


 「私たちは4月5日からの裕元の労働争議に注目してきました。裕元の社会保険問題が明らかになって半月が経過しましたが、当初の数千人から現在では4万人が立ち上がっており、工場側の対応も保険料の追加納付に応じ社会保険部門の怠慢を認めるまでになっています。これらの変化をみるにつけ、裕元の仲間の勇気とがんばりに心からの敬意を表します」。
 「現在、裕元の工場では16万人が働いており、2013年には27億1800万元もの純益のために労働力、そして血と汗を提供しています。長年にわたって裕元は社会保険・住宅積立金の過少納付を続け、労働者の権利を損なってきた違法行為の責任を負い補償すべきです。……東莞社会保険局は裕元から滞納金、罰則金を徴収して、そのお金で労働者に賠償し、労働者の利益を回復し、社会的混乱を収めるべきと、私たちは考えます」。
 「裕元はナイキ、アディダス、リーボック、プーマなど60余りのグローバルなブランド委託生産の工場です。2013年のアディダスの純利益は67億人民元を超え、ナイキにいたっては2013年の第1四半期だけで48億人民元を超えています。この二つのブランドだけでこれほどの利益を上げているのです。これら世界でも名の知れたブランド企業は巨額の利益を手にする一方で、その製造工場における搾取のために流される労働者の血と汗の権利の侵害については放置したままで、長年にわたりブランドイメージを粉飾するために莫大な費用をつぎ込んできましたが、いまこそ、その無責任な対応のツケを支払うべき時です」。

(署名団体)
深セン打工者中心、山東青島小陳熱線、北京工友之家、蒲公英残疾人互助站、浙江小小魚労工服務部、澳利威工援中心、広州珠江工友服務中心、深セン小小草工友家園、広州安之康信息咨詢中心、恵州工人熱線服務中心、四川省蓬安県[金告]石互助站、広東番禺打工族服務部、深セン市時代女工服務、新工人服務部−春風分部、深セン市手牽手工友活動室

 

 台湾の労働団体が連帯行動を呼びかけ(4月23日)

 

 注目すべきもう一つのことは、台湾の労働団体が連帯行動を呼びかけたことである。
 「……4月24日に台湾の労働団体は、低賃金労働反対、派遣労働禁止のデモの際に、中国東莞裕元労働者のスト支援も掲げて、香港、アメリカ、オーストラリアなどの多くの地域の多くの労働団体と一緒に労働者支援および資本への抗議行動に取り組みます。私たちは悪徳企業と超搾取ブランド企業が結託して労働者を搾取することに反対しているからです!」
 「(この闘いは)近年では中国最大規模のストになるとともに、われわれ台湾労働者が経験してきた『台湾の奇跡』の背後にある超搾取の真相を、再び中国において目の当たりにしたのです。これらの台湾資本家が過去において台湾の労働者に対して行ってきた過酷な待遇を、中国や東南アジアに進出して、このような超搾取経済モデルを各地に輸出して現地の労働者を搾取しているのです。私たちはこのようなことを受け入れることはできません」。
 「裕元工場の悪行は、有害物質と隣り合わせの危険な労働環境、労災補償への義捐金(ぎえんきん)の強要、トイレ制限、劣悪な宿舎環境と食料事情、でたらめな賃金計算などです。裕元で製造された欧米日本の有名なブランドの靴は2千〜3千台湾元(1台湾元は約3.5円)以上もします。欧米日本のブランド企業は、裕元労働者のひどい搾取によって巨大な利潤を上げているのです」。

(署名団体)
団結工聯(全国自主労工聯盟、新高市産業総工会、台南市産業総工会、苗栗縣産業総工会、新竹縣産業総工会、桃園縣産業総工会、台北市産業総工会、宜蘭縣産業総工会、台プラ関係企業工会連合会、中華電信工会)、青年労働九五聯盟、全国関廠工人連線、台湾国際労工協会、工作傷害受害人協会、人民火大行動聯盟、全国金融業工会聯合総会、大高雄総工会、中華民国鉄路工会連合会、台湾労工陣線、台湾鉄路工会、全国教師工会連合会、非典型労働工作坊、桃園縣教育産業工会、全国産業総工会、台湾労工陣線


(翻訳・稲垣豊)

 

 

★米国:シアトル市で最低賃金が15ドルに

 ワシントン州シアトル市で、5月1日に、最低賃金委員会(市長が任命)が同市の最低賃金を段階的に時給15ドルまで引き上げる勧告を決定した。市長もこの勧告に同意しており、市議会も基本的にはこの勧告に基づく決定を行うと予想される。


 勧告は、企業の規模(従業員500人以上と500人未満)、およびチップや手当等の副収入の有無によって4つのグループに区分し、従業員500人以上の企業では、15年1月から最低賃金を11ドルに引き上げ、@副収入がない企業では17年1月まで、A副収入がある企業では18年1月までに15ドルに引き上げる。従業員500人未満の企業では、最低賃金と副収入を加算した「最低保証報酬」を15年1月から11ドルに、19年1月までに15ドルに引き上げる。したがって、B副収入がない企業では19年1月までに最低賃金が15ドルに引き上げられるが、C副収入がある企業では、最低賃金が15ドルに引き上げられるのは21年1月になる。

 25年にはこの区分が解消され、一律に最低賃金が18.13ドルとなり、それ以降は物価上昇率に関わりなく、毎年2.4%引き上げられる。


 シアトル市の最低賃金委員会は24人の委員のうち労働側代表は4人だけで、大多数は企業経営者だが、勧告は21対2(棄権1)で決定された。
 最低賃金の引き上げが支持された要因として、@ファストフード店の労働者の最低賃金引き上げ要求への共感の高まり、A昨年11月の住民投票での、空港労働者の一部に対する最低賃金の15ドルへの引き上げの可決、B「最低賃金を15ドルに」という公約を掲げて市議会議員に立候補した社会主義活動家、クシャマ・サワントさんの当選などが挙げられる。
 サワントさんは「2012年のファストフード店の労働者のスト以降の信じられないほどの急激な発展によって、大企業も政治家も最低賃金を15ドルにという主張に反対できなくなった」と指摘している。


 最低賃金委員会の勧告が大きな前進であることは明らかだが、労働者の間では、15ドルへの引き上げが実現するまでの期間が長いことや、チップや手当の収入を加算するやり方への不満もある。「今すぐ15ドルに」というグループも組織され、より迅速な引き上げのために条例改正を求める署名運動も計画されている。
 経営側の巻き返しや骨抜き化を阻止するためにも、継続的な組織化が必要とされる。すでにある市議は、「研修賃金」の導入を提案している(研修を名目に最低賃金の適用を除外する)。


(「レイバーノーツ」誌5月6日付レポートより要約)

 

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