アジア@世界
喜多幡 佳秀&稲垣 豊 ・訳(APWSL日本)
891号

★英国:緊縮政策に抗議5万人がデモ

 6月21日、ロンドンで「ピープルズ・アセンブリー(人民議会)」の呼びかけで緊縮政策に反対するデモが行われ5万人が参加した。
 国会前での集会で、コメディアンのラッセル・ブランド(人民議会代表の1人)さんは次のように語った。


 「この建物(国会)の人たちの大部分は私たちを代表していない。彼らは大企業の友人たちを代表している。今こそ私たちが私たちの権力を取り戻す時だ。
 これは平和的で、容易で、楽しい革命になるだろう。私は人民議会に参加できて非常にうれしい。
 ……今日の行動は始まりに過ぎない。来月には公務員のストライキが計画されており、10月にはTUC(労働組合会議)との共同で大きなデモが計画されている」。


 人民議会代表のクレア・ソロモンさんは、「何百万人もの人々の福祉のためには、連立政権による緊縮政策が人々の生活や私たちの公共サービスに長期に及ぶ打撃を与えてしまう前に、緊縮政策を止め、連立政権を終わらせなければならない」と訴えた。
 人民議会全国書記のサム・フェアバーンさんは、「歳出削減は人々の命を奪っており、何世代にもわたって人々を支えてきたかけがえのない公共サービスを破壊している」と指摘した。
 「戦争反対連合」やCND(非核キャンペーン)の活動家たちもデモに参加した。


 人民議会は昨年2月に「ガーディアン」紙に掲載された公開状を基に結成され、呼びかけ人にはトニー・ベン(かつての労働党左派のリーダー、今年3月に死去)、映画監督のケン・ローチ、ジャーナリストのジョン・ピルジャーの各氏が名を連ねている。
 この公開状は、人民議会の目的について、次のように述べている。

 

 「これは自分たちの賃金、雇用、生活条件、福祉が政府による新たな攻撃にさらされている中で、長期間にわたる困窮や不安に直面している何百万人もの人々に対する呼びかけである。人民議会は緊縮政策に反対する意見―それはますます多くの人々に支持されるようになっているが、議会に反映されることは稀である−−を結集する全国的なフォーラムとなるだろう」。 (「ガーディアン」紙6月21日付より)


 7月10日には公共部門の労働組合が一斉にストライキに入る。これに先立って税務署・税関の労働者たちは人員削減に反対して6月23日から1週間にわたって全国のリレー・ストライキを貫徹した。
 さらに、国民健康サービス(NHS、国営の医療サービス)の解体に反対する母親たちの呼びかけで、「NHSを守るための人民の行進」が準備されている。この行進は8月16日にイングランド北東部のジャロウを出発し、各地で集会やアクションを組織しながら9月6日にロンドンに到着する。これは1936年10月のジャロウ行進(大恐慌の下での失業と貧困に抗議して、市民や労働者がジャロウからロンドンまで約480キロを行進した)と同じコースである。
 TUCは来年5月の総選挙も射程に入れながら、10月18日に賃上げ要求の大規模なデモを計画している。

 

 

 

★ギリシャ:解雇争議を闘う清掃労働者500人に共感拡大

 以下は「アルジャジーラ」ウェブ版6月13日付の「ギリシャの500人」と題するレポートの抄訳である。このレポートのリードでは、「500人の女性がギリシャ政府に果敢に立ち向かい、労働者の権利のために闘っている」と称賛している。


 サマラス首相が6月10日に内閣を改造し、最初の閣議を開催した直後に、キキリアス公安相は、財務省の清掃労働者の解雇撤回闘争に警官隊を動員した。
 財務省の庁舎や税務署、税関等の清掃に従事していた500人の女性労働者たちは、省令による一方的な解雇に抗議して闘っている。
 この解雇は支出削減のためとされているが、実際には賃金が大きな財政負担になっているわけではないし、むしろ民営化によって清掃のコストは上がっている。
 この500人の女性たちの運命は、現在のギリシャでは新しいことではない。この数年、労働者たちは自分の権利を守るために街頭に出なければならなくなっている。


 全般的に、サービスの民営化と臨時雇用の拡大は奴隷的な搾取と結びついている。欧州議員に選出されたコンスタンティナ・クネバさん(SYRIZA)の経験はその典型例である。
歴史学の研究者だったクネバさんは、01年にブルガリアからギリシャへ移住した。当時東欧の多くの国が直面していた金融危機のためである。
 彼女は03年にオイコメット社に清掃作業員として雇用された。同社はアテネ鉄道サービスと契約を結んでいる。彼女は同僚たちの労働条件(低賃金、社会保険なしなど)を見て、アテネの清掃作業員労組に加盟。まもなく組合リーダーの1人となった。それ以降彼女は、大組合に無視されてきた清掃作業員の権利のための闘いを続けた。殺すという脅迫が繰り返されたが、それを無視してきた。


 08年12月のある夜、クネバさんはアテネのダウンタウンで、2人の男に背後から顔に硫酸をかけられ、残った硫酸を口に流し込まれ、危うく殺されるところだった。
 警察は犯人を検挙できず、誰も処罰もされていない。アムネスティー・インターナショナルなどの人権団体の提訴により、裁判所はクネバさんを雇用していたオイコメット社が、彼女が殺しの脅迫を受けた時点で適切な保護をしなかったことに責任があると、罰金の支払いを命じた。
 彼女は適切な治療によって命を取り留めたが、今でも外科手術を受けている。彼女はこれから、欧州議員としてギリシャの労働者の闘いをEUに持ち込むだろう。


 一方、アテネの財務省の清掃労働者たちは闘い続けるだろう。裁判所は財務省による解雇を取り消し、労働者たちの原職復帰を命じる判決を下したが、政府は6月12日に高裁に控訴した。そのため、高裁の判決が下されるまで解雇取り消しの判決は執行されない。
 政府機関によって解雇された労働者の一部は、半分の賃金で再雇用されるだろう。場合によっては保険もない。また、雇用主からの脅迫に対して反撃する手段もないだろう。緊縮政策の下での労働コスト切り下げとはこういうことだ。


 ギリシャの高い失業率については多くのことが伝えられている。しかし、労働者の生活を脅かしているもう1つの側面がある。つまり、賃下げと労働条件の劣悪化、そして交渉力の喪失である。
 500人の女性労働者たちは、コンスタンティナ・クネバさんが自分の身体を犠牲にして始めた闘いを継続している。彼女たちはすでに法律上の闘争で国家に対して勝利したにもかかわらず、依然として保守政治家、主流メディア、そして警官隊による攻撃を受けている。

 6月10日の弾圧後も、彼女たちの財務省へのデモに警官隊が暴力的に襲いかかった。しかし、他の労働者や左派の活動家たちが彼女たちを支持している。

 


 

★アルゼンチン:ITUCが米国最高裁判決を非難

 米国最高裁は6月7日、2002年のアルゼンチンの債務不履行の際に債務再編に応じなかった債権者が同国政府を訴えていた裁判で、原告勝訴の控訴審判決に対するアルゼンチン政府の上訴を却下した。一審および控訴審の判決によると、アルゼンチン政府は原告に13億3千万ドルの賠償金を支払わなければならない。


 実際には、原告のNMLキャピタル社とアウレリウス・キャピタル・マネジメント社は、当時の債権者から二束三文で買い上げた債権を保有している、いわゆるハゲタカ・ファンドであり、米国における裁判には何の正当性もない。アルゼンチン政府は、米国裁判所の不当な決定を非難、国際社会に同政府の立場への理解を求めている。
 以下は、この問題に対するITUC(国際労働組合総連合)とTUCA(米州労働組合連盟)の6月25日付の声明である。


 ITUCとTUCAは、債務の支払いの形で数億ドルを略取しようとする「ハゲタカ・ファンド」に味方した米国の裁判所を批判してきた。裁判所の決定は、05年と10年にアルゼンチン政府との間での債務再編交渉に応じてきた90%余の債権者に対する返済の実施にも影響を及ぼす。
 アルゼンチンも、他のいかなる国も、対外債務の返済にあたっては、自国の利益を守り、国内経済の安定を維持するような方法で、そして自国の生産能力を損なわず、社会経済的発展を妨げないような方法を採用する権利を保有していなければならない。
 米国の裁判所の決定は、債務再編を実施している全ての国の交渉力を弱め、実体経済の犠牲の上に金融投機を助長するものである。
 アルゼンチンは債務問題について着実な前進を遂げてきたが、この米国の決定はこの前進を無に帰すだけでなく、国民経済と主権、大多数の一般市民の犠牲の上に金融投機筋に報酬を与えるものである。
 われわれは裁判所が、少なくともこの決定の実施を猶予するというアルゼンチン政府の要求に留意すると確信している。
 「ハゲタカ・ファンド」はその名の通り、債務の履行が困難になった国の債権を安く買い取り、その後その国からその数倍の金額の返済を受け取るために訴訟を起こしており、それは破滅的な経済的・社会的影響をもたらす。
 ヘッジ・ファンドの成功者で、億万長者のポール・シンジャーが保有するNMLキャピタルは、判決の実施を猶予するというアルゼンチン政府の要求にも反対していると伝えられている。

 

 

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