アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
926+7号

★英国
  スポーツダイレクトの搾取が明らかに

 「ガーディアン」紙は15年12月9日付で、スポーツダイレクト社による非正規労働者の搾取と人権侵害の実態の調査結果を明らかにした。

 それによるとスポーツダイレクト社(大富豪のマイク・アシュリーが所有する小売チェーン)の非正規労働者が受け取っている賃金は最低賃金以下である。
 倉庫作業員たちはシフトの終了時に身体検査を受けるが、そのための時間には賃金が支払われない。また、1分でも遅刻すると15分の賃金に相当する罰金が賃金から差し引かれる(一方、交替時に取り掛かっていた仕事を片付けるために退社が遅くなってもその分の賃金は支払われない)。
 その結果、多くの従業員の実質賃金(時間給)は65ポンドで、法定最低賃金の印ポンドを下回っている。

 同社では1日に最大5千人の労働者が出勤しているので、この差額の累計は年間で数百万ポンドになる。


 スポーツダイレクト社は倉庫作業員の労働条件についても多くの批判を受けてきた。同社の倉庫作業員の80%が「0時間契約」(労働時間の取り決めがない)である。
 作業が遅いとマイクでくどくどと説教される。6ヵ月間に6回「ブラックマーク」を受け取ると解雇される。これは作業上のミス、トイレ休憩が長すぎる、無駄な時間がある、おしゃべりが多い、倉庫の中でスマホを使った等の規律違反ごとに発行される。
 経営者が盗難予防に厳格であるため、倉庫で取り扱っているブランドを着用することは禁止されている。身体検査は入念に行われるため、平均的に15分を要する。

 付近の住民への取材で、ある学校教員は「スポーツダイレクトで働いている親たちは時間休暇を取るのを怖がっているので、子どもたちは病気でも学校に来るし、家に帰っても誰もいない」と語っている。


 スポーツダイレクトは業界でのシェアを拡大しており、高い収益を上げている。所有主のアシュリーは英国で第22位の富豪で、資産総額が35億ポンドである。
 同社の価格方針に関してさまざまな疑問が出されており、また、多くの公的年金基金がスポーツダイレクトの株式を購入している。そのため、「ガーディアン」紙は11月に人材派遣会社を通じて2人の記者を潜入させ、元従業員や現在の従業員に取材してきた。

 強制的身体検査を労働時間に含めないことが違法か否かについてEU法において確定した判決はないが、最近の欧州司法裁判所の判決(技術者の出張サービスの際の移動時間について)では、「(この移動時間は)短縮できないし、当該の技術者が自分のために自由に使える時間ではないので、雇用者の裁量下にある」とされている。
 これは身体検査のケースにも適用可能である。また、1分の遅刻で罰金を差し引くというやり方は最低賃金法に違反している。

 労働組合・ユナイトの地域の役員であるルーク・プリマロロは次のように述べている。
 「HMRC(歳入税関庁)は最低賃金への違反の疑いについて早急に調査する必要がある。この労働者の大部分は不安定な派遣契約で就労している。それ自体は違法ではないが、労働者が不当な待遇に異議を唱えることが事実上不可能になっている。仕事を失うことへの恐怖のためである」


 

★イラク
  中東の労働組合で初の女性リーダー

 国際産業別労組・インダストリオールに加盟しているバスラ電気労働者技術者組合総連合(GUEWT)のハシメヤ・アルサアダウェ委員長は、03年にイラクの全国労働組合で初の選挙で選ばれた女性リーダーとなった。アラビア語圏でも初めてである。

 

 イラクでは1987年にフセイン政権の下で公共部門の労働組合が禁止された。ハシメヤさんはフセイン政権が倒れた後、チャンスだと考えてバスラで若い労働者たちと協力して電力労働者の組合を組織した。

 彼女は次のように述べている。


 「組合を組織した後、私たちはエネルギー産業のすべての部門に労働組合委員会を設立しました。エネルギーの生産、輸送、分配にかかわる各部門にです。

 私たちは労働者の要求に対応し、また、持続可能なエネルギー生産を実現するために活動を始めました。私たちのやり方は話し合いですが、それが難しい場合は職場で座り込みをしたり、公休日に地方政府の庁舎ヘデモをすることもあります。また、メディアを通じて労働者や組合員の要求を示します。

 このすべての方面で多くの成果を上げてきました。たとえば、電力部門で約2500人の非正規雇用労働者を正規雇用にさせました。


 私が直面した困難としては、発電所での汚職と闘っていた時に、電力部門の腐敗した官僚と繋がる傭兵連中からの脅迫を受けたことがあります。

 しかし、死の脅迫を受けたのは私だけではありませんでした。同じような脅迫を受けた多くの愛国的な男たちや女たちが命がけで活動を続けました。

 後に私が議員評議会(国会)の議員に指名された時も、傭兵連中からの脅迫を受けました。このような脅迫は私の家族にも大きな負担になっています。特に、息子を殺すという脅迫を受けた時は、彼を学校から連れ出して、2カ月間休ませました。

 テロリストたちは多くの発電所や送電線をターゲットとしており、爆弾によって労働者が死亡することもあります」。

 

 ハシメヤさんによると、イラク国会は15年8月に新しい労働法を制定した。これは民間、混合、および協同組合セクターに適用されるが、公共事業法が適用される労働者には適用されない。
 新しい労働法は児童労働、女性差別とセクシャルハラスメントの禁止のほか、健康と安全に関わる改善、年休、産休の改善を含んでいる。


 ILO規約に対応する近代的労働法の制定にはインダストリオールなどの国際労働組合による連帯が重要な役割を果たした。しかし、労働組合法の施行まで公共部門の労働組合の禁止は継続する。現在国会でILO条約第87号の批准をめぐる審議が行われている。


 公共セクターにおける組合結成の権利と自由を明記した新しい労働法が必要である。また広範な汚職が重大な問題であり、ある統計によると03年以降、電力部門への投資に充てられるはずの姻億ドルが浪費された。

(インダストリオールのウエブより)

 

 

 

 

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