アジア@世界             喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
995号

★米国:米国警察官による暴力と人種差別に抗議
    フロイドさん殺害で状況が一変

 以下は「レイバー・ノーツ」誌電子版に掲載されたシェレンヌ・オラズクさん(米国州郡市町村職員組合第3800支部委員長)のレポート(6月3日付)の抄訳である。

 

 私は17歳のアフリカ系アメリカ人女性が勇敢にも撮影したミネアポリス警察によるジョージ・フロイドさん殺害のビデオを見て恐怖で身震いした。

 警察官のデレク・ショービンがフロイドさんの首を膝で押さえつけながらニヤニヤ笑っていた顔が私の脳に焼き付いた。フロイドさんが助けを請い、母を呼び、「息ができない」と何度も訴えるのを無視しながらである。

 

 他の3人の警察官がその傍らに立ちふさがり、誰もショービンを制止できないようにしていた。

 私はその映像を見て泣きながら、背景をよく見ると、フロイドさんが殺された現場が私の家から数ブロックの所であることに気づいた。

 

 ミネソタ州、特にツインシティー(ミネアポリス市とセントポール市)には警察官による残虐行為が放任されてきた長い歴史がある。

 過去5年間に40人以上が警察によって殺されました。その大部分はアフリカ系アメリカ人と他の有色人種である。

 

 ところが殺人罪で有罪となった警察官は1人だけであり、それは2018年に白人女性を殺害したソマリア系アメリカ人の警察官だった。

 

 労働組合の多くの一般組合員と支部は、私の支部を含めて、人種差別の撤廃と警察の責任究明を要求する運動に積極的に参加してきたが、ミネソタ州の労働運動の役員たちはこれまでほとんど沈黙してきた。

 声を上げた組合は保守的な白人組合員やミネアポリスおよびセントポールの警察官組合から強力な反発を受けてきた。

 

 私が属している米国州郡市町村職員組合(AFSCME)第3800支部はミネソタ大学の事務員の組合で、長年にわたって警察による抑圧の中止を求める黒人および褐色人種のコミュニティー組織の運動に組合員が参加するように働きかけてきた。

 2014年8月にファーガソンでマイク・ブラウンさんが殺されたとき、私たちの支部は州評議会の大会で公正な処置を求める決議を提案したが、刑務所等の支部の猛反対によって否決された。

 

 2015年に丸腰のジャマール・クラークさん(黒人)が警察官に殺害されたとき、私たちの支部は再び公正な処置を求める決議を採択し、組合員に抗議行動への参加を呼びかけ、警察の責任究明を要求する数百人の労働運動活動家の集会の組織化に協力した。……

 

 学校の調理人でチームスター第320支部の組合員であるフィランド・カスティールさんが近くのセントアントニー警察署の警察官によって殺害されたとき、セントポールとミネアポリスの教員組合を先頭に、さらに多くの労働組合が声を上げた。

 ミネアポリスの教員組合はアメリカ教員連盟(AFT)の全国大会中にデモと市民的不服従の行動を組織した。

 

 ジョージ・フロイドさんの殺害に対するかつてない規模の悲しみと怒りの決起は状況を一変させた。

 現場活動家たちが組合に行動を起こすよう要求しており、より多くの組合が組合員に対して、公然と組合員として行動に参加するよう促している。

 

 AFSCME第2822支部(ヘネピン郡職員の組合)は抗議活動の一環として毎日街頭に出ている。

 ジャマール・クラークさんが殺された後、多民族の現場労働者のグループが支部は人種間の公正のための行動を起こすべきだと主張し、支部の役員たちが消極的な姿勢を示したとき、役員選挙に対立候補として立候補し、勝利した。

 

 バス運転手の組合である合同交通労組第1005支部は組合員が警察官やデモでの逮捕者の輸送のためにバスを運転することを許可しないと表明した。

 他の州でも多くの組合が同じような行動を取るようになった。

 

 6月1日にAFSCME第34支部の反差別委員会は全組合員にメールを送り、黒人と有色人種の組合員には「追悼、服喪、自己回復、あるいは自分が受けた傷について率直に話すために、必要に応じて忌引きを取得する」よう呼びかけ、白人労働者には連帯のしるしとして、休みを取得する同僚たちの仕事を引き受け、休暇を寄付する」よう呼びかけた。

 同2日、ヘネピン郡はこの期間に全労働者に16時間の忌引きを認めると発表した。

 

 同日、ミネアポリス教員連盟は市の教育委員会の前に集まり、学校への制服警察官の配置に関するミネアポリス警察との契約を破棄するよう要求した。

 委員会は全会一致でこの契約を破棄することを決定した。

 

 労働運動の中ではミネアポリス警察官連盟に対する批判が高まっている。
 UNITEHERE第17支部は同連盟のボブ・クロール委員長の辞任を求めるオンライン署名を呼びかけている。彼は白人至上主義の団体との関係があると言われており、常に抗議運動を激しく非難している(彼は「ブラック・ライブズ・マター」運動を「テロ組織」と呼んでいる)。

 同2日にミネソタAFL・C10がクロールに辞任を求めた。……

 

 フロイドさんが殺害された翌日の平和的なデモに対して警察はゴム弾と催涙ガスを使用し、それによってより戦闘的な反応を引き起こした。

 数十のビルが焼かれ、数百の企業が破壊・略奪された。これは「外部の扇動者」あるいは挑発者の仕業だという多くの報道があるが、そうではない。

 

 ツインシティーは貧困率が高く、しかも多くの人がパンデミックで仕事を失ったか、あるいは必要不可欠な労働者として命を危険に曝している。
 反乱はフロイドさんが殺害されたことによって始まったが、それはシステム化されたレイシズムをめぐる反乱でもある。

 

 先週はまるで私たちが軍事占領下にいるように感じられた。
 外出禁止令、高速道路の閉鎖、公共交通の停止、街頭を支配する数千人の国家警備隊(州兵)、そして数百人の警察官。

 5月27日以来、ブラックホーク・ヘリコプターや警察・軍隊のドローンが四六時中轟音を立てている。

 眠りについたと思ったら、催涙弾を発射する音で目を覚まされる。

 外に出るといたる所で焼け焦げた臭いがする。

 

 抑圧と軍事化は恐ろしいが、公正を求める人々の力は肌で感じられる。

 時には数万人に達する群衆は多民族、多世代であり、大部分が貧しい労働者階級である。

 

★香港:天安門事件31周年集会禁止に抗して追悼集会

 1989年6月4日の天安門事件から31年。香港ではこれまで、中国国内で唯一、合法的に天安門事件の追悼集会が大衆的に開かれてきたが、今年は新型コロナ感染拡大防止を理由に、集会会場が封鎖された。

 

 しかし、民主派労働組合ナショナルセンターの職工会連盟(工盟、HKCTU)などの民主派団体、そしてこれまで中国民主化に敵対的だった香港本土派の一部も封鎖された集会会場を大衆的に占拠して天安門事件を追悼した。

 

 工盟は中国における労働者の権利確立が民主化につながるとして、中国の労働三権実現に向けても取り組んできた。また昨年6月から大規模に始まった逃亡犯条例反対運動にも参加してきた。

 今年は工盟主催のメーデー・デモが新型コロナを理由に警察から禁止されたが、街頭スタンディングで労働者の権利と中国と香港の民主化を訴えた。

 

 6月14日には新たに結成された労働組合とともに香港民主化のためのスト権投票を呼びかけている。

 以下は6月3日付の工盟の声明の抜粋である(翻訳は稲垣豊さん)。

 

 火種は消えず、抵抗は続く

 

 1989年6月4日、北京では人民解放軍の戦車が天安門広場に展開し、民主と自由を求めた青年たちの夢を打ち砕いた。

 31年後の6月4日、香港では、民主と自由を求める青年たちが、同じ政権による無慈悲な弾圧に直面している。

 

 昨年6月から始まった容疑者送還条例に反対する抵抗運動の爆発以降、この政権は民衆の訴えに対してまったく応えないだけでなく、……大規模な弾圧によって香港を「警察都市」に変えてしまった。

 

 大規模な集会やデモは何度も禁止され、今年はなんと香港返還(1997年)後はじめて[コロナ感染回避の]集合禁止令を口実に集会が禁止された。

 

 「容疑者送還条例」改正案は強い反対にあって可決できなかったが、中国共産党政権は香港に対する統制をさらに強化し、「一国二制度」「高度な自治」が有名無実になろうとしている……

 

 89年民主化運動を継いで、去年発生した香港の抵抗運動は、香港人の新しい世代にとって政治的な啓蒙となった。

 

 ……いま香港では、各産業ではたらく労働者らが次々と新しい労働組合を結成している。

 暴政に対して労働組合の連合戦線で対決する決意を固め、民主化闘争を目標とした新しい労働組合のムーブメントが誕生している。

 

 89年のときにも労働者の自主連合組織が中国各地で花開いた。それは天安門事件後に大規模な逮捕や弾圧に遭ったが、労働者の抵抗の果実は各地にばらまかれた。

 

 31年を経た今日も、その火種は消えていない。

 香港の自主労働運動は当時の労働者の自主連合の抵抗精神を引き継ぎ、誰もが平等な民主制度の確立のため戦うだろう。

 

 

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