アジア@世界
795号

●中国
ストライキの拡大、組合代表の民主的選挙が焦点に

 広東省の工場でのストライキが世界の注目を集めている。
 はじめに、世界最大の電子機器メーカーのフォックスコム(富士康、従業員54万人)での労働者の飛び降り自死についての報道が広まった。同じ時期にホンダの部品工場で約2千人の労働者が2週間にわたってストを行い、同社の4つの組み立て工場で生産が止まった(本誌6月15日号を参照)。
 中国政府が発行する英字紙「チャイナ・デイリー」の6月18日付に掲載されたアニタ・チャン・シドニー工科大学教授(中国研究センター)の論説は、次のように述べている。「この2つの出来事に直接の関連はないが、原因はよく似ている。安い賃金、長い労働時間、不満を解決する手段がないこと、労働組合の支部はあるが名前だけであること」。
 フォックスコムでは労働者が絶望から死を選び、同工場の労働者の置かれている状況が世界的に知られるようになったが、労働者の抵抗運動は起こっていない。一方、ホンダの工場では労働者たちは自分たちを組織し、戦略的・積極的に行動し、大幅賃上げや自分たちの代表を選出する権利を要求、連帯と勝利まで闘う決意を表現した。
 チャン教授によると、フォックスコムの労働者の受動性は、農村出身の労働者の一般的な態度であり、彼ら彼女らは肉体的に我慢の限界に達した時や、法律上の権利が侵害されたり、賃金が支払われないときにだけ立ち上がる。それに対してホンダの労働者は、最小限の法律上の権利を守るというよりは(経営者が法定最低賃金を守っていなかったわけではない)、将来に備えて、賃上げや労働条件の改善を要求している。これは農村出身の労働者の行動としては、これまでになかったことである。
 総工会はホンダのストが労働者の抵抗としてはこれまでとは異なる形態であることを認識。問題の核心は労働組合の役割とは何かということであり、このストは巨大な影響をもたらす可能性がある。フォックスコムでは労働組合は声明を出すことさえなかった。ホンダでは労働組合は露骨に行政機関の側に立ち、行政機関は経営者の側に立った。いずれの場合も、農村出身の労働者の「労働組合は役に立たない」という固定的なイメージをそのまま体現した。
 チャン教授は、総工会がこのような名ばかり労組を一掃して、労働者が職場の組合代表を選出できるようにするべきだと提言している。また、総工会は職場レベルで団体協約を締結することを奨励しているが、多くの組合は資本家や経営者との交渉の経験を持っていないことを指摘している。このことは6月9日付の「人民日報」の社説でも認識されている。この点で総工会は他の国の労働組合との経験交流を進めるべきだとチャン教授は提言している。
 ホンダ工場のストに続いて、6月15日から17日にかけて、天津のトヨタのいくつかの工場で労働者が賃上げを要求してストに入った。同17日には別のホンダ工場でもストが始まった。同21日には、ホンダやトヨタに自動車部品を供給しているデンソーの労働者がストに入り、同22日にはNHK・UNIスプリングでもストが始まった。このため広東省でホンダとトヨタの組み立て工場は操業停止に追い込まれた。労働者は大幅賃上げやボーナス・手当の増額、労働環境の改善(特に暑さや化学薬品の蒸気)、健康等を要求している。同29日には天津のミツミ電機の3千人の労働者がストに入った。
 香港の「チャイナ・レイバー・ブレティン」によると、5月にストライキが行われた佛山のホンダの部品工場では、ストの際に労働者を支援しなかった組合への批判が強まり、組合の改革と選挙によるリーダーの選出が進められている。広東省総工会のコン・シャンホン副委員長は次のように述べている。「多くの外資系企業の組合の役員は、実際には経営者によって任命されている。ホンダの工場での職場民主主義を強化するためには、組合の代表を労働者の選挙によって選出するだけではなく、毎年その活動実績が評価される必要がある」。同副委員長によると、この制度はすでに省内のいくつかの工場で試験的に導入されている。「チャイナ・レイバー・ブレティン」は、広東省総工会のこの動きを正しい方向への前進であると評価しつつ、毎年の実績評価が全組合員参加の下で透明な方法で行われ、結論が拘束性を持つようにすべきであると指摘している。
 一連のストの圧力を受けて、北京、シェンツェンなど10の省や市で7月1日から最低賃金が約20%引き上げられた。他の省でも最低賃金引き上げが検討されている。しかし、労働者はもっと大幅な賃上げを求めている。たとえば、デンソーの労働者の要求は約60%の賃上げである。

●バングラディシュ
賃上げ要求でもを警官隊が攻撃、負傷者多数

 6月19日朝、ダッカ近郊のサバールで、賃金引き上げを要求する数千人の労働者のデモを警官隊がゴム弾、催涙弾、放水車、棍棒などで攻撃した。労働者たちは投石で反撃し、ダッカ・タンガイル間の高速道路上で20数台の自動車を破壊し、3時間にわたって道路を封鎖した。この中で警官20人を含む約100人が負傷し、付近の50の工場で生産が停止した。
 この日、ナサ・グループの衣料工場の労働者が月5千タカ(1タカは約1.3円)への最低賃金引き上げを要求してストに入った。午前8時半ごろ、会社側の挑発的な行動に憤った労働者たちは工場内で機械や設備の破壊を始めた。半時間後に、同グループの7千人の労働者が工場から出て、ニシュチンタプールのバス停へ向かったが、警官隊が阻止線を張り、衝突が始まった。その後労働者たちは分散してニシュチンタプール地区のハ・ミーム・グループやシャリミン・グループなどの30余の工場に向けデモを行い、これらの工場の労働者もデモに合流した。労働者のデモは数日にわたって続き、数万人が参加した。
 ITUC(国際労連)によると、バングラデシュの衣料労働者の賃金は世界で最も低水準であり、平均で月2千タカである。労働条件も劣悪であり、経営者が契約した賃金を支払わないケースも多い。防災設備も貧弱で、火災が頻発している。多くの工場では労働組合が存在しない。
 バングラデシュでは09年に6人の衣料労働者が、ストやデモに対する警察官や警備員の攻撃によって殺害されている。政府は昨年末に、衣料工場での労働組合の設立促進を発表したが、経営者や経営団体は抵抗している。
 バングラデシュでは衣料産業は最大の輸出産業であり、09年の輸出高は120億ドルである。この産業で300万人が雇用されており、その大部分は女性である。
 バングラデシュ労働組合センターの書記のワズデル・イスラム・カーンさんによると、ダッカや周辺の地区では、毎日のように労働者が最低賃金引き上げ要求のストやデモを行い、警官隊と衝突している(「ザ・デイリースター」、「ヒンドゥスタン・タイムズ」等より)。

●韓国
政府が移住労働者の取り締まりを強化

 11月に開催されるG20サミットを前に、政府は許可証のない移住労働者の取り締まりを強化しており、人権侵害への批判が強まっている。特に、2000年に罰金を払えなかった労働者が自死したことを契機に廃止された罰金制が再導入され、取り締まりにより拘束された移住労働者は罰金を払った後に国外追放されることになる。移住労働者のグループは、これは二重の処罰だと抗議している。
 6月30日に、移住者共同委員会(JCMK)、民主労総、移住労働者組合(MTU)の代表がソウル中区の全国人権委員会(NHRCK)で記者会見を行い、移住労働者への人権侵害監視グループ「キャッツ・アイ」の設立を発表した。
 記者会見では、取り締まりの際の暴力や不当な罰金の強制の事例も報告された。
 フィリピン人のGさんは、6月初めにインチョンの工場で逮捕され、罰金を支払わされた後に国外追放された。テグの移住労働者のグループによると、ある労働者は未払い賃金を受け取った後で罰金を払うように命じられた。預金通帳やネックレスなどの所有物を差し押さえられるケースもある。
 JCMKの活動家のリー・ヤングさんは、「政府はG20を前に、許可証のない移住労働者の取り締まりを強化しており、この中で工場、住居、街頭、地下鉄の駅、バス・ターミナルなどあらゆるところで、昼夜を問わず人権侵害が頻発している」と指摘した。
 中国籍の朝鮮人のユンさん(48歳)は、スウォンの入管職員が彼に手錠をかけたまま腹を蹴り、顔と背中を殴打したと訴えた。
 08年9月に法務省は、2012年までに「不法移民労働者」を当時の22万人から10%減らすと言っていた。昨年末の韓国移民局の統計によると、取り締まりにあたる職員数は07年の約2万人から、08年は約3万人、09年は3万1千500人と増え続けている。
 法務省は、現在の集中的取り締まり期間は6月7日から1ヵ月間だと言っているが、何人が逮捕されるかはまだわからない。(「ハンギョレ新聞(英語版)」より)

●米国
港湾労働者が イスラエル貨物船の荷役をボイコット

 6月20日朝、サンフランシスコの港湾労働者がイスラエル貨物船の荷役作業を拒否した。この日、700人の労働者・市民が5月31日のイスラエル軍によるガザ救援船の襲撃に抗議して、オークランド港のいくつかの入り口で午前5時半から午後7時までピケットを張り、荷役作業を完全に阻止した。
 港湾倉庫労組(ILWU)第10支部の労働者たちは、労働協約の「健康と安全」条項を活用して、労働者・市民によるピケットを越えないことを決定した。この日は2つのシフトが組まれていたが、荷役会社は2番目のシフトでも労働者が作業を拒否することを予想して、シフトをキャンセルした。
 スウェーデンでも港湾労働者が、パレスチナ労働組合総連合の呼びかけに応えて同様の行動を行った。ノルウェー、マレーシア、南アフリカでも港湾労働者はイスラエル貨物の荷役作業を拒否すると宣言している(「レイバーノーツ」ウェブ版より)。

●フランス
年金「改革」公務員定年引き上げ反対のストライキ

 6月24日、サルコジ政権の年金「改革」計画とそれに伴う公務員定年の引き上げ(60歳から62歳に)に反対して交通、学校、郵便、電力などの労働者がストに入った。CGTによると公務員の約2割がストに参加した。
 全国200の都市でデモが行われ、公共セクターと民間セクターの200万人以上の労働者が参加した(警察発表で79万7千人。これは5月27日のデモ(本誌6月15日号を参照)の2倍である。パリのデモには13万人が参加(警察発表は4万7千人)した。「サルコジよ、私たちの年金に手を触れるな」と書かれた横断幕が掲げられ、ダンボールで作られた柩には「ロジャー(60歳)は定年を迎える前に死んだ」と書かれていた。  政府は年金の赤字削減は不可欠だと言っているが、組合側は、定年を過ぎても働く人たちの税を増やすべきであり、年金のコスト削減は苦労して勝ち取ってきたライフスタイルへの攻撃だと主張している。  年金「改革」案は7月に国会の提出され、9月に採決が行われる。9月にはさらに大規模な反対運動が計画されている。
 フィヨン首相はストライキの翌日(6月25日)に、公務員の賃金を今後3年間凍結することを検討していると発言した。組合はこの発言に抗議して、労働相との交渉をキャンセルした。
 ある世論調査では、フランス人の3分の2がストライキを支持しているが、別の世論調査では58%が定年引き上げに賛成している。ATTACなどの市民団体も年金改革反対を掲げて広範な運動を展開している。

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