アジア@世界
793号

●タイ
「労働・人権活動家ソムヨットさんの即時釈放を」

 5月24日、UDD(反独裁民主戦線、「タクシン派」)に対する事後弾圧の中で、労働・人権活動家のソムヨット・プルクサカセムスク氏と、チュラロンコン大学助教授(歴史学)のスタチャイ・インプラサート助教授が逮捕された。彼らは5月21日に「6月24日民主主義グループ」を代表して記者会見を開き、アビシット首相の辞任等を要求した。チャクティプ警察少将の下の治安部隊が彼らに対して、非常事態宣言に従わなかったとして逮捕状を発行した。彼らは混乱を避けるため、同23日に声明を発表した後に出頭した。
 ソムヨット氏は、CLIST(タイ労働者情報教育センター)の代表、ICEM(国際化学エネルギー鉱山一般労連)のタイにおけるコーディネーター等の立場からタイの労働者の人権を擁護してきた。
 ソムヨット氏の声明によると、彼らは「民主主義連盟」を設立し、5月30日にラチャブリ県でデモを行い、6月24日(1932年の「立憲革命」の記念日)にバンコクで集会を開くことを計画していた。
 ソムヨット氏はこの間の反政府運動の中ではジャーナリストとして「タクシンの声」誌を発行していた(昨年7月に創刊)。同氏によると、この雑誌は「赤シャツ」の中の1つの傾向を代表しており、必ずしもタクシンの立場を反映しているわけではない。彼は2006年9月の軍によるクーデターに反対するために多くの記事を発表し、07年7月にUDDの初期のリーダーたちが逮捕された後に「赤シャツ」の中心的なリーダーの一人となった。彼は昨年には闘争の中心からは退き、雑誌やメディアでの活動に専念し、スタチャイ氏とともに衛星テレビのネットワークを通じて民主運動の主張を伝えてきた。
 彼は「赤シャツ」の運動について、次のように述べている。「……私が赤シャツの闘争に参加したのは、タイ社会に民主主義が存在しないと思ったからです。不平等、差別、ダブルスタンダード(二重基準)がはびこっており、民主党主導の連合政権の下で一層悪化しました。赤シャツは、政治的に覚醒した人たちです。彼ら・彼女らは自分たちが第二級の市民として扱われていることに気付きました。だから彼ら・彼女らは自分たちのことを自嘲を込めて『プライ』(平民)と呼んでいます」。
 ソムヨット氏は、多数の犠牲者を出した軍による暴力的弾圧について、UDDのリーダーたちがアビシット政権の非人道的性格について評価を誤り、軍や警察の残忍な弾圧を予想していなかったと指摘する。しかし、「私はいかなる暴力的手段も支持しない。まだ希望はある」と述べている。
 スタチャイ氏は同31日に釈放された。これは獄中でのハンストや、大学の教官や学生からの圧力によるものである。ソムヨット氏は同日現在、まだ拘留されている。

●中国
「ホンダの部品工場でストライキ」

 以下は、グローバリゼーションモニター、職工会聯盟(CTU)、アジア・モニター資料センター(AMRC)等の団体の6月1日付の支援要請の要旨である。
 広東省佛山市のホンダ自動車部品製造有限公司の労働者のストが16日目に突入しました。
 この工場の約1千800人の労働者のうち8割が技術学校に在籍中の実習生です。会社との契約によると、労働法は適用されず、賃金は月900元で(この地域の最低賃金は920元)、社会保険にも加入していません(1元は約13円)。しかし実習生の仕事は正社員と全く同じです。ホンダは若者を搾取し、法的責任を回避しようとしているのです。
 学校の募集では、会社は食事と住居は保証すると約束しましたが、実際には一食分しか保証されず、宿舎の光熱費は賃金から天引きされ、手取りは700元をわずかに上回るだけです。実習生は12〜16ヶ月の「実習」を終えて卒業証書を取得したのちはじめて正社員になることができます。しかし正社員になったとしても手取りは1千元程度にしかならないのです。
 5月17日、労働者たちはストに突入しました。会社側が招集した従業員総会で、労働者たちは108項目の要求を提起し、会社側の要望を受け入れて30名の代表を選出しました。その後、会社側は誠意ある交渉に応じないだけでなく、3名の労働者側代表を解雇し、見せしめにしようとしたのです。
 その後、会社側は55元の食事手当を提示し、また、実習生の賃金を477元増額(正社員は355元のみ増額)すると提案してきましたが、労働者たちは5月27日に、再度会社側に以下の要求を提出しました。
(1)基本給の800元増額と、年15%以上の昇給。
(2)年齢手当の加算(毎年100元の増額、10年を上限)。
(3)ストに参加した労働者に対する報復を行わないこと、解雇された労働者を復職させること。
(4)労働組合を再組織し、委員長及び関連役員の再選挙を行うこと。
 5月28日、会社側は再度新たな提案を行いました。実習生の賃金を634元増額(正社員は355元のみ増額)というものでした。同時に、5月31日午前9時までに「ストをしない」という「承諾書」に署名・提出することを要求し、実習生の学校の教員を呼んで現地政府の役人といっしょに実習生に圧力をかけています。これらの一連の過程の中で、労働組合はストに参加した労働者に何ら支援の手を差し伸べないだけでなく、逆に早く自分の持ち場に戻り生産を再開するよう労働者に要求しています。
 5月31日、会社側は交渉を拒否し、仕事に復帰しない労働者は解雇すると恫喝しました。ホンダの労働者代表による私たちへの訴えと現地の報道によれば、同日、労働組合証をつけた200名以上の人間が、ストを堅持している40数名の労働者に暴力をふるい、何人もの労働者が怪我をしました。私たちはこの暴力行為を厳しく非難するとともに、中華全国総工会がこのデタラメな行為を調査し、態度を表明すること求めます。ホンダの管理者、その場にいた政府役人、警察がこの事態に対して見て見ぬふりをしたことにも、私たちは強い憤りを感じます。 ホンダ労働者のストは16日目に突入します。「在庫ゼロ」政策によって多くのホンダの組立工場も操業停止に追い込まれました。ホンダはこれからも労働者に対して仕事に戻ることを迫り、そして報復措置を取ることが予想されます。ストを堅持している青年労働者たちは今まさに巨大な力に直面しています。国際的な支援と声援が必要です。(翻訳、稲垣豊)

 中国ホンダの争議は、世界のメディアで大きく取り上げられており、香港の支援団体が呼びかけているウェブ署名には世界各国から支持が寄せられている。
 5月28日付「ニューヨーク・タイムズ」紙は、「(ホンダの巨大な工場は)突然、この国の所得格差やインフレ、不動産価格の高騰との闘争のシンボルとなった。おそらくもっとも特徴的なことは、政府当局が一定範囲内でストを容認しているということだ」と論評している。全国から国営メディアのレポーターが押し寄せ、ストの様子を伝えていた。しかし、政府は突然、5月29日の朝以降、国内のメディアがこのストを報道するのを禁止した。
 同紙は、一定範囲内での容認という政府の立場の背景として、世界に向けた輸出国としての中国の役割から考えて一定の賃上げが必要であるという意見が政府関係者やエコノミストの間で強まっていることを指摘している。また、低賃金は国内消費市場の拡大を妨げるという懸念もある。
 この工場の労働者たちのほとんどは10代後半から20代前半の若者であり、1989年の天安門デモへの弾圧以降に生まれた者が多い。政治的な活動には関わっていない。スト参加者の一人は「800元(の増額)をもらえたらすぐにでも仕事に戻りたい」と言っている。
 「中国日報」紙は5月28日の論説で、ホンダのストは、賃金問題に対する政府の無対応が労働者と経営者の緊張を激化させることを証明しているとして人的資源・社会保障省を批判した。
 北京の中国労働関係学院(CIIR)の労使関係部副部長のチェン・チャオは、次のように述べている。「このストは中国の労使関係の歴史における重要な発展だ。このような大規模かつ組織的なストは中国の労働組合システムに対して、市場経済に適応するように変化するよう促すだろう」。

●ドイツ
「DGBが投機の規制と金融取引税導入を要求」

 DGB(ドイツ労働総同盟、8労組・630万人)は5月16日から3日間、ベルリンで定期大会を開催し、ミヒャエル・ゾンマー委員長を再選した(3期目)。ゾンマー委員長は、「雇用と所得は公平に分配されなければならない。出身や人種や性に関わりなく、機会が平等に与えられなければならない」と述べた。メルケル首相は08年の金融危機を引き起こした米国企業と米国の投機市場を非難し、国際的協調の重要性を訴えた。しかし、金融取引税の導入を否定し、IMFが提唱している銀行活動税の導入(将来の危機の際の救済基金に充てる)を擁護した。ゾンマー委員長は、「メルケル首相は金融取引税を導入するべきだ。強欲な投機人たちへの忍耐もここまでだ」と発言した。彼はギリシャの国債に賭けている投機人たちが次にはスペイン、ポルトガル、イタリア、アイルランドなどの国をターゲットにし、いずれはドイツにも向かってくると警告した。大会ではナチズムおよびファシズムとの闘いも重要なテーマとなった。クラウス・ヴォーヴェライト・ベルリン市長は、5月1日にベルリンで数千人がナチズムのデモに反対して立ち上がったことを称えた。

●フランス
「『年金改革』に反対し75万人がデモ」

 サルコジ政権が「年金改革」の一環として定年を現行の60歳から62歳または63歳に引き上げようとしていることに反対して、労働組合や社会運動団体、市民運動団体が共同で闘いを進めている。5月23日には、公共部門の労働者がストに入り、パリをはじめ各地で大規模なデモが行われた。サルコジ大統領は定年の引上げに政治生命をかけており、「年金改革」をめぐる攻防はサルコジ政権に対する批判と不満の象徴となっている。政府は年金制度が毎年100億ユーロの赤字を蓄積しており、継続不可能であると言っているが、世論調査では国民の60%以上が、金持ちや企業への増税によって現行制度を維持できるという野党の主張を支持している。

●ポルトガル
「緊縮財政に反対して数万人がデモ」

 政府が5月13日に発表した新たな増税、賃金カット、支出削減に反対して、CGTP(ポルトガル労働総同盟、72万5千人)が同29日、リスボンでデモを行い、数万人が参加した。CGTPのリーダーのマヌエル・カルバロ・ダ・シルバ氏は、緊縮政策に反対するために闘争を拡大し、ゼネストを含むあらゆる手段に訴えると語っている。ポルトガル政府(社会党と社会民主党の連立)は投資家の信頼を回復するために財政赤字の対GDP比を09年の9.4%から、10年に7.3%、13年までに2.8%に下げることを計画している。(「ロイター」5月29日)

●ギリシャ
「5.20第4波のゼネスト」

 5月20日、政府の緊縮財政政策に反対する今年4回目のゼネストが行われ、アテネではスト参加者数万人が国会に向けたデモに参加した。
 今回は、公務員の賃金引下げ等の400億ユーロの歳出削減のための法律が国会で可決された後の最初の行動だった。デモ参加者たちは国会に向かって「泥棒! 泥棒!」と叫んだ。
 アテネ中心部には多数の警官が配置され、数十人の活動家が事前検束されたが、デモは平和的に行われた。
 労働組合は、6月にも政府が計画している年金改革(定年引き上げ)に反対してゼネストを計画している。

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