アジア@世界
787号

●イタリア
移住労働者が初の全国ストライキ

 3月1日、イタリアの移住労働者が初めての全国ストライキに入った。これはイタリアで住み、働く移住者の存在をアピールし、レイシズム(人種差別主義)と闘うことを目的としている。「われわれがいない1日」委員会の呼びかけで全国の60ヵ所で集会・デモが行われた。
 移住者のストライキはフランスで始まり、イタリア、ギリシャ、スペインへ広がっている。黄色のシンボルカラーの旗の下に、EU市民と移住者の第2世代、そして「レイシズムとあらゆる形態の差別を拒否するすべての人々」に参加が呼びかけられた。この運動のリーダーたちは、2006年に米国で起こったラテンアメリカ出身労働者の運動に触発された。
 この日、イタリア各地で、エスニック・ランチの提供、レイシストの落書きの除去、「ニューイタリアン」の写真を並べた写真展、青空外国語教室、学生たちによる「不法移民」のレッスンなどさまざまなイベントが組織され、午後6時半には全国の集会場で一斉に黄色の風船が飛ばされた。インターネット(特に、フェースブック)を通じて自然発生的に人々が集まった。主要な労働組合はストライキには参加しなかったが、移住労働者たちの行動への支持を表明した。アムネスティー・インターナショナル、PIME(外国宣教会)、レガムビエンテ(環境運動団体)や、緑の党、共産主義再建党などの政党もこの行動を支持した。
 イタリア全国農民連合(コルディレッティ)の代表は、移住労働者のストライキに関連して次のように指摘している。「イタリアの多くの良質の食品は、移住労働者なしでは作れない。トレンチノのノンバレーのリンゴの収穫も、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズの生産のための乳牛の飼育も、ワインのためのブドウの収穫も、ローマン・チーズのための羊の飼育もすべてそうだ」。イタリアの農村で働く人のうち10%以上がEU域外から来た人たちである。イタリアの約3万戸の農民が、EU域外から来た労働者を雇用している。イタリアの農村では、9万人以上のEU域外からの移住労働者が定期的に働いている。その国籍は155ヵ国に及び、多いのはアルバニア人(17%)、モロッコ人(13%)、インド人(14%)である。
 カトリック・カリタス・マイグランツ財団が昨年秋に発表した統計によると、イタリアでは登録されている外国人の数は450万人(人口の7.2%)で、多くの場合、イタリア人が好まない仕事を担い、GDPへの寄与率は10%に近い。イタリア銀行の調査によると、06年に外国人が納めた個人所得税、付加価値税、社会保険料は全体の4%に達している。
 しかし、最近では政府や右派政党は、特に選挙を前にして、外国人への恐怖を煽り、治安・規制を強化しようとしており、若者の間で人種差別的な感情が高まっている。
 フランスでは、アフリカ人の労働者やアジア諸国から来た看護師たちが中心となって運動が広がってきた。彼ら・彼女らはフェースブックを活用して、運動を他の国へも拡大してきた。3月1日は、05年にフランスで「外国人の入国、居住、亡命に関する法律」が制定された日であり、活動家たちはこの法律について、「移住問題を功利主義的にのみ考えている」と批判している(「ANSA」通信、「ニューヨークタイムズ」、「ガーディアン」より)

●米国
オレゴン州の州民投票で富裕層への増税を承認

 オレゴン州で1月26日に、公教育や社会サービスの予算を確保するために富裕層および企業を対象とした増税を行うことに関する州民投票が実施され、54%の賛成で承認された。
 オレゴン州の州議会は民主党が多数で、昨年、富裕層(年収12万5千ドル以上、またはカップルで年収25万ドル以上。住民の3%)および企業を対象に7億2700万ドルを増税するための2つの法案(法案第66および67号)を可決し、今年度予算にすでにこの税収が組み込まれているが、企業グループがこの法案を州民投票に付すことを求める署名を集め、署名が規定数を超えた。

 SEIU(サービス従業員組合)、オレゴン教育労働者連盟、AFSCME(アメリカ州郡自治体職員連盟)などの労働組合や市民団体がこの法案を支持する広範なキャンペーンを組織した。
 「レイバーノーツ」3月号で、ジョブ・ウィズ・ジャスティス(公正な雇用を)・ポートランドの執行委員のマーガレット・バトラーさんは、次のように述べている。
 「……この投票によって学校や基本的な公共サービスのための支出の水準が維持された。それは同時に、精力的な組織化によって、増税に反対するティーパーティーのような運動を称賛するメディアと真っ向から対決し、州財政の赤字は公共サービスや公務員を攻撃することによってではなく、バブル経済で儲けた連中から税金を取ることによって解決できるという希望を全国の組合活動家に与えた」。
 オレゴンは売上税を導入していない5つの州のうちの1つであり、また、法人税の最低額は10ドルで、70%の企業(大企業を含む)が最低額だけを納付している(今回の増税で、最低税額が150ドルになる)。税収は個人所得税(税率は基本的には一律)と、ごく定率の固定資産税に依存している。財政赤字のため昨年には公共サービスの予算が20億j削減された。セントラルポイントの学校区では、昨年秋以降、授業日数を週4日に減らしている。増税がなければそれすら維持できなくなる(「ニューヨークタイムズ」1月24日付)。
 州民投票に向けては、250の団体から成る「オレゴンにイエス」キャンペーンが昨年夏から活動を始めた。AFL・CIOの州組織は、資金やボランティア活動家を提供した。
 経営者団体は「オレゴンは雇用破壊の税に反対する」キャンペーンを組織、460万ドルの運動資金を集めた。これに対して「オレゴンにイエス」キャンペーンには690万ドルの資金が集まった。特に公務員の組合が多額の資金を提供した。
 増税反対派はテレビや新聞広告で、増税が中産階級に影響を及ぼすという脅迫めいた主張を流した。これはかなり効果的だった。一方、「オレゴンにイエス」の活動家たちは、延べ100万回を超える電話や、30万戸を超える戸別訪問で賛成投票を呼びかけた。
 オレゴン州ではこれまで増税の試みが数度にわたって議会で阻止されてきたが、今回、多くの労働者や住民が「イエス」のキャンペーンに賛意を示した。同州では1930年代以来初めての増税となる。これは財政赤字の解決には程遠いが、公共サービスを守るための運動の重要な一歩である。
 しかし、「レイバーノーツ」3月号で、ジョブ・ウィズ・ジャスティス・ポートランドのビル・レスニックさんは、「イエス」・キャンペーンは成功したが、必ずしも増税に反対する企業や富裕層の主張と対決していないと指摘する。「増税が経済や雇用に悪影響を与える」という主張に対して、「増税の対象が限られているから、経済への影響は小さい」という点にキャンペーンの力点が置かれており、「高い税率は投資を控えさせ、企業の州外への移転を促す」という論点を暗黙に容認している。今回の増税によっても、米国で3番目の低率だった同州の法人税が5番目になるにすぎない。政府の関与は問題であり、民間の投資だけが雇用を生み、健全な経済をもたらすという主張を容認している限り、今回の勝利は次の敗北につながる危険があると彼は指摘する。   彼は、次のように述べている。
「……私たちは、富裕層に対するもっと高率の税こそが雇用を守り、創出し、私たちが持続可能な経済の道へ進むことを可能にする。増税キャンペーンの中で私たちは、道路や交通、きれいな水、病気の予防と治療こそが健全な経済をもたらすことを訴えることができた。私たちは富裕層への税率が高い国が、より高い賃金、より優れた医療や交通手段を実現し、犯罪発生率が少なく、平均寿命が長いことを説明することができた。……不況の時代に、富裕層への増税は効果的である、なぜなら、彼らはそのような時期には投資を控え、彼らの金は海外の口座やヘッジファンドへ流れるだけだからだ。……私たちは私たちが作り出した富を取り戻さなければならない。私たちは人々にそのことを説明しなければならない」。

●ギリシャ
緊縮財政政策に抗議、200万人がスト

 2月24日、政府の緊縮政策に抗議して公共・民間合わせて200万人の労働者がストに入った。労働者たちは強力に支出削減を迫るEUに対しても怒りを募らせている。飛行機、バス、列車、フェリーが完全に止まり、学校や官庁が休業し、病院は急患に対応するスタッフだけが仕事に就いた。アテネで行われたデモには6万人が参加した。
 左派やアナーキストの若者たちと警官隊の間で、散発的に暴力的な衝突が起こった。
 デモに参加した人たちは、パパンドレウ政権が雇用と公共サービスを守るという選挙公約を破ったことに憤慨しているが、依然として政府は高い支持率を維持しており、デモのコールの多くは、新民主主義党(前政権の与党)や銀行家、EUに向けられたものだった。
 民間部門の労組GSEEのゼオ・レノラ委員長は、「EUは銀行家や金持ちではなく、EU市民の側に立ち、市民をサポートするべきだ」と語っている。
 前日にはスペインで、社会党政権の歳出削減政策に反対する大きなデモがあり、3月4日にはポルトガルで、中道左派政権の同様の政策に抗議するゼネストが計画されている。
 ギリシャを訪問中の欧州労働組合会議(ETUC)会長のジョン・モンクスは「EUオブザーバー」紙のインタビューに答えて、次のように述べた。「全ヨーロッパで対立が拡大している。ヨーロッパ北部でも南部でも同様のことが起き
ている。EUはもっと心の通ったアプローチをするべきだ。他の国でも、もっと多くのストが起きるのは間違いない。人々は、銀行救済のために財政赤字が増えたことを知っている。しかし、彼らは誰にそのツケを払わせようとしているのだろうか? 危機に責任がある金持ちや銀行なのか、それとも何の責任もない労働者なのか?」
 公共部門の労組ADEDYは3月2日と16日にストに入ることを決定した。同日、民間部門の労組GSEEも、3月に再度ストに入ることを決定。両労組は合わせて250万人(ギリシャの労働者の半分)を組織している。政府は同日、新たに48億ユーロの支出削減を決定した。これは公務員の給与や年金の引き下げを含んでいる。  同4日早朝に、共産党系の労組PAMAの組合員数十人が金融省の庁舎を占拠し、緊縮政策反対のスローガンが書かれた巨大な横断幕を掲げた。(「EUオブザーバー」、ロイター、AP等より)

●バングラデシュ
衣料工場の火災で21人が死亡

 2月25日、ダッカから北へ50キロの工業都市ガジプールのガリブ社(セーターの製造)の工場で火災が発生し、21人が死亡し(女性14人、男性7人)、40人以上が負傷した。
 ある犠牲者の娘は、「おかあさんは夜勤のために家を出た。火事が起こったとき、出口にカギがかかっていたので逃げられなかった」と話している。
 火災の原因は電気のショートと推定されているが、火災防止のための安全基準違反の疑いが強い。工場は7階建てのビルで、犠牲者の多くは最上階で発見されており、窒息死と考えられる。最上階は出口にカギがかかっていた。
 同26日に、ダッカとガジプールで数百人の労働者が抗議のデモを行った。全国衣料労働者連盟(NGWF)のアミルル・イスラム・アミンさんは「これは事故ではない。労働者たちは安全を無視した会社に殺されたのだ」と語っている。
 バングラデシュの衣料産業は250万人を雇用し、輸出収入の8割を稼ぎ出している。多くの工場は安全基準を守っておらず、1990年以降の20年間に、同様の火災で約240人が死亡している。
 ガリブ社はスウェーデンの有名ブランド、ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)に製品を輸出している。(「ザ・デイリー・スター」、AP、NTDTV等より)

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