アジア@世界
780号

●中国
「労災被害者・劉漢黄さんの無罪釈放を求める国際署名」

 6月15日、広東省東カン市の展明五金金属で働いていた劉漢黄さんが、台湾人経営者による暴力に抵抗した際に、果物ナイフで2人を刺殺し、1人に大怪我を負わせました。
 彼の出身地の貴州省松桃県太平営郷永紅村の村民や、広東省の工場で働く多くの労働者らによる嘆願署名、そして台湾の労働運動団体からの支援、インターネットを通じた賠償金カンパ・減刑要請行動が広がる中、11月2日に広東省東カン市中級人民法院(地裁)は、劉漢黄さんに対して執行猶予2年のついた死刑判決を下しました。かろうじて劉さんの死刑執行は回避されましたが、依然として14年から無期までの懲役刑になる可能性があります。劉漢黄さんは上告する意向を示しています。
 これまでの同じような事件と異なり、劉さんに対して予想よりも軽い判決が下されたのは、中国と台湾の労働者民衆のさまざまな救援活動が、かなり判決に影響を与えたと考えられます。  私たちが劉さんの無罪釈放を要求する理由は、まず今回の事件において会社側の過失があったからです。  会社側が、劉さんに就業時研修を行わなかったため労災に遭い、また事故後に適切な治療を受けられなかったために症状が悪化し、右手首から先を切断せざるを得なくなったのです。
 また、事故後の生活保障義務を怠っただけでなく、暴力を使って劉さんやその弟を寮から追い出そうとし、劉兄弟の身の安全と生命権を甚だしく侵害しました。
 このような会社側の過失は、劉さんの生存権を甚だしく侵害し、食うや食わずの生活を強制。さらには度重なる暴力をもって対応したのです。劉さんが経営者を殺害してしまったのは、最後の生存権を守るという自衛的行動だったのです。劉さんの殺人行為は、自衛のための過剰防衛で、決して殺意があったわけではありません。彼の性格はきわめて真面目でおとなしいのです。それは彼を幼いときから知っている故郷の村民たちが明らかにしています。
 私たちが劉さんの無罪釈放を要求する理由は、「殺人有理」を支持するのではありません。極めて典型的な労災労働者を現実的に救援することを通じて、私たちの社会が、労災被害者の置かれている厳しい状況を真剣に反省して改善し、私たち一人ひとりの労働者の生存権と生きることの尊厳を維持するためなのです。
 東カン市の中級人民法院が民意の一部を受け止め、死刑判決に執行猶予をつけた現在、ますます多くの労働者の仲間たちが劉さんの命運に関心を注ぎ、劉さんを極力救出したいと考えています。
 「劉漢黄は判決を聞き終えた後に大声で『裁かれたのは僕1人ではなく、社会的弱者全体なのだ』と叫んだ」(09年11月4日紅網報道)
 私たちは劉さんの無罪釈放を要求するだけでなく、現有する法律に依拠して、さらに以下を要求します。
1.展明工場は、労災事件に対する賠償を命じた裁判所の判決に従い、劉さんに対して16・9万元を支払うこと。
2.政府部門は「労働法」「労働契約法」「労災保険条例」などの法令に従って、展明工場の労働環境を徹底調査し、就業前安全研修をはじめとする労働安全衛生を保障すること。
3.珠江デルタ地区および全国の工場の労働環境に対する安全検査を実施すること、および広範な労働者、友人たちによる関連法規の実施状況の監督、違法に対する処罰を行うこと。
 全国の労働者よ、劉漢黄さんに注目を、劉漢黄さんを支援しよう!

2009年11月8日
「劉漢黄さんを支援する中国国内の労働者とインターネット市民」
(翻訳・要約 稲垣豊)

●タイ
「国鉄の安全確保要求のストへの報復解雇の撤回を」

 SRT(タイ国鉄)労組は、安全無視、民営化計画、組合活動への敵対に抗議し、タプチャロエンSRT総裁の解任を要求する闘いを続けている。他の公共セクターの労働組合や人権団体、NGOがこの闘いを支持し、ITF(国際運輸労連)も国際的な支援キャンペーンを呼びかけている。
 SRT労組によると、現在SRTが運行している列車の90%が国有鉄道法の要件や、組合との労働協約に違反しており、170台の機関車のうち自動停止装置が装備されているのはわずか20台である。事故が発生した場合は労働者が責任を負わされるが、整備不良を理由に運転を拒否した労働者は処分される。さらに、経営側は、労働者のストライキに対抗するために、鉄道技術学校の卒業生(運転の経験がない)120人と、退職した元運転士20人を採用しようとした。乗客の安全を全く考えていない。
 1998年以降の大幅な人員削減に伴って労働者の休憩時間が削られ、多くの労働者が疲労を訴えている。ある鉄道事故では、事故を起こした列車の運転士が、1ヵ月にわたりほとんど休日がなかったことが報告されている。

●経過

  • 6月3日 SRTの再編計画を閣議決定。空港とバンコク市内を結ぶ路線を運営する新会社の設立を承認。ほかに、資産管理会社の設立も計画。サラム交通相は「新会社はSRTが100%保有し、民間への株式売却はしない」と言明。
  • 同 22〜23日 労働者がストライキに入る。SRTの発表では274人が職場放棄(うち130人が運転士)。全国290路線のうち約50路線で運休。
  • 10月5日 フアヒンで脱線事故、10人が死亡。調査委員会は運転士の解雇を勧告。組合は人員確保と安全対策を怠ったSRT総裁の辞任を要求。同16日からタイ南部の一部地域で、安全確保を要求してストライキに。SRTによると「65人が就労拒否」。
  • 同 22日 国営企業の労組(43企業)がSRT労組の民営化反対闘争支持を確認。PAD(民主市民連合)のタイ南部のグループもSRT労組の安全確保の闘争を支持。
  • 同 24日 ソンクラ地方裁判所が鉄道スト禁止命令。
  • 同 25日 「民衆ネットワーク調整センター」、「民衆民主主義のためのキャンペーン」などのNGOがSRT労組支持の声明を発表。
  • 同 26日 タイ南部のストライキに警官隊が導入され、労働者が確保していた車両を奪回、大部分の路線で平常運行が再開される(運転士はバンコクから派遣)。
  • 同 28日 ITF(国際運輸労連)がタイ政府とSRTに抗議書簡、SRT労組に連帯するメッセージ。
  • 同 28日 SRTがストライキに関連して組合員6人を解雇、2人を告訴。30日にはさらに5人を告訴。これらの組合員に対する労働協約失効の確認と賠償金7千万バーツを請求。
  • 同 30日 タイ人権擁護連合(CCHR)が記者会見、SRTによる6人の解雇を非難。
  • 11月2日 SRT組合代表が首相官邸へ、「解雇撤回、SRT総裁の解任」を要求。
  • 同3日 首相とSRT労組委員長、6人の被解雇者が会談。首相は「国鉄の安全監視委員会を設置」、「民営化しない」を約束。
  • 同 4日 首相、6人の解雇撤回の可能性を示唆。

(「バンコクポスト」、「ネーション」紙、および国際運輸労連のウエブより)

●米国
「フィリピン人教員が人材供給会社を告発」

 「USAツデー」10月28日付に、「奴隷状態のフィリピン人教員」というレポートが掲載されている。このレポートによると、ルイジアナ州で07年以降、フィリピンから人材派遣会社を通じて派遣された約300人余の教員が無権利状態に置かれており、労働者たちはAFT(アメリカ教員連盟)の支援の下で人材派遣会社を告訴した。
 イングリッド・クルズさん(30歳)は、07年に両親から1万ドルを借り、2人の娘を残して、中学校で社会科を教えるためにルイジアナへやってきた。
 彼女や他のフィリピン人教員たちは、米国の公立学校に就職するために、フィリピンのPARS社と、ロサンゼルスの同社の関連会社UPIに多額の斡旋料を支払った。PARSへの斡旋料は、1人につき最高1万6千ドルで、これはフィリピンの教員の給与の約4年分である。
 米国では、教員の不足(特に数学、外国語、特殊教科)を補うため、H1B(専門職ビザ)プログラムの下で、昨年外国から約6千人の教員を受け入れた。AFTによると、現在約1万9千人に達している外国人教員に対する甚だしい人権侵害が広がっている。
 H1Bによる就労については、雇用者に監督責任があるが、ルイジアナ州のいくつかの学校区やニューオリンズ市の州直轄学校区で、人材派遣会社による不正や不当搾取が見逃されている。
 クルズさんたちは、フィリピン出国前に、斡旋料として初年度給与の20%をPARSに支払った。連邦法では、斡旋業者がH1Bでの就労に関連する料金を労働者に請求することは大部分が禁止されており(雇用者に請求しなければならない)、請求できる料金についても、労働者が最初の賃金を受け取るまでは徴収してはならない。
 クルズさんたちは、斡旋料が高すぎると思ったが、年収4万ドルを得る機会を失いたくないために、車を売ったり家を抵当にして借金したり、家族や友人から借金をした。
 ところが、人材派遣会社からの請求はそれで終わりではなかった。高校で数学を教えるイアン・カインレットさんによると、「マーケッティング料」「手続き料」「評価料」「教室管理のためのセミナーの受講料」などの名目で、請求が続いた。さらに、米国の空港に到着したとき、UPI社の社長(PARS社の社長の姉)が、初年度と第2年度の給与の10%を手数料として支払うという契約への署名を強要した。さらに、UPI社は、一部の地区では2人用のアパートに4人を住ませて法外な家賃を徴収した。この2年間、多くの教員たちは借金の返済に追われた。
 AFT(アメリカ教員連盟)とルイジアナ教員連盟は9月30日に、この問題を州労働委員会と司法長官に提訴した。AFTはまた、10月20日に米国労働省に長文の嘆願書を提出した。
 フィリピンの「インクワイヤラー」紙も10月29日付でこの問題を取り上げている。同紙によると、同様のケースとして、ニューヨーク市で27人のフィリピン人看護師が雇用主および人材派遣会社を告訴している。  マニラでは労働者団体が海外雇用管理局と労働雇用省に対して、この問題の調査と、PARS社による米国への教員の斡旋の一時的禁止を要求した。

●スリランカ
「EUがタミール人迫害に懸念、EU向け衣料製品輸出が危機に」

 11月12日、衣料産業労働者権利運動(ALaRM)が政府に対して人権問題への取り組みを要求した。これはEUがスリランカ政府に、タミール人の人権の改善を求めたことに対応している。EUは、改善が見られない場合スリランカに対する一般特恵関税(GSP+、途上国からの輸入に対する税制上の優遇)が停止される可能性を示唆している。スリランカの最大の輸出産業である衣料産業にとって、GSP+の停止は1億以上の損失となり、雇用への影響は重大である。
 ALaRM代表のアントン・マルカスさんは、「政府はEUとの間で、建設的かつ積極的な態度で対話し、GSP+を確保するべきだ。……政府は人権に関する問題を認め、(EUによる)調査を受け入れるべきだ」と語っている。
 スリランカは、5月に終結した「タミ―ルの虎」との戦争の最終段階において多数の民間人が殺害されたことで、多くのタミール人が居住するヨーロッパ諸国をはじめ各国から強い非難を受けている。EUの調査報告書は、多数の行方不明者、裁判なしの処刑、拷問、メディアへの抑圧について指摘しているが、スリランカ政府は否認し、調査団の派遣を拒否している。

(「ロイター」11月12日付より)

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