アジア@世界
781号

●カナダ
鉱山労働者3千人のストライキが6ヵ月目に

 オンタリオ州サドベリーのヴァーレ・インコ社のニッケル・銅鉱山の3千人の労働者が、経済危機に便乗した人件費削減計画を拒否して7月中旬からストライキに入っている。
 ヴァーレ・インコ社は、ブラジルのヴァーレ社の子会社(06年10月にカナダのインコ社をヴァーレ社が買収)である。ヴァーレ社は鉄鉱石採掘の3大メジャーの1つ、ニッケル採掘では世界第2位の巨大企業であり、1942年に国営企業として設立され(当初は「リオセド」と呼ばれていた)、97年から02年にかけて民営化されている。同社は35ヵ国で10万人余を雇用している。
 「Zネット」のウェブ(11月12日付)に掲載されたケベック連帯委員会のマーク・ボンノム氏のレポートによると、ヴァーレ・インコ社は、ニッケルの価格の下落を理由に、3年間の賃上げ凍結、年金制度の変更(従来は確定給付型、全額会社側負担だったが、今後の新規採用者は確定拠出型、半額自己負担に)、生産高ボーナス(平均で基本給の25%に相当)の大幅引き下げ等の条件を提示した。
 しかし、ヴァーレ社は、製品価格の低下にもかかわらず高い収益を上げており、ヴァーレ・インコ社も買収後の2年間に41億ドルの利益を上げている(これは買収前の10年間の利益を上回っている)。
 サドベリーは人口15万人の市であり、長年にわたってインコ鉱山から採掘される鉱物資源に依存してきた。  ヴァーレ・インコ社の労働者を組織しているUSW(全米鉄鋼労組)第6500支部の組合員であるヤニック・リバード氏は、次のように報告している(「レイバーノーツ」12月号より抄訳)。
 地域全体が激しい感情に包まれており、ヴァーレ社に関係しているかどうかに関わりなく、人々は我慢できなくなりつつある。ストライキに参加していない技術者や管理者、事務職の人々が、デスクでの仕事を中断させられて鉱山へ派遣されている。請負労働者たちは雇用者から、ピケットラインを越えるよう強制されている。彼らを雇用する請負会社は、そうしないと将来の契約から外されると脅されている。市の外から数百人のスキャブ(スト破り)が送られている。組合は好意的な政治家たちと協力して、スキャブ禁止法の再提案を試みている。  組合は協約違反の操業に抗議し、トラックを阻止し、国際的なキャンペーンによって各地の港湾で鉱石の荷揚げに抗議している。……
 現地の新聞やブログでは、ストライキが始まる前から、09年の協約は厳しい内容になるという予想が流されていた。
 おかしなことに、そのような厳しい内容は、ニッケル価格が下落する前、つまり空前の高価格であった時から予想されていた。本当のことを言えば、ヴァーレはニッケルの価格など気にしていないのである。ヴァーレの主要な目的は、世界最大・最強の鉱山企業になることであり、そのためには何でもする。機械・設備の調達先を現地の企業から海外の企業に変更し、社内のスタッフを解雇し、前の経営陣を排除し、そしてUSW第6500支部をストライキに追い詰めた。……
 何のためか? ヴァーレはカナダにおける事業はもはや「持続可能でない」と言っている。ヴァーレの最高経営責任者のロジャー・アグネリは、「サドベリーはヴァーレにとって最も高コストの事業であり、現在の価格レベルでは持続不可能である」と語っている。
 しかし、ヴァーレ・インコは06〜08年に41億ドルの利益を上げており、実際には、同社の元役員の1人が述べているように、「(現在の経営者は)組合を潰して、これまでに組合との間で合意されてきた労働条件をリセットしたいと考えている」。
 ストライキが始まる前にヴァーレが提示した協約条件には、契約労働者の雇用の柔軟化が含まれる。
 これは会社側が人手不足を認めたことを意味するが、その一方で、新規採用ではなく、契約労働者の導入(年金、手当、ボーナスがない)を計画している。その先には、従業員の仕事を減らし、超過勤務を契約労働者に押し付けることになるだろう。実際、ブラジル国内の鉱山ではそうなっている。
 生産高ボーナスは、数十年前に、当時のインコ社が経営困難で、賃金を上げられない時期に導入された制度であり、会社の業績がよくなったときに、失われた賃上げが補填される。平均すればこの10年間に、ボーナスは時間給換算で5ドルの賃上げの効果をもっていた(基本給は平均29ドル)。会社側はボーナスの引き下げを提案しているが、その一方で、ヴェールによる買収後、役員の給与・ボーナスの総額は121%引き上げられている。 国際的連帯が広がる
 前出の「Zネット」掲載のマーク・ボンノム氏のレポートによると、ストライキは当初、孤立していたが、10月以降支援が拡大している。1978〜79年の9ヵ月にわたるストライキの中で重要な役割を果たしたストライキ支援女性委員会が再び組織され、一連の家族ぐるみの活動を計画している。この地域のウクライナ人のコミュニティーもストライキを支援している。
 オーストラリアやニューカレドニアへの訪問団が、それぞれの国・地域のヴェール社の労働者と交流した。ヴェールはオーストラリアで07年にいくつかの炭鉱を買収し、ニューカレドニアでは2010年に新しいニッケル鉱山の操業を開始するが、鉱山開発による環境破壊が懸念されている。ヴェールの本拠地であるブラジルでも、同社の最大の鉱山と他の2つの鉱山で労働者が10月12〜27日に2日間のストライキを行っており、カナダの労働者の闘いに連帯を表明している。

●イスラエル
タイ&ネパール農業労働者からの搾取の実態を人権団体が報告

 人権グループ「カブ・ラ・オベッド(労働者ホットライン)」の報告によると、イスラエルの農園で雇用されている約3万人の移住労働者は仲介人に数千ドルの斡旋料を支払っているが、受け取る賃金は最低賃金以下で、超勤手当もごまかされている。移住労働者の多くはタイ、ネパール、スリランカとパレスチナ占領地から来ている。  このレポートは、この労働者たちが「イスラエルでもっとも搾取されている労働者」であると述べている。このレポートは農民や農業関連企業が求めている雇用許可枠の拡大に関する国会での審議の前に国会に提出される。  このレポートは次のように指摘している。「農民は雇用許可枠拡大を求めているが、彼らの大部分は労働者の最も基本的な権利を侵害している。大部分の移住労働者は法定労働時間を超えて働いているが超勤手当を受け取っていない」。  このレポートは、ボランティア数十人により、数百人の農業労働者と全国の農園での聞き取り調査に基づいている。  それによって次のような事実が明らかにされている。「タイの農村から来る労働者は、タイとイスラエルの仲介業者に8千〜1万ドルを払っている。イスラエルに来るとすぐに遠隔地や孤立した場所へ送られ、イスラエルの法律の基本的な規定について知る機会がない。特にタイからの労働者の場合に多い不満は、数ヵ月にわたる賃金差し押さえや、自宅へ直接送金され明細を知らされないというものである」。また、休日が月に1日だけ、あるいは有給休暇がないケースもあり、パスポートを取り上げられるケース(違法である)もある(「ロイター」10月27日付)。

●バングラデシュ
衣料工場閉鎖に抗議の労働者を弾圧、3人が死亡

 10月31日、ダッカから北に24`のトンギ工業団地で、工場閉鎖に抗議し、未払い賃金支払いを要求する労働者数千人のデモを警官隊がゴム弾と催涙弾で攻撃。労働者3人が死亡、50人以上が負傷した。
 「Libcom」(同日付)は次のように伝えている。
「土曜日(31日)朝、数百人の労働者が仕事をするため、また、未払い賃金を受け取るためエルシャド・ナグールのニッポン・ガーメントの工場の門前に来た。しかし、警官隊が立ちふさがって、『世界的景気後退と不測の事態のため10月31日から11月29日まで工場を閉鎖する』という通知が貼り出されていた。さらに、未払い賃金は11月10日に取りに来るようにと書かれていた。未払いはすでに3ヵ月に達しており、この日に支払われる約束だった。
 怒った労働者たちは工場に突入を試み、警官隊と衝突。この地域の労働者や周辺のスラムの住民たちが加わり、数千人が高速道路を封鎖。警官隊との衝突が続き、高速道路封鎖は5時間にわたった」。
 南アジア諸国では、経済危機の中で、多くの工場がベトナムや中国やインドとの競争に勝つために賃金の切り下げを競っている。バングラデシュでは、低価格の衣料品が輸出の80%を占めている。衣料産業は300万人を直接に雇用しており(そのうち80%以上が女性)、200万人が関連部門で雇用されている。この産業では労働組合が非常に弱く、欧米諸国のNGOによって支援された組合やNGOが法律上の支援や国際的キャンペーンなどで一定の役割を果たしているが、交渉や調停の力は持っていない。
 10月31日の暴力的衝突の後、政府は衣料産業における労働組合の設立を促進すると発表した。

●ロシア
2つのナショナルセンターが合同へ

 全ロシア労働者連合(130万人)とロシア労働者連合(約100万人)が組織統一を計画している。全ロシア労働者連合は、鉄鋼、自動車、食品・サービス産業の労働者や医師、教員を中心としており、ロシア労働者連合は、交通運輸労働者を中心としている。統一大会は09年10月に予定されていたが、2010年前半に延期された。  この2つのナショナルセンターを合わせても、ロシア独立労組連合(2千600万人、旧ソ連時代の公式労組)より小さいが、ロシア独立労組連合は財政の7割を資産管理に依存しており、組合の官僚は企業と癒着している。  全ロシア労働者連合のボリス・クラフチェンコ委員長は、この組織統一は「ロシアの労働運動にとって、独立労組の誕生をもたらした1989年の炭鉱スト以来最大の画期的出来事となる」と述べている。彼によると、07年末にサンペトルスブルグ近郊のフォードの工場で起こったストライキが示すように、労働組合は労働者の権利のために闘う用意ができており、2つの組織の統一によって経営者に対する交渉力や社会的影響力を強化することができる。  ロシアでは10月に失業率は7.7%に達し、2010年には9.6%に達すると予想されている(経済開発省の予測)。しかもロシアでは、経営者は多くの場合、労働組合を無視し、労働協約を無視している。ILOのヨーロッパ代表部・「労働者の活動」委員会のディミトリナ・デミトロファさんは次のように述べている。「資本家は自分たちの力を過信して、(労働者と)交渉する必要を感じていない。力のバランスを取るような仕組みが必要だ。組合は全国的な行動や国際的な行動を通じて自らの位置を確立し、力量を強化するために努力する必要がある」。  経営者によるレイオフの攻撃や労働組合への攻撃は続いている。  GMのサンペトルスブルグ工場では、労働者たちが週40時間労働と賃金への物価上昇分の上乗せを要求して11月11日から「イタリア式ストライキ」(作業の速度を下げて生産性を下げる)に入ったが、会社側は即座に組合のリーダーを解雇した(前月に無断で欠勤したことを理由に)。  12月1日にはロシア最大の自動車メーカーのAvtoVAZ(アフトワズ)が約1万5千人の労働者に退職を勧告した。勧告に応じた労働者にだけ、他の子会社への再就職が斡旋される。同社は9月に、販売不振を理由に労働時間を20時間に削減し、賃金を50%削減した。(「モスクワタイムズ」12月1日付等より)

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