アジア@世界
790+791号

●韓国
「サムスン電子の労働者が白血病で死亡」

 小雨の降る3月31日朝、サムスン電子の半導体工場の労働者がまた一人、急性白血病のために死亡した。支援グループによると、彼女は8人目の犠牲者となった。
 半導体産業における労働者の健康と人権に関わっている団体「バノリム」によると、パク・チヨンさん(23歳)は、同社のオンヤン工場で働いていた時に発病した急性白血病によって同日午前11時に死亡した。パクさんの主治医だったセントメアリー病院(ソウル)のミン・ウスン教授は「ハンギョレ」紙記者の電話インタビューに答えて、彼女の死因は肺出血に伴う感染だったと話した。
 パクさんは高校3年だった04年12月にサムスン電子に入社。家族の経済状況のために彼女は早く就職先を見つけなければならなかった。彼女は半導体の検査業務を割り当てられた。ピンセットを使って半導体を高温の鉛溶液や他の薬品に浸け、取り出し、X線機器でそれを検査する仕事だった。07年7月に彼女は体調の不良を感じはじめた。動悸が起きるようになり、病院で急性白血病と診断された。
 彼女は幸い、同年9月に骨髄移植手術を受けて一時的に回復したが、昨年、再発した。彼女は3月26日に忠清南道ブヨ(扶余)郡の自宅からソウルの病院へ移った。吐血が始まり、顔がむくんだ。彼女はソウルのセントメアリー病院に入院したが、6日後に死亡した。
 バノリムによると、サムスン電子のギフン工場とオンヤン工場の労働者で急性白血病、リンパ腫などの血液関係の癌だけでも、罹患した人が合計20人いる。バノリムの代表の1人であるイ・ジョンランさんによると、この20人のうちパクさん、フワン・ユミさん、フワン・ミンウンさんが死亡し、他の人たちは闘病中である。
 市民団体や社会運動団体は、サムスン電子の工場で労働者が相次いで白血病に罹患しているのは工場の作業環境が原因であると主張しているが、サムスンは一貫してそれを否定している。韓国職業安全健康局は昨年前半に疫学的調査を実施したが、作業環境と病気の発生の因果関係は小さいという結論を下した。
 昨年10月にソウル国立大学研究開発財団は、韓国の3つの半導体工場(サムスン電子、ハイニックス、アムコル・テクノロジーズ)の疫学的調査を実施した際に、発癌性のベンジンを検出している。しかし当該企業はこの調査の信頼性を認めていない。
 この調査結果に基づいて、バノリムは1月12日に、罹患した3人の労働者(パクさんを含む)およびすでに死亡していた3人の労働者の家族と共に、韓国労災補償福祉事務所に対して労災の認定と医療補助を求める訴訟を起こした
(「ハンギョレ」4月1日付)

●バングラデシュ
「衣料工場火災の犠牲者への補償と職場安全の改善を」

 2月25日にガジプールの衣料工場で火災が発生し、21人が死亡した(本誌3月15日号を参照)。労働組合と国際的な労働者支援団体は、衣料産業における安全規制の徹底的な点検を要求している。
 衣料産業における多国籍企業による労働者の搾取を告発してきた「クリーン・クローズ・キャンペーン」(CCC)のテセル・パウリさんは、次のように指摘する。「これ(2月の火災)は偶然ではなく、いつか起きることでした。バングラデシュの産業は衛生と安全面が劣悪で知られています。スウェーデンのH&Mやイタリアのテラノバなど、有名ブランド製品を作っているガリブ&ガリブ社(火災が起きた)も例外ではありません」。
 テセルさんによると、CCCとバングラデシュのパートナー団体は2000年から、安全規則の実施を要求してきた。当時も今回と同様の死亡事故が多発していた。「しかし、ファッション・ブランドも、政府も、工場もこれまで通りお金儲けに専念して、労働者の安全には関心を払いませんでした。この怠慢は犯罪的です」。
 労働者たちは燃えさかるビルに閉じ込められていた。非常出口にはカギがかかり、階段は製品や材料で塞がれ、ビル内には煙が充満した。消防士たちは、消火設備は「ほとんど役に立たなかった」と報告している。同じ工場で09年8月にも火災が発生し、消防士1人が死亡、7人が負傷している。
 H&M、テラノバなどの国際的ブランドは、自社で定めている「供給元における安全性に関する規則」に基づく監視がずさんだったことでも非難されている。H&Mが昨年10月に発表した監査報告では、この工場の安全設備には何の問題もないと書かれている。
 一方、米国のウォルマートとカナダのマークス・ワークウェア・ハウス(作業着メーカー)は、この工場の安全性に問題があったため、発注を中止したことを確認している。しかし、工場の所有者や経営者団体に安全対策の実施を求めるか、政府や労働団体などへの問題報告により今回のような災害を防止しようとした企業はなかった。
 全国衣料労働者連盟(NGWF)のアミルル・ハク・アミンさんは、次のように語っている。
「私たちは、安全衛生規則がどのように実施されているかを徹底的に検討する必要があります。ガリブ&ガリブの火災は例外ではありません。どの工場でも安全規則が無視されています。今状況を変えなければ、これからも同じような災害が続くでしょう。本当に再発を防止するつもりなら、安全衛生基準の監視に労働者を参加させるべきです。今すぐにです。そのためには労働者の団結権を支持し、労働組合と直接に協力しなければなりません」と付け加えた。
 NGWFはまた、今回の火災の犠牲者とその家族への賠償と、安全規則の無視に関する刑事訴追を要求している。
 CCCは、世界的ブランドと、バングラデシュの政府と工場経営者の決定的行動を求めるオンライン署名を呼びかけている(3月12日、CCCのウェブより)

●タイ
「労相が移住労働者の反政府デモ参加に重罰・国外退去と警告」

 3月9日、パイトゥーン・ゲーオトーン労働相は、反政府デモに参加した移住労働者は逮捕し、重い罰金が科されると警告した。同相によると、タクシン派のデモに参加していることが目撃された移住労働者は、懲役5年、罰金10万バーツ(1バーツは約3円)の刑を科され、雇用も1人につき10万バーツの罰金を科され、移住労働者の労働許可は取り消される。
 タイ経済は貧しい隣国からの労働者に依存しているが、数ヵ月前から国境での移住規制を強化。移住労働者への虐待が広がっている。
 3月に導入された新しい規則は、移住労働者に対して出身国の政府機関からの国籍の確認を求めている。人権団体はこの規則に反対しており、弱い立場の人たちを一層の危険(国外追放や悪徳係官による恐喝)にさらすと非難している(AFP、3月9日付より)

●英国
「公共サービス予算削減反対で数千人がデモ」

 4月10日ロンドンで、公共部門の労働者数千人が、予算削減に反対してデモを行った。総選挙を前に、労働組合、年金生活者、学生や他の活動家たちが雇用とサービスの削減に反対してデモに参加。
 主要3党はいずれも、公共部門の予算削減に伴う雇用の減少に懸念を示している。
 UNISON(公務員組合)のデーブ・プレンティス書記長は、「銀行家の失敗のツケを一般の人々が支払ってきた」と語った。
 組合発表ではロンドンでの参加者は5千人以上だった。ブラスバンドを先頭に、デモ参加者たちは「『もし』も『しかし』もない! 公共部門の切り捨てにノー!」と唱和しながら行進した。障害者連盟や医療連盟など広範な団体がこのデモを支持した。
 トラファルガー広場で開かれた集会では、ユナイト(英国最大の労組、200万人)のレン・マクルスキー、PCS(公共商業サービス労組)のマーク・セルウォッカをはじめとする組合リーダーや、全国年金生活者協議会(NPC)のドット・ギブソン等が発言した。
 TUC(労働組合会議)のダグ・ルーニー委員長は「(全参加者が)雇用と技能、まともな賃金と年金、公共サービス、福祉と手当、平等と社会的公正を主張しなければならない」と訴えた。
 NPCのフランク・クーパー委員長は、「すでに苦境にある人たちが金融危機で苦しむことがあってはならない」と述べた。
 グラスゴーでも同様の目的のデモが行われ2千500人が参加した。
 選挙キャンペーンの中で、労働党と保守党は、来年に予定されている国民健康保険料の1%引き上げをめぐって、相互に相手側の計画は失業の増加を招くと批判しあっている。また、保守党は予算削減の目標を達成するため、欠員の補充は行わないが、強制的な解雇は行わないと主張し、労働党は多少の失業が出ることは間違いない、失業が出ないかのように言うのは不誠実だと主張している。(「BBCニュース」、4月10日)

●ベネズエラ
「労働組合内抗争・暴力が深刻に」

 3月にカラカスのチャランガ地区で組合リーダーのヴィルマ・ザンブラノさんが白昼、通りで、同じ組合の組合員によって突然銃撃され死亡。ザンブラノさんは妊娠中だった。同じ日、ペタレ地区でも同じ組合のリーダーが銃撃されている。カラカス警察によると、建設産業における組織犯罪グループが関与している可能性が高い。
 ベネズエラでは組合員同士の暴力事件は珍しくなく、特に建設産業では頻繁に起こっている。ベネズエラの人権団体「プロベア」で活動しているベルギーの労働問題研究者ロレンソ・ラブリケ氏によると、「組合のリーダーになることが、コロンビアに次ぎ世界で2番目に危険な国」である。しかし、コロンビアでは右翼の準軍事組織が関与しているが、ベネズエラでは組合員同士の抗争や、組合間の反目が原因の大多数である。建設産業の組合の中には、「組合をビジネスにしているマフィヤのようなグループ」もある。
 与党PSUV(統一社会党)のアスドルバル・ロペス国会議員によると、「抗争の原因の1つは、ベネズエラにおける民主主義の拡大だ。現在では労働組合を組織するのが以前ほどむずかしくない」。
 公式の統計によると、ベネズエラにおける労働組合の数は1998年の1千200から09年には6千以上となっている。建設産業だけで736の組合が存在する。
 「プロベア」によると、08年から09年に46人の組合リーダーが殺害されている(07年は約50人)。このほか一般組合員や、雇われた「殺し屋」も殺害されている。抗争の原因は、潤沢な建設プロジェクトの利権争いである。ベネズエラの法律では、建設産業で雇用する労働者の75%以上は労組員でなければならない。一部の組合はこれを悪用して、雇用主から「争議を起こさせない」確約と引き換えに裏金を取り、労働者からは雇用の「斡旋料」とし給料の一部を徴収する。
 与党系の労組、FUNTBCACのダニアル・コア書記長は、「われわれはこのような暴力的なやり方に全面的に反対だ。組合間の暴力事件は深刻な問題だ。政府はこのような事件を減らすために努力している」と説明している。(「BBCニュース」、4月7日付)

●南アフリカ
「未払い賃金要求の鉱山労働者のデモに警官隊が発砲」

 イーストランドのオーロラ・エンパワーメント・システム社のフルートフレイ鉱山で、NUM(全国鉱山労組)の組合員が、未払いの2ヵ月分の賃金の支払いを求めてストライキに入っている。4月6日、約500人の労働者のデモに警官隊が介入し、ゴム弾を発砲した。この間、労働者たちの簡易宿舎の電気と水が止められ、食堂も休業している。オーロラ社は黒人の経済活動を支援することを目的とする投資会社で、ズマ大統領の甥とネルソン・マンデラ元大統領の孫が最大オーナーである。同社は昨年10月にフルートフレイ鉱山(従業員2千400人)を買収し、経費削減のために組合に対して1千440人の一時解雇を提案していた。

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