アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
938号

★メキシコ:
  教育改革反対ストで組合リーダー逮捕

 チアパス、オアハカ、ゲレロ、ミチョアカンの4つの州で、教員の独立的組合である全国調整委員会(CNTE)と、政府系のメキシコ教員組合 (SNTE)の反対派グループは5月16日から無期限ストライキに入っている。
 教員たちは教育改革法で規定されているテストが不公平で、組合の権利を弱めようとしていること、これが公教育の解体と民営化につながることに抗議し ている。

 全国の約100万人の教員のうち20万人以上がストライキに参加しており、各地で高速道路の封鎖、料金所の占拠、政府の庁舎の占拠を繰り返してお り、メキシコ市にも代表を派遣し、首都の広場を占拠している。
 CNTEは1970年代末以来、メキシコの最も戦闘的な組合であり、貧しい農村地区を中心に組織しており、政府や警察との激しい闘いを展開してき た。
 今回のストライキへの弾圧はこれまでで最も大規模であり、4250人余の教員が4日間の欠勤を理由に解雇されている。
 チアパスでは連邦政府と州政府が警官隊を動員し、催涙ガス、警棒などで労働者に襲いかかった。
 オアハカでは教員たちが容疑を示すことも、令状もなく逮捕されている。
 メキシコ市では警官隊が高速道路を封鎖して組合員たちが市内のデモに合流するのを阻止し、広場を占拠していた組合員たちを排除し、強制的にバスに乗 せ、市内から退去させた。

 6月11日、オアハカのCNTEのリーダーであるビジャロボス・リカルデスさんが逮捕された。容疑は「窃盗」で、昨年の闘争の中で組合員が学校の教 科書を奪ったというもの。彼女は、同日、オアハカの広場を占拠していた500人の組合員を1千人の警官隊が取り囲んで、強制的に排除された後に逮捕さ れた。
 同12日朝には、オアハカのCNTEの書記長のルベン・ヌニェスさんが逮捕された。2人の逮捕について、CNTEの第22支部(オアハカ地区)の声 明は「ファシスト的な襲撃」であり、誘拐であると非難している。
 ヌニェスさんには「マネーロンダリング」の容疑がかけられている。同支部の声明はまた、「政府は第22支部の力が草の根の運動を基礎にしていること を忘れている。この国のすべての教員を逮捕するだけの留置所はないだろう」と述べている。

(「ザ・ドーン」6月13日付、「ニューポリティクス」5月31日付より) 

 

★米 国:
  45日ストで雇用確保の画期的勝利

 以下はCWA(米国通信労組)声明(5月29日付)の抜粋である。

 ベライゾン社(大手通信事業者)で4月13日以来ストライキに入っていた約4万人の労働者は、会社側との暫定合意によって大きな成果を勝ち取った。
 近年では最長となる45日間のストライキの結果、ベライゾンは東海岸のコールセンターで1300人の新規雇用を行うこと、このほかにいくつかのアウ トソーシング(外注化)計画を撤回して、現場技術者の雇用を提供することに同意した。
 新たな協約(4年間)では、10.9%の賃上げ、ボーナスや年金の引き上げのほか、初めて携帯電話販売店の従業員も協約の対象となった。

 CWAのクリス・シェルトン委員長は次のように述べている。
 「新たな良質の雇用の獲得はストライキに参加した労働者だけでなく、地域および全国の労働者にとっても大きな勝利である。この協約は全国の労働者家 族にとっての勝利であり、勤労者の力を示すものである」

 ニューヨークの現場技術者のフィッツジェラルド・ボイスさんは「ストライキは私たちの家族にとって難しい決断だったが、私たちは私たちの仕事と生活 のやり方を守るためには闘わなければならないことを知っていた。私たちは強く闘い、勝利した」
 ペンシルバニアのコールセンターで働いているクリスティナ・マーティンさんは「私たちは転勤や海外移転を心配していたが、ストライキの結果、会社は 海外に移転した雇用を国内に戻すことになった。すべての米国企業は良質の雇用を国内に残しておくためにもっと努力するべきだ」
 マサチューセッツの携帯電話販売店で働いているマイク・ティセイさんは「ベライゾンの携帯電話販売店の労働者が会社と公正な協約を手にしたのは初め てだ。14年にCWAに加盟した組合員にとって、これは生活の質の向上と家族の経済的な安定を意味する」と述べている。

 CWA第1地区のデニス・G・トレーナー委員長は「組合員の団結と決意は私たちの仕事を海外に移転、外注化しようとする会社側の提案を打ち負かし た。新しい協約は東海岸全体で1500人の新しい雇用をもたらす。私たちは力を合わせて、人員削減の波を反転させ、強力な労働運動を築こうとしてい る」
 労働者たちは6月1日から職場に戻る。
 主な合意内容は次の通り。

・4年間で10.9%の賃上げ
・携帯電話販売店の従業員70人と初めて協約を締結する
・閉鎖が検討されていた中部大西洋側のすべてのコールセンターの存続
・顧客サービス部門における組合員の割合を増やす
・遠隔地への転勤(州間の移動)を強制する計画の撤回
・年金引き下げの計画の撤回
・ニューヨーク市の技術労働者に対する抑圧的な業務監視プログラムの撤回 
・傷病手当の削減の撤回

 

★スイス:
  ベーシック・インカム導入で国民投票

 6月5日に実施されたベーシック・インカム(基本所得)制度の導入に関する国民投票では、賛成23%、反対77%の大差で提案が否決された。投票率 は46%だった。
 スイスでは特定の政策について10万人の有権者の有効な署名があれば国民投票を求めることができる。基本所得制度の導入については12〜13年にか けて12万6千人の署名が集まり、国民投票の実施が決定された。

 提案者たちは、成人に月2500ドル、未成年者に月625ドルを無条件に支給することを想定している。
 実際に国民投票にかけられた提案(憲法修正案)は、(1)無条件の基本所得を導入する、(2)基本所得はすべての人々に尊厳ある生活と公共の活動へ の参加を可能にすること、(3)財源確保の方法および支給額については法律によって定めるという内容である。

 提案者の1人であるダニエル・ストラウブ氏によると、基本所得の導入に要する費用はスイスのGDPの3分の1ほどである。現在スイスはGDPの 19.4%を社会福祉に充てている。
 4月下旬に実施された世論調査では、この提案への支持は40%に上り、数カ月前の調査での支持率の2倍以上となっていた。

 基本所得制度については、労働運動の中でも議論が分かれており、福祉切り捨てと一体である、あるいは企業の雇用責任の回避を助長する等の指摘もあ る。現実性についての疑問や、労働・賃金についての考え方の多様性もある。
 ウェブ誌「カウンターパンチ」5月27日付の「基本所得が全ヨーロッパで加速」と題するレポートは、次のように指摘している。
 「国民投票は最後まで予断を許さないが、すでに1つの大きな勝利は達成されている。草の根の市民のイニシアチブが、労働の価値、労働と富の蓄積の関 係、消費主義、経済的不平等、生活の不安、そして人々がどんな社会を望むか、尊厳のある充足した存在である権利についての全国的な議論を喚起した」

 同誌によると、ギリシャの経済学者でシリザ政権の最初の財務相だったヤニス・バルフォキス氏は、5月5日にチューリッヒで開かれた「労働の未来」会 議で、基本所得への賛意を示し、この議論が資本主義の下で当然とされていた考え方の転換を意味することを指摘した。
 つまり民間が富を生み出し、公共部門が富を再分配するというのは間違いで、実際にはたとえば医薬品の発明は、研究のために投資された公共の資金に よって可能になったのであり、スマートフォンに使われているすべての部品は公的な補助金によって開発されている。だから、基本所得は、公的に生み出さ れる剰余価値をみんなで分配するということである。
 また、同氏は、基本所得が保証されれば、労働者の資本家に対する交渉力が強まるし(仕事を失うことへの心配が減る)、急速なロボット化の中で、労働 者がより創造的な仕事を選択できるようになると指摘する。

 スイスにおける議論の活発化は他の諸国にも影響を及ぼし、オランダではユトレヒトなどの都市で試験的導入が検討されている。フィンランドでは昨年6 月の選挙で中道右派政権が試験的な基本所得の導入を公約に掲げた。ユハ・シビラ首相は同国の社会保険機関に基本所得制度を試験的に実施して、労働意欲 への影響、社会保険機関における官僚主義の打破などの調査を指示した。想定されている支給金額は月500〜700ユーロで、同国の平均所得2700 ユーロと比較すると非常に低い水準である。

 ベルリンの調査会社が2〜4月にヨーロッパ28カ国の1万人を対象に実施した調査によると、回答者の64%が、「もし国民投票が実施されたら無条件 の基本所得制度の導入に賛成する」と回答している。
 ヨーロッパだけでなく、ブラジル、ナミビア、南アフリカ、メキシコ、インド、ケニア、マラウィなどでも部分的、限定的に導入されている。

(「カウンターパンチ」5月27日付、「ガーディアン」紙6月2、5日付等より)

 

 

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