アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
850号

インドネシア
「外注化の禁止を要求して280万人がストライキ」

 10月3日、全国の21の州と都市、80の工業地区、5千余の工場で280万人の工場労働者が、賃上げ、アウトソーシング(外注化)の禁止、全従業員への健康保険・社会保険の適用等を求めてストライキに入った。ジャカルタ近郊のベカシでは約20万人がデモに参加した。
 このストライキは、KSPI(インドネシア労働組合連盟)、KSBSI(インドネシア福祉労組)、FPSMI(金属労連)などの組合が結集するMPBI(インドネシア労働者評議会)がよびかけ、9月27日にはジャカルタで1万人がデモに参加した。  インドネシアでは今年1月に憲法裁判所がアウトソーシングは憲法違反であるという決定を下し、政府はこの決定をふまえ労働法の改定草案を準備している(本誌6月1日号を参照)。
 03年の労働法の下で、アウトソーシングは5つの補助的な業種(清掃、警備、運転、給食及び鉱山での補助的作業)に限定され、中核的業務は禁止されている。しかし、多くの企業は中核的業務を含む大部分の業務を外注化している。
 現在、派遣労働者は1千600万人に達しており、統計上の雇用者総数4千万人(統計に含まれないインフォーマル・セクターを除く)の約40%を占めている。
 外国企業は、インドネシアの厳格な労働法が投資を妨げているとして、政府に対して「フレキシブル化」(柔軟化)を要求してきた。国内の経営者団体も、フィリピンやインドでも雇用促進に寄与してきたとして、規制の強化に反対している。ユドヨノ大統領の広報官は「ストライキは残念なことだ。なぜなら外国からの投資を躊躇させることになるからだ」と述べた。
 MPBIは、政府が要求を受け入れない場合、11月初旬に1週間のストライキに入ると警告している。西ジャワのインドラマユ地区では、同3日以降もペルタミナ(国営の石油会社)の労働者が精油所に通じる道路を封鎖している。同10日には西ジャワのバンドンで数千人の労働者がストライキとデモを再開した。
 この中で政府は10月8日に、アウトソーシングの規制を強化するという方針を明らかにした。労使関係・社会保障担当のイリアント・シンボロン長官は、国会の聴聞会で、起草中の労働法改定案では、人材派遣会社が労働者を臨時契約ベースで雇用することを禁止する方針であると述べた。人材派遣会社は労働者を継続的に雇用し、休暇期にボーナスを支給し、年間12日の有給休暇と健康保険を提供することを求められる。また、人材派遣会社への監督の強化、許容される契約期間の短縮(5年から3年に)も改定案に盛り込まれる。いくつかの州では人材派遣会社への監督が強化され、2つの会社が事業許可を取り消された。(「AP」10月3日付、「ジャカルタ・グローブ」同4日付、「ジャカルタ・ポスト」同9日付等より)

米国
「ウォルマートでストライキ闘争が拡大」

◎イリノイ州の下請け労働者のストが画期的な勝利
 イリノイ州エルウッドのウォルマートの配送センターの倉庫労働者38人が解雇撤回を求めて9月15日にストライキに入った。
 この配送センターは米国中西部とカナダの店舗や小規模配送センターに商品を配送する同社の北米最大の配送センターである。ストライキに入ったのは同社の倉庫の管理を請け負っているシュナーダー・ロジスティックス社に労働者を派遣しているロードリンク社に雇用されている臨時雇用の労働者たちである。
 労働者たちは9月13日に、会社に対して超勤手当の支払い等を求める訴訟を連邦裁判所に提起した。それに対して同社は報復として原告となった労働者を解雇した。労働者たちは「公正を要求する倉庫労働者」(WWJ)、「倉庫労働者組織化委員会」(WWOC)などの支援の下に抗議のストライキに入った。
 このストライキは広範な支持を得て継続し、ウォールマートに重大な打撃を与えた。  10月1日にはストライキ中の労働者と支援の活動家600人がエルウッドの倉庫と周囲の道路を封鎖した(この行動で支援の活動家17人が逮捕された)。労働者の要求を掲げた要望者には10万人の署名が集まった。
 3週間のストライキを経て、10月6日、労働者は要求を勝ち取り、同8日に職場復帰した。解雇は撤回され、ストライキ中の賃金(平均約900ドル)が支払われた。保護具の支給や扇風機の取り付けなど、倉庫の作業環境も改善された。
 WWJのTシャツを着て、誇らしげに職場に戻ったフィル・ベイリーさんは「こんなことはこれまでなかった。これは組合承認のために署名を集めたり、協約交渉を行ったりしなくても、行動を起こすことができることを示している。一つの下請け会社の労働者が、すべての業務を止めたのだ」と語っている。
 WWJのオルグのリア・フライドさんは、勝利の要因として、会社への経済的打撃と、地域における支援の組織化、そしてNLRB(全国労働関係局)への提訴を挙げた。

◎労働組合の承認がなくても闘える
 イリノイ州の労働者の勝利に先立って、カリフォルニア州でもウォルマートの倉庫労働者が2週間のストライキを行った。その後、闘争はダラス、シアトル、マイアミ、ワシントンDC、サクラメント、サンフランシスコへと拡大している。
 これらの闘争はいずれも、労働組合が承認されていない職場で起こっている。労働組合傘下の「労働者センター」あるいは「労働者委員会」が闘争を組織している。イリノイ州ではUE(全米電気労組)傘下のWWJ、カリフォルニアでは「勝利のための変革」(CtW)傘下の統一倉庫労働者(WWU)、小売部門では食品・商業労組傘下の「私たちのウォルマート」がそれぞれ労働者を組織している。
 労働法では、労働組合に加盟していない労働者にも集団で労働条件の改善を要求する権利が認められており、不当労働行為があった場合にはストライキも認められている。

◎ストライキが12州28店舗に拡大
 10月9日にダラス、テキサスをはじめとする12の州のウォルマートの28の店舗で88人の労働者がストライキに入った。同10日にはアラスカ州ベントンビルで開催された同社の年次株主総会の会場前で、ストライキ中の労働者を含む200人がデモを行った。「私たちのウォルマート」は記者会見で、同社が労働者の組織化への妨害と報復攻撃をやめなければ、感謝祭後の最初の金曜日(11月23日、年末商戦のスタートの日)を同社にとっての「暗黒の金曜日」にすると警告した。全米消費者同盟、全米女性機構(NOW)、ラテンアメリカ労働者評議会も会見に同席し、この日に同社の店舗前で消費者に対する宣伝活動を行うと発表した。
 10月10日、マサチューセッツでもウォルマート労働者を支援する団体の活動家300人が30の店舗で、同社の労働条件改善を求める宣伝活動を行った。(「レイバーノーツ」誌ウェブ版10月9日付、「SALON・com」10月10日付等より)

中国
「iPhone製造工場でストライキ」

 アップルのiPhoneを製造しているフォクスコン社の山西省大原(タイユアン)工場で9月23日夜から24日朝にかけて、一人の労働者に警備員数人が暴力を振るったことをきっかけに、2千人以上の労働者と警備員、および急派された数千人の警察官が衝突し、約40人が負傷した。警察車両が横転し、塀が倒れ、バイクに火が放たれ、社員寮の窓ガラスが壊された。構内の売店も荒らされた。
 「チャイナ・レイバー・ブレティン」(香港)のウェブ、9月26日付は、この事件の原因と解決策をめぐるインターネット上の討論を紹介している。
 会社側は、警備員と他の地方から来た労働者の間の口論がきっかけであると説明しているが、現場にいた多くの労働者は、一人の警備員が女性労働者に嫌がらせをしたことが始まりだったと証言している。
 ある労働者は「AP」の取材に対して、「会社や一部の管理者や警備員は労働者を見下している。労働者は皆、彼らに怒っており、物を壊すことでこの怒りを発散させたかったのだ」と語っている。
 インターネット上の書き込みに反映されている労働者の感情は分かれている。フォクスコンの別の工場の労働者の中には、大原工場の労働者たちが「勇気をもって立ち上がった」と称賛している人たちもいる。労働者に冷静を呼びかける書き込みもある。それに対して、労働者は暴動を起こすつもりはなかったが、他に方法がなかったという反論が書き込まれる。組合が役に立たないから、独自の労働組合をつくるしかないという書き込みには、あまり賛成意見が出ない。
 フォクスコンは中国の内陸部に多くの投資と雇用をもたらしており、政府は同社の従業員募集に積極的に協力している。
 今回の暴動の前でも、大原工場では毎日平均400〜500人が離職しており(同工場の従業員総数は7万9千人)、新規採用が間に合わず、別の工場から人員を借りていた。今回の暴動の後、同社は一時的に新規採用を中止している。
 「チャイナ・レイバー・ウォッチ」(米国)10月5日付によると、フォクスコンの鄭州(チェンチョウ)工場で同日、3〜4千人の労働者が休日労働や厳しい品質要求に抗議してストライキに入った。iPhoneの製造をめぐっては、設計上の問題にも関わらず、極度の正確さが求められ、労働者には不断に大きなストレスとなっており、品質検査要員と製造部門の労働者間の口論や暴力事件も頻発している。
 フォクスコンは中国で100万人以上を雇用し、この3年間に従業員の自殺や、暴動、ストライキが繰り返されている。

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