アジア@世界
訳:喜多幡 佳秀/稲垣 豊・訳(APWSL日本)
825号

●メキシコ
電力労組が被解雇者の復職要求で、首都の広場を占拠

 メキシコ電力労組(SME)はカルデノン政権による組合攻撃に抗議し、首都のソカロ広場で7ヵ月以上の座り込みを続けた。広場は9月16日の独立記念日の式典会場のため、政府は組合の主張を受け入れ、組合は広場から撤退した。
 カルデノン大統領は09年10月にメキシコシティーなどで警察と軍により発電所を接収。電力会社を解散、4万4千人を解雇した(本誌09年11月1日号、同15日号参照)。解雇された労働者のうち1万6千500人余は解雇を拒否し、退職金の受け取りを拒絶。SMEの下で復職のための闘いを続けてきた。
 SMEは鉱山金属労組(SNTMMRM)をはじめとする国内の組合や、米国、ブラジル等の組合から広範な支援を受けてきた。
 メキシコシティーのマルセロ・エブラール市長と議会政治調整委員会のアルマンド・リオス・ピテル委員長の仲介で、SMEとエネルギー・金融・労働書記官の間で、解雇された1万6千500人の復職に関する交渉実施が合意され、フアン・マルコス・グチエレス内務次官は、労働者が直面している問題について「分析し、解決する」と述べた。
 また、窃盗や破壊行為容疑で拘留中の12人の組合員について再調査し、解決することも合意された。  政府はまた、組合選挙で選出されたマルティン・エスパルサ書記長ほか26人の組合役員を承認し、組合費の凍結を解除し、エスパルサ書記長に対する「組合資産の横領」という容疑を取り下げた。  エスパルサ書記長は9月13日、ソカロ広場の5万人余の労働者に呼びかけた。「この合意書は私たちの闘争の成果である。それを具体化するには運動を継続しなければならない。私たちは政府を信頼していない。私たちは労働者が自分たちを動員し、この闘争に勝利する能力を信頼している」。(「メキシコ労働ニュース&アナリシス」およびIMFのブログより)

◎SMEのリーダーの呼びかけで 労働者の新党が結成される
 8月27日、メキシコシティーで、労働組合、社会運動、政治組織の代表約千人が集まり「労働者人民政治組織」(OPT)を結成。OPTは労働者階級の政党であり、大企業や既成政党と対抗し新しい経済・政治的な方向を目指している。昨年10月にSMEのエスパルサ書記長が新しい労働者の政党結成を呼びかけ、結成大会にはSME、SNTMMRMの組合員、教員組合の反主流派の支部組合員などが参加している。(「メキシコ労働ニュース&アナリシス」より)

●台湾
中華航空子会社の契約労働者が違法な雇用契約に抗議

 以下は台湾のウェブ情報誌「苦労網」(8月22日付)の抄訳である。(翻訳・稲垣豊)

 中華航空の100%子会社、華夏が長年行っている有期雇用契約を繰り返す脱法行為に対し、当該労働者たちが中華航空の台北チケットカウンターで抗議行動を行った。抗議は国際空港のある桃園県産業総工会の支援で行われた。同総工会の桃光祖書記長は、「華夏で働く多くの労働者は毎年繰り返し有期雇用契約を迫られてきた。労基法では非臨時的で長期間の業務は期間に定めのない正規職員でなければならないと決められているにもかかわらずです」と語った。
 労基法第9条では、契約期間終了後も労働者がそのまま働いており、雇い主が拒否しない場合、あるいは新旧の雇用契約の間に30日以上の中断がなく、総労働日が90日を超過している場合には、期間の定めのない雇用契約であるとみなすとされている。
 華夏で5年4ヵ月働いている李燕秋さんによると、「契約社員は差別されています。会社は、労使双方合意の雇用契約だとして、労基法に定められている労働時間や時間外手当の規定を回避しようとしています。空調もない機内で一日中、超過勤務をすることもよくあります。汗まみれで働いても時間外手当はなく、ひどい搾取です」。
 1989年に設立された華夏株式有限公司は、中華航空が100%の株式をもつ投資事業で、機内の客室清掃や容器装備品の補修、政府関連施設や住宅ビルなどの清掃を請け負っている。資本金は5千万台湾ドルで、年間の営業収益は2億〜3億台湾ドル(1台湾ドルは約2・5円)。労働者の3分の1以上が「臨時」名目の長期雇用契約社員だ。
 桃光祖書記長は「きらびやかな国際空港の裏側で劣悪な労働環境が充満している。政府、華夏、中華航空への運動を強化し、現状を突きつけ回答を引き出す」と語った。

●エジプト
教員、バス運転手、医師がストで政府に圧力

 「教員は教壇に立つことを拒否し、医師は緊急患者だけを診療、カイロの交通労働者は有名な赤バスを止め、エジプトの輝かしい1週間が過ぎ、政府への圧力がますます強まっている……」。(「アフラム・オンライン」9月26日付)
 9月後半、数十万人の公共部門労働者が次々にストに突入。要求項目の共通項は「シャラフ首相はすべての公務員の最低賃金を700エジプト・ポンドに引き上げる約束を守れ」だ。(1エジプト・ポンドは約13円)。
 教員のストは独立教員労組の呼びかけで9月17日にカラチで始まり、18日にアレクサンドリア、その後全国に拡大。主な要求は、最低賃金の200%引き上げ(700ポンドに)、要求を無視し、誹謗してきた教育相の解任、臨時雇用教員の正規雇用化などである。教員150万人のうち半数以上がストに参加。同24日には全国から集まった数千人がカイロの官庁街をデモ。独立教員労組は、ストを一時中止し政府に1週間の猶予を与えると発表。独立教員労組のアブデルアジズ・エル・ビアリー副委員長は「これは(独裁体制打倒の)政治革命を完成させるための社会革命だ」と語っている。
 カイロのバス運転手・車掌・整備工のストは独立交通労働組合の呼びかけで、9月17日から始まった。主な要求は、200%賃上げ、退職金(100ヵ月分の給与)、設備の改善、制服の支給等である。
 国・公立病院の医師のストは、9月10日から始まった。主な要求は、200%賃上げ、医療費の国家予算の15%への増額(現在3%)、病院の警備の強化(医療従事者への暴力行為が頻発)等である。ストは「青年医師連合」、「権利のない医師たち」などの現場医師のグループが呼びかけた。スエズ、イスマイリア、ガルビアなどではスト参加率はほぼ100%で、アレクサンドリアは70%だが、カイロは参加率は低い。
 9月21日には行政裁判所が、ムバラク政権下で不正に民営化された3企業(衣料のシェビン・エル・コム社、麻製品製造タンタ社、スチーム・ボイラー社)の再国有化を決定。07年にシェビン・エル・コム社を買収したインドラマ・グループ(インドネシア企業)は労働者を解雇し、工場閉鎖を企てた。労働者たちは35日間座り込み、労働者民主党をはじめ左派政党や民主団体による民営化反対・再国有化を求める運動が組織され、10万人超の署名、集会や国家評議会へのデモなどが行われた。行政裁判所の決定は画期的な勝利である。
 紅海沿岸のソクナ港では、ドバイ・ワールド社(港湾管理会社)の労働者が組合の承認、危険手当(基本給の30%以上)、賃金体系の改善、労働者を虐待している管理者の追放等を要求して9月20日からストに入り、会社側は同25日に、軍、紅海沿岸の港湾管理局の代表、スエズ県知事の立ち会いの下での交渉で労働者のすべての要求を受け入れた。労働者たちは25日深夜のシフトから就労を再開した。(「アフラム・オンライン」、「アルマスリ・アルヨウム」、「ワシントンポスト」等より)。

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