アジア@世界
訳:喜多幡佳秀(APWSL日本)
824号

●米国
ウォール街から税金を!看護師組合が21州で一斉行動

 全米看護師組合(NNU)は9月1日、金融活動への課税強化を要求し21州60議会に向けデモ、地域住民を含む数千人が参加した。
 NNUは経済活性化による雇用拡大のための「メインストリートとの契約」を提唱している。その中心は金融取引への0.5%の連邦税課税であり、組合の試算では毎年3千500億ドルの税収が得られる。
 NNUの共同委員長のジーン・ロスさんは、「これはウォールストリートのビジネスへの売上税であり、彼らの極端なギャンブルを抑制するだろう」と述べている。
 NNUはこの税収を住宅供給、学校運営、環境保護策の復活、国民皆保険、社会保障拡大のために使うことを提案している。
 他の多くの組合は労働協約の問題で組合員を守るのに手いっぱいだが、NNUは政治的活動を積極的に展開している。その理由をカリフォルニア看護師連盟のダイアン・コールソンさんは「私たちの組合リーダーは病院で働いており、毎日、保険のない、または保険が不十分な患者たちと接しています。他の人や他の進歩的団体は、この現実を見ていないのかも知れません。だから社会の全体像が見えず、必要な社会的解決策が見えないのかも知れません」と語る。
 サンフランシスコでは、揃いの赤いTシャツ姿の看護師たちが庁舎前でスープを配りながら宣伝を行い、注目を浴びた。コールソンさんは「ウォールストリートに対し、メインストリートにもたらした荒廃の責任を取らせよう」と訴えた。コールソンさんと並んで、数人の市民が病気や貧困による苦しい体験を語った。今日、米国では4千600万人がフードスタンプに依存。議会はこの現実を深刻に考えるのではなく、受給基準を厳しくすることで、この数を減らそうという議論に明け暮れている。
 カリフォルニアで16年間消防士として働いてきたヒーザー・パイパーさんは、「人は安心して退職でき、尊厳をもって死ぬことを許されるべきだ」と語った。
 失業率が高いベイビュー地域に住むアフリカ系米国人のジャクァイラ・バートンさん(21歳)は、「ウォールストリートこそ、自分たちが壊したものを修復するお金を出すべき。私には経済を破綻させた責任はない」と語り、大きな喝さいを受けた。(「レイバーノーツ」のウェブより抄訳)

●米国
「教育改革」は組合解体のためのトロイの木馬

 以下は「レイバーノーツ」誌ウェブ版に掲載されたマイク・ダン氏のレポート(7月28日付)の要約である。同誌は「スクール・ウォー(公教育をめぐる戦争)」という特集を設け、多くの州で一斉に展開されている公教育への攻撃との闘いを呼びかけている。
 ウィスコンシン州やインディアナ州などでの教員組合を法的に解体しようとする攻撃は、限定的な成功にとどまった。しかし、「教育改革」を通じて教員組合を個別に弱体化させていくという作戦は、非常に大きな効果を挙げている。
 任用期間、任用手続きや先任者優先制を制限する改革は、反対意見や組合活動への参加、さらには生徒に対する発言を困難にし、技能に関係なく恣意的な理由で教員解雇を容易にする。チャータースクール(公立・民営の学校)は学校区のクローズドショップ制度から除外され、ほとんど組合が存在しないため、組合を弱体化させる。それだけでなく、もっと狡猾な方法で組合を解体してきた。それは教員の「非技能労働化」である。
 歴史的に見て、非技能労働化は労働組合を弱体化させる。製造業では、オートメーション化によって非熟練労働者をスト破りのために雇用できるようになり、ストライキの効果が弱められた。
 今日、右翼は公共セクターの労働組合を解体するために、非組合員や民間部門の労働者に公共セクターの労働組合を批判するように仕向けて、労働者の連帯を掘り崩そうとしている。
 教員や看護師や社会サービスに関わる公共部門の労働者は、労働者ではなくケアギバー(世話をする人)であって、仕事は楽で、危険が少なく、愛情という感情にもとづく仕事であり、したがって高い報酬や雇用の安全には値しないという議論が持ち出されている。
 一方、公共セクターの労働組合の傾向は、高学歴・高技能を要求される労働者を代表している。容易に代替できず、それが相対的に組合が強い理由となっている。
 教員の非技能労働化は、これらの条件を一変させる可能性がある。
 ティーチ・フォー・アメリカ(TFA、教育NPO)は大学の新卒生を、教員免許の有無に関わりなく採用、教室へ派遣。エリ・ブロードのような大富豪がTFAに資金を提供し、「経験はないが勤続年数の多い教員より、優秀な若くて意欲のある教員を守るため、先任者優先制の一掃を」という根拠のない陳腐な議論を支持している。
 処分の乱発やテスト制度による管理は、教員の非技能労働化を一層促進している。テスト制度は学校や教員に対し、質問をベースとした学習や批判的思考、深い読書、好奇心を犠牲に、テストのための学習、ドリルとスキルの繰り返しに没頭するよう圧力をかけている。
 「ノー・チャイルド・レフト・ビハインド(落ちこぼれゼロ)」(NCLB)法に基づく目標設定と未達成への罰則の直接的結果として、多くの学校区でカリキュラムの一律化、授業内容の単なる読み上げを教員に強制している。すべての州で同じ標準的な教育内容を採用させる動きがあり、それは学校区や州の独立性を奪い、それを教科書会社に委ねることになる。
 生徒のテスト成績が雇用の安定と賃金に直接に反映されるようになれば、多くの教員はテストのための訓練と暗記に力を入れるだろう。すでに学校区ぐるみの不正も発覚している。
 教員は、管理者が導入した全校的なボキャブラリー学習プログラムの操作だけという場面もある。
 教育改革は、生徒の好奇心や学習意欲を摘み取り、学校をテスト工場に変え教育企業を潤し、教員の非技能労働化で愛と熱意を奪い、多くの人を教育の外へ追いやる。
 組合は、非技能労働化に圧倒されてしまう前に、また、闘いに疲れてしまう前に、この問題に取り組まなければならない。
 現在における事務職や施設管理労働者への扱いを見れば、高技能を求められない労働者への攻撃がいかに簡単かは明確である。教員組合は、このダウンサイジングに、多くの場合沈黙を保ってきた。その結果、教室やトイレは汚れ、修理がされず、学校が安全でなくなり、教員は雑用に追われ、労働時間が増え、賃金が下がった。
 教員組合は職業ベースで組織されており、教員は他の学校労働者を見下げ、「二級市民」として扱ってきた。これは教員組合の弱点である。すべての教育労働者は、職種を超えて1つの労働組合に組織されるべきである。高技能を求められる労働者はその強みを、それほど高い技能を求められない労働者を守るために活用するべきである。労働者の連帯のためだけでなく、自分たちの仕事がそれに依存しているからでもある。

●カンボジア
衣料工場で2千人が未払い賃金支払いなどを勝ち取る

 9月8日、プノンペン市メンチェイ区にあるスーパーテックス社(衣料品製造)での3ヵ月にわたる争議が解決し、会社側は労働者に対してすべての支払いを行った。
 同社の1千882人の労働者は、未払い賃金、年休、損害賠償の支払い等を要求して工場前でデモを続けてきた。8月初めに仲裁委員会が会社側に支払いを命じた。
 カンボジア独立労働組合の代表のロス・チャンナさん(勤続約10年)は959ドルの支払いを受け取った。しかし、彼女によると、まだ20〜30人が会社側の算定額が少ないことに抗議している。
 同6〜7日にプノンペン市で国際的な輸入業者のフォーラムが開催され、カンボジアの労働問題について議論された。このフォーラムにはスーパーテックス社の製品の納入先であるターゲット社も出席していた。コミュニティー法律教育センターのモウエン・トラさんはスーパーテックス社が納入先企業からの圧力によって、労働者の要求を受け入れたのだろうと指摘している(「プノンペンポスト」9月9日付より)。

●タイ
不敬罪の廃止と労働運動リーダーの釈放を

 ケヴィン・ヒュイソン教授(米国・ノースカロライナ大学)をはじめ15ヵ国112人の著名な学者がインラック・シナワット首相に対し、不敬罪の再検討と、不敬罪で起訴された労働運動リーダーのソムヨット・プルクサカセムスクさん他2人の処分の再検討を求めた。
 ソムヨットさんは4月30日に、不敬罪撤廃キャンペーンに関連して逮捕された。前年に雑誌に掲載した文章が不敬罪にあたるとされた(本誌6月1日号を参照)。
 シラヌチ・プレムチャイヤポンさんはオンライン新聞「プラチャタイ」の編集者で、09年3月6日に、コンピューター犯罪法違反により起訴された。彼女が主宰するサイトに掲載された不敬罪対象の書き込みを警察が指定した期限までに削除しなかったためである。
 ジョー・ゴードンさんはタイ生まれで米国に帰化しているが、不敬罪対象を含む本をタイ語に翻訳したことにより、帰郷中の5月24日に逮捕された。
 多くの「赤シャツ」(タクシン派)の活動家がこの罪状で投獄されており、その撤廃を要求してきたにもかかわらず、チャルーム・ユーバムルン副首相は、不敬罪を今後も適用すると言明した(「バンコク・ポスト」9月2日付より)。

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