アジア@世界
訳:喜多幡佳秀(APWSL日本)
821+822号

●ノルウェー
「多くの労働運動の明日のリーダーを失った」

 7月22日に起きた爆弾テロ・銃乱射事件について、ノルウェー労働総同盟(LO)は労働党、ノルウェーの労働運動とノルウェー社会全体への攻撃であると非難し、「わずか数時間の間にこれほど多くのノルウェー労働運動の明日のリーダーたちを失ったことは深い悲しみであり、この日はノルウェーの労働運動の歴史の中で最も暗黒の日となった」と述べている。
 LOによると、襲撃された労働青年同盟(AUF)のサマーキャンプには組合役員を含む多くの青年組合員が参加していた。
 LOの声明は次のように述べている。「……(この)テロ攻撃は、ノルウェーのような開かれた社会がいかに脆いものかを示した。当面の時期、われわれ全てにとっての課題は、なぜこの開かれた民主主義的な社会が重要なのかを考えることである。テロリストによる攻撃は警告である。ノルウェーがこの攻撃から立ち直り、より弱くなるのではなく、より強くなるかどうかはわれわれにかかっている」。
 LOは各国の労働組合組織から寄せられた追悼と連帯のメッセージを紹介し、謝意を表している。(LOのウェブサイトより)
 テロ事件の容疑者は移住者を憎悪、移民に寛容なノルウェー社会に反発していたと言われているが、実際には移住者は厳しい差別を受けており、その一方でノルウェー人の間で移民の制限を支持する傾向が強まっている。
 「インテグレーション・バロメーター」(統合の指標)の最近の調査によると、回答者の53・7%がノルウェーは移民の受け入れを減らすべきと答えている。05年の同じ調査での回答は45・8%だった。
 88%の回答者が、移住者はノルウェー人と同等の雇用の権利を持つべきだと回答。新しい差別禁止法により企業は移住者の雇用のための措置についての報告を義務付けられている。しかし現実には多くの企業は差別禁止法を無視、移住者の失業が増加している。FAFO(難民と移住者の問題を調査しているNGO)の「職場における多様性と平等」についてのレポートによると差別禁止法を守っている企業は半数である。
 ノルウェーではこの数年、移住者の数が増え続けており、その大部分はアフリカとアジアからである。経営者の間では非白人の移住者排斥の傾向があり、非白人の移住者は言語や文化的違いによる困難もある。(「ザ・フォリナー」7月7日&9日付、2010年12月8日付より)
 「Zネット」7月28日付のヴィジャイ・プラシャド氏のレポートによると、北欧諸国では1980年代から困窮した労働者や中産階級の一部に反移民・反左翼の感情が広がり、90年代にはネオナチの復活が社会的問題となった。ノルウェーではネオナチグループが「移住者狩り」を始め、02年に15歳の少年が殺害された。同年2月1日にはオスロで、この殺人事件に抗議して4万人がデモ。当時の首相や皇太子も参加した。
 オスロの「レイシズムに反対するセンター」によると、80年代以降、ノルウェーでレイシズムによる犯罪事件が約2千件起こっている。反移民の政策を掲げる進歩党やネオ・ナチ政党の宣伝がこのような事件を助長してきた。
 また、最近では英国のキャメロン首相、フランスのサルコジ大統領、ドイツのメルケル首相の多文化共存を否定する一連の発言や、ヨーロッパ諸国におけるアフリカ、アジアからの移民に対する規制強化の動きがあり、今回のテロは孤立した出来事ではない。
 プラシャド氏によると、AUFとLOはレイシズムに強く反対しているだけでなく、イスラエルのパレスチナ占領地の入植政策に反対するBDS(ボイコット、投資引き上げ、経済制裁)の運動にも非常に積極的に取り組み、大きな成果を上げている。

●EU
公務員削減で公務部門のジェンダー格差が拡大

 欧州公務員労連(EPSU)は7月28日、ヴィヴィアン・レディング欧州委員に対し、ジェンダー間の賃金格差是正のために導入されてきた措置が各国政府の歳出削減策に伴って後退しないよう保証する措置を求める公開状を送った。
 EPSUが委託した最新の調査によると、公務員の大幅削減と賃金引き下げが実施されたいくつかの国で、女性が不当に大きな影響を受けている。この調査の報告書は結論として、「公共部門における雇用は数の面でも、賃金でも、女性の雇用全体にとり決定的に重要であるにもかかわらず、各国政府が導入した措置が及ぼす女性への特別な影響について調査することを拒否している」と指摘している。  目先のことしか考えない緊縮政策は、ジェンダー間の平等に長期的な影響を及ぼすことが懸念される。雇用と賃金だけでなく、育児手当の削減や保育、介護の予算削減は低賃金の女性労働者に一層の負担をもたらしている。
 EPSUの女性&ジェンダー平等委員会委員長のグロリア・ミルズさんは次のように述べている。「私たちは長年にわたりジェンダー間の平等のため、ジェンダー間の賃金格差についての理解と是正のために闘ってきた。しかし、公共セクターの縮小に焦点をあてた厳しい緊縮政策は、勝ち取ってきた成果を脅かしている。……すべての領域における平等は統一した開明的な社会の証であり、経済が好調な時だけのものではない」。
 EPSUの公開状は次のことを要求している。
◎緊縮政策がジェンダー間格差に及ぼす影響について、社会的パートナーの参加の下で調査を実施すること
◎各国政府は公共セクターにおける雇用と賃金についての最新の、ジェンダー別の統計を提供すること
◎女性労働の不当な評価を是正し、女性の低賃金の問題に対処すること
◎EUの政府調達規則を、ジェンダー平等を含む社会的側面に重点を置くように改定すること
◎危機の社会的影響とそれを緩和するための措置を検討すること。

●ドイツ
ダイアモンド鉱山労組リーダーの釈放を

 ロシア最大のダイアモンド採掘企業アルロサの労組リーダー、ヴァレンティン・ウルソフさんが麻薬所持容疑のでっち上げで5年の刑を受けている。
 ヴァレンティンさんはサハ共和国(シベリア東部)のヤクティアでアルロサ社の独立労組を組織した。この組合は08年に労働条件改善と賃上げを要求してハンストを行った。ハンスト終結1週間後にヴァレンティンさんは自宅で逮捕され、拷問と脅迫を受け、大麻所持という虚偽の調書に署名させられ、裁判で6年の刑を宣告された。
 控訴審で容疑を否認。ヴァレンティンさんの逮捕と取り調べの責任者が職権乱用と不正で起訴されたが、その後、一審の裁判所が再びヴァレンティンさんの有罪を宣告した(刑期は5年に短縮)。
 アルロサ社は世界第2のダイアモンド採掘企業で、08年のヤクティアでのハンストはこの企業初めての争議だった。独立労組は1千人の労働者を組織している。
 ヴァレンティンさんの釈放を求めるオンライン署名が呼びかけられている(欄外を参照)。

●メキシコ
中米からの移住者が平和キャラバン

 7月24日、メキシコに住む中米からの移住者が日常的に直面している危険について訴え、権利の尊重を要求するための「平和に向けて一歩ずつ」キャラバンが始まった。このキャラバンには人権活動家、メキシコで行方不明になった移住者の家族、在留許可証を持っていない移住者など約500人が参加している。
 参加者の一人のウィルフレドさん(26歳)はサルバドル出身の建設労働者で、3児の父。米国テキサス州の姉のところへ行きたいと希望。彼は同20日にサルバドル西部のラ・リベルタを出発し、キャラバンに参加してヌエボ・ラレドから米国への入国を試みるという。
 キャラバンは2グループに分かれ、第1グループはメキシコ南東部のテノシケ(グアテマラとの国境地域)から貨物列車で北上。第2グループはグアテマラ市を出発し、バスと鉄道でチアパス州、オアハカ州を通過。そして同28日夜にベラクルス州のコアツァコアルコス市で合流する。
 コアツァコアルコス市(人口約30万人)は中米からの在留許可を持たない移住者が北米へ向かう時に必ず通過する地点で、毎年約50万人(推定)の在留許可を持たない移住者が北米へ向かうために通過する。彼ら・彼女らの場合、グアテマラ国境地域からチアパス、タバスコ、オアハカ、ベラクルス、タマウリパスの各州を貨物列車で移動。この列車は「死の列車」あるいは「野獣」と呼ばれ、犯罪集団や腐敗した警察官、国境警備当局者による恐喝、窃盗、暴行、レイプ、誘拐、殺人事件が頻発している。
 メキシコ全国人権委員会によると、2010年には2万人の移住者が誘拐され、1人1千500ドル〜5千ドルの身代金が要求されている。
 キャラバンに参加することで、安心して移動できる。グアテマラ東部から来たフリオさん(20歳)は、「私たちは互いに助け合っている。襲撃について、いろんな話を聞かされる。私はメキシコシティーへいって、そこで仕事を見つけたい」と言う。
 今回のキャラバンは2010年11月と今年1月に続く3回目だった。キャラバンは移住者の権利を求めるスローガンを叫びながら市内を行進している。もっとも多く繰り返されたスローガンは「移住者は犯罪者ではない。私たちはインターナショナル労働者だ」である。(「インタープレスサービス」7月30日付より抄訳)

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