アジア@世界
796号

●中国
ホンダ系工場でストライキが続く

 広東省仏山市のアツミテックの工場でストライキが続いている。アツミテックはホンダが48%出資する自動車部品メーカー(本社は浜松市)で、中国のホンダの4つの工場と日産の組立工場に部品を供給している。
 現地の報道は「ホンダ部品工場でのストライキが静まって間もない7月12日、仏山の別のホンダ系列の自動車部品工場、アツミテック(仏山)で同じ問題がおこった」と伝えている。
 労働者たちは、あまりに賃金が低いので、ストライキを通じて賃上げを要求したいと語っている。一般工員の賃金(残業代を除く)は900元だという(1元は約13円)。
 同13日、多数の労働者たちが就労を拒否して工場敷地内の芝生に集まった。午前11時に、仏山市当局が仲介に乗り出したが、会社側は労働者の要求に対する回答を示さず、仕事にもどれの一点張りだという。同日午後5時半ごろ、社長が現れて、残業を命じた。労働者は回答が示されない中での残業を拒否。会社は工場のゲートを閉め、労働者の帰宅を許さなかった。
 翌日(14日)、会社側はストライキに参加した労働者90人の全員を解雇することを決め、労働契約の解除のサインを迫った。一切の補償はないとも通知した。それだけでなく同日午後に総務課で退職手続きを行うこと、期限を過ぎた責任は各自で負ってもらうとも通知した。また、同15日に寮を閉鎖すると通知した。14日午後3時ごろ、同社の事務員たちも、あまりに酷すぎる会社側の対応に憤り、ストライキに合流した。
 このストライキには「南方都市報」が取材に訪れたが、さまざまな理由から紙面には掲載されなかった。
 以下はウェブに掲載されたその後の状況だが、中国国内ではウェブニュースや書き込み掲示板などの情報はほとんど削除されている。
7月16日
 朝、工員・事務員らが食堂で会社側の回答を待つ。しかし会社側は引き延ばしをはかる。応援のために食堂に行こうとした事務員に対して、会社側とその取り巻き連中が妨害し、言い争いになる。事務員と工員らを対立させようとして会社側の取り巻き連中が扇動挑発を試みる。それを知った工員たちが駆けつけて事務員を助けて安全なところに避難させる。
 会社側の副総経理(副社長)から「午後2時から労働者代表と交渉したい」と提案。交渉開始から5分、会社側は賃上げ要求には応じられないと回答。労働者を恫喝した管理者の処遇を巡り話し合い。
会社側は検討すると回答。しかし退勤時間になっても回答なし。交渉は物別れにおわる。
 対峙は続いています!
 月曜日(19日)は納品先で在庫がなくなり、生産に影響が出る可能性も出てきました!
 退勤間際になって、労働者側に混乱を招くような賃金通知が会社側から提示される。土日は休日になるので会社側はストライキを混乱させるために手段を選ばないでしょう。勝利を勝ち取ろう!  (翻訳 稲垣豊)
 7月16日付の「ロイター」は次のように報じている。
「……外国系企業での労働争議は6月にピークに達し、同月末には争議に関する報道も先細りになた。報道された最後の争議である天津ミツミ電機のストライキも7月3日に終結した。……
 社会的不安を恐れる中国政府は、賃上げを認め、この問題についての労働者の不満を解消させるために、労働者のストライキや違法な行動を一定程度容認しつづけるだろう」。
 「チャイナ・レイバー・ブレティン」のジョフリー・クロソール氏は、「政府は総工会に対して工場レベルでの団体交渉を活発に行うよう促すだろう。今後半年間に多くの工場で10〜20%程度の賃上げが実現されるだろう。その後、政府はストライキに対して厳しい対応を示すようになるかもしれない」。

●香港
最低賃金制を初めて導入、外国人家事労働者は除外

 7月17日、香港特別行政区立法会で最低賃金法(条例)が可決された。
 香港では英国統治時代から「自由市場経済」の原則によって最低賃金法が制定されておらず、1997年の中国への統治権移行後も経営団体の反対によって制定を阻止されてきた。  最低賃金の金額はまだ決まっておらず、外国人労働者が除外される等の問題はあるが、職工会連盟(CTU)のリーダーで立法会議員の李卓人(リチュクヤン)氏は、「これは象徴的なことであり、香港が恥ずべき低賃金と決別し、労働者のための社会的公正という考え方を受け入れたことを示しており、やりたい放題の資本主義にさよならを告げたことを意味する」と語っている。  賃金水準の引き上げは経営者の自主性に委ねるという従来の政策が所得格差の拡大をもたらしたことから、曽蔭権(ドナルドツァン)行政長官は08年に方針を転換し、最低賃金法導入の検討を開始した。  政府の最近の調査では、香港の労働者のうち約50万人が時給4ドル以下である。とくに外食産業や小売業、清掃などの部門で賃金水準が低い。  職工会連盟の政策調査部長のマン・ホン・プン氏によると「レストランの労働者は1日12時間から14時間は働かないと生活できない」。  最低賃金額について、労働組合は1時間4ドルを要求しているが、経営団体は3ドルを主張している。最終的な結論は、労使の代表や学者で構成される最低賃金委員会に委ねられる。最低賃金の見直しは2年ごとに行われる(労働組合は毎年行うことを要求していた)。  家事労働者は「就労時間の算定が困難」という理由で、最低賃金法の適用を除外される。約28万人の家事労働者の大半はタイ、フィリピンからの移住労働者である。現行制度では、この労働者たちには月3千580香港ドル(1香港ドルは約11円)の最低賃金が規定されている。  外国人家事労働者のグループは、最低賃金法が家事労働者を除外したことに対して「差別であり、外国人家事労働者に奴隷状態を強制する恥ずべき決定である」と抗議し、国際的な抗議署名を呼びかけている。

●スペイン
マドリードの地下鉄労働者が賃金引き下げ反対のストライキ

 サパテロ政権の「労働市場改革」の一連の攻撃と軌を一にして、マドリード州政府は公務員の賃金を5%引き下げると発表した。
 6月29日、マドリード市の地下鉄労働者7千500人が、これに抗議してストライキに入った。
 組合はストライキの際には50%の運行を確保するという「最小限サービス協定」の履行を拒否し、同市の地下鉄は完全に停止した。スペインで地下鉄がストライキで運休するのは20年ぶりである。
 この日、バスク州でも労働組合が政府の緊縮財政政策に反対してゼネストに入り、警官隊の介入に対してピケットで対抗した。
 マドリードの地下鉄ストは3日間にわたって続き、その後、都心と空港を結ぶ路線など11の路線で継続された(50%は運行)。
 ストライキは7月3、4日の週末に向けいったん解除されたが、その後、再開される予定である。

●米国
デトロイトで米国社会フォーラム、1万5千人が参加

 6月22〜26日、デトロイトで第2回米国社会フォーラム(USSF)が開催された。
 かつては自動車の町として繁栄したデトロイトは、自動車産業の衰退に伴って、1950年当時は200万人だった人口が80万人まで減り、到る所に廃ビルが放置され、住民の強制立ち退きが続いている。その一方でコミュニティーを基礎とした作業場の設立や、環境指向の新しい事業の開拓などの活動が進んでいる。USSFの「もう1つの世界は可能だ、もう1つのデトロイトは始まっている」という合言葉は、開催地の社会運動団体の意気込みを表現していた。
 1963年6月23日に、マルチン・ルーサー・キングはデトロイトで、有名な「私には夢がある」の演説を行った。同年8月のワシントンでのデモの2か月前である。多くの参加者がキング師の演説に言及して、キング師の理想に向かって進むことを訴えた。
 同22日のオープニング・デモには全国から集まったさまざまなグループが参加し、にぎやかに、パワフルに市内を行進した。23〜26日の4日間、コボ・ホールや近隣の大学で千以上のワークショップや50以上の大集会、文化イベント、交流パーティー等が開催された。「デモクラシーナウ」などの独立系メディア以外ではほとんど報道されなかったが、USSFは、参加者の数も、熱気も、右翼の「ティーパーティー」を凌駕していた。
 22日のデモでは、全米自動車労組(UAW)のボブ・キング委員長のほか、AFL・CIOのデトロイト地区委員長、地方公務員労組(AFSCME)の第25地区評議会議長、電気労組(UE)第1110支部委員長が労働者の隊列の先頭に立った。
 USSFで取り上げられたテーマは、資本主義の危機と貧困、連帯経済、クライメート・ジャスティス(公正な気候問題対策)、先住民の主権、住宅立ち退き、移住、民主主義と政府、人種・階級・ジェンダー・セクシュアリティー・年齢・障碍を超えた連合、コミュニティー、労働運動、メディア、戦争と軍事力と人権、国際連帯などあらゆる領域にわたっている。
 「レイバーノーツ」ウェブ版には、参加者報告の一部として、以下のような報告が掲載されている。
■アンディアモ(高級イタリアン・レストラン)の超勤手当不払いと人種差別の抗議するグループを支援して、USSFの参加者がこのレストランへデモを行った。オーナーは驚いて店を閉めた。
■ワークショップ「組織化の戦略」では、ニューヨークのRAP(小売店アクション・プロジェクト)の仲間が、衣料品店のオーナーに不当に天引きされた賃金を支払わせ、組合結成に成功したことを報告。カリフォルニアのUNITE・HEREの活動家や、イリノイのSEIUの衣料労働者からも組合結成に成功した例が報告された。共通の教訓として、地域との連携が重要であり、組合ができる前でも組合のように団結して闘うことが組合承認投票の勝利につながった。
■ニューヨークのDWU(「家事労働者、団結せよ」)の仲間は、家事・介護労働者の基本的権利を明記した画期的な法律を実現した闘いを報告した。
■シカゴのリパブリック・ウィンドウズの工場占拠闘争(本誌09年1月1・15日号を参照)のリーダーの一人、アルマンド・ロブレスさんは、その後の経過を報告。組合員たちはリパブリック社を買収したシリアス・マテリアルズ社との間で4年間の雇用契約を結び、44人が職場に戻った。約1ドルの賃上げを勝ち取った。順調に受注がある。
■ワークショップ「組合と労働者センターの連携の可能性と問題点」で、全国日雇労働者組織化ネットワーク(NDRON)ナディア・マリン・モリナさんは労働許可証を持たない労働者が労働組合と出会う可能性が低いことを指摘、労働者センターの重要性を強調した。
■南フロリダ・イモカリー労働者連合(CIW)の農業労働者はトマトを買い上げるマクドナルド、タコベル、サブウェイなど8つの企業との間での長年にわたる闘争の結果、買い上げ価格の引き上げのほか、企業行動規範(COC)の導入と労働者による監視を規定した契約を勝ち取ったことを報告した。
■「産業転換」のワークショップで、デトロイトのある市会議員は、「デトロイトには第2次大戦後のヨーロッパに対するマーシャルプランのような政策を導入して、グリーン・エネルギーの中心地にするべきだ」と提案した。ジェーン・スローターさんは、「もし議会がグリーン経済への転換を開始する法案を制定することに成功した場合、環境を汚染する産業の労働者がこの転換の犠牲にならないように守る必要がある」と提起した。現在GMは電気自動車のバッテリーを生産する工場を建設中だが、この工場では労働組合を排除し、賃金は1時間12ドルに抑える計画である。このような方法ではない転換を目指す必要がある。

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