アジア@世界
797・798合併号

●米国
「ホテル・レストラン労働者が15都市でハイヤット包囲デモ」

 7月22日、北米15の都市でホテル・レストラン労働者がハイヤット・ホテルに対し抗議行動を行った。北米ではホテル産業の収益は急速に改善しており、ハイヤットは13億ドルもの手元現金を蓄積している。株価の上昇でオーナーは莫大な利益を手にしている。
 ハイヤットは昨年8月31日に、ボストンの3つのホテル(組合が組織されていない)で客室清掃労働者98人全員を解雇し、業務をアウトソーシング(外注化)した。解雇された労働者の多くは20年以上にわたって働いてきた。彼ら・彼女らは解雇にあたって、新規に雇用された従業員への業務の訓練までさせられた。  UNITE・HERE(04年に衣料産業の労働組合UNITEとホテル・レストラン労働組合HEREが合併、組合員数26万5千人)は昨年から今年にかけて、サンフランシスコ、ロサンゼルス、トロント、シカゴ等でハイヤットとの協約交渉に入っているが、経営側は一層のコスト削減を追求しており、交渉は行き詰っている。  また、組合が組織されていないインディアナポリス、サンアントニオ等では、労働者が組合を要求し、組合結成に関する従業員投票への経営側の不介入を求めているが、経営側は拒否、妨害や報復を繰り返している。(UNITE・HEREのウェブより)
 7月22日、サンフランシスコでは、UNITE・HERE第2支部の労働者や支援の労働者、学生、地域の活動家150人余がダウンタウンの道路に座り込み、スクラムを組んで1時間にわたり抗議。警官隊が参加者全員をシャトルバスで近くの警察署へ連行した。
 シカゴでは、ハイヤット・リージェンシー・ホテル前の歩道を千人近い労働者、支援者が埋め尽くした。このホテルの協約交渉は1年近くにわたっているが、妥結の見通しは立っていない。
 UNITE・HEREは09年から10年の協約交渉でハイヤットを重点的なターゲットとしている。ハイヤットは賃上げの凍結、健康保険料の家族分の引き上げを提案している。また、ハイヤットの年金は貧弱で、30年間勤続しても月900ドルしかもらえない。
 1980年からサンフランシスコのグランド・ハイヤットのレストランで働いているドン・オルソンさんは、「経営者の交渉のやり方はフェアでない。私たちの要求はささやかな賃上げと年金、健康保険を守ることだけなのに」と言う。
 ハイヤットは作業量・労働密度のすさまじさにおいて業界を先導してきた。「米国産業医学ジャーナル」2月号のレポートによると、ハイヤット・ホテルの客室清掃の業務は「労災・職業病のリスクが、最も優良なホテルの2倍である」。
 また、ボストンの3つのホテルで行われたような大幅な人件費削減が全国で進められている。外注化によって新規に雇用される従業員の賃金は、正規従業員の半分である。UNITE・HEREはボストンの被解雇者(「ボストンの100人」)の復職を要求して、組合員以外の労働者と連携して全国的なキャンペーンを続けている。
 北米のすべての地域でホテル労働者は、組合員であるかどうかに関わりなく、レイオフ、作業量の増加、勤務時間の短縮、労災・職業病の増加に苦しめられている。ホテル業界の2010年第1四半期における業績回復(予測)にも関わらず、4万6千人の雇用が失われた。シカゴにはハイヤットの本社があり、ハイヤットのオーナーである億万長者、プリツカー一族がいる。当然に抗議行動も集中している。5月には労働者が自発的に3時間ストライキを行った。6月には株主総会の会場の前で大きなデモが行われた。
 7月22日の行動では、労働者や教会・地域のリーダーたちが道路上に座り込み、警官隊の警告に対して、「私たちは人間だ! もうたくさんだ!」と叫び、2度目の警告の後、自主的に撤退した(同日、殉職した警察官の葬儀が予定されており、警察官の業務を増やさないための配慮)。しかし、約20人が逮捕された。近くのブラックストーン・ホテルの労働者であるマギー・カルダさんも逮捕された。彼女は「ハイヤットやサガ(ブラックストーン・ホテルの親会社)は何百万ドルも儲けているのに、私の仲間たちは健康保険もなく、労働時間も削られている」と訴える。彼女はまた、「シカゴだけでなく多くの都市での行動に参加できてうれしい。会社の構造が変わってほしい。それはあらゆる所で行動を起こすことによってだけ可能になる」と語っている。
 サンフランシスコでは、1月に大規模なデモが行われたあと、ヒルトンとハイヤットの労働者が3日間のストライキを行った。同市ではこの2つのホテルをはじめ8つのホテルに対して労働組合がボイコットを呼びかけている。
 ハイヤット・リージェンシーで36年間、ウェーターとして働いているアンディー・ロペスさんは、第2支部の協約交渉委員会のメンバーでもある。協約交渉は昨年8月から始まっている。彼は、1年間の有給休暇のすべてを、進展のない交渉のために費やしてきた。「経営者には私たちがあきらめないということを知らせる必要がある」と言う(「レイバーノーツ」のウェブより)。
 7月29日、UNITE・HERE第1支部(シカゴ)は、92%の賛成でストライキ権を確立した。

●パナマ
「反労働組合的法律の制定に抗議のゼネスト 」

 7月12日に国会で法律第30号が承認された。この法律は航空セクターの改革に関連する法律だが、その中に労働組合活動の規制やそのほかの反民主主義的な条項が詰め込まれていることから「チョリーソ(ソーセージ)法」と呼ばれている。たとえば第2章第12条では、経営者は組合費を給料から代理徴収する義務を負わないと規定され、同章にはこのほかにストライキ中はストライキに参加している労働者との労働協約は効力が停止される、会社側は一時的に代替の労働者を雇用できる等の規定がある。また、最近制定された別の法律では、街頭デモに参加した労働者は2〜5年の禁固刑の対象となる。
 リカルド・マルティネリ・ベロカル大統領は、昨年の選挙で「犯罪と汚職の抑制」を公約にして当選したが、当選後は民間企業の利益を最優先する政策を強力に進めてきた。彼自身、有力な企業家であり、パナマ最大の食品店チェーンのオーナーである。
 マルティネリ大統領はホンジュラスのポルフィリオ・ロボ「大統領」(軍事クーデター後の選挙で選出され、国際的には承認されていない)との間で、ストライキ中の労働者の代替要員としてホンジュラスから5千人の労働者を受け入れるための交渉を進めている。07年に締結され、米国での批准を待っている米国・パナマFTA(自由貿易協定)が発効すれば、労働組合の権利がさらに侵害されることが予想される。
 パナマの労働組合や市民団体は法律第30号の内容が明らかにされた時、ただちに反対運動を開始。
 6月29日に、法律第30号反対のデモに1万人が参加した。
 7月2日には、ボカス・デ・トロ県のボカス・フルーツ社の4千500人の労働者(大部分が先住民)がストライキに入った。同社の経営者は、バナナ産業労働組合との労働協約を反故にし、組合費の代理徴収を拒否すると通告した。
 ストライキは48時間にわたって続けられ、近隣の農園の労働者も合流した。労働者たちは道路を封鎖し、空港を占拠した。パナマ運河拡張工事に携わっている労働者たちもストライキに入った。
 政府は1千500人の警官隊を派遣して暴力的に弾圧した。警官隊との衝突で11人が死亡し200人が負傷した。人権団体の発表では、衝突の後、川や農園で遺体が発見された。建設労働者30人が逮捕された。
 パナマ大学の学生の抗議運動にも警察が介入し、157人が拘留されている。
 7月13日には労働組合がゼネストに入り、建設現場や学校などが休業した。パナマ大学、コカコーラ等でも50〜100%の労働者がストライキに入った。(「Zネット」等より)

●イタリア
「フィアットで不当解雇抗議のスト」

 7月16日、FIOM・CGIL(労働総同盟・金属労連)は、フィアットの工場での4人の組合員の解雇に抗議して4時間のストライキを行った。
 トリノの、ミラフィオリの工場で若い専門職労働者が、ナポリ・ポミグリアノ工場での労働者の闘いへのポーランドの労働者からの連帯メッセージを社内メールで回覧したことを理由に解雇された。  メルフィでは、FIOMの2人の役員と1人の組合員が、労働強化に反対するストライキの際に工場内に妨害物を置いたことへの処分として解雇された。
 フィアットでは現在、会社側が提案している「労働規律の強化と生産性向上」をめぐって5つの労働組合のうち4つが提案を受け入れ、最大労組であるFIOM・CGIが提案を拒否しており、会社側のFIOM・CGILへの攻撃が強まっている。
 フィアットは、ポミグリアノ工場への7億ユーロの新規投資と、ポーランド・ティヒでの生産(人気ブランドの「パンダ」)をポミグリアノ工場に移転する計画の条件として、週6日制、無断欠勤やストライキへの参加に対する処分、病休等の既得権の削減等への同意を求めている。
 ポミグリアノ工場は国内の5つの工場の1つで、従業員数5千人、「アルファロメオ」ブランドの自動車を年間3万台生産している。経営側は、労働者が条件を受け入れなければポミグリアノ工場を閉鎖すると脅迫している。同工場で6月22日に行われた従業員投票で、会社側提案への賛成は62%にとどまった。(国際金属連盟のウェブより)
 7月22日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、フィアットのポミグリアノ工場での生産性向上のための試みについて、イタリアが国際競争力強化のために必要な変化を受け入れる用意があるかどうかを試していると評している。同紙によると、06年にフィアットを破産の危機から救出し、09年にクライスラーを救済したセルジオ・マルキオンネ最高経営責任者は、労働者に対してグローバルな競争に勝ち抜くために労働規律を根本的に変えることを要求している。工場労働者のネロ・ニグリオさんは「彼はアメリカ式の標準を押し付けたいのだ。しかし働き過ぎは労働者の生命を奪っている」と指摘している。
 7月21日には、マルキオンネ最高経営責任者はトリノのミラフィオリ工場をセルビアへ移転する計画を発表した。ミラフィオリ工場は左派のFIOM・CGILの拠点であり、同23日にこの計画に反対して2時間ストを行った。
 ベルルスコーニ首相は、「自由経済と自由な国家の下で、フィアットがどこで生産しようと自由だ」として移転計画を容認している。

●ギリシャ
「トラック運転手がスト、政府は軍を投入」

 EUとIMFによる「ギリシャ救済」計画の一環として、政府はトラック輸送部門の市場開放、営業免許の要件の緩和を進めようとしている。3万3千人のトラック運転手がこの計画に反対してストライキに入っている。いくつかの島ではガソリンスタンドが営業できなくなり、野菜や果物の不足も起こっている。
 7月29日には、ストライキ中の労働者たちが運輸省の門に向って投石し、警官隊が催涙弾を発射した。政府は同日、トラックの所有者と運転手に対して、仕事に戻らなければ免許の取り消しを含む重い処分をすると警告した。
 政府は同30日にも、トラック運転手のストは法律と秩序に対する重大な侵害であり、社会全体に対して損害を及ぼしている」と非難。しかし、トラック運転手組合のゲオルギオス・ツォルツァトス委員長は、同日に開かれた集会で「われわれは免許を取り上げさせるつもりはないし、権利を守るために闘う決意をしている」と語った。
 政府は同日、空港や発電所、病院、への燃料の輸送のために軍の車両を使用すること、島への燃料の輸送のために軍艦の出動を指示した(「CNN」ウェブ版、7月31日付より)。

バングラディシュ
「衣料産業の最低賃金を引き上げ、労働者の要求を大幅に下回る」

 7月28日、政府の下の賃金委員会は、最低賃金を現在の月1662タカ(約2千70円)から3千タカ(約3千700円)への引き上げ勧告を採択。これは労働組合や労働者団体の要求額5千タカ(約6千230円)を大幅に下回っている。新しい賃金基準には医療手当200タカと住宅手当800タカが含まれている。
 同29日、政府は新しい賃金基準を11月から適用すると発表。賃金には7つの等級が設けられ、最高ランクは9千300タカとなる。
 現行の最低賃金は06年に決定された。このとき、賃金委員会は2千300タカへの引き上げを勧告したが、経営団体からの強力な抵抗で1千662タカに抑えられた。年率10%のインフレの中で、この賃金では都市のスラムの中ですら生活できない。
 経営団体は、賃金を上げると競争力が弱くなり、多くの工場は倒産すると主張してきた。また、時間外労働によって実際には所定の賃金の1.5倍ぐらいの収入があると主張している。しかし、長時間にわたる超過勤務は労働者の健康に重大な被害を及ぼしている。
 賃上げを要求する運動は07年末から始まった(最近の経過については本誌7月15日号を参照)。
 西欧や北米の労働組合や消費者運動団体もバングラデシュの衣料労働者の賃上げを支持する国際的なキャンペーンを展開した。「労働者の団結」(英国のユナイトと米国・カナダの鉄鋼労組が合併して設立された国際労組)はバングラデシュの新聞に賃上げを支持する全面広告を掲載し、労働者の団結を訴えた。
 全国の約5千の工場で働く300万人の労働者(80%が女性)が最初に手にする賃金は1日55タカ(約70円)である。大幅賃上げを提案しているモハンマド・ゴラム・ナビさんは、「この賃金で家賃、食費から衛生用品までをまかなわなければならない。……この女性たちはみな、劣悪な衛生状態の中で、将来の世代となる子どもを出産しなければならない。そのことに関心を向けてほしい」と訴える。
 シャリフ・カフィさんによると、最近の衣料産業における労働争議の原因は賃金ではなく、一部の経営者の搾取である。「賃金の不払い、工場閉鎖、祝祭日のボーナスの不払い等が争議の原因となっているが、一部の経営者は争議の背景には政治的動機があると主張して人々を騙そうとしている」。
 長期にわたる交渉の末に、ようやく最低賃金の引き上げが決定された。賃金委員会での交渉に参加した衣料労働者の組合の代表のシャムサン・ハナル・ビュイヤンさんは、「これは勝利である。大多数の労働組合は賃金委員会の決定を受け入れるだろう」と語った。
 しかし、多くの左派の労働組合は賃金委員会の交渉に参加しなかった。「衣料労働者の団結」フォーラム(6万人)の代表のムシュレファ・ミシュ氏は「この(賃金委員会の)決定は受け入れられない。私たちは抗議運動を進める」と語っている。
 7月30日には、ダッカで政府の決定に抗議するデモが行われ5千人以上が参加、一部では工場や商店の破壊、警官隊との衝突も起こった。

カンボジア
「衣料労働者のストに警官隊が介入」

 7月27日、プノンペン郊外の衣料工場(マレーシア人が経営)で、ストライキ中の労働者3千人に対して100人の警官隊が出動し、盾や電流が流れる警棒を使って襲いかかった。労働者たちは組合役員の解雇に抗議して1週間前からストライキに入っていた。
 自由労働組合(FTU)の書記長のスリ・キムヘンさんによると、警官隊は、裁判所の命令書を掲げ、道路上にいた労働者たちを排除し、工場内へ押し込もうとした。この中で少なくとも9人の女性労働者が負傷した。
 カンボジアでは衣料産業は農業、観光に次ぐ第3の外貨獲得源であり、30万人を雇用している。09年に米国やヨーロッパへの輸出の減少に伴い約3万人の雇用が失われた。衣料・繊維・靴の輸出は08年の29億ドルから09年には23億ドルに減った。輸出の半分は米国向けである。

アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 東京都千代田区三崎町2-13-5 影山ビル501号 Tel.03-6675-9095 Fax.03-6675-9097