アジア@世界
816号

●タイ
「ソムヨットさん(民主運動の活動家)の再逮捕に抗議、即時釈放を」

以下は、オーストラリアAAWL(アジア太平洋労働者リンク)からの緊急支援要請である(5月6日付)。  労働運動のリーダーであるソムヨット・プルクサカセムスクさんが4月30日、法務省特別捜査局(DSI)によって刑法112条違反(不敬罪)容疑で逮捕された。ソムヨットさんは「6月24日民主主義グループ」のリーダーで、「タクシンの声」誌の編集者である。
 非常事態対策本部(CRES)によるDSIへの告発によると、ソムヨットさんは彼が編集する雑誌に、王室への侮辱および国家の安全への脅威とみなされる声明を掲載したとされている。  ソムヨットさんの拘留は初めてではない。ソムヨットさん釈放を求めるキャンペーンへのAAWLの参加も。彼は昨年5月24日に逮捕され、6月13日に釈放された[詳細は本誌2010年6月15日号・7月1日号参照]。
「プラチャタイ」紙(日刊のウェブ新聞)英語版は、5月2日付のレポートで、次のように伝えている。
 ソムヨット・プルクサカセムスクは5月1日に、犯罪取締課(CSD)へ逆送致された。「赤シャツ」の活動家や、トリンプ社の元労働者が彼に面会した。彼の逮捕理由は、最近呼びかけられた「刑法第112条廃止を求める1万人署名運動」の中での彼の役割と関係していて、取り調べ担当者も、それに関係していなければ逮捕されることはなかったと言っていた。
 彼は「民主主義ネットワーク」に結集する「6月24日民主主義グループ」などのリーダーとして、4月25日にこの署名運動を始めるための記者会見を行った。彼は「不敬罪こそ人民の思想・表現の自由に対する終わりのない脅威の原因である。人民は自分たちが望む政治制度を選ぶ自由を持つべきだ。人民が共和制を望むのであれば、そのように発言できる権利を持つべきである。われわれは人間として存在するための権利を取り戻すために闘う」と述べている……。
 彼は、「私が拘留されている間、仲間たちが運動を続けるだろう。われわれは人民が何の罪もなく投獄されることがないように、運動を前進させなければならない。今では、これは口にも出せない問題となっている。特に赤シャツの活動家たちは、息をしたり放屁するだけで有罪とされかねない状況である」と述べた。
 5月2日に刑事裁判所は彼の保釈請求を却下した。彼が国家の安全を脅かし、王政の転覆をはかったことは重罪に当たり、また国外逃亡の恐れがあるという理由によってである。

●メキシコ
1ヵ月半にわたる数万人の動員で反労働組合的法案を阻止

 PRI(制度的革命党)が3月10日に労働法改定案を下院に提出し、カルデノン大統領のPAN(国民行動党)もこれを支持した。
 06年の大統領選挙で実質的に勝利した(開票の不正により小差で敗北)民主革命党のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル氏は、「労働法改定案はこの国の寡頭制支配階級にのみ利益を与える」と非難した。鉱山労組の委員長で、06年にチリに亡命を余儀なくされたナポレオン・ゴメス・ウルティア氏は、「PRIは企業経営者に労働者の権利の抹殺というプレゼントを贈ることによって12年の選挙での政権復帰を確実にしたいと考えている」と指摘した。
 独立労組の組合員や支持者などによる連日闘争の結果、4月22日に議会は法案の審議を中止した。
 以下は米国「レイバーノーツ」誌オンライン版に掲載されたダン・ラ・ボッツ氏のレポート(4月25日付)の抄訳である。
 労働組合の権利を破壊しようとする右翼の議会での試みに反対し数万人が数週間にわたりデモを続けた。彼ら・彼女らは、少なくとも当分は法案を阻止できたようだ。
 これはウィスコンシンの話ではなく、メキシコの話である。企業経営者と、公認の政府系組合と、中道右派政党(PRI)が結託し、長年にわたって憲法で保護されてきた労働者の権利を事実上解体する法案を制定しようとしてきた。
 国会は労働者の集会やデモ、教育・宣伝のキャンペーンとロビー活動、人権ネットワークや民主主義を擁護する法律家のグループとの連携の力に屈服して、ついに4月22日に、「労働法改定案の審議を凍結し、すべての手続きを秋まで延期する」と発表した。
 紙の上ではメキシコは1917年の憲法の下で、世界で最も優れた労働法を持っており、労働者は組合を組織する権利やその他の法律上の保護を付与されている。1930年代に工業、農業、公務員労働者の組合がPRIの一翼となり、PRIはその後75年にわたって政権に就いていた。
 この間にメキシコの労働者は、週44時間労働、パートや臨時雇用の規制などの好条件を法律上では確保してきた。解雇された場合にも退職金支払いがあり、ストの合法性が認められた場合はスト破り要員導入が禁止されている。スト中の賃金も支払われる。現実にはこれらの権利は徐々に崩され、80年代までに急速に失われてきた。
 PRIの労働法改定案はこのような変化を加速し、労働組合の力や権利をさらに弱めることを意図している。この改定案では、「60日間の研修期間」、「30日間の仮採用期間」、「季節雇用」などの新たな非正規雇用・臨時雇用制度が導入される。請負制が許容され、解雇された労働者への法定退職金の要件が緩和され、スト投票で賛成投票した労働者のリストの提出が義務付けられ、ストに賛成した労働者は報復処分にさらされることになる。また、組合との労働協約を締結している場合でも、経営者は労働者と個別に、異なる条件で協約を締結することが認められる。
 この改訂案は、公式の組合の連合であるCT(労働者会議)からも支持された。しかし、メキシコの独立労働組合運動は、国内外からの多くの支持を得て、この法案の頓挫に成功した。
 メキシコの最も攻撃的で政治的な経営者団体であるCOPARMEXは1980年代以来、労働法の改定を要求してきた。「国を近代化し、競争力を強化し、外国からの投資を呼び込み、雇用を増やすため」にである。PANは30年間にわたって、今回と同様の法案を何度も提案し、失敗してきた。しかし今回は、「メキシコの勤労人民の党」を自称するPRIによって提案され、これまでよりも一層反労働者的な内容である(PRIは現在、議会の過半数を占めている)。
 現在、全国労働組合(UNT)をはじめとする独立労組は合計で約150万人を組織している。
 3〜4月にかけて、教員や電力労働者を先頭に数万人の労働者が労働法改定反対のデモに参加。多くの大衆集会やフォーラム、学習会が開かれた。政府の公聴会でも、協力的な議員を通じ意見を表明。12年の大統領選への立候補が予想されるアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル氏は支持者たちを改定案反対のデモに動員した。

●ボリビア
「教員・公務員が賃上げ要求でストライキ、道路封鎖」

 賃金引き上げを要求してストに入っていた教員や他の公務員が、4月14日から全国で主要道路や高速道路を封鎖した。
 ベニ州(ボリビア北部)のブラジルとの国境に近い地域で道路封鎖に参加したナシラ・リンピアスさんは「エボが道路にバリケードを築くことを教えてくれたの」と言う。エボ・モラレス大統領はかつて、コカ栽培労働者のリーダーとして多くの道路封鎖闘争を指揮した。
 リンピアスさんによると、教員の賃金は月千200ボリビアノ(1ボリビアノは約12円)で、「これでは食べていけない」。06年にモラレス大統領が就任して以降、最低賃金は約2倍に上がっている(約400ボリビアーノから750ボリビアーノ)。
 5日間の闘いの結果、政府は一部の公務員に対し12%の賃上げに同意、ボリビア労働者連合(COB)との合意が成立した。教員たちは15%の賃上げを要求していたが、当面は実力行動を行わないことに同意した。ボリビアには12万人の教員がおり、その大部分は女性である。リンピアスさんが働くグアヤラメリンには約1千人の教員がおり、そのうち120人が農村地区の学校で教えている。カストゥリア・ソラレスさんは、主任教員という地位を失う覚悟で、スト委員会に参加したと語っている。
 インフレによる実質賃金の低下で、この1年間に道路封鎖が増えている。教員の間では、難しい昇進試験に通っても、それに見合った待遇が得られない不満や、すべての教員へのコンピューター配給という約束が守られていないことへの不満も語られている。(「IPS」4月26日付より)

●ロシア
「経営者団体が労働法改定を要求」

 以下は「Zネット」のウェブに掲載されたロシアの左派活動家のボリス・カガルリツキーのレポートの抄訳である。
 億万長者のミハイル・プロホロフはRSPP(ロシア経営者連盟)の実質的なイデオローグであり、RSPPによる「経済改革」の一環として、プロホロフは、「労働者にあまりにも多くの保護を与えている労働法」に攻撃を集中している。彼によるとロシアの労働法は「ソヴィエト時代の残滓で、時代遅れ」である。  実際には労働法は1992年に改定され、01年には全く新しい労働法が制定されている。これは団交権や週40時間労働(超過の場合は割増賃金)など、ヨーロッパ諸国の法律とほとんど同じである。  RSPPの提案が通れば、経営者は超勤手当を払う必要がなくなり(自由に残業させることができ)、いつでも労働者を解雇できるようになるだろう。

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