アジア@世界
811号

●エジプト
軍事評議会の中止指令に抗し全国でスト拡大

 ムバラク政権の崩壊後も、労働者の闘いは継続し、旧体制と結びつき腐敗を極めていた経営者やエジプト労働組合連盟(ETUF)の幹部たちを追い詰めている。  2月13日、カイロで1千人余の警察官が待遇改善を要求して雇用者である内務省へデモを行った。軍が威嚇のために空砲を発射した(その後、軍は謝罪)。前日にはイスマイリアで、警察官がデモへの発砲命令に抗議し、革命に連帯するデモを行っている。  同日、カイロのオペラハウスの職員、技術者、アーチストなど約300人が腐敗一掃を掲げ、経営者の辞任要求の集会を開いた。  同日、エジプト国立銀行の労働者2千人が本社前集会を開き、賃金体系の明朗化等を要求した。役員会が縁故採用した新入行員が、長年勤続している中堅管理職よりもはるかに高い賃金を受け取っている。また、経営顧問(政権関係者の身内)が法外な報酬を受け取っている。他でも同様の集会が開かれ、銀行側は業務を停止した。

 2月14日、カイロで国営新聞社のジャーナリストと職員が集会を開き、ムバラク政権打倒の闘いについての報道姿勢に問題があった編集委員の追放、報道の自由のための法改正等を要求した。  同日、イスマイリアでスエズ運河労組と労働者グループが賃上げを要求し、座り込みストに入った。  2月15日、カイロ郊外のラマダン10日市にあるエジプト最大の輸出用衣料メーカー、アルファ・ホールディング(従業員6千人)の工場で労働者がストに入り、経営側は3日間の工場閉鎖を発表。交渉の結果、賃上げ等の要求が受け入れられ、労働者たちは同19日から就労を再開した。スト中の賃金は支払われる(有給休暇扱い)。

 2月16日、農業省の臨時雇用労働者が正規雇用化を要求して省の庁舎へデモを行った。

●最大の紡績工場でスト
 2月16日、マハラのミスル紡績織物(国営、2万4千人)の労働者約1万5千人が、軍最高評議会のスト中止指令に抗して、賃上げと労働条件改善を要求してストを再開(同13日から中止していた)。この工場では07年9月に賃上げ要求ストが成功。その後、全国に労働運動の拡大を促進した。
 労働者たちは最低賃金を1千200エジプトポンド(1エジプトポンドは約14円)への引き上げと、2人の経営責任者の辞任を要求した。
 軍の代表との交渉の結果、25%の賃上げと、1人の経営者の解任で合意し、労働者たちは同20日に職場に戻った(「AFP」等より)

●主な要求は賃上げ、腐敗の追及、非正規雇用の正規雇用化
 2月23日、エジプト南部のトシュカのサウスバレー農業開発会社とラムセス農業サービス会社の労働者約1千800人が無期限ストに入った。これらの会社の社長は横領で告発されている。
 電力部門では、電力持株会社の社長が中部デルタ地域電力会社の社長を解任。これはスト中の労働者の要求に対応したものだが、多くの労働者を恣意的に解雇してきた同社生産部長の解任を求めて労働者たちはストを継続している。
 多くの臨時雇用の教員たちも、正規雇用を求めて行動を起こしている。
 国鉄管理局前では解雇された300人が復職を求め抗議行動を行い、抗議行動への妨害を阻止するため、軍が警備のために動員された。
 ロクマ・パイプ工場では1千500人の労働者が賃上げとボーナスを要求し従業員50人を人質にした。
 カイロ国際空港の労働者や、ナイル・コットン社の労働者も賃上げを要求してデモを行った。
 ミンヤ、ケナ、シャルキアなど各地で労働者や求職活動中の学生が未払い賃金の引き上げや雇用の確保を要求して高速道路を封鎖した(「アルマスリ・アルヨウム」紙2月23日付)。

●コーク社(肥料)で3千人がスト
 2月20日、ヘルワン市(カイロの南)の肥料会社コーク社の労働者3千人が、会長の辞任と経営状態悪化の責任者の追及を求めて3日間のストに入った。
 「労働組合および労働者サービス・センター」(CTUWS)の声明によると、労働者たちは会社の前で座り込み、賃上げ、臨時雇用労働者の正規雇用などの要求を掲げ、政府の介入を要求した。すでにこの会社の不正や違法行為が中央会計監査機関により明らかにされており、労働者たちは経営者が会社の利益を自らが経営する持ち株会社へ移転したことに憤っている。
 「アルマスリ・アルヨウム」紙によると労働者たちは同28日にもストに入った。鉱業都市ヘルワンでは、このほかに多くの国有企業の労働者が賃上げと腐敗一掃を求めてストに入っている。また、アラブ工業化機構の労働者1千500人が賃上げと、法外な報酬を受け取っているコンサルタントの解任を求めて同日、2日間のストに入った。

●労働者政党の結成へ
 2月25日、カイロで開催された独立労組や労働者グループのリーダーたちの会合で「労働者民主党」の結成が合意された。結党宣言は「ビジネスマンやエリート政治家たちは自分たちの政党を持っているが、労働者は革命の中で決定的な役割を果たしたにも関わらず、権力に向けた闘争の中で自分たちを代表し、自分たちの先頭に立つ党を持っていない」と述べている。
 また、26日には野党のタガンマア党(国民進歩統一党)の左派の一部が離党し、他の左翼活動家と統一して「人民連合党」を結成することに合意した。両党とも旧体制の完全な一掃と民主主義の実現、最低賃金と最高賃金の設定、民営化の中止等の要求を掲げている。両党とも支持者の署名集めを開始し、1ヵ月以内に結成大会を開催する(「デイリーニュースエジプト」同28日付)。

●女性の参加の拡大へ
 「タフリール広場の闘いは女性にとって、信じられない時間でした」と新女性財団(女性の権利を主張するNPO)のアマル・アブデル・ハディさんは語る。「広場に集まった女性たちはすべての世代と社会階級を代表していました。しかしメディアは女性たちにはあまり注目せず、その結果、若い男性たちが革命を指導し、女性の参加は目立ったが、それほど重要ではなかったかのような印象を与えています」。
 彼女の同僚のナウラ・ダルウィッシュさんは、女性が独自の要求を掲げて組織されてはいなかったので、ムバラク打倒後に女性の要求は無視される可能性があると懸念する。彼女は1919年の革命の時もそうだったと指摘する。同財団では、闘争に参加した女性たちの証言を集め、女性たちが継続的に政治に参加することを促すことを計画している。
 エジプト女性の権利センターのネハド・アボウ・エル・コムサンさんは、選挙までの期間、および選挙中、そして新憲法制定の過程で、あらゆるレベルにおける女性の参加の拡大を訴えることが必要だと述べている。彼女によると、現時点では、若者のグループを含めてどのグループも、女性の発言権拡大のための積極的な行動を行っていないと指摘する。(「アルマスリ・アルヨウム」紙2月15日付)

●米国
ウィスコンシン州で公務員の団交権剥奪に反対し州庁舎を占拠

 ウィスコンシン州のウォーカー知事は、「財政再建」を掲げて公務員の年金・健康保険への支出の削減を進めようとしており、そのために公務員労組の団体交渉権を否認する法案を議会へ提出した。  同知事は労働者を分断するために消防士と警察官を法案の対象から除外した。メディアは公務員と民間労働者の対立を煽ってきた。
 2月15日に州都マジソン市で数千人が公務員の労働基本権への攻撃に反対してデモを行った。州議会の民主党議員もこの法案に反対して審議をボイコットした。
 同日以降、連日デモが続けられ、教員、看護師のほか多くの学生、市民も参加している。州庁舎はデモ参加者により占拠されている。警察官もデモに連帯して、デモ隊排除の命令を拒否している。
 イリノイ州、オハイオ州、ワシントン州等でも「ティーパーティー」に支持された共和党知事が同様の法案を提出、抗議運動が広がっている。2月26日には全米50州の州都で、公務員の闘いを支持するデモが行われ、マジソンの州庁舎の前には10万人が集まった。デモ参加者の多くは、エジプトの民主化運動の勝利に鼓吹されている。
 米国最大のコミュニティー・メディア、「デモクラシーナウ」は連日この闘いを報道。28日には26日の州庁舎前の集会の様子を生き生きと伝えている。
 09年1月に「ハドソン川の奇跡」(航空機がハドソン川に不時着、乗客全員を無事救出)のパイロットだったジョフ・スカイルさんは次のように語った。「2年前に私は、この州庁舎にヒーローとして迎えられた。しかし、ヒーローは私だけではなく、パイロット、客室乗務員、航空管制官、消防士、警察官、フェリーの乗員すべてだ。みんなで力を合わせたのだ。州議会はこの教訓を学ぶべきだ。訓練を受けたプロが、個人的な安全への恐怖に打ち勝って仕事をやり遂げたのだ。その全員が組合員だった」。
 教員組合のマリー・ベル委員長は携帯電話を取り出し、州知事に話し合いを求める演技をし、「私たちはすでに州財政の赤字削減のための協力に同意してきた。それが問題なのではない。私たちの権利を奪うことが許せないのだ」と語った。ウォーカー知事が石油利権で富を蓄積したチャールズ・コークとデービッド・コークの兄弟から巨額の選挙資金を得てきたことも、彼の労働者への攻撃の階級的性格を明らかにしている。マリー・ベルさんは携帯電話の演技の最後に、「……忙しいから話し合う時間がないって? え、別の電話が入ったの? コークさんから? そっちの方が大事ね。じゃあ」と皮肉った。大雪の中、集会参加者は発言者の一言一言に大きな歓声で応えた。

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