アジア@世界
喜多幡佳秀&稲垣豊・訳(APWSL日本)
832号

バングラディシュ
「再びストが拡大地域間の連携も」

 12月3日午後、ダッカのユーロテックス社(欧米の有名ブランドに納入している衣料品会社)の工場2階のボイラーが爆発、労働者2人が圧死し62人が重傷を負った(8日時点で11人が入院中)。死亡したのは補助作業員のジェシミン・アクテルさん(20歳)とタスリマ・アクテルさん(22歳)。
 以前から、この工場の安全管理について欧米の複数のバイヤーが懸念を表明し、改善を求めていた。
 工場ビルの2〜6階で作業中の労働者がボイラー火災の知らせを聞いて殺到した階段が崩壊、転落した。各階の非常口は、カギがかかっていたという。
世界の衣料産業労働者の権利と労働条件の改善を求めている消費者運動団体「クリーン・クローズ・キャンペーン」によると、2000年以降、バングラデシュの衣料工場では火災等の事故で少なくとも339人が死亡。その大部分は、欧米の有名ブランド向けの衣料品を製造している工場で発生している。
 2010年12月14日には、ザッツイット社(主に米国向けスポーツウェアを製造)の火災で29人が死亡、多数が負傷した(9人が重症)。火災原因は電気のショートと不適正な配線。また、避難訓練もされず、工場の出口が塞がっていた。工場としての使用許可が出ているのは低層階だけだが、火災が起きた工場は最上階(9階)にあり消防車の梯子が届かず、屋上が社員食堂として使われ、ヘリコプターが着地できなかった。そして、これらを改善要求するための労働組合が認められていなかった。
 ザッツイット社の災害の後、BNC(バングラデシュ衣料・繊維・皮革労働者全国評議会)傘下の組合は安全基準と補償基準の確立を要求し、国際的な労働組合やNGOの支持を得て、政府や欧米の企業に働きかけてきた。
 その結果、犠牲者の各家族に170万タカ(1タカは約0.9円)の補償金支払いが決まり、ザッツイット社が属しているハメーム・グループに製品を発注している大手ブランドが45%、工場オーナーが28%、バングラデシュ衣料製造輸出業者連盟が18%、バングラデシュ政府が9%を分担することが確認された(大手ブランドによる補償金は大部分が支払い済み)。しかし、負傷者への賠償は不十分で、安全基準確立に関しては、ギャップ社を除き、責任回避を続けている。「クリーン・クローズ・キャンペーン」のWeb、11年12月15日より)

 12月27日付の「ザ・デイリー・スターズ」紙によると、バングラデシュの衣料製品輸出は、世界的不況にもかかわらず10年度に42%の成長を記録。中国に次ぎ世界第2の衣料製品輸出国となり、衣料産業は輸出全体の78%を占めている。しかし、最大の輸出先のヨーロッパにおける経済危機の中で、日本、南アフリカ、ロシア、ブラジル等への市場拡大を目指している。そのためにインフラの拡充、技能労働者や中間管理職の確保等が求められている。労働争議の多発も重要な問題となっている。中国におけるコストの高騰と労働力不足に伴い、バングラデシュ、ベトナム、インドネシア、カンボジアへの工場移転の動きが広がっている。
 この中で、欧米のブランドは企業イメージ維持のため、CSR(企業の社会的責任)や「企業行動規準」(CoC)を掲げ、現地の企業に指示しているが、現地企業はコスト削減と短納期の要求への対応のために安全対策は後回しにされ、政府による監督も不十分である。
 衣料労働者を支援しているアワジ基金のナズマ・アクテルさんは、「多くの場合、CSRと称し従業員向け慈善プログラムが種々提供されるが、工場における労働条件の改善こそが最重要のCSRだ」と指摘している。(同紙10月30日付)

 中国では、この2年間でストの波が2回起きている。華南地方の工業地帯(世界の工場)で今秋、何千人もの労働者がストに入った。ニューバランスのスポーツシューズ、アップルやIBMのキーボード、下着、家具、シチズン時計などを作っている労働者たちが賃金や残業の問題をめぐりストを行った。
 2つの工場では労働者が工場周囲の道路を封鎖し、一部が警官隊と衝突、数十人が負傷。キーボード工場では、経営者が残業手当を削減しようと、倍の賃金になる日曜日の仕事を平日に割り振ろうとして起きた週6時間の労働時間の延長に労働者の怒りが湧き起こった。3日間のストで会社側は計画を撤回した。
 時計製造請負企業の労働者たちは7年間にわたる未払い賃金(休憩時間分)の支払いを要求して13日間のストを行った。法律上はこのような請求は2年分しか認められていないにも関わらずである。
 586人の労働者は、公式の労働組合の交渉への同席を拒否し、労働問題に取り組んできた改革派の弁護士に代表権を委ねる請願書に署名した。団体交渉には労働者の委員会も参加し、その結果経営者から大幅な譲歩を勝ち取った。
 南京では、政府が約束した賃上げを実施しないことに抗議して、市の清掃労働者が収集したごみをメインストリートに積み上げて交通を妨害した。
 11月14日には5都市のペプシ瓶詰工場の労働者が、工場の台湾企業への売却に抗議して一斉にストに入った。その後、同社の全国24の瓶詰工場の労働者2万人がインターネット・キャンペーンに参加。このような相互連携は、これまでほとんど見られなかった。  ストに入っているのは工場労働者だけではない。浙江省ではテスコ(英国のスーパーマーケット)の店員100人が低賃金とレイオフに抗議して店の外で野営し、客の来店を妨げた。10月中旬には国産車ビヤディの販売員が、レイオフと協約違反に抗議して全国からビヤディ本社に集まった。多くの都市で教員のストも起こっており、生徒たちや親がストに同調するケースもある。

ナイジェリア
石油価格値上がりに抗議のゼネスト

 ナイジェリアの全国労働者会議(NLC)と労働組合会議(TUC)は、政府発表の石油補助金廃止に抗議して1月9日からゼネストに入った。ストは同14日に政府との交渉のため一時中止されたが、同16日から再開される。
 ナイジェリアは石油の生産量が世界第12位であり、石油による収入が国家財政の8割を占めているが、国内の4ヵ所の精油所は稼働率が低く、ガソリンや灯油は輸入している。石油製品を低価格に抑えるために政府が年間約80億の補助金を支出してきたが、その多くは不明朗な形で石油製品輸入業者を潤してきた(石油製品の輸入量、輸入元、輸入業者の情報は非公開)。労働組合や社会運動団体は政府に不正の調査と処罰を求める運動を行ってきたが、全く改善されていない。政府は12月に、10ヵ月間に石油価格補助金が4倍になったと発表。明らかに輸入業者による不正が主な原因である。政府の発表によると、ナイジェリア国内で販売される低価格の石油を隣国のチャド、ニジェール、カメルーンへ密輸している業者もいる。
 11年4月に再選されたグッドラック・ジョナサン大統領は、IMFから送り込まれたヌゴジ・オコンジョ・イワエラ財務相の提案に従い、12年1月1日から石油製品への補助金廃止を発表。その結果、石油製品の価格は2倍以上に跳ね上がり、貧困層の生活を直撃。政府は補助金廃止で浮いた財源を産業基盤整備に回すと説明している。
 1月3日から、補助金廃止に抗議する大規模な集会・デモが最大都市のラゴスなど全国で行われ数百万人が参加。共同行動戦線(JAF)の呼びかけにNLC、TUCや弁護士協会、学生団体などが呼応した。NLCのイサ・アレム副委員長は「大多数のナイジェリア国民は貧困と闘っているのに支配者のエリートは海外に医療ツアーに行く余裕がある」と述べ、貧困層に一層の困難を強いる政府計画の阻止を呼びかけた。「石油補助金廃止に反対する若者の連合」は大統領と閣僚の辞任を要求した。
 同5日には、北部のカノで、広場を占拠し徹夜で座り込んでいた市民に警官隊が介入、1人が殺害され、300人が負傷。クワラ州でもデモ参加者1人が殺害され、全国では10人が殺害された。
 同8日に下院は緊急会議を開催し、政府に対して補助金廃止の中止、組合にスト中止を求める決議を採択したが、政府はこの決議受け入れを拒否した。
 9日からのゼネストと街頭デモは平穏に行われ、全国の官庁や企業、商店、ガソリンスタンドが休業し、交通もほぼ停止中。首都アブジャでは、デモで空港が封鎖された。一部の州では戒厳令や非常事態が宣言され警察が一部地区を封鎖し、集会・デモを禁止している。

中国
成都のバナジウム鋼工場で数千人が賃上げ要求スト

 1月4日午前、成都市青白江区の成都バナジウム鋼公司(国有、従業員数1万4千人余)の労働者が賃上げを求めてストに突入。同社では長年にわたり賃金が低く抑えられてきた。平均賃金は1千200元だという。5千人の労働者が工場区からデモを行ったが、高速道路入り口で警官隊に阻止され、数時間の対峙後、強制解散させられた。
 スト2日目の5日、労働者は工場敷地内でデモ。工場ゲートには、前日に逮捕された労働者の釈放を要求する横断幕が掛けられ、その横にいくつものテントが張られている。  工場の全ての入り口は労働者のピケで封鎖され、誰も入れない。工場への道も遮断されており、一部の労働者は工場内の鉄道レールも遮断している。工場全体が麻痺しており、何基かある高炉も停止している。労働者は長期戦を覚悟、カンパを食料費等に当てている。  スト3日目、労働者はすべてのゲートでピケを張っている。正午、工場の経営陣と労働者代表が交渉を行った。300元の賃上げ提案に、労働者たちは500元を要求、経営陣は拒否、交渉は決裂した。
 午後5時半、3千人の機動隊、特殊警察、武装警察が労働者地区に展開し制圧に乗り出した。教育通りから成都バナジウム鋼公司の工場敷地まで警察とそれを取り巻く民衆で埋め尽くされた。機動隊は催涙弾を発射して民衆を解散させようとしたが、民衆は離散集合を繰り返した。夜になって警察は何度も民衆に解散を迫ったが、民衆は増え続け、一万人以上が深夜まで警察と対峙。
 鎮圧を開始する際に警察は次のように恫喝した。「このストは国内外の分裂勢力が結託した破壊活動であり、国家安全に危害を加えるものである……」。
 同7日、工場ゲートは通常に戻り、「絶対多数の職員の根本利益を断固防衛する」という横断幕が掲げられていた。労働者は出勤をはじめ、停止していた高炉も順次再開し始めた。経営側の300元の賃上げと労働者側の500元の賃上げと年末一時金要求の差は大きい。労働者は業務再開を迫られた形になったが納得しておらず、8日に再度ストを打つという労働者もいた。
 成都では連日のストやデモで警備体制が不足しており、6日夜に当局は、近隣の県から部隊を成都バナジウム鋼公司に派遣した。同じ青白江区にある成都化繊(国有)では、1月8日にストを構えていたが、バナジウム鋼公司でのストに驚いた経営陣が緊急に労働者と協議を行い賃上げに合意。別な情報では、同区にある台湾資本の「台玻成都玻璃有限公司」の労働者2千人がストを構えているという。
 同地区では12月30日にも川化集団(国有企業)の労働者がストとデモを行い、400元/月の賃上げと年末手当3千元を勝ち取っている。
 インターネット上では、全国各地の国有企業の労働者が川化集団やバナジウム鋼公司のストの影響を受け、ストを準備しており、(旧暦の)新年までに賃上げを勝ち取ろうとしているという情報が流れている。政府もその事態を注視しており、事態の拡大を阻止するための対策を検討しているという。(翻訳 稲垣豊)

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