アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
861号

米国 : UAWがミシシッピー州日産工場を組織化のターゲットに

 全米自動車労組(UAW)は、2011年に、組合組織率が低い米国南部における組織化を重点目標に設定し、企業に対し「公正な組合選挙のための原則」を提案してきた。これは組合結成過程で妨害や脅迫をしないという確約を求めるものだが、組み立て工場を擁しているドイツ、韓国、日本の企業は提案の受け入れを拒否してきた。経営者たちは定期的に従業員を集め、「組合ができた工場ではレイオフや工場閉鎖が起こっている」等、ビデオを使い、反組合教育を行っている。
 UAWは昨年6月に、日産カントン工場(ミシシッピー州)の労働者を対象とする組織化キャンペーン開始を発表。日産では1989年と01年にも、テネシー州スマーナ工場でUAWが組合設立を試みたが、従業員投票で敗北している。
 このキャンペーンの第一歩として、UAWはデトロイト、ロサンゼルス、シカゴ等での自動車見本市の会場で宣伝活動を行っている。
 以下は「デトロイト・ニュース」紙(3月6日号)のボブ・キングUAW委員長の投稿である(抄訳)。

 

 ミシシッピー州ジャクソンから州間高速道路55号線を北上すると道路沿いに巨大な日産自動車工場がある。何マイルにもわたり伸びており、約5千人の労働者が自動車を組み立てている。工場は立派だが、行いは立派ではないと、広範な宗教や市民社会のリーダー、学生たちは考えている。この人々は広範な連合を形成して、日産の不当な行為について全国、さらには全世界に知らせてきた。
 昨年夏、ベニー・トンプソン下院議員が日産工場での組合結成支持を呼びかけ、「ミシシッピー州の日産における公正を求める連合」(MAFFAN)が設立された。
 MAFFANの会員たちは、日産の雇用提供を喜んでいるが、労働者への脅迫を見過ごすことはできないと考えている。日産は労働者が組合結成の権利を行使するなら工場を閉鎖すると示唆している。しかし、そんなことがありえるのだろうか? 日産が全世界で(本拠である日本を含めて)組合を認めているにも関わらずである。
 MAFFANの代表で、州のミッショナリー・バプチスト教会のリーダー、アイザック・ジャクソン・Jrは、「日産がミシシッピー州民を二流市民として扱うのを私たちは許さない。日産が労働者に組合結成について自由に決定できる公正なプロセスの保証を要求するメッセージを州全体に、そして全世界に拡げるだろう」と述べている。
 今日、日産の労働者とMAFFANはジュネーブに赴き、国連本部で、また、開催中の国際自動車見本市の会場で、このメッセージを全世界に伝える。
 「国連グローバル・コンパクト」(人権、労働、環境等に関わる原則)は、組合結成は普遍的な人権であると明記している。MAFFANは日産に対して、労働者が会社側と組合側の両方の意見を聞くことができ、脅迫を受けることない公正な組合選挙が実施されることを要求している。公正かつ民主主義的な選挙において、組合の支持者たちは労働者に働きかけるための同等の機会と時間を保証されなければならない。このような常識的な原則(UAWの「公正な組合選挙のための原則」)の下でこそ、労働者たちは十分な情報に基づく意思決定を行うことができる。
 労働者たちは、「ニッサン・アソシエーツ」と呼ばれる臨時工を大量に雇用する等の不当なやり方をやめさせるために、職場における発言権を求めている。臨時工たちは正規雇用の労働者と同じ仕事をしながら、低賃金で、雇用が不安定である。
 ミシシッピーの労働者たちは日産との間で、相互尊重、協力、信頼を基礎とする協調的な関係を形成することを望んでいる。

 

 「レイバーノーツ」誌2012年8月2日付のレポートによると、日産は組合が結成されれば工場閉鎖もありうると脅しているが、カントン工場は今年、これまでの4つの製品に加えて新たに3つの製品生産を開始する計画で、1千人の新規採用(すべて臨時雇用)を発表したばかりで、国内シェア(8.2%)を10%に上げることを目指している。また、日産は州から3億6千300万ドルの補助金を得ている。労働者の80%がアフリカ系米国人であり、組合への支持率が高い。

 

チュニジア : PSIが中東・北アフリカ女性リーダーシップ会議開催

 3月23〜24日、チュニスで国際公務労連(PSI)の中東・北アフリカ女性リーダーシップ会議が開催され、ヨルダン、エジプト、レバノン、アルジェリア、モロッコ、チュニジア、クウェート、パレスチナ等から33人の活動家が参加し、それぞれの国や職場で女性の平等の権利を前進させる方法についての経験交流と意見交換を行った。
 チュニジアの弁護士で、女性運動活動家のバスマ・ハルファウィさんは、「女性は中東・北アフリカ地域における平和と平等のための闘いの先頭に立たなければならない」と訴えた。彼女の夫のショクリ・ベライド氏は2月6日に何者かによって暗殺された(本誌3月1日号参照)。彼女は、現政権与党のアンナハダ党が事件に関与していると考えている。
 アルジェリアの独立公務員労組SNAPAPの女性委員会のヤミナ・ムグラウィ委員長は、新自由主義の政策と労働者への攻撃の関係を強調した。
 ヨルダンのアルハルディさんは、ヨルダン議会には女性議員はいるが、彼女たちが女性や労働者の要求をもっと積極的に取り上げるようにしなければならないと述べた。
 ヨルダン、レバノン、クウェート等では女性組合員の割合は10%以下であり、チュニジアでは50%以上である。PSIのジェンダーの平等という方針はこの地域の女性組合員の拡大に大きな影響をもたらしたが、まだ組合の執行機関における男女同数には遠い。
 パレスチナ・西岸地区保健サービス組合のアナン・カドリ書記長は、執行機関における男女同数に向けたこの地域の執行委員会の関与が不十分であると指摘し、ジェンダー問題をモニターし、サポートする仕組みを設けることを提案した。
 2日間にわたる討論をふまえて、当面の活動目標として、女性の組合員および組合リーダーとしての能力の確立、女性の権利の保証と暴力や差別からの保護のための法律の要求、不安定雇用の影響への対処、この地域の女性組合員間の交流の継続等を確認した。 (PSIのウェブより)

米国 : シカゴで公立小・中学校閉鎖反対の地域ぐるみの闘いが拡大

 シカゴで3月27日、公立小・中学校閉鎖反対のデモに数千人が参加し、平穏な座り込み行動で100人余が逮捕された。
 シカゴ市は同21日に、財政赤字を理由に、生徒数の少ない公立学校54校を、次の新学期までに閉鎖する計画を発表した(5月に学校委員会で採択の予定)。この発表直後から、各地域で教員、保護者、生徒たちによる自然発生的なデモが始まっている。
 教員で、シカゴ教員組合(CTU)のオルグでもあるブランドン・ジョンソンさんは「現在、シカゴ市は包囲攻撃の下にある。生徒たちは、この状況を人種差別主義だと考え始めている」と述べている。
 閉鎖対象の54校ほとんどが、市の西側と南側のアフリカ系やラテン系住民居住域であり、貧困地域にある。影響を受ける生徒数は約3万人、教員は1千人である。
 この計画に対して、かつてない規模での抵抗が各地で始まっている。CTUのジェシー・シャーキー副委員長によると、「学校閉鎖に対してのデモや反対運動は初めてだ。親たちが先頭に立ち、野火のように拡大している」。
 CTUは、昨年9月のストで築かれた保護者や地域との連帯を基盤に、学校区毎の集会や学習会を重ねた結果、公聴会では学校閉鎖反対の声が圧倒している。
 CTUによると、学校閉鎖は貧困地区での生活や子どもの学習を一層困難にする一方で教育の民営化を促進する。通学距離が延びることで子どもたちの安全も脅かされる。不登校が増えるかも知れない。
 エマヌエル市長が任命した7人の学校委員会メンバーのうち、教職の経験があるのは2人だけで、教育の経験もなければ、地域についての理解もないのである。
 昨年のストの成果として、閉鎖対象校の1千人の教員と職員の処遇は、生徒の転校先への優先的採用、新規採用の半数以上の充当が確約されたが、転勤先がない教職員の賃金は半年で打ち切られる。
 CTUによると、公教育の危機は作られたもので、公立学校予算を削減し、チャータースクールを優遇するための一連の意図的な政策の結果である。学校委員会による学校閉鎖理由は次々と変わっている。当初は生徒数の減少だったが、減少数の水増しが判明。教室が余っているのは、理科室やコンピューター教室、音楽室、図書室などがないためである。赤字の予想が誇張され、現実には黒字の年度もある。
 学校の閉鎖は学級定員の増加を伴い、さらに熟練教員(多くはアフリカ系女性)を締め出し、1年間の「代替教員資格」コース(6週間の実習を含む)修了の、若い白人を採用することも想定されている。
 3月27日のデモは、各学校区からダウンタウンのデイリー・プラザに集まり、そこから市庁舎と学校委員会へ向かった。集会でカレン・ルイスCTU委員長は「夏休み中に市が何をしようと、新学期には本来の学校に集まろう」と呼びかけた。 (「レイバーノーツ」「ロイター」3月27日付より)

 

アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 東京都千代田区三崎町2-13-5 影山ビル501号 Tel.03-6675-9095 Fax.03-6675-9097