アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
851号

ヨーロッパ
欧州労連が11・14アクションデーを呼びかけ

 トロイカ(EU、欧州中央銀行、IMF)によって主導される緊縮財政政策と公務員攻撃に対してヨーロッパ各地で闘いが拡大している。
 9月15日、ポルトガルとスペインの各地で大規模なデモ。リスボンとマドリードでそれぞれ50万人が参加。前日にはポルトガルの兵士組合(AOFA)が政府の政策を批判し、弾圧のための出動を拒否する宣言を採択した。同25〜27日、スペイン全土で大規模なデモ、首都では国会を包囲。同26日、ギリシャでゼネスト(本誌10月15日号を参照)。同30日、フランスで「財政協定」の批准に反対して、8万人がデモ(オランド政権下で初)。財政協定の批准には、左翼戦線やNPA(反資本主義新党)のほか、政権与党の緑の党や、社会党の一部の議員も反対した。
 10月8日、ギリシャでメルケル(ドイツ)首相の来訪に抗議のデモ。同18日、ギリシャでゼネスト(この2年間で20回目)。この日、ブリュッセルで欧州首脳会談が始まる。同20日、英国とイタリアで大規模デモ。
 英国ではTUCの呼びかけの下、ロンドン(15万人)、グラスゴー、スコットランド、および北アイルランドのベルファストでデモ。イタリアではCGILの呼びかけの下、ローマで3万人がデモに参加した。CGILは同29日、11月14日の全ヨーロッパ・アクションデーに呼応して、4時間のストに入ることを決定した。

※欧州労連の呼びかけ
 以下は、10月17日、欧州労連の執行委員会で採択された11月14日アクションデーの呼びかけの抜粋である。
 欧州労連はヨーロッパを経済停滞さらには不況へと引き込み、同時にヨーロッパの社会モデルを解体しつづけている緊縮政策に強く反対する。  財政再建策は欧州委員会やIMFの想定よりも深刻な影響をもたらし、IMFも経済成長に及ぼす影響の予測が完全に間違っていたことを認めている。この間違った予測は欧州労連に結集する労働者や市民の日常生活に対して重大な影響を与えてきた。
 われわれは、当該諸国における市民や労働者の間での抗議の高まりに注目し、まともな(ディーセント)労働条件および生活条件のために闘争している加盟組合への支持を再確認する。資本が自由に移動できるという条件の下では、全欧州規模での経済的調整や基準がなければ、国家間の競争、とくに税率、労働力コスト、社会的条件の分野における競争がすべてを支配することになる。
 われわれは、ヨーロッパの社会モデルにとって、社会的対話と団体交渉がもっとも重要であることを繰り返し主張し、(6月5〜6日の欧州労連執行委員会で採択された)「ヨーロッパ社会的パートナー協定」が欧州評議会において直ちに採択され、実施されることを緊急に呼びかける。
 欧州労連は、積極的な連帯、社会進歩、民主主義的責任がヨーロッパ規模の政策の不可欠の部分であることを強調する。いかなる新しい協定においても、社会進歩に関するプロトコル(取り決め)がその有機的かつ実効的な部分として含められなければならない。

※イベリア半島規模のゼネストをスペインCCOOが呼びかけ
 スペイン労働者委員会(CCOO)は11月14日のアクションデーにストを計画、イベリア半島規模のゼネストに向けポルトガルの労働組合に共闘を呼びかけている。この日は、ギリシャ、イタリアでもストが計画されている。

メキシコ
労働法改定反対で数万人がデモ

 10月2日、メキシコシティで、労働法改定に反対して労働者や若者、社会運動活動家など数万人がトラテロルコ広場から市の中心部のソカロ広場までデモ行進した。この広場では、1968年同日、学生デモへの警官隊による発砲で数百人が殺された場所である。  労働法改定案は9月27日に、下院で演壇占拠など激しい抗議行動の中で可決され、上院に送られた。
 この改定案の狙いは、経営者がより柔軟に労働者を雇用したり解雇できるようにすることで、賃金の日給から時間給への切り替え、派遣労働の原則自由化も含まれている。メキシコで最も民主的な労働組合のFAT(真正労働戦線)ベネディクト・マルティネス・オロスコ共同委員長は、この改定案を「怪物のような法律」と評している。
 メキシコでは1910年代の革命や30〜40年代の急進的な運動の成果として、労働者は広範な権利や保護を勝ち取ってきた。法律上は、メキシコの労働者は米国の労働者よりも広範な権利を与えられている。たとえば、連邦労働法では1日の労働時間は8時間と決められており、時間単位の雇用は認められていない。最低賃金も同様である。雇用主は労働者を早い段階で正規に雇用せねばならず、派遣労働は禁止されている。不当解雇とされた場合、解雇時点にさかのぼって賃金を全額支払わなければならない。企業は毎年、利益を公表し、利益の一部を労働者に分配しなければならない。
 しかし、外国資本の導入に伴って、労働法改定の動きや労働法で認められている権利を実質的に奪う動きが強まってきた。米国との国境地域に設けられた自由貿易地域(マキラドーラ)の工場で200万人以上が雇用されているが(経済危機以前の数)、そこでは法律の規定は無視されている。労働時間は延長され、利益の分配は行われず、独立労組の団交権・スト権は侵害され、経営者と政府とPRI(制度的革命党)系の労働組合はそれを黙認してきた。
 労働者派遣業は法律で禁止されているが、カナネア銅山の5年間に及ぶストに対し、会社側はスト破りのために派遣労働者を利用、1日12時間の労働をさせている。国営電力会社の民営化をめぐるストに対しても、派遣労働者が導入され、安全研修も行われていないため労災が多発、死亡事故さえ起きている。メキシコ電力労働組合(SME)のウンベルト・モンテス・デ・オカ書記長は、「労働法改定により、このような雇用モデルが奨励されようとしている」と指摘。
 2000年にPAN(国民行動党)の政府が労働法改定を提案したが、独立的な労働組合や進歩的労働組合を中心とする反対運動によって阻止された。それらの労働組合はその後、独自の労働法改正案を準備してきた。それは労働組合員が秘密投票で自由にリーダーを選ぶ権利、腐敗した組合役員が会社側と結託して独立労組の結成を妨害する「保護協定」の禁止等に焦点を当てている。これらの提案はPRD(民主革命党)によって支持された。PANはその一部を改定案に取り入れている。
 PAN政権が提案した今回の改定案はPRIも支持しており、7月の国会選挙でのPRI勝利後、改定案採択に向けた動きが加速。カルデノン大統領は任期中に上院での手続きを終えようとしている。
 推進側は、労働法改定によって企業が労働者を雇用しやすくなると主張している。しかし、メキシコでは毎年90万人の若者が新規に労働市場に入ってくるが、06年にカルデノンが大統領に就任して以来、新規に正規雇用された者の数は154万人、年平均25万人程度である。「(労働法改定によって)雇用が増えたとしても、低賃金の非常に不安定な雇用になるだろう」とモンテス書記長は指摘する。
 10月11日に国会前で行われた大規模な集会には、独立的組合だけでなく、PRI系の一部の組合も参加した。また、モレロス州クエルナバカの日産の工場では9月24日に、労働法改定に反対して4千人の労働者が職場放棄し、道路を封鎖した(「レイバーノーツ」誌ウェブ版10月18日付より要約)。

 上院は10月23日に、労働法改定案を下院に差し戻した。PRIが多数を占める下院で採択された改定案は、カルデノンが提案した当初案のうち、組合の民主化に関する規定(リーダーの秘密投票による選挙など)を削除したものだった。上院では多数を占めるPANが、削除された条項の復活を要求した(「ロイター」同24日付)。

ビルマ(ミャンマー)
ビルマへの投資は搾取工場における雇用増大をもたらすのか?

 ビルマ(ミャンマー)への制裁解除の動きが進み、外国資本の投資による雇用拡大への期待が高まっている。国際労働権フォーラムの顧問のバマ・アスリアさんは、ビルマへの投資拡大がバングラデシュの衣料産業をモデルとして、搾取工場(スウェットショップ)や劣悪な条件での低賃金労働をもたらす可能性について警告している。以下は、「レイバーライツ・ブログ」に掲載されたアスリアさんのレポート(9月24日付)の抜粋である

 ビルマにおける人権問題は、一定の前進はあるものの、まだ多くの問題が残っている。強制労働、経済のあらゆる分野への軍部の干渉、少数民族への迫害等である。  人口密度が過密で土地や資源が少ないバングラデシュでは、若い女性の雇用先として衣料産業が重要な位置を占めている。しかし、ビルマの若い女性にとっては豊富な土地と資源を活用した多様な雇用機会の創出が可能である。そのためには市民を人権侵害から保護する正当性のある政府と正当性のある制度が必要である。  両国とも、政府や軍部やそれと癒着したグループによる暴利や腐敗を一掃するためには、透明性と責任を持つ政府と制度が必要である。しかし、現在の政策はその方向を向いていない。ビルマ政府は小さな譲歩で大きな利益を得られることを学ぶだろうし、バングラデシュ政府は隣国を見て、人権侵害を放置しておいても許されると考えるだろう。

 
アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 東京都千代田区三崎町2-13-5 影山ビル501号 Tel.03-6675-9095 Fax.03-6675-9097