アジア@世界             喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
972号

★英 国:ロンドン高層住宅火災の原因究明で硯制緩和の検証を

 昨年6月14日未明、ロンドン西部ケンジントン・アンド・チェルシー区の公営住宅、グレンフェル・タワー(24階建、127戸)で発生した火災は72人が死亡する大惨事となった。
 政府は原因究明のための委員会を設置している。

 

 消防士組合や、犠牲者の遺族、生存者、居住者の代表たちは、サッチャー政権以来の規制緩和によって防災基準が緩和され、消防の人員と予算が削減されてきたことを指摘し、委員会でこの根本的問題を取り上げることを要求している。
 この火災について、すでに次のような事実が明らかになっている。

 

 グレンフェル・タワーの高さは68メートルで、住民の多くは消防の指示によって上階へ逃げたが、ロンドン消防隊の高所救出用車両が到達できる高さは32メートルだったため、救出できなかった。(「カウンターパンチ」誌ウェブ版6月13日付)
 消防士組合(FBU)のマット・ラック書記長は次のように述べている。

 

 「なぜグレンフェル・タワーの火災が起こりえたのか?これこそが調査の核心的な問題のはずだ。問題の根本に迫るためには防火体制の全体、特にこの数十年間の規制緩和のプロセスを取り上げなければならない。残念なことにメイ首相も調査委員会のマーチン・ムーアビック委員長も規制緩和の問題は取り上げないと決定した。

 『すべての問題を洗い出す』と言うなら、安全規則の骨抜き、形式主義的な認可業務、民営化、外注化、つまり規制緩和についての広範な検証が必要である。

 

 第2次大戦後、英国では家庭および事業所の防火を改善するための法律、制度が強化されてきた。中央消防顧問評議会(CFBAC)が設立され、防火のあらゆる面についての調査・研究、研修を監督するようになった。
 1971年の火災防止法と74年の『職場における健康と安全』法がその到達点だった。

 79年の選挙でのサッチャーの勝利のあと、規制緩和、民営化が始まり、消防・救助活動への予算と人員の削減が進んだ。

 行政機関によるビルの安全の監督が部分的に民間委託され、無資格の『承認された監督官』が許容され、書類審査だけで安全が確認されるようになった。

 労働党のブレア政権の下で規制緩和がさらに進められ、消防・救助活動の専門的な技能を持つ人員が大幅に削減された。

 今回の火災をきっかけに安全の監督と規則の実施の重要性が見直されるようになったのよいことだが、そのための技能と経験を持つ人員が決定的に足りない。

 

 可燃性の塗装材の使用が大火災につながったのは今回が初めてではない。同様の事例として、1973年のサマーランド・レジャーセンター(マン島)の火災で50人が死亡した。CFBACではこの教訓について議論された。

 99年にもノースエアシャー(スコットランド)のビル火災で1人が死亡し、この火災の後スコットランドでは塗装材の規制が強化された。

 下院の環境・運輸・地域問題小委員会でもこの問題に関する調査が行われ、FBUは塗装材の危険についての意見書を提出したが、ジェレミー・コービン、ジョン・マクダネルなど一部の議員を除いて、われわれの警告は無視された。

 

 01年以降の保守党政権の下で、規制緩和がさらに進み、消防職員数も2割削減された。信頼できる調査のためには、今回の惨事に先行する長期にわたる圧力を無視することはできない。

 われわれは一連の重要な決定に関与した最高責任者の責任を明らかにし、必要なら訴追することを要求する」。

 

(FBUのウェブ6月20日付より要約)

 

★トルコ:シリア難民に同一労働同一賃金を

 私たちは、一緒に生き、一緒に働いている。トルコで暮らすシリア人のうち約160万人が就労年齢であるが、労働許可証を持っているのは2万人ほどである。そのため何万人ものシリア人が全国のいたるところで、建設、医療、農業を始めとするあらゆる産業で、労働許可証なしに、基本的な労働権を保証されることなく就労している。……

 

 トルコではシリア人労働者は最も低賃金の仕事に就いている。世界銀行の報告書「シリア難民のトルコ労働市場への影響」(15年8月)によると、難民が多く住んでいる都市の失業率は平均より高く、賃金は最低賃金を下回っている場合もある。

 ILOの「世界の雇用と社会の概要(17年版)」によると、世界各地のシリア難民の56%が短期の不安定な職に就いている。

 

 かつて強欲な経営者は労働者に対して「嫌なら代わりの失業者はいくらでもいる」と桐喝していたが、今ではトルコの経営者は「もっと安い給料で働くトルコ人はいくらでもいる」と言っている。

 シリア人労働者は平均で1日12.5時間就労し、超勤手当も休日もない。農業部門では就労斡旋業者が賃金の最大25%を、住居費等の名目でピンハネする。最近では地元の労働者がシリア人労働者を下請けとして使って搾取するケースも見られる。

 

 「衣料産業で働くトルコ人を見かけなくなった」という話も大げさではない。今では搾取工場から小売店まで、アラビア語が共通語になっている。

 とはいえ言語はシリア人労働者にとって最大の問題のーつである。言語によって生計を立ててきた詩人や作家、ジャーナリストが今ではトルコで底辺の仕事に就いている。専門職や高学歴の人たちも希望する仕事に就く機会がない。

 

 シリアの最初の宇宙飛行士だったムハンマド・アフメド・ハリス氏も今はイスタンブールの難民キャンプで暮らしている(その一方でトルコは自国の宇宙ステーションの開設をめざしている)。

 

 「労働者の健康と安全ウォッチ」(ISIG)によると、16年に63人のトルコ人が労災で死亡しており、17年には少なくとも49人が死亡している。負傷者の数は不明である。
 シリア人のための社会的サービスのかなりの部分は国内および国際NGOによって提供されているが、労働者の権利などの問題は多くの場合無視されている。製靴工場や建設現場の労働者の闘争を別にすれば、シリア人労働者の苦境がトルコの労働組合の関心にLっているとは言えない。

 

 現在、シリア人労働者は衣料、建設、農場を始めあらゆる分野で、多くの場合家族と一緒に働いている。子どもと女性は特にハラスメントや搾取、貧困に苦しんでいる。専門職の女性の職は少なく、失業率は平均以上である。

 難民の子どものうち約50万人がトルコで生まれ、育っている。だからトルコ労働者の一員でもある。

 

 シリア人労働者の問題の根本的解決はシリアにおける平和の実現だが、それまでの間の救済措置が緊急に必要であり、平和が実現した後でも多くのシリア人はトルコに残って働くだろう。このような新しい労働者たちに法律上の地位を保証する必要がある。

 規制の及ばない仕事や権利侵害はなくさなければならない。

 労働組合は移住者に門戸を開くべきである。

 

(「イコール・タイムズ」6月20日付)

 

★ベトナム:経済特区新設に反対、全国で数万人がデモ

 ベトナムではサイバーセキュリティに関する法案と新しい経済特区の創設に対する反対が広がっており、6月9日から10日にかけて全国で数万人が街頭デモに参加した。この数年で最大のデモである。

 

  「アラブの春がベトナムでも始まった」と元共産党員のファム・チ・ドン氏は言う。
 ホーチミン市のタンタオ工業地区ではプチェン履物工場の労働者をはじめ約5万人が参加した。

 ハノイ、ダナン、ニャチャンなどの都市でも数千人が集まり、「経済特区法案反対」、「中国企業に土地を渡すな」、「サイバーセキュリティ法は人を黙らせるための法律だ」などのバナーを掲げた。

  この抗議運動は構造的な汚職、深刻で大規模な環境汚染、深い社会的格差、そして資源豊富な海洋における中国の主権侵害に対する政府の弱い対応に不満が拡大していることを示している。
 ドン氏はベトナム独立記者協会(未登録)に配信した記事で、この抗議運動について、「1975年以来初めての政府に直接に反対する行動」と報じている。

 

 国会は5月20日からの会期(1ヵ月間)中の6月12日から15日まで問題の2つの法案を審議し、採択するという予定を発表したが、デモはこの発表の1週間後に行われた。
 治安当局は厳しい対応を示した。活動家の個人宅に私服警官や民兵や暴徒を送り込んで、デモへの参加を妨害しようとした。多くの活動家は拘束されないよう、あらかじめ身を隠した。

 デモの当日も多数の警官、民兵、暴徒が動員され、数百人のデモ参加者が拘束され、他の多くのデモ参加者も暴行を受けた。警察は10日正午までにハノイの小規模なデモを制止したが、ホーチミン市とニャチャンのデモは月曜日(11日)の早朝まで続いた。

 

(ウェブ誌「トウルース・アウト」6月23日付)

 

 

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