アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
959号

★英国
  コービン労働党が政治を変えた

 6月8日投票の英国総選挙で、メイ首相の保守党は過半数の議席を確保できず、コービン党首の労働党が得票率・議席数を大幅に伸ばした。
 英国の経済紙「ファイナンシャル・タイムズ」は次のように述べている。


 「コービン氏は敗北した勝利者である。労働党は議席数では保守党に負けたが、小差であり、秋にもう一度総選挙になる可能性が高い。彼は依然として野党のリーダーであって首相ではない。しかし彼はすでに英国の政治を変えた。英国はEU離脱に際してEUと何らかの取り決めを交わすだろう。これ以上の緊縮政策は阻止されるだろう。[エリート教育のための]グラマー・スクールの新設は断念されるだろう。移民規制の計画はゴミ箱に捨てられるだろう。保守党は連立政権を確立できるかもしれないが、選挙公約は破棄されるだろう」(6月9日付)

 

 「ザ・ガーディアン」紙の論説は次のように指摘している。
 「メイ首相と多くの人々が理解していなかったのは英国の人々の間での変化を求めるムードだった。7年間にわたる緊縮政策、公共サービスの大幅削減、実質賃金の着実な低下の中で、多くの有権者がより適切で、より公平なやり方を望んでいた。……メイ首相は頑迷な鉄の騎士のように振る舞い、論争を拒否し、空虚なスローガンを繰り返し、対立候補を侮辱し、公約の発表でヘマをやらかした」


 「コービン氏はあらゆる形で人々への共感を表した―それはメイ首相に著しく欠けていたものである。選挙運動が終わった時、労働党は復活し、行動力のある党になっていた。……コービン氏では勝てないと言っていた人たちは恥をさらした」


 「労働党のマニフェストは理想主義的だったかも知れないが、その理想こそが、特に若い人々や、投票場に行くのをやめていた人々を動かしたのである」(同日付)

 

 若者の圧倒的共感

 

 「ザ・ガーディアン」紙はまた、若者の投票率の上昇(18〜24歳の推定投票率が約70%で前回よりも20%高い)と、この世代でのコービン氏への圧倒的支持について報じている。


 「メイ首相が総選挙の実施を発表してから有権者登録の締め切りまでの数週間の間に18〜34歳の有権者200人以上が登録を行った。全国学生連合(NUS)や若者のグループ、草の根の組織は時間を惜しんで若者に投票を呼びかけた。

 アップライジング(蜂起)、ホープ・ノット・ヘイト(憎悪ではなく希望を)、BTB(投票に行こう)などのボランティア・グループが各党のマニフェストについての情報や有権者登録のためのガイドを提供した」

 

 「NUSのマリア・プアティア委員長は『私たちから見れば、特に労働党に対して期待感が復活していることは非常にはっきりしていました。労働党のマニフェストに書かれている多くの政策はワクワクするものでした。若い人たちは長年にわたる保守党の支配に苛立ち、怒っています。……今回の選挙についての私たちの調査によると、学生たちは自分の個人的な利害よりも、これからの世代の将来に、より大きな関心を持っています。それは協働的で、公正で、平等な社会です』と語っている」(同日付)

 

 UN−SONの声明(6月9日)

 

 以下はUNISON(公務労働組合)のデーブ・プレンティス書記長の声明の抜粋である。


 選挙戦が始まった時、メイ首相が過半数を失うことを予想していた人はごく少数だった。しかし、UNISONは当初から、労働党が公共サービスを論争の中心にすれば有権者の琴線に触れることができると考えてきたし、ジェレミー[コービン]はまさにそれを実行した。われわれが自分たちの役割を果たしたことを誇りに思う。われわれの組合員であり、元役員だったジェレミーが展開した信じられないような選挙運動と、彼が掲げたマニフェストを誇りに思う。

 

 RMTの声明(6月9日)

 

 RMT(鉄道海運交通労組)は昨年以来、合理化・人員削減計画をめぐつてストライキなどの行動を継続してきた(本誌2月1日号)。5月30日にも、ゴヴィア・テムズリンク[英仏資本の合弁企業ゴヴィアの子会社、サザンレールなどの鉄道路線を運用]の安全無視の合理化計画(車掌の廃止など)に反対してストライキを行っている。
 サザンレール沿線の多くの選挙区で鉄道の安全と再公有化が大きな争点となり、保守党が敗北している。以下はRMTのミック・キャッシュ書記長の声明の抜粋である。


 この選挙は英国の人々が保守党の緊縮、民営化、分断の計画を拒否したという最も明快なメッセージを送った。
 ……RMTはわれわれの鉄道の安全を切り捨てる計画を直ちに中止することを要求する。これは保守党が進めてきた政策であり、メイ首相と彼女の政策を拒否した選挙結果にふまえて、廃棄されなければならない。われわれの鉄道サービスの安全を脅かすことを誰も信任していない。
 RMTは今日、ノーザンレール、サザンレール、マージーレールに鉄道の安全を脅かす合理化計画の撤回を求める手紙を送る。彼らが選挙の結果に踏まえて、ただちにそうすることを期待している。これは交通サービスの完全な公営化に向けた継続的な運動のーつの段階に過ぎない。

 

 

★中国
  江西省で労働NGO活動家が逮捕され2人が行方不明

 5月30日付「ニューヨークタイムズ」紙は、労働人権団体「チャイナ・レイバー・ウォッチ」の活動家、華海峰(ボア.ハイファン)さん(36歳)が「違法盗聴」の容疑で逮捕され、他の2人の仲間が行方不明になっていると報じた。


 「チャイナ・レイバー・ウォッチ(CLW)」は2000年にニューヨークで設立され、アップルやサムソンなどの国際的企業の中国の工場における労働条件や人権に関する調査を実施し、改善を求めてきた。
 CLWの李強(リ・キャン)事務局長によると、華さんたちは華建グループ(靴の製造)の2つの工場に潜入して、調査を行っていた。華建グループはイヴァンカ・トランプが経営するブランドに製品を納入している。
 中国が米国の仕事を奪っていると非難してきたトランプ大統領の長女が経営するブランドの製品が中国の低賃金労働によって生産されていることが明らかになったことから、この事件に米国内外で関心が高まっている。


 華さんの妻のテン・グイミャンさんによると、同日午後に江西省公安局からの電話で華さんが拘留されていることが伝えられた。他の2人の消息はわからない。

 CLWによると3人とは同27日以来、連絡が取れていない。3人は盗聴のための機材を持っておらず、盗聴は拘留の口実であると考えられる(拘留は携帯電話の使用に関係している可能性がある)。
 彼らの暫定的な調査報告(未公表)は工場の長時間労働と低賃金の実態を詳細に示している。
 「ニューヨークタイムズ」紙の取材に対してイヴァンカ・トランプ側は沈黙しており、華建グループ側は工場の労働条件には問題はないと答えているが、労働者たちは長時間労働への不満を述べている。

 

 

★インドネシア
  西パプア州の鉱山で3千人の不当解雇

 世界最大の金鉱山、世界第3の銅鉱山を擁すグラスベルグ鉱山で化学・エネルギー・鉱山労組が一方的なレイオフに抗議して5月1日からストライキに入っている。


 同鉱山を運営するフリーポート・インドネシア(米国のフリーポート・マクモランの子会社)は、インドネシア政府との間での鉱物資源輸出許可をめぐる長期にわたる紛争の後、コスト削減のために3万2千人の労働者(1万2千人が正規雇用、2万人が契約労働)の約10%のレイオフを提案した。自主退職の募集に1100人が応じたが、組合はレイオフが協約違反であると主張し、ストライキに入った。


 会社側はストは違法であり、5日以上欠勤した労働者は自主退職に応じたとみなすとして、現在までに2018人を退職扱いとした。

 ストライキを理由とする解雇はILO条約違反である。解雇された2018人のうち脳人がパプァ人労働者であり、1384人がパプア人以外の労働者である。


 西パプアでは独立運動団体がインドネシア政府による資源の強奪を非難しており、鉱山の治安維持のために派遣されているインドネシア軍の費用はブリーポート社が払っている。過去には暴力事件も発生している。
 また、銅の精錬を行っているPTスメルティング社(フリーポート社と三菱マテリアルの合弁)でも数百人が解雇されている。


 インダストリオールは、「レイバースタート」(インターネット上で世界の労働運動の情報を紹介しているサイト)と連携して、インドネシア政府に対してフリーポート社と三菱マテリアルに法律順守を求めることを要求するキャンペーンを呼びかけている。
 6月7日にはミミカ行政区の庁舎前でストライキ中の労働者数千人が平和的なデモを行った。

 

 

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