アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
958号

★ブラジル
  年金改革に抗議のゼネスト

 4月28日、CUT(中央統一労働組合)をはじめとする主要組合がテメル政権の「年金改革」に反対してゼネストに入った。
 全国26州で教員、バス運転士、医療従事者、石油産業労働者、公務員など3500万人がストライキに入った。

 31年ぶりのゼネストである。リオデジャネイロ、サンパウロなどの都市ではデモ隊が主要道路にバリケードを築き、一部ではバスが放火された。


 昨年5月にルセフ大統領に対する弾劾に伴って成立したテメル政権は、就任直後から労働者への攻撃や公共部門の予算を削減。議会の多数派となり、内外の企業団体の全面的支持、メディアの扇動を活用して、労働党政権の下で労働者が獲得してきた成果を一掃することを目指してきた。

 また、農業開発省を廃止し、農地改革の対象地を民間企業に売却しようとしている。

 昨年10月の地方選挙で与党が大勝し、労働党が惨敗したことで、テメル政権の攻撃は勢いづいた。

 3月に成立した派遣労働法は派遣労働を自由化し(対象職種の制限を撤廃)、一時雇用が認められる期間を9カ月に拡大し(従来は3カ月)、週40時間労働という制限を撤廃した。

 テメル政権が昨年12月に発表した年金改革案は、一連の攻撃の仕上げとなるものである。
 当初案は定年の引き上げ(65歳に)、公務員への特別措置の廃止等を含む。ブラジルでは平均的な退職年齢は55歳であり、一挙に10年の延長となる。影響を最も受ける貧困層や公務員だけでなく、若者の間でも怒りが広がっている。国会議員や官僚の法外な報酬には手を付けられていない。


 テメル政権の閣僚や与党議員の多くが多額の賄賂を受けていることが明らかになっており、政権の支持率は1桁に下がっている。ルセフ大統領の弾劾を支持した人々の多くが、今では「テメルは出て行け」と叫んでいる。
 労働党はこの中で影響力の回復を目指しており、18年の大統領選挙にはルラ元大統領が立候補を予定している。
 しかし、ルラ、ルセフの労働党政権も、今回と同様の年金改革を提案してきた。また、両政権は議会の支持を得るために多くの進歩的政策を後退させたことで支持者を失望させてきた経緯がある。さらに、政府や議会の腐敗に手を付けてこなかったことで大統領弾劾をめぐる右派の策動を許してしまった。

 テメル政権との闘いの中で、左派がそのような弱点をどのように克服できるかが注目される。

 

 (「ジャコバン」紙4月27日付、英国「ガーディアン」4月29日付、ベネズエラ「テレスール」同日付等より)

 

★パレスチナ
  ITUCが獄中ハンストに連帯

 以下はITUC(国際労働組合総連合)の4月28日付の声明の抄訳である。


 ITUCはイスラエルの獄中での人権侵害に抗議して無期限ストライキを宣言しているパレスチナ人囚人たちに連帯を表明する。また、ハンスト中の囚人たちに連帯して行われている「自由と尊厳のためのゼネスト」を支持する。
 パレスチナ人囚人1600人余が、医療の妨害、懲罰、家族との面会の制限などの人権侵害に抗議してハンストを始めて11日目となる。われわれは彼ら・彼女らの健康状態を深く憂慮しており、イスラエル当局に国際人権法に基づく扱いを要求する。


 われわれはまた、第4ジュネーブ条約の下で、被占領地において拘束された囚人は被占領地において拘留されなければならず、占領国の領土内で拘留されてはならないと規定されていることに注意を喚起する。
 この問題に関連して、われわれはイスラエルによるパレスチナ占領を非難し、イスラエルとパレスチナの間の公正で持続な平和のための運動を組織することを明記した2014年の大会決議を再確認する。
 われわれはすべての労働組合に「自由と尊厳のためのゼネスト」を支持することを呼びかける。

 

★バングラデシュ
  ラナプラザ・ビル倒壊から4年

 
 2013年4月24日にダッカ近郊のラナプラザ・ビルが倒壊し、衣料労働者1134人が死亡した。

 国際的企業、労働組合、市民団体などが参加する倫理的貿易イニシアチブ(ETI、本部は英国)のバングラデシュ事務所代表のジャミル・アンサーさんは、この災害の4周年にあたって、次のように報告している。


 4月24日は雨が激しく降っていた。3日間にわたって降り続き、ダッカの通りは水に浸かっていた。…ジュライン墓地にはビル倒壊の犠牲となった235人の女性と56人の男性が埋葬されている。全犠牲者の4分のーである。
 数千人が集まって祈りを捧げた。4年前のこの日の朝、衣料工場で働いて貧困を抜け出す夢が、恐ろしい地響きに見舞われた。…


 150人の犠牲者の家族はいまだに補償を受け取っていない。補償基金は集まっているのに、本人確認ができないからだ。また、責任者の処罰がまだ行われていない。裁判が遅れているためである。

 生存者・遺族の救済や責任者の処罰のほかに、われわれはこの災禍から何を学んだのか、何を学びつつあるのかを自問しなければならない。
 その後の経過をふり返れば、工場の安全や労働者の権利をめぐって協同の取り組みが行われてきたことは間違いない。グローバルな小売企業は国際社会と消費者からの圧力を受け、求められる倫理、法律、規制に適合するための措置を講じてきた。国内の製造工場も高い基準を求められてきた。

  16年6月にトファイル・アフメド商業相は国会で、合計790の衣料工場が閉鎖されたと報告している。このうち39が輸出向けの工場である。また42の工場が検査に合格しなかったために一時的に閉鎖された。輸入先の大手企業が参加する工場安全協定(アコード)および工場安全連合(アライアンス)の監視の下で工場の検査、改修、安全研修などが実施されてきた。


 しかし、依然として重大な問題が残っている。
 アコードの4周年にあたっての声明は次のように述べている。

 「数百万人の労働者にとって、工場は4年前に比べてかなり安全になった。しかし、安全に関する多くの問題がまだ残っており、緊急に対処しなければならない。
 適切な非常出口、火災警報が確保されていない、不適切な増築が行われている等である」。
 また、賃金、労働条件、労働組合の権利に関連する不当労働行為に対処する必要がある。

 16年6月にジュネーブで開かれたILOの会合で、バングラデシュは労働組合に対する不当な扱いや、輸出加工区における結社の自由の侵害について警告を受けている。16年12月にダッカのアシュリア地区で起こった労働組合員の逮捕と多数の労働者の解雇はこの懸念を増大させている。
 その後、国際的な抗議運動を受けてムジブル・バク・チュンヌ労働雇用相は労働組合に加盟することは労働者の基本的権利であることを確約した。…

 長期にわたって持続可能な解決策は、グローバルな小売企業、現地工場のオーナーとその代表、労働者、労働組合の間のコミュニケーションと信頼を増進することである。
 労働者のニーズを中心に据えた、より公正な産業システムこそ、ラナプラザで亡くなった人々のための最もふさわしい記念となるだろう

 

(ETIのホームページより、5月4日付)

 

★スペイン
  港湾規制緩和を国会が否決

 スペイン下院は3月16日、港湾の雇用規制を撤廃する法案を否決した(賛成142、反対175、棄権33)。
 スペインの港湾では労働組合がクローズドショップ制などの権利を守っており、国内での荷役作業には組合と協約を締結している人材派遣企業からの労働者を雇用しなければならない。

 15年にEU司法裁判所はこの制度が雇用の自由を妨げているとして、スペイン政府に是正または制裁金(1日13万4千ユーロ)の支払いを求めた。
 ラホイ政権は、EUからの圧力を利用して、港湾における雇用規制を撤廃する法案を提出した。

 

 スペインは海岸線が長く、ヨーロッパの入口に位置していることから港湾は重要産業のーつである。労働組合はストライキで闘う体制を固め、2月から3月にかけてストライキを宣言して政府に圧力をかけてきた。

 国際運輸労連(ITF)傘下のヨーロッパの港湾労組は連帯の波状ストの準備に入った。
 この圧力によって、ラホイ政権は他党の賛成を確保できず(与党国民党の議席数は137)、法案は否決された。
 これはEUによる規制緩和の圧力に抗した画期的な勝利である。

 

(「AFP通信」3月16日付、ITUのプログ同17日付等より)

 

 

アジア@世界 バックナンバー
協同センター・労働情報 〒112-0005 東京都文京区水道2-11-7三浦ビル2階 Tel:03-6912-0544 Fax:03-6912-0744