アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
939号

★英 国
  EU離脱の『選択』と社会分断の危険

 6月23日に実施された「EUからの離脱か残留か」に関する国民投票で、離脱に賛成する票が過半数となり、英国のEUからの離脱が決まった。

 今回の国民投票は、EU諸国からの移住労働者の急増をめぐって、移民の規制(移動の自由を規定しているEU条約からの離脱)を求める保守党右派と極右の英国独立党の圧力の下で、キャメロン首相が昨年5月の総選挙の公約として提案したものである(本誌15年1月1・15日合併号の「アジア@世界スペシャル」参照)。

 キャメロンはEU脱退という選択肢を示すことによって、EUから妥協(EU条約に対する一定の例外措置)を取り付けようとしたが失敗した。そのため保守党内の調整をあきらめ、国民投票に丸投げした。保守党ではボリス・ジョンソン前ロンドン市長が、独立党のナイジェル・ファラージ党首(欧州議員)と共に離脱賛成の運動を主導した。独立党は移住労働者に対するヘイトスピーチとあわせて、EUへの拠出金をやめてNHS(国民保健サービス)に回すという主張によって白人のブルーカラー労働者(従来は労働党の支持基盤)の支持を獲得してきた。

 一部の左翼グループも、EUによる緊縮財政政策と、それを支持してきた国内の金融資本やエリート官僚に反対する立場から離脱賛成を呼びかけた。
 一方、労働党のコービン党首を支持する左派活動家や、ユナイト(140万人、英国最大の労組)、ユニゾン(公共サービス、130万人)などの組合は、EUの新自由主義的な政策の転換を要求するとともに、極右の主導によるEUからの離脱と排外主義の拡大に反対するためにEU残留を呼びかけた。

 労働党国会議員団の多数を占める右派(ブレアの新自由主義政策の継続を主張している)は6月28日、国民投票の結果を口実にして、コービン党首への不信任案を採択した。これに対してコービン党首を支持する活動家たちは反撃を呼びかけている。
 以下は、国民投票をめぐるユナイトの声明の抜粋である。

●地域における絶望と苛立ちの表現(6月24日付、見出しは訳者)

 「英国は今、深い変化に直面している。人々は(EU離脱に)賛成の投票をした。それは尊重されなければならない。しかし、この決定は分裂した国を反映している。……保守党が引き裂かれていることは明らかである。統一した、平穏な移行が可能かどうかは労働党にかかっている。
 今回のキャンペーンは、われわれの多くの居住地域における深い絶望感を顕在化させた。あまりにも多くの人々が、自分たちは見捨てられていると感じている。自分たちのことを気にもかけず、果てしない、グロテスクな緊縮政策を押し付けてくる政治階級によってである。何百万人もの人々が、与えられた唯一の手段で自分たちの苛立ちを表現したのは不思議なことではない。それはEUとの関係を根本的に変えるために投票するという手段だった。
 政治家たちはこのことにふまえて、大衆が本当に憂慮していることに応えるやり方で対応しなければならない。これには労働者の自由な移動とその影響に関わる難しい問題に対処する最良の方法を探求することが含まれる。
 この絶望感に対処するには、希望を奪ってきた収奪の過程を逆転させるための完全かつ適切な計画が必要である」

●憎悪と分断に反対する行動を呼びかける(同27日付)

 「国民投票以降、移住者の居住地域や労働者への攻撃が続いており、ユナイトはそのような攻撃の実行者を非難するための超党派的な政治的行動を呼びかける。
 国民投票のキャンペーン中に一部の者たちによって煽られた排外主義と人種差別主義の炎が、われわれの地域に分断の種を蒔くことを許してはならない。……国民投票の論争に毒と分裂を持ち込んだ者たちは、そのことを恥じるだけでなく、今はっきりと姿を現してきた人種差別主義と偏見を明確に非難するべきである。毒が根を張ることを許してはならない。
 すべての政党は……地域社会に人々を団結させるために必要な資源を提供する機関を確立するべきである。
 ユナイトはすべての国籍、出身地の労働者と居住地域を支援しつづける。彼ら彼女らはわれわれの組合員であり、同僚であり、同志であり、隣人・友人である。われわれが彼ら彼女らに背を向けることはない」

 以下はユニゾンの声明である。

●人々は語り、はっきりと変化―ヨーロッパとの関係の転換―を求めた(6月24日付)

 「われわれはこれからの数週間、あるいは数ヵ月間、EUからの離脱を呼びかけた人たちに、彼らがキャンペーン期間中に行った約束に責任を取らせよう。NHSの予算を増やす、職場におけるわれわれの権利は守られるという約束である。
 しかし、この期間は英国にとって、癒しの期間でもある。このキャンペーンは一方では将来の経済や国のあり方について、家庭や職場、地域での真剣な議論や論争の機会を提供した。他方では、キャンペーンは憎悪、誹謗中傷、デマに満ちており、それはわれわれの民主主義や価値観に大きな害を与えた。
 これからの数週間、あるいは数ヵ月間、すべての政治的リーダーたちはわれわれの居住地域の人々がもっとも関心を持っていること、つまり収入減、雇用の不安定、高い家賃、この数年、予算を削減されてきた公共サービスの重大な問題等にどのように取り組むかを考えなければならない」

★メキシコ
   「それが自分の仕事」―弾圧に抗う教員たち

  政府が進めようとしている教育改革に反対してストライキを続けている教員に対する弾圧が拡大している。6月19日、オアハカ州で、2人の組合リーダーの逮捕(本紙前号を参照)に抗議して、道路を封鎖していた組合員に対して警官隊が発砲、6人が死亡し、100人以上が負傷した。

 警察当局は、道路の封鎖を解除しようとしていた時に、労働者と警官の両側から何者かが混乱を引き起こすために発砲を始めたと発表した。国家治安委員会は当初、事件が起こったノチストランの町で警備にあたっていた警察官は銃を携行していなかったと発表したが、のちに連邦警察の長官は、何者かによる発砲が起こった後で、武装部隊が派遣されたと説明している(BBC同19日付より)。

 教員の独立労組、CNTEによると、死者の数はノチストランで10人、アシエンド・ブランカで1人、フチタンで1人、合計12人である。警察発表では21人が逮捕されている。ソーシャルメディアの情報によると、警察がノチストランの病院を占拠し、負傷者たちは治療も受けずに放置されていた(その後、近くの教会で治療を受けた)。
 同州の港町、サリナクルスでも警官隊の襲撃で十数人の負傷者が出ているが、当局は沈黙している(「テレスール」同19日付より)。

 教員のストライキへの連帯は全国に拡大している。首都でも大規模な集会、デモが行われている。また、同22日には220万人の医師が、国民医療制度改革に反対し、教員ストへの弾圧に抗議するストライキに入った。医師たちはこれが改革を装った医療の民営化であると指摘している。
 19日の弾圧の後、オアハカ州の先住民族問題相と労働相が警察による暴力的弾圧と、政府が労働者との交渉を拒否していることに抗議して辞任した。
 全国先住民族会議(CNI)とサパティスタ民族解放軍(EZLN)は同20日に、警察の弾圧に抗議し、教員との連帯を表明する共同声明を発表した。(「コモン・ドリーム」誌同22日付より)。

 教育労働者の国際産別組合であるEI(教育インターナショナル)は、暴力的弾圧に抗議し、真相究明と、対話を呼びかける声明を発表している。米国のシカゴ教員組合をはじめ各国の労働組合がメキシコの教員のストライに連帯する行動を組織している。
  「コモン・ドリーム」誌のレポートによると、CNTEは主にメキシコ南部の、農民と先住民族が多数である地域の教育労働者を代表している。政府の教育改革はこれらの地域の困難な課題を無視し、大量解雇を可能にするものである。

 ツイッター上の次のような投稿が、広く共有されている。
 「政府はなぜ教員を大量解雇しようとしているのだろうか? それは教員たちがメキシコ革命(1910年)の成果として守られてきた社会的公正のカリキュラムを教えているからだ。この教員たちは師範学校で教えている。14年にはデモに参加していたアヨツィナバ師範学校の43人の学生が行方不明になる事件(治安当局によって拉致・殺害された可能性が高い)が起こっている。
 師範学校の教員たちは自分たちの職業に情熱を持っており、貧しい農村の子どもたちの人生に影響を与えることに強い希望を持っている。多くの教員は、この子どもたちと同じ環境で育ってきた。憲法では教育の平等が保証されているが、先住民族や貧しい農民の子どもたちの学校は常に予算が足りない状態にある。そのため、教員の多くは、メキシコ社会の中で最も取り残された子どもたちを教えるためにこの職業を選択する。

 だから農村の教員たちは、『子どもたちに革命思想を教えている』という非難を浴びてきた。多くの教員たちは『当然だ、それが自分の仕事だ』と答えている。このように、メキシコ革命の目標に忠実であろうとすれば常に闘いになる」

 

 

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