アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
943+4号

★アルゼンチン
  公教育への投資増求め教員がスト

 8月24日、全国で教員が24時間ストに入った。教員たちは賃上げと共に、学校民営化を進める新自由主義的政策に対する防壁としての公教育への投資の増額を要求している。

 

 2月に政府と労働組合の間で30%の賃上げが合意され、それに伴って全国最低賃金が月566米ドルに引き上げられた。しかし、最近の調査で物価上昇率が46%となっていることから、組合は賃金の再交渉を要求しているが、政府はそれを拒否してきた。
 アルゼンチンの「ラ・ナシオン」紙によると、いくつかの労働組合がストライキに入っており、約900万人の生徒が休校した。教育労働者連盟(CTERA)がストライキを呼びかけ、他の組合が合流した。


 政府が物価上昇に見合う賃上げを拒否したため、CTERAをはじめとする組合は同18日に全国的な波状闘争に入ることを宣言した。
 CTERAのソニア・アレッソ書記長は現地紙のインタビユーに答えて、「(政府が)非常に複合的な背景の中で起こっている論争に誠実に対応しなければ、紛争は深まるだろう」と述べている。

 組合は政府に対して、実質賃金の低下に対する補償、給与体系の変更、公教育への支出をGDPの10%まで引き上げること(現在は5.3%)、研修機会の改善、税の軽減を要求している。


 同書記長は「優れた教育を行っている国はシステムに投資しているのであり、システムを民営化しているのではない。また、社会的不平等の問題に対処することは強力な公教育システムを確立するプロセスの一環となる」と指摘している。
 アルゼンチン教員組合(UDA)のセルビオ・ロメロ委員長は、「パギナー2」紙のインタビューに答えて、「大規模な全国的ストライキは全国で教員の不満が高まっていること、そして教員と生徒が深刻な教育の危機に直面していることをはっきりと示している」と述べている。

 エステバン・ブルリッチ教育相は同23日、「新たな交渉は必要がない。すでに教員の給与は十分で、インフレに合わせて自動的に調整されている」と述べているが、組合側は「現在の賃上げは最近の記録的なレベルのインフレを反映していない」と反論している。


 昨年12月に成立したマクリ政権の下で基本的な公共サービスの料金が引き上げられており、教員たちはそれに対する補償を求めている。
 マクリ政権は就任直後に、教育省の再編、高等教育義務化法の廃止、教育予算にGDPの6%を割り当てる法律の廃止と公教育への投資の大幅削減を政令によって決定した。組合は9月2日と21日にも全国的なデモや行動を計画している。

 

(ベネズエラ「テレスール」国際版、8月18日および24日付より)

 

★チ リ
  生活できる年金求めて50万人デモ

 8月21日、サンチャゴで、年金制度の改革を要求するデモに50〜60万人が参加した。他の都市でもデモが行われた。


 チリではピノチェト独裁政権(1973〜90年)の下で年金制度が民営化され、民主化後も継続されてきた。その結果、平均の年金受取額は月約400ドルで、法定最低賃金を下回っている。
 ピノチェトは当時、労働者に退職時の賃金の70%をもらえるという見通しを示したが、現実には約1千万人が極端に少ない年金で困窮している。
 民間の保険会社が約1700億ドルの年金基金を管理しており(大手三社の合計のシェアが80%)、運用の失敗による損失は被保険者が被っている。特に最近のチリ経済の不振のために年金への不安が広がっている。

 バチェレ政権は年金制度の改革を約束し、国営の年金基金の設立を提案したが、7月に議会に提出した改革案ではそれが撤回された。議会は年金制度の問題を検討し、改革案を提案する両院委員会を設置した。
 これに対して7月24日に主要労働組合の呼びかけで、ピノチェト政権時代の年金制度の廃止を求めて全国でデモが行われ、サンチャゴでは20万人が参加した。多くの学生も参加した。


 学生団体のリーダーのカミラ・ロハスさんは、「現在のシステムは社会保障ではなく、強制貯金制度であり、すぐに廃止するべきだ」と語っている。
 憲兵隊の上官で、下院議長の元妻であるミリアム・オラテが月8400ドルの年金を受け取っているという報道が労働者たちの怒りに油を注いだ。

 

(「テレスール」国際版、7月25日および8月21日付より)

 

イギリス
  デリバルーの給与体系変更で労働者勝利

 デリバルーは、ウェブサイトを通じて登録レストランから料理の宅配を注文できるサービスで、50都市で5千以上のレストランと提携し、自社で雇用した配達員が注文品を配達する。携帯のアプリで注文すると30分以内に届く。
 デリバルーはテクノロジー企業だが、13年にこの事業を開始して以来急成長を遂げ(昨年の売上げは1億ポンド)、タクシーのウーバーと共に「シェアリング・エコノミー」の成功例として注目されている。

 

 同社は8月上旬に、ロンドンの配達員に対して新しい給与体系の試験的導入を提案した。従来は時間給7ドルに、配達1件につき1ポンドが加算されていた。新しい給与体系では時間給が廃止され、配達1件につき3.75ポンドの完全歩合給となる(同社の雇用形態では労働者たちは形式上は自営業者であり、バイクは自前、バイクの修理費や保険は自己負担である)。

 この提案に反対して100人余の労働者が同10日夜からストライキに入った。労働者たちはデリバルーの本社前に集まって集会を開き、顧客からの注文を断った。


 会社側は新しい制度で収入を増やすこともできると説明したが、労働者たちはその約束を信じなかった。
 ある労働者は次のように語っている。
 「事情によっては1件の配達に1時間かかることもある。私たちはもっと安定した仕組みを必要としている。私たちには子どももいるし、家賃も払わなければならない。不確かな収入ではやっていけない」
 労働党の「影の内閣」のビジネス相のジョン・トリケット氏は本社前の集会で発言し、「デリバルーのやり方はビクトリア朝時代のイギリスへの逆戻りだ。労働党が政権に復帰すればこの搾取的なやり方を廃止するための措置を取る」と述べた。

 

 会社側は同12日に労働者に対して「試験的実施を承諾したものには最初のーヵ月間、収入を保証する」という内容の電子メールを送った。
 デリバルーの労働者を支援しているグレートブリテン独立労働組合(IWGB)は、「待ち時間も労働時間であり、賃金が支払われるべきである。また、歩合給で労働意欲を高めるのは危険運転を助長する」と指摘している。
 IWGBによると、この闘争は基本的にはどの組合にも加盟していない労働者たちの自主的な闘いであり、携帯アプリを通じて全国的なボイコットが呼びかけられた。ストライキは10日間に及び、クラウド・ファンディング(インターネットを通じたカンパ運動)で1万ポンド以上の闘争資金が集まった。

 

 労働者たちは、1.時給9.40ポンド(ロンドンの生活賃金の水準)の保証と1件1ポンドの歩合給、2.保険料、修理費の会社負担を要求していた。
 最終的に、会社側は、1.ピーク時間は固定給を保障する、2.新システムの試験には希望者のみが参加する(参加しなくても不利益を受けない)ことに同意した。
 これは完全勝利ではないが重要な勝利であり、「シェアリング・エコノミー」における労働者の権利を守る上で画期的な成果である。

 

 IWGBのデリバリ・ロジスティックス(物流)支部のマグズ・デューハースト委員長は、「今回の闘争の前にも労働者の組織化を試みたが、あまり成果はなかった。難しいのは彼ら・彼女らと接触することだった。私はロンドンで青いジャケットを見つけたら、文字通り追いかけて行った」と語っている。
 ソーシャルメディアを活用したストライキの組織化は会社側を驚かせた。同委員長は「会社がデジタル技術に依存するビジネス・モデルを活用している中で、労働者がデジタル技術を闘争のために活用する可能性も開かれている」と指摘している。

 

(「ガーディアン」紙同8月12日、16日、19日付など)

 

アメリカ
  囚人労働者のスト、問われる団結権

 世界産業労組(IWW=世界労連加盟)は9月9日に全米の刑務所で一斉ストライキに入ることを呼びかけている。
 この日は1971年にニューヨーク州のアッティカ刑務所で起こった暴動(劣悪な待遇や黒人差別に抗議)の45周年にあたる。IWWの刑務所内の組織である囚人労働者組織委員会は約800人の受刑者を組織している。
 米国の刑務所では約40万人の受刑者が就労している。


 今年春にIWWはアラバマなどの各州で、地域の住民団体と協力して、囚人労働者の団結権を求めるストライキを組織し、数千人が参加した。

 エロン大学(ノースカリフォルニア州)のエリック・フィンク教授(労働法)は、37の州で受刑者たちは民間業者によって雇用されており、したがって同じ企業に雇用されている労働者と同じように団結権を付与されるべきだと指摘している。
 同教授によると、IWWが全国労働関係委員会(NLRB)に提訴すれば、NLRBはこれらの受刑者が労働者であり、労働基本権を有しているという決定を下さざるを得ないだろう。


 ミシガン大学のアン・トンプソン教授(アフリカアメリカ人学)は「刑務所の警備員たちは囚人労働者の団結権を自分たちにとっても勝利でもあると考えるべきだ」と指摘する。

 同教授によると、「作業場は非常に危険で、野蛮な状態である。労働者に団結権を付与すれば、ギャングの暴力を抑制できるし、職員と受刑者が協力すれば、より安全な刑務所環境に向けた圧力を強化できる」。

 

 ウィスコンシン州をはじめとする共和党知事の州では、受刑者をスト破り要員として使う動きも広がっており、受刑者はそれを拒否する権利を持っていない。
 受刑者のストライキに対するAFSCMEやAFL・C10の態度はまだあきらかにされていないが、AFL・C10のトルムカ委員長は4月に、「受刑者の雇用はビッグビジネスになっており、低賃金と荒廃した環境の中で製品が作られている。われわれがこの問題について何かしなければならない時だ」と述べている。
 州および連邦刑務所で受刑者によって作られている製品の売り上げは合計で年間に90億ドルに達しており、ウォルマートやホールフードなどの大手企業に納入される。

 

(「ザ・ネーション」誌7月11日付等より)

 

★ウガンダ
  ピアソン出資の小学校劣悪な教育

 ジャネット・K・ムセビニ教育相は8月16日、国会で、ブリッジ・インターナショナル・アカデミーズ(BIA)グループが運営する63の小学校が国の基準を無視し、1万2千人の子どもたちを不衛生な環境下に置いているため、廃校にすると発表した。
 BIAグループは世界銀行や英国のピアソン(世界最大の営利教育会社)、ビルゲーツ、マーク・ザッカーバーグ(フェースブックのCEO)、ピエール・オミダイヤー(イーベイの会長)が出資しているほか、米国や英国の政府も開発援助として資金を提供している。


 BIAはウガンダ、ケニアなどのアフリカ諸国で、安い授業料(平均で月約5ドル)で良質の幼児および初等教育を供給していると称している。しかし、国連の子どもの権利委員会などの機関が今年6月9日に、英国政府が営利企業による有償の、非公式の教育機関に出資していることは子どもの権利条約の違反となる可能性があるという懸念を表明している。

 ムセビニ教育相によると、これらの学校は、設備の欠陥が改善命令の後も是正されておらず、カリキュラムも教員と生徒の相互作用を促進するものではない。衛生上の問題は子どもたちを危険にさらしている。
 ケニア政府もウガンダ政府と同様の懸念から、今年1月にBIAグループの学校の増設を凍結すると発表している。ケニア政府によるとBIAは無免許の教員を採用しており、子どもたちの学習環境は極めて劣悪である。

 

(「ワシントンポスト」紙8月17日付より)

 

 

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